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愛している人を見失う。

ポチポチと。

書けた所まで。


ミハエル視点です。


次回更新は未定です。

 愛している人を囲い込むため、俺に油断はない筈だった。

 だが、愛しい存在が側にいる。

 それが油断を招いたのかもしれない。




 サプライズのために、メルディ命の侍女を玄関前に待機させ、俺は不思議そうにしているメルディの手を引いて連れてくる。

 今日のドレスは、俺がメルディのために作らせた物で、メルディに似合っている。

 そう言えば、あの名前も呼びたくない男は、メルディに一つも贈り物をしていなかった事を思い出し、メルディの小さな手を握りながら優越感に浸る。

 好きな相手を着飾り、脱がす妄想をする喜びを知らないとは、残念すぎる。

「ミハ? 何か顔がエロいよ?」

 妄想をし過ぎたのか、メルディが少しだけ困った顔をして、俺の顔を見上げている。

 身長差から自然と上目遣いになるメルディを堪能してから、何でもないよ、と歩き出す。

 生殺しだった頃に比べれば、今の状況は幸せそのものだ。

 下半身的に、前より辛い時もあるけど、宝物(メルディ)を前に指をくわえているしかなかった時の事を思い出せば、何てことは……。

「ミハが、やっぱり何かエロい……」

 再びメルディが呟いたが、聞こえないフリをしておいた。




 サプライズは大成功し、メルディは全身で喜んでくれている。

 侍女――サヤを見た瞬間、メルディの顔が驚愕に染まり、その顔が幸せそうに蕩ける。

 駆け出してサヤに抱きつくメルディの姿に、ちょっと嫉妬したのは秘密だ。

 しかし、サヤは、婚約破棄おめでとうございます、と淡々と言うような、中々な性格をしている。

 基本無表情なので、冗談か本気かわからないが、悩むまでもなく本気だろう。

 黒いストーカーなあいつは、サヤから生きる理由を奪ったのだから。

 メルディから引き離されたサヤを、俺は一旦自分の屋敷で保護……というか、メルディへの好感度アップのため確保していた。

 サヤにはバレていたらしく、道端のゴミを見るような目で見られたが、黒いストーカーなあいつへ向けられている視線よりは可愛いもんだ。

 何より、サヤとは最終的な目標が同じだったから。


 メルディに笑っていて欲しい。


 それが、俺とサヤを同志にした。




 メルディと婚約してしばらくは、元の俺の屋敷の方で、色々とまぁ露払い的な事をしてもらっていた。

 あの主人にして、この侍女ありと言うか、サヤはメルディより身体的に強く、暗殺者寄りな生き物だった。

 黒いストーカーは、サヤをメルディから引き離していて良かったかもしれない。

 でなければ、あの断罪の場は鮮血に染まっていたんじゃないか?

