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愛している人と結ばれる。

やっとここまで来ました。


直接的な表現はありませんが、性描写注意で。


前半メルディ、後半ミハエル視点です。

「『あの人を愛してる』って。――それは誰の事?」




 ミハエルからの唐突な問いに、私の頭の中は真っ白になった。

 お兄様に頭を殴られたミハエルを、馬車の固い座席に寝かせるのは可哀想なので、残りの三人の中で一番肉付きの良い私の太ももを枕にした。

 べ、別に私が太ってるとかじゃなくて、消去法だから。

 お兄様は肉付きが良いかもしれないけど、ガチガチの筋肉だし、サヤはかなりのスマート。

 残ったのは私だ。ということを、私の太ももにミハエルを乗せてから、サヤが無表情で説明してくれた。

 お兄様は、床に転がしとけ、って言ってたけど。

 目が覚めたミハエルは、すぐに私の膝から起き上がろうとして、また沈み込む。

 そのあと色々あって、私はサヤの暴露で、本当は言いたくなかった本心を、ミハエルへ吐露してしまう。

 私はこれ以上、ミハエルに嫌われたくなかったのに。

 せめて、綺麗にお別れして、友人ぐらいではいたかった。

 ミハエルは、リンカさんに興味がないような事、言ってくれたけど……。

 私の心の叫びが聞こえたように、ミハエルは容赦なく止めを刺しにくる。

 まさか、あの独り言、聞かれてたなんて。

 どうしよう、そのせいで、素っ気なくなったんじゃ?

 お、お兄様、喚んじゃ駄目かな?

 たぶん、叫んだら来てくれると思うんだけど。

 私があわあわしていると、抱きついたままのミハエルから、ジッと見つめられる。

 あぁ、久しぶりに、きちんとミハエルと目があった気がする。

 それだけで、心があたたかくなる。

 ミハエルを想うようになって、ロディアス様への愛しさは、いわゆる二次元へ向けたものだったんだな、と実感する。

 ロディアス様をリンカさんに盗られても、寂しいと思うだけだった。

 でも、ミハエルとリンカさんが歩いているのを見た時、胸の痛みで死ぬかと思った。

 前世でも、こんなに誰かを想った事はなかったと思う。

 出来れば、ただ愛していることだけは、許して欲しい。

 私はそんな想いを胸に秘め、終わらせるための言葉を紡ぐ。

「ごめんなさい。――私が愛しているのは、ミハエルだよ」

 時間が止まればいい。


 目を見張って固まったミハエルを前に、私は誤魔化すように微笑んで見せ――。

 大きく深呼吸し、ミハエルをゆっくりと押し返そうとした私は、逆にさらにぎゅうぎゅうと抱きつかれて息を呑む。

「ミ、ミハエル? あの、どうしたの?」

 期待させるような事は、止めて欲しいんだけど。

 あと、物理的に苦しい。

「だって、メルディが、俺を愛してるって! アイツじゃなかった!」

 顔を上げたミハエルは、何だかとても喜んでくれてる。

「アイツ?」

「メルディ様、これです」

 誰だろうとサヤを振り返ると、前髪をちょこんと摘んで触覚みたいに立たせている。

「あー、ロディアス様……」

 固有名詞を出したら、ミハエルが大嫌いなものを食べたみたいな顔をする。ロディアス様と喧嘩でもしてるんだろうか。

 思わずそんな現実逃避をしたくなるぐらい、ミハエルからの眼差しが熱い。

「メルディは、俺だけを見て?」

「えと、でも、婚約は……」

「解消する必要あるの? メルディは、俺を愛してるんだよね? それとも、嘘だった?」

 甘えるような声音で囁くミハエルは、私の胸にしがみつくような体勢のまま、ジッと見上げてくる。

「嘘なんか吐く訳ないでしょ?」

「なら、解消する必要なんて、何処にもない。俺が愛しているのは、ずっとメルディだけだから」

 どうしよう。

 都合の良い幻聴が聞こえた。それとも、このミハエルは偽者?

