ほうれんソウネ
「…………うぅ……」
……俺は……奴隷になるのか……こんな使えない俺が奴隷になったら……くそぉ……
「ほら! クズ以外はもう牢屋に戻りなさい! 明日に備えて休息しなさい!」
「「「「はい!」」」」
囚人達は、手を付く涙を流している618番を見て嘲笑いながら自分の牢屋に戻っていく。
「……どうなの? 奴隷になった気持ちは! クズのような人間は、買い手なんてまずでないから、1年は奴隷商の牢屋に暮らすことになるでしょうね。そこでは、タプを少しでも抑える為にほとんど食事は与えられない、そうすれば確実に痩せて、使い物にならなくなり余計買い手はつかないわ♪ 良かったじゃない、デブのクズがただのクズになるのだから!」
ミナは、地に手を付くデブのクズを上から見て、その征服感と今までに感じていた憎い感情を塗りたくるかのように蔑み嘲笑い、言い放つ。
「……うぅ……奴隷になりたくない……」
俺はまだ……何も返せてない、俺を助けてくれた門番ちゃんに……ソウネの大切さをバカな俺に分かりやすく、投げ出さずに優しく教えてくれた受付嬢ちゃんに……俺の気持ちを何度も何度も掻き回し、あどけない笑顔を振りまき、生きる活力を与えてくれたスリちゃんも……ずっと負け続け、諦めかけた冒険者になる事を、また引き留め強くしてくれると言ってくれた盾師匠……魔法使いを向いてないと厳しく言ってくれたパラ魔ちゃん、言ってくれる人なんていなかった、向いてないなど言われなければきっと盾士になりたいと心の底から願う事も無かった……
こんな俺を助けてくれた人たち……何でもいいから何か返したいと思ってたのに……それなのに俺は……もう叶わない……
「……クソォ……クソォ……最低だろ俺……」
ケイゴは、手をついた状態から肘をつけおでこを地面につけ嘆く。
「……ごめんなさい、私も手伝ってはいたんだけど、周りにバレないようにするとどうしても時間がかかって……守れなくて、ごめんなさいケイゴ……」
盾師匠は、拳を握りしめ悔しそうな顔でケイゴの背を見ていた。
「上に報告するわ、もうクズの顔を見なくて済む事が出来て、私は嬉しいわ♪」
ミナは、嬉しそうにシロフワさんを撫でた。
ポンッ!!
「……あっ!」
シロフワさんは、ミナさんの手から飛び出るてケイゴの背中に張り付く。
「……ふ、ふん……丁度マータホを取り出そうとしてたのよ」
ミナは、名残惜しそうに顔をしかめピンク色の板状の石を取り出すと耳に当てる。
ピピピウーー……ピピピウーー
音が鳴る
ピピピウーー……ピピピウーー
チョンチョン
「……ん? 何? 今、魔話をかけてるから邪魔しないで」
チョンチョン
「……な、何! 296番!!」
「…………」
296番が、ミナの背中を人差し指で突いていた。
チョンチョン
「見てる! 振り向いたでしょ?! 何故まだ続けるのよ! ……あ、タホタホ! すみませんまたかけ直すのですいません」
チョンチョン
「あーーもう! しつこい! ……いや! こっちの話でして! すいません! では!
……296番のせいで怒られたじゃない!」
ミナは、腰に手を当て296番に怒鳴る。
「…………」
296番は、髪で隠れた顔でミナを見ているようなないような。
「……どうしたのよ……クズ以外は牢屋に戻れと私は言ったわよ?」
「…………」
296番は、ゆっくりとある方向を指差した。
「……何? 何が言いたいの? ……そっちに何かあるの?」
ミナは、296番の指差す方を見た。
「…………ソウネがあるわね……」
そこには、ソウネの山がある。
「…………」
296番は頷く。
「……で? それがどうしたの?」
「…………」
296番は、うなだれる618番を指差す。
「……このクズがどうしたのよ……」
「…………」
左手で618番を、右手でソウネを指差した。
「…………」
(……何が言いたいのかしら……ソウネとクズを同時に指すなんて……ソウネは草だから、クズはいらない雑草とか? いや、そんな事いちいち伝えに来るわけないわよね〜)
ミナは思考する。
タッタッタッ! ガシャン……タッタッタッ!
