表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
9/19

愛している人を殴りに行こう。

一人シリアスで、暗くなるミハエル。

暗くなりかけるけど、結局本能的に生きてる考えてない系なメルディ。

メルディが突っ走るとギャグになります。

 メルディがさらわれた。俺のせいで。

 精神的な痛みでも、肉体的な痛みでも死にそうだ。

 不甲斐ない自分が悔しくて、壊れたように吠え……と言うか、たぶん壊れかけていた俺を呼び戻したのは、オーガスト様の拳だ。

 うん。良く生きてた、俺。

 メルディを助け出すまで、死ぬ訳にはいかないから。

 俺の頭は砕けてないから、一応の手加減はしてもらったんだと思いたい。

 普通なら転げ回るような痛みなんだろうが、精神的な苦痛が上回ったせいか、普通に動けた。

 オーガスト様は、素手で門柱を砕くような拳の持ち主だからね。

「それで、何があった」

 オーガスト様本人にその気はないだろうけど、低く恫喝するような問いかけ方は、まさに魔王だ。

 俺にとっては、何より力強い味方だ。

「……メルディが、さらわれました」

 俺の言葉を聞いた瞬間、オーガスト様の目がカッと見開かれ、吹き出した殺気に鳥肌が立つ。

「まだ、そのような馬鹿が生き残っていたか」

 唸るような声には、質量すら感じられる。

 怒り狂う野生の獣のようなオーガスト様を前に、俺は躊躇っていた。

 これを口にするのは、自分の愚かさを再認識するので辛いが、言わなければならない。

「……オーガスト様、すみません、メルディがさらわれたのは、俺が原因です」

 怒鳴られるか殴られると思っていた。だが、オーガスト様は、不思議そうに俺を見下ろす。

「それがどうした? 私に責めてでも欲しいのか?」

「……責めないのですか?」

「質問に質問で返すのは感心しない。しかし、ミハエルを責めてどうなる? お前がメルディをさらわせた訳ではないだろう」

 無表情ながら、呆れたように俺を見下ろすオーガスト様の瞳は、メルディに良く似ていて、真っ直ぐで澄んでいる。

 似てないようで似ている兄妹だ。

「まぁ、メルディを無事に助け出した後に、二・三発殴らせてもらうとしよう」

「お手柔らかにお願いシマス……」

 ニヤリと悪役のように笑うオーガスト様に、状況も忘れて気が遠くなりかける。

 『鮮血の魔王』の拳を二・三発……俺、死ぬかもしれないな。

 メルディが無事なら、別にそれでも良いか。




 場所を応接間に移し、俺とオーガスト様は、テーブルを挟んで向い合わせで座っていた。

 テーブルの上には、地図が用意してある。

「犯人は、やはり隣国関係か」

「はい。サヤが、これを……」

 俺は重々しく頷きながら、サヤが命がけで届けてくれた証拠をオーガスト様へ差し出す。

「ボタンか。これは、隣国の王家の紋章だな。……いや、少し違うか?」

 オーガスト様は、小さなボタンを指でつまみ、真剣な表情で眺めて、確認するように俺を見てくる。

 さすが騎士団長だけある。

 隣国の王家の紋章を知っている上に、微妙な差違に気付くとは。

「その通りです。隣国の王族は、王の紋章を元にした、各々別の紋章を持っています。王に即位すると、王の紋章を使いますが。オーガスト様が知ってらっしゃるのは、王の紋章でしょう」