「幻聴じゃないし、俺は本物だから」

「じゃあ、双子の弟とか!?」

「兄弟はさっきのルシフェンしかいないから」

「と言うか、何で……」

「さっきから口に出てるよ、メルディ」

 クスクス笑われ、私はハッとして口を覆い、サヤを振り返る。

 サヤと目が合うと、幼い子を見るようなあたたかい眼差しで微笑まれる。

「愛している、メルディ。お願いだから、婚約解消なんて、言わないで?」

「でも、ミハエル、私に色々と隠し事してたよね」

「それは、メルディを俺の事情に、巻き込みたくなかったから……」

「私は巻き込んで欲しかった。そうしたら、ミハエルとずっと一緒に……」

 不満だった事を口にしたら、思わず違う本音が出てしまいそうになり、私は慌てて口をつぐむ。

「ずっと一緒にいたいって、思ってくれたんだ?」

「駄目、だった?」

「嬉しいに決まってる。俺の全部、メルディに伝えるから、メルディも全部、見せて……」

 言葉通り嬉しそうに笑ったミハエルは、熱っぽい瞳で私を見つめ……そのまま、私の胸へ顔を埋める体勢で崩れ落ちる。

 気のせいじゃなければ、またゴツンッていう鈍い音がした気がする。

 顔を上げると、お兄様がそこに立っていた。

 犯人はお兄様だったらしい。

「メルディに呼ばれた気がして、な」

「……ありがとう、ございます」

 ミハエル、大丈夫かな?

 お兄様、手加減してくれてるけど、二回目だし。

 あ、コブになってる。

 私は気絶したミハエルの後頭部を撫でながら、また自らの膝の上に乗せる。

「さすが、オーガスト様。全くの無傷ですね」

「当然だ」

 サヤの言葉に、お兄様は重々しく答え、私の頭を撫でてくれる。その手は、どこまでも優しい。

「メルディが望むように生きればいい。邪魔をする者があれば、私が抹殺してやる」

「ふふ、頼もしいです、お兄様」

 優しいお兄様の心遣いに、私は自分の心と向き合う。

 私が望むのは……。



「――――」



 私の言葉に、お兄様は少しだけ苦笑して、私を柔らかく抱き締めてくれた。

 もちろん、力加減はバッチリで。





[視点変更]