「…………」
ミナの顔色を見ているのかないのか、走り出した296番は、ミナが投げたタプの袋を拾い上げミナの前に持ってくる。
「…………」
ミナはその姿をジッと見て何を伝えたいのかを見取ろうとした。
「…………」
296番は、618番を指差してタプの入った袋を指差す。
「……もう必要ないといえ、それはクズのタプね……」
「…………♪」
ブンパサ ブンパサ
激しく頭を上下に振り髪をなびかせる296番。
「……正解のようね……」
ミナは少し微笑む。
「…………」
今度は、タプとソウネを指差した。
「…………えっと〜ソウネはタプになるって事? 」
「…………」
ブンパサ ブンパサ
真横に頭を振る296番。
「……違うって事ね……」
(……さっきは、クズとタプを指差した……で、クズのタプだと言いたかった……タプとソウネを指差す……クズのタプ、タプとソウネ……)
「……もしかして……そのソウネは、クズのソウネって言いたいの?」
ミナは、296番をジッと見る。
「…………」
296番は…………
ブンパサ ブンパサ
「……そう……分かった」
ミナは、296番の髪が顔に当たるのを避けながら煩わしそうに言った。
「……数を数えてみるわ……」
ミナは専用の機械にそのソウネの山を積んでいた。
「…………」
296番は、それを手伝った。
「…………」
ケイゴは、立ち上がり選別場を見渡す。
「……何しているんだ……二人は……」
ケイゴは、涙を袖で拭き見たものは、ミナと296番がソウネを運び終え魔機で測定しているところだった。
「…………」
……行ってみよう……
ケイゴは、重たい足を引きずりながらその場所に近づいていった。
「……本当にこれはあのクズのソウネなの? 296番……」
「…………」
296番は、ソウネを一つ取りある場所を指差しながらミナに見せた。
「……かじった跡があるわね……」
「…………♪」
296番は、頭を振る……ミナの顔をペシペシと髪で殴る。
「……分かった! もういいから! 顔がかゆいでしょ!」
ミナは、髪を払い測定器を見る。
「…………」
……296……スッゲー、ヘッドバンキングだった……
ケイゴは、事の成り行きを見ていた。
「…………チッ!」
ミナは、舌打ちをして俺の方を向く……めっちゃ睨んでる……俺が何をしたっていうんだ、奴隷の俺が……
「……クズ……何故さっき出さなかったのよ……」
ミナは、イラついた表情だった。
「……えっ? なんのことですか?」
……なんだ? 俺のソウネはさっきので全てだったはずだが……
「…………」
296番は、ミナの腕時計っぽいのにある場所を指差す。
「……9時……丁度ネネさんが来た時ぐらい……そういう事、あの時のソウネと言いたいのね? 296番」
「…………♪」
ヘッドバンキングによるミナに当たる髪の毛。
「……そんな頷かなくていいでしょ! 煩わしい!」
ミナは、296番から離れる。
「……クズ……牢屋に戻りなさい……」
ミナは、嫌々な顔でケイゴに言う。
「……それはどう言う意味ですか? 自分は、奴隷になるんじゃ……」
……もしかして明日が俺の最後の日になるって事か?
ケイゴは、落胆した顔で言う。
「……ケイツさんに言われたの忘れたとは言わせないわよ! 囚人番号618番! 明日は必ず、奴隷にしてやるわ! 返事!」
ミナは、怒鳴る。
「…………え! え、あ、はい!!」
囚人? 明日? も、もしかして俺は奴隷じゃないって事?! マジか!♪ まだ俺は囚人なのか!
俺は!! 囚人なんだーー!! イヤッホー!!
ケイゴは、笑みがこぼれる。
「……296番に感謝しなさい、ここにあるソウネでクズのソウネは1223本……ギリギリ目標を超えてるわ……シビュターは、率先して規則を守る事、じゃなきゃ正義は果たせない……このままクズを奴隷にする訳には行かないのよ……
……お前のようなクズに成り下がるつもりはないのだから!」
ミナは、真剣な表情でケイゴに言う。
「……はい!」
この人は、ちゃんと内に秘めた正義を貫ける人なんだ……俺を嫌って奴隷に落とす事をしようとしていたのに……いい人だ……だが、俺は奴隷に落ちる訳にはいかない……明日も必ず生き残ってやる! 囚人として、未来を捕られるなら……
……生きる事に囚われてやる!!
ケイゴは、負けずに睨み返した。
「……296番……ありがとうございました」
ケイゴは、頭を下げた。
「…………」
296番は、ジッと見ているようなないような立ち姿だった。
296番がいたソウネを選別する場所には……
大量のちぎったソウネの葉が落ちていた。
ほうれんそうは大切ですね♪