 目撃者なご令嬢も含め、全員始末され、第一王子の暗殺者のせいにして。

 無表情で何を考えてるかわからないが、だいたいはメルディの事しか考えてないからね、サヤは。

 一度、何を間違ったか、メルディを狙った暗殺者がいて……思い出したくもないような、死に方をしていた。

 しばらく、挽き肉料理は見たくなくなったってので、察して欲しい。

 暗殺者を返り討ちにしても罪にはならないが、サヤは容赦がなかった。

 後で話を聞いたら、納得してしまったが。

 たぶん、俺も同じような殺し方をしたかもしれない。

 その暗殺者は、メルディを殺そうとしていただけではなく、息の根を止める前に、慰み者にしようとしていたそうだ。

 そんなゲスは、殺されて当然だ。

 メルディはうっすら察していたようだが、何も言わずに微笑んでいた。少しだけ悲しそうに。

 メルディの事だから、自分のせいでサヤが人を殺した事を悲しんでいるのだろう。

 自分のせいで人が死んだ事を、悲しむのではなく、あくまでも主体は相手への心配だ。

 使用人を使い捨ての道具としか思わない貴族が多い中、メルディは同じ屋敷に住まう彼らを家族のように扱う。

 使用人がメルディの味方になるのは当然だ。

 黒いストーカーの使用人も、黒いストーカーの元乳母も、メルディを心配して頻繁に手紙を寄越す。

 メルディの実家の使用人には、オニイサマがメルディの様子を伝えているようだ。

 オニイサマは、メルディの手紙が遅れたくらいで、黒いストーカーの屋敷の門を破壊したくらいの心配性だし。

 素手で。

 メルディ以外は、魔王が現れた、と真っ青な顔でブルブル震えていた。

 メルディだけは、「お兄様ったら」と、笑顔だった。大物だよ、メルディは。

 俺がそんな事を考えて見守る中、仲の良い姉妹のようにメルディとサヤはじゃれあっている。

 愛しすぎて見つめ過ぎたのか、メルディの動きが怪しくなり、おずおずと振り返る。

 何をしても可愛く見える辺り、本当に俺はメルディを……。

 サヤがいなくなった日の事を思い出し、からかうように告げると、メルディは恥ずかしそうに頬を染めている。

 抱き潰したい。

 こっそりと手をワキワキさせていたら、メルディの可愛らしい唇が、凶器のような一言を紡ぐ。



「ねぇ、ミハは、私の事、どう思ってるの……?」



 あんなに愛を注いでいたのに、伝わっていなかったらしい。

 おずおずと問う姿に、ズキリと胸が痛む。

 俺は胸の痛みを無視し、メルディを怯えさせないように微笑む。

 重くならないよう、ドロドロとした執着を見せないよう、サラリと告げたつもりだった。

 だけど、暗殺者を前にしても逃げ出さなかったメルディが、逃げ出してしまい、俺は追う事も出来ず、ポツンとその場に佇んでいた。




 煤けている俺を、使用人達がチラチラと横目で窺いながら通り過ぎる。

 たぶん、俺とメルディのやり取りが知れ渡ってるんだろう。

 全員が全員、心配そうだ。

 いや、執事と侍女頭だけは、俺を責めるような眼差しだ。

 俺の過去の悪行がバレて、嫌われたとでも思ってるんだろうが、メルディは元々知っている。

 メルディに惹かれる前は、メルディの目の前で、適当な遊び相手のご令嬢とイチャイチャしたり、修羅場を見られた事もある。

 ……そのせいか?