 そう説明しながら、俺は執事に持って来させた指輪をオーガスト様へ見せる。

「ボタンの紋章とも、王の紋章とも違うようだが」

「俺の紋章です。俺の意匠には花があり、そちらのボタンは花がある部分は剣になっている」

「……つまり、この剣の意匠の紋章を使っている人間がメルディをさらい、その人間は王族か、近い人間という事だな?」

「はい。特定も簡単です。この紋章の持ち主を知っていますから」

 オーガスト様は理解が早くて助かる。

 戦力としても申し分ない。

 ギラギラと殺気を滲ませるオーガスト様に、俺はゆっくりと相手の名前を伝える。

「ルシフェン。俺の異母弟で、隣国であるエンジュの、第一王子です」

 オーガスト様はある程度予想していたのか、驚いた様子もなく、無言で頷いている。

「エンジュと繋がっているとしたら、この辺が怪しいと……」

 メルディと婚約する前から、調べはついていたが、直接的に何かをされる事はなく、放置していた。

 俺は地図を指差しながら、さっさと潰しておくべきだったと後悔する。

 王位継承権のない妾の子の俺なんて、気にしないで欲しいんだけど。

 向こうが突っかかって来るから、他国に留学までしたのに、しつこいよね。

 俺が指差した場所を確認したオーガスト様は、眉間に皺を寄せる。

「……大物だが、叩けば色々出るな。一軒ずつ潰していこう」

 オーガスト様が味方で良かったと、心から思う。

 メルディ、すぐに迎えに行くから、待ってて。

 俺を愛していなくても構わないから。

 無事でいてくれさえすれば……。


[視点変更]


「……お前は、本当にメルディか?」

「そうですけど……」

「家名は?」

「ディアン、です。メルディ・ディアン」

 誘拐犯――名前を隠す気はないのか、ドヤ顔でルシフェンと名乗った相手は、自分の名前を聞いても反応がない私に、訝しげな様子だ。

 さっきもブツブツと呟いて間抜け顔だったし、もしかしたら本当に人違いなんだろうか。

 話も微妙に噛み合わない。

 お兄様はチャラチャラしてないし、馬車が到着して、連れ込まれたのは普通のお屋敷の一室だ。

 お兄様を相手にするには、防衛が紙過ぎて、ちょっと心配だ。

 いつもの誘拐犯なら、もっと仰々しい檻とか色々用意してるんだけど……。まぁ、それもお兄様にかかれば、あっという間だ。

「間違ってはいないな」

 人違いじゃないのか。それにしては、お兄様に対する策がない気が……。

「あの、一体、どんな恨みがおありなんですか?」

 情報が欲しくて、おずおずと尋ねてみる。もう二・三発殴られても大丈夫だし。

「目障りなんだ! あいつは、いつも、いつも、いつも!」

 確かにお兄様は目立つから、目障りだと言われるのは仕方無いけど。

 私はまた内心で呟きながら、ルシフェン様の次の言葉を待つ。

「……父上も臣下も、心の中では、あいつが王になった方がいいと思ってるんだ! 母上も、僕を責めるんだ! 何故、あんな妾の子になんて負けるのよ、と」

 激情のまま、壁を殴りつけるルシフェン様を見ながら、私は一つ理解した。

 確かに人違いだった。

 ただし、人違いしたのは私だ。

 ルシフェン様が私を誘拐して脅したいのは、お兄様じゃない。

 当たり前だけど、お兄様は妾の子だったりはしないし、王になる予定もない。

 魔王とか呼ばれてはいるけど。

 妾……つまりは、側室の子で、王族? ロディアス様じゃないよね。

 ロディアス様は、王位継承権あるし。

「あの、あいつって……」

「お前の婚約者のミハエルに決まっているだろ!」

 怒鳴り散らすルシフェン様の声を呆然と聞き流しながら、私は驚きで固まってしまう。

 え? ミハエル?

