愛してる人は世界一愛くるしい人。
前半は一年前に書いてあって、書きかけを見つけたのでもったいない精神で。
短いです。
私の愛してる人は、世界一愛くるしい人。
笑っていただくためなら、私は人殺しだって厭わない。
私の名前はサヤ。
メルディ様がつけてくださった大切な名前だ。
メルディ様からいただいたモノは、庭の小石だろうと大切だが、『サヤ』という名前は一番大切だ。
誰にも奪えないし、絶対奪われたくない、私の宝物。
もちろん、比べるまでもなく、メルディ様は別格だけれど。
あの日、私は天使が迎えに来て、これで死ぬだと思った。
綺麗で、可愛らしくて、無邪気で。
そんな存在が、私を欲しいと言うなんて。
背後には、天国の門番みたいな、美しく恐ろしい少年。
私の居場所なんて、ありそうもなかった。
でも、メルディ様は私の手を握り、死を待つだけだった私を連れ出してくれた。
あたたかな場所で、共に生きることを望んでくれた。
それからずっと、私はメルディ様と共にあった。
メルディ様が誰に嫁ごうが、もちろんついていくつもりだったのに。
それを、あの、害虫野郎が、私をメルディ様から引き離した。
メルディ様の献身的な愛にも、全く気付きもしない鈍感害虫野郎のクセに。
特攻でもしかけようかと悩んでいた私を、メルディ様の現在の婚約者であるミハエル様に保護された。
ミハエル様の真意はバレバレだったが、メルディ様の不利益にはならないので、とりあえず保護されておいた。
ミハエル様は、意外といじらしい。
そして、私は無事にメルディ様との再会を果たした。
無事に紆余曲折を乗り越え、色々と結ばれたらしいメルディ様は、本日まだ起きられないようなので、私は宝箱から、ノートを取り出して眺め始めた。
表紙は、
『メルディ様観察日記』
だ。
●
○月×日 はれ
めるでさま、じ、おしえて、くれる。
にき、かく、いいらしい。
めるでさま、かこ、おもう。
○月××日
めるでぃさまから、きれいなこいし、もらいました。
じもうまくなったと、ほめられました。
しあわせ、です。
△月×日
メルディ様をいじめたご令嬢へ、こっそり仕返しをしました。
オーガスト様にバレてしまい、今度からは自分へ伝えろ、と言われました。
あと、元暗殺者を紹介していただき、色々と教わる事になりました。
メルディ様のために、しっかり学ぼうと思います。
□月△日
メルディ様が、誘拐された。
オーガスト様と、ぶっ潰した。
□月×日
メルディ様が、第二王子のロディアス様と婚約されました。
嬉しそうでしたが、何故か寂しそうでした。
理由はすぐにわかりましたが。
×月□日
あの害虫野郎と煩い女を殺したくなる今日この頃です。
残念ながら、メルディ様は頑固なので、未だに実行出来ません。
そろそろ、メルディ様不足で死にそうです。
メルディ様が悲しむので、死にませんけど。
×月○日
ついに、メルディ様は害虫野郎から解放されました。
ミハエル様は、ちょっと難有りな方ですが、害虫野郎に比べれば……。
比べれるのも失礼でしたね。
再会出来る日を、今から指折り数えています。
□月×日
街中で、大きなGと出会ってしまいました。
詰め寄ってきたので投げ飛ばし、逃げておきました。
しかし、今度はやけに声の大きな煩い女に見つかりました。
追いかけてきた大きなGをエサにし、逃げ切りました。
厄日でしょうか。
○月□日
再会したメルディ様は、相変わらずメルディ様で、ミハエル様のお気持ちに全く気付いていなかったようで。
真っ赤になってパニックを起こした姿は、大変愛らしいです。
私はパタリとノートを閉じ、未だに起きる気配のない世界一……いえ、私の世界そのものな愛らしい主人の寝顔を見つめる。
無自覚でミハエル様を煽る天才なメルディ様は、本日も抱き潰されてしまっていた。
見た目は儚げな美少女なメルディ様だが、暗殺者相手に大立ち回りをしたり、窓から裸足で逃げ出したり、モンスターを魔法で吹っ飛ばしたり……等々。
つまりは、そこら辺のご令嬢に比べて、かなり体力もあり、頑丈でいらっしゃるが、ミハエル様のせいよ――メルディ様への愛はそれを上回っているようだ。
私はメルディ様が本気で嫌がれば、ミハエル様だろうが素っ裸で叩き出すつもりでいる。
今のところ、大丈夫なようなので、私は生暖かく見守らせてもらっている。
何より、ミハエル様といるメルディ様は、とても幸せそうで――。
私もとても幸せだ。
「サヤ」
目を覚ましたメルディ様が、私を見つけて寝ぼけ眼のまま嬉しそうな笑顔で私を呼ぶ。
私はきっと世界一の幸せ者だ。
いつか犯した罪の咎を受ける日が来るかもしれない。
後悔も恐怖もないが、ただメルディ様が悲しむであろう事が怖い。
けれど、そんないつかの話、きっとメルディ様は笑い飛ばしてくださるだろう。
願わくは、この呼吸が、この鼓動が止まる最後まで、メルディ様のために生きていたい。
とりあえず、オーガスト様と立てている害虫駆除計画書は、メルディ様の目に入らない所へ仕舞おうと思う。
世界一愛くるしい愛しい方のためなら、私は何だってしてみせます。
本当は連続投稿したろであすと合体させようかと思いましたが、サヤが可哀想で止めました。