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同日の夜。
彼らにとって待ちに待っていた時がきた。
窓を覗き、太陽が沈んで代わりに月が出ているのを確かめた俎頗ユマがうきうきした様子を醸し出しながら部屋の方を向く。
「みんな、日が沈んだよっ!夜だよっ!早く行こっ!」
「あー、はいはい。ずっと待ってたもんなぁ、日が沈みきるの」
羅梳シオンはユマに苦笑いしながら手に持っていた雑誌を机に置く。
夕方頃から数分毎に窓を覗いていたユマはさながら遠足前の小学生のようであった。
「ナチ、起きて!この住所のとこに行くよ!」
そしてユマ程ではないもののいつもよりテンションが二割増くらいに上がったホオはソファで眠るナチを起こしにかかる。
「てか、どこかわかるのか?」
「kooklemapで調べ済みだよ!」
「はやく起きろーーーー!!!!」
わくわくを隠しきれずにはしゃぐ2人につられるように一行は移動を開始した。
ーーーーーーーーーーーたんっ。
「着いた!ここだよ!!!」
目の前に建っているのは、怪しげーーというよりかはいったいここが何なのかわからない、多分通りかけても注視せず素通りしてしまうような建物だった。
どんどんコンクリートなどの無機質な建物が増えていくこのご時世、この建物だけは取り残されたように外観がペンキで塗られたように色づいている。
もっとも、どの色も年季がはいっているようで色あせているが。
「ここ…か?」
一階プラス屋根裏かはたまたただの屋根のデザインかわからないくらいの高さで、窓や扉には布生地のカーテンがかかっていて中の様子が探れない。緑の扉の上方の窓に、中からOPENの文字が書いてあるお陰で何かの店だろうということはわかった。
「ここのはずだよ!」
「オープンしてるぞ」
「入ろ入ろ!」
とにかく、ここで情報が得られる。
今まで謎に包まれていたこの現象の正体がわかるという期待で胸を膨らませながら、一行は扉に手をかけ、開いた。
チリンチリンッ
ドアを開けると同時に来客を知らせる鈴の音がなる。
中は思っていたよりも広く、そして古ぼけていた。棚やテーブルには瓶や本などと言ったものが陳列されており、室内を照らす電球は良く言えば優しげだが、悪く言えば置いてあるものや様子と相まって不気味である。
奥にはカウンターがあるのだが、そこには誰もいない。
「結構ボロいな…」
床も壁も全て木製なのが昔の学校校舎のようで余計に不気味さを助長させている。
「えー、こういう雰囲気好きだけどなー、面白そうで」
「おい見ろ!『醜いアヒルの子』って書いてある!」
キラキラした瞳で店の中を探索し出そうとしたホオより先に、すでに小瓶を手に取り紙を見ていたシオンが驚いたようにこちらに小瓶を見せる。
「それ、ビンじゃん。本じゃなかった?『醜いアヒルの子』って」
つられて他の瓶も確認すると、どうやらどれも物語名が書いてあるようだ。
「すいませーん、どなたかいらっしゃいませんかー?」
ユマが口に手を当てそう言うと、店の奥から帽子と服ーーーの塊のようなものが出てきた。
「はぁーーい、いらっしゃい…あ。5人組の男」
「髪の長くなる女の子と猫に渡された紙に、ここの住所が書いてあったんですけど…」
「え、ユマこの店の人に対してノータッチ?強くない?」
「イオちゃんから聞いてるよー」
「イオちゃん…?あの子、イオって言うんですか!!?」
食いつき気味の反応に能力屋はイオとの約束を思い出す。
そうだ、確か名前を出さないでと…
「(げ、しまった言ったら駄目なんだったっけ…!)え、な、なんか勘違いしてない?い、井岡で、いおちゃんだよ?」
「あー、名字からとった系か…」
「吉田でよっしー的なノリだね!」
能力屋の咄嗟の言い訳は苦しかったが、信じてもらえたようだ。
「(よかった…この設定いおちゃんに今度言わなきゃ)まぁ、そんな感じだねぇ~」
「ねぇ、で、ここは何なの?」
「ここは能力屋って呼ばれてて、アビリティやキャラ、それにその他いろいろを売るお店だよぉ~」
「キャラ?アビリティ?」
「うん。今日は頼まれたから始めっから説明するねぇ。立ち話も何だし、奥に行こっか〜」
次回、説明回。