 メルディは俺の気持ちを信じてくれていなかった。

 それどころか、逃げ出すくらいに嫌だったなんて。

 俺が過去の自分を殴りたくなっていると、カツカツと一定のリズムの足音が近づいてくる。

「まだここでしたか」

 メルディ以外はどうでもいい、と顔に貼りつけて現れたサヤから説明を受け、俺は思わず駆け出す。

 目指すはもちろん、メルディの部屋だ。

 ドキドキと飛び出しそうな胸を落ち着かせ、俺がノックをしようとした時、部屋の中からメルディの声が聞こえた。



『あの人を、愛している……』



 息が止まるかと思った。

 実際、止まっていたのかもしれない。

 ガラスに映り込んだ俺の顔色は、幽鬼のようだ。

 そのまま、ふらふらとその場を離れて、歩き出す。

 あそこにいたら、俺は何をするかわからなかった。

「そうだ。そうだよなぁ」

 無意識に口から出た言葉は、思いの外、弱々しくて、俺は苦く笑う。

 5年も想っていた相手を、すぐに忘れられる訳ない。

 俺は、メルディを手に入れたつもりになっていただけ。

 そう思うと、忘れようとしていたドロドロとした執着が、俺の心を絡め取ろうとする。

 俺はメルディを守るため、少し距離を置く事にした。




「あの、ミハ、私……」

 あの日から数日経ち、見送りに来てくれたメルディが、俺の手を掴み、何かを言いかける。

 時間がなかったせいもあるが、今何かを言われたら、無理矢理にでも抱いて、自分のモノにしてしまいそうだから、俺はやんわりとメルディの手を解く。

「ごめん、急ぐんだ。行ってきます」

「そっか。――ごめんね」




『ごめんね』




 その言葉の意味を、考えるべきだった。

 俺は、あの忌々しいだけの女と歩いている所をメルディに見られた事を、その時知らなかった。知っていたら、メルディの手を離したりしなかったのに。

 言い訳でしかないが……。




 屋敷に帰った俺を玄関で迎えたのは、慌てきった使用人達だ。

 執事と侍女頭まで、青い顔をしている。

「どうした?」

「……メルディ様が、おられません。メルディ様が持ち込まれていた荷物も、サヤの姿もありません」

 冷静に状況を説明する執事だが、体の脇で拳を作った手は震えている。

 思い出すのは、朝のメルディの台詞。

「あー、ごめんねって、そういう意味か」

 俺は得心がいき、腹を抱えて笑い出す。

 メルディは、俺に愛想を尽かし、本当に愛している相手の元へと向かったんだ。

 そう思って。

 使用人達は、俺の生まれに関係する事態に巻き込まれ、メルディが誘拐でもされたと思ったんだろう。

 誤解を解くため、俺は壊れたように笑いながら、ギョッとしている使用達へ向け、説明するため、口を開く。

「大丈夫だ、メルディは……」

 ドンと。

 そう言った途端、俺の背後で、何かが玄関の扉にぶつかる音がする。

 扉を開けようとする俺を制し、代わりに開けた執事は息を呑み、年若い侍女は悲鳴を上げる。

 扉の前にいたのは、メルディと共に消えたサヤだった。

――何かと格闘したのか、服をボロボロにし、頭から血を流して、地面に倒れ込んだ姿で。




「サヤ! メルディ様は!」

 介抱する執事の声を呆然と聞きながら、俺は必死に冷静になろうとする。

 サヤが怪我をしただけで、きっとメルディは無事で何処かに……。

 そんな事がある訳ない。

 メルディが怪我をしたサヤから離れるなんて、絶対に有り得ない。

 その逆もだ。

 死にかけようが、サヤはメルディから離れるはずがない。

「ミハエル様! サヤが……っ」

 執事の言葉にハッとすると、意識を取り戻したらしいサヤが、血で貼りついた前髪の間から、俺を見ていた。

 瀕死の重傷とは思えない強い眼差しで。

「サヤ、メルディはどうしたの?」

 応急処置をする執事の傍らに膝をつき、サヤの顔を覗き込むと、サヤはゆっくりと俺へと向けて手を伸ばしてくる。

 その手は傷だらけで、何かの切れ端を握っていた。

「メルディさまを、たすけて……」

 その言葉と共に、握っていた物を俺に渡すと、サヤは安心した様子で、ゆっくりと目を閉じて、動かなくなった。

 サヤが俺に手渡したのは、布の切れ端。

 ボタンの付いたそれは、誰かのシャツの袖口らしい。

 最後の力を振り絞り、もぎ取ったのかもしれない。

 メルディを連れ去った相手から。

 俺は運ばれていくサヤを見送り、手の中のボタンを見下ろす。

 そこには紋章が刻まれていた。

 しかも、この国のものではなく、隣国の――俺の生まれ故郷である国の紋章が……。




「あ゛ぁ゛ぁぁーーー!!」

 メルディにも話せていなかった俺の過去が、俺の愛する相手へ牙を剥いたと悟った瞬間、俺は獣のように吠えていた。

 たまたまメルディの様子を見に来た、オーガスト様に殴って止められるまで。


ミハエル、壊れてないといいですが、物理的に。


オニイサマは、脳筋じゃないのに、解決方法が昭和のテレビでした(笑)

映りが悪くなったら、叩いて直す的な?


ついにミハエルの過去が出せました。


途中、実は王の隠し子で、ろであすの異母兄とかも考えましたが、止めておきました。

ろであすと同じ血が流れてるのは、ちょっと……。

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