「あ、いたた……っ」

 後頭部の痛みで目覚めた俺は、辺りを見回して、すぐ飛び起きる。

 馬車の中ではなく、いつの間にか自分の部屋にいたからだ。

 どれだけ寝ていたのか、窓からは朝の光が差し込んできている。

 目眩がしたけれど、そんなことは気にならない。

 すぐにでも、メルディに会いたかった。

 あの会話が、夢じゃなくて現実だと、確認したかった。

 何より、メルディが無事だったという喜びを、もう一度抱き締めたかった。

 走り回って、メルディを探していると、洗面器を抱えたメルディと鉢合わせする。

「ミハエル!? 起きて大丈夫?」

 氷水の張られた洗面器をしっかりと抱え、メルディは驚いた様子で俺を見ている。

「え、うん。それは?」

「ミハエルのコブを冷やそうと思って」

「コブ?」

 メルディの言葉に、後頭部を恐る恐る触ると、確かに不自然な膨らみがある。

「触らない方が良いよ」

 ほら、と促すメルディに連れられて、俺は自分の部屋へと逆戻りする。

 元々、メルディを探すために出て来た訳だから、異存はない。

「うつ伏せになって」

 メルディの優しい声に促され、俺はベッドへうつ伏せになる。

「少し、冷たいよ?」

 心配そうな声の後、ひんやりとした感触が後頭部を覆う。

 メルディは氷水の張られた洗面器を持っていたから、濡らしたタオルだろう。

「大丈夫? 痛くない?」

「あぁ、大丈夫。……その、メルディ。馬車で話したことなんだけど」

 体勢的にはかなり情けないけど、俺は堪えきれず、首を捻ってメルディを仰ぎ見る。

 これで、実は夢でした、とかだったら、死ねる自信がある。

「私が、ここにいる事が、答え――のつもり、なんだけど」

 少し拗ねた表情で、唇を突き出すメルディは、惚れた弱味関係無く可愛らしい。

 見た目は弱々しく儚い美少女なのに、メルディは中身も肉体もとんでもなく強い。そんなところもたまらなく愛おしい。

 まぁ、オニイサマを見れば、強さに関しては、色々と納得できるけど。

「ミハの側にいたいの。迷惑、だった?」

 おずおずと俺の服を掴んで小首を傾げるメルディに、俺は勢い良く起き上がり、驚いているメルディを抱き締める。

「……俺の方こそ、もう離してあげられない。ごめんね」

 すがりつくように抱き締めた俺を、メルディはくすくすと笑って受け入れてくれる。

「もう隠し事しないなら、許してあげる」

 そんなからかうような台詞で。

 でも、俺のこの執着は隠しておこう。

 早速、隠し事になってしまうけど。

 あと、メルディが消えたと知った時に用意した、首輪とか檻とかも。

 捨てるのはもったいないし、念のため、とっておくつもりだ。

 使う事もあるかもしれないし。

 俺は抱き締めたメルディを少し離すと、間近から真っ直ぐ瞳を覗き込む。

「改めてしっかりと言っておくけど、俺がメルディと婚約したのは、同情とかじゃないから。本当に、メルディを愛しているからだから。隣国の元王族だったり、色々ゴタゴタしてるけど、俺と結婚してくれますか?」

「はい! あ、ミハのゴタゴタは、お兄様にお願いしたから、少しは静かになると思うよ?」

 俺のプロポーズに、メルディは幸せそうに笑って頷いてくれ、サラリと何だかとんでもない事を言ったが、メルディなので気にしないでおく。

 あの空気の読めないリンカとかいう女とは違い、メルディは読み過ぎるぐらい、空気を読むから大丈夫だろう。

 オニイサマが関わってるのが、少し怖いけど。

 エンジュが滅んだ、とか聞いても、たぶん驚かない。

 少しは静かに、なので滅びはしない……よな?

 メルディが離れていかないなら、どうでも良いか。

「メルディ、愛している」

「私も、愛している、ミハ」

 囁いた愛に、照れながらも返してくれるメルディが、健気で愛おしい。

 今さらだけど、時々感じていた違和感は、呼ばれる時、メルディだけ呼ぶ愛称じゃなかったから。

 無意識にメルディは、俺と距離をとろうとしていたのかもしれない。

 完全に逃げられる前に、捕まえられて良かった。

 その点では、ルシフェンに感謝している。礼は死んでも言わないが。

「ミハ?」

「何でもないよ」

 不思議そうに見つめてくるメルディを、優しくベッドへ押し倒した俺は、既成事実を作るべく、ゆっくりと唇を重ねていった。




 無事に……と言うのも、おかしい表現だけど、俺は隣で眠るメルディを見つめていた。

 触れ合った素肌が心地よくて、何より落ち着く。

 少し泣かせてしまい、眠るメルディの頬には涙の跡がある。

 一定のリズムで上下する胸を見ていたら、色々とキたので、視線をメルディの寝顔へ移す。

 涙の跡を唇で辿ってから、俺はメルディを抱き締めて目を閉じる。

 紆余曲折はあったが、俺は本当の意味で、メルディを手に入れられた気がする。

 ま、結婚式までは、気が抜けないけど。

 一応、名前だけの親友なアイツも呼ぶ予定だからね。




 一つだけ言いたいのは――うん。オニイサマで特訓したという蹴りは、とても痛かった。


つい、足が出たようです。

あと、ミハエルは胸派みたいです。(笑)


一ヶ所、呼んだではなく、喚んだになってるのは、わざとです。


次回はお姉様を絡めたお話にしたいです。

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