序章 子犬
7~8割は事実のノンフィクションです。
この物語は、昔の日本に本当にいた、ある犬の物語です。
時は大正時代――今となっては、ずいぶんと昔のお話です。
日本の和歌山県の山奥に、とある狩人が住んでおりました。
狩人は優秀なメスの猟犬を飼っていました。犬の種類は紀州犬といって、この地方では昔から飼われてきた日本犬です。
ある日のことです。狩人は、自分の優秀な猟犬に子犬を産んでもらおうと、思いつきました。
得てして、子犬というものは、親犬の才能を受け継ぐことが多いのです。
狩人は、仲間にこの話を相談を持ちかけました。
するとすぐに、仲間の狩人はオス犬を紹介してくれました。そのオス犬も、矢張り同じ紀州犬です。
こうして、狩人の犬は母犬となりました。当然ですが、生まれた子犬も純粋な紀州犬となります。
ところで、犬という動物は、子犬を一度に沢山産みます。狩人一人では、とても全員の面倒を見ることができません。
もっとも、狩人にしても、そんなことはよく分かっています。そこで、狩人はあらかじめ、仲間に子犬を譲る約束をしていました。
ところが、困ったことが起きてしまいます。
子犬が二匹、余ってしまったのです。
「困ったぞ。家では二匹も育てられない」
狩人は頭を悩ませていました。狩人が飼える子犬は、一匹だけなのです。
そうやって何日が過ぎたある日、狩人の家に、仲間が訪ねて来ました。
「おう、いるかい?」
玄関をガラリと開けて、仲間が言います。
「久しぶりだな。突然どうした?」
仲間を出迎えながら、狩人が聞き返します。
「例の子犬だが、貰い手が見つかったぞ」
仲間が答えます。仲間は狩人に頼まれて、子犬の貰い手を探していたのです。
「それはよかった! ところで、一体どこの誰なんだ?」
喜びながら、狩人がもう一度聞きます。
「聞いて驚くなよ」
もったいづけて、仲間が言います。
「なんと、あの先生様のとこよ!」