 そう言えば、私、ミハエルの家名知らない。ゲームでも出て来なかったし、婚約っていっても、文書は交わしてないし。

 思考は目まぐるしいぐらいにぐるぐる回り、あるところでストンと落ち着く。

 と言うか、納得してしまった。

「私、ミハ……ミハエル様から、何も聞いてません」

「は? 婚約者なんだろう? 傷物なお前を、わざわざ引き取るぐらいに惚れてるって話だったが?」

 そんな幻想、私も抱いた時があったけど。

「ミハエル様とは、友人として仲が良かったので、同情してくださったんだと思います。ミハエル様の本命は……」

 思わずイラッとして、リンカさんの名前を言いそうになってしまい、私は慌てて言いかけた言葉を飲み込み、誤魔化すように笑い、別の言葉を口にする。

「本命は、私にはわかりません。愛がない結婚なんて、貴族にはよくありますよね?」

「……確かにそうか。あの抜け目ない男が、簡単に弱みを晒す訳がないか」

 しばらく私の笑顔を眺め、ルシフェン様は一人で納得したように頷く。

 リンカさんの、リの字も出ないって事は、ミハエルの隠蔽は完璧だったんだろう。

 私は、逆に迷惑をかけてしまった訳だ。

 私に利用価値がないと知れば、解放はなくても、少しは警戒が解かれるかもしれない。

 そしたら、自力で脱出するのもありかな。

 お兄様はすぐに助けに来てくれるだろうし。

 ミハエルは、来てはくれないよね、きっと。

 今頃、リンカさんを保護してるかもしれない。

 リンカさんには、きっとルシフェン様の事とか、自分の産まれとか話してあるんだろうな。

 巻き込まれる可能性もある、て言うか、進行形で巻き込まれてるんだから、私にも少しは話しておいて欲しかった。

「おい! 聞いてるのか?」

「……放っておいて欲しいんですが」

 怒鳴るルシフェン様に、私は、婚約者の真実を聞き、ショックを受けたフリをする。これで、隙を見せてくれればいいけど。

 ま、フリって言っても、実はほとんど素なんだけど。

 そのおかげもあってか、ルシフェン様を上手く騙せたらしく、ルシフェン様は舌打ちをして部屋を出ていく。

「……さて、どうしようかな」

 私は何でこういう星の下に転生させられたのかな?

 前世で悪い事、そんなにした覚えもないけど。

 ロディアス様は男女の愛ではなかったけど、また愛している人のために尽くして、振られるなんて。

 ミハエルが笑っていてくれれば、少しは救われるかな。綺麗事かもしれないけど。

 それでも、胸が苦しいし、恨み事を言いたくなる。

「一発くらい、殴ろうかな」

 そうしたら、笑って送り出そう。

 しばらく、誰かを愛せる気はしないから、お姉様の所に身を寄せるのもいいかもしれない。

 落ち込みそうになる自分を鼓舞し、私はせっせと手を動かし始めた。

 閉じ込められた部屋は二階だけど、窓は普通に開くから、窓から脱出しようと思う。

 話してくれなかったミハエルに対してムカついてはいるけど、逆恨みとしか思えないルシフェン様は、もっとムカつくから、思い通りになんかなってやらない。

 身体検査もされなかったし、私は隠し持っていたナイフで、シーツを切り裂いて、即席のロープを作る。

 ロディアス様との婚約前は、よくさらわれてたから、逃げ出すのも手慣れてるんだよね。

 その度に、お兄様が……。

 思い出し笑いをし、私は出来上がったロープを、無駄に豪奢なベッドの柱に縛りつける。

 私の体重ぐらいなら、問題なく支えられるのを確認し、私はすっかり暗くなった窓の外を睨む。

 逃走にはちょうど良い時間帯だ。

 窓の下を覗き込み、人の姿がない事と、真下の部屋の窓に明かりがない事を視認し、私は身軽に手作りロープを伝い降りていく。

 年頃の令嬢としては、かなりはしたない姿だけど、背に腹は代えられない。

 ちょっと長さは足りなかったけど、飛び降りれない高さではなかったから飛び降りる。

 その時だった。

 ついさっきまでいた部屋の窓が、内側からの爆風で吹き飛んだのは……。




 私は、とっさに転がるように前方へ身を投げ出し、すぐ頭を抱えて地面へ伏せる。

 爆発は何度か続き、パラパラと上から破片が落ちてくる中、私は誰かの泣き叫ぶ声が、私の名前を呼ぶのを、聞いた気がした。


うん、最後の部分、ミハエル側を先に書くべきだったか……。

いや、もうシリアス風ギャグって事で。

まだ、モダモダしてます。

メルディは、精神的にも、肉体的にもタフな子です。魔王の妹ですから。


とりあえず、ミハエルは、オニイサマにも殴られるし、メルディにも殴られるようです。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