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能力屋はカウンターのところまで行くと、ハシゴがついた縦長パイプ椅子の上に立ち、ともすれば自分が入ってしまえそうな程のダンボール箱をカウンターの上に置いた。
「今回入荷したのは、こんだけっ」
どさっ
「…多いね」
「うん、多いね」
「いやぁ、いろいろあってねぇ~今から出そうと思ってたとこだったんだぁ~」
ダンボールいっぱいに入った小瓶やらなんやらはいつもの入荷量の2倍はあるだろうというくらいの多さだった。
「ま、とにかく見てみなよ」
「うん、そうする」
「でもご主人お金…」
「…とりあえず見るだけだから」
そう。ぶっちゃけてしまうと私は今あまりお金がない。
「あ、その前に能力屋、換金してほしいの。はい」
その話題で換金のことを思い出したので、懐からカウンターを出し、能力屋に渡した。
「はいはーい」
ここでは円は使えない。代わりとなるのがポトと呼ばれるもので、硬貨や紙幣のような実体はない。いうなれば仮想通貨といったところだろうか。
ホワイトはこれでキャラを買ったり武器を買ったりできるのだ。
そして、ケリオスを倒すことで貯まる。
ゲームの様な仕組みだが、実際倒すと貯まるので深くは考えない。
改めてダンボールの中を探る。
「赤い靴…小人の靴屋…アラジンと魔法のランプのランプ?有名なのが多いわね…」
「すごいでしょお?藺緒ちゃんに見せるのが初だよ?」
「これは…」
「ご主人っ、僕がいれば十分でしょうっ??僕がどんな奴でも倒してあげるからさっ」
トルクが腕にぎゅっと巻きついてくる。
そして捨て犬ならぬ捨て猫のような眼差しでこちらを見てくるのだ。
そう、イケメンは何をしても様になる。ずるい。
「え、これ本当に『長靴を履いた猫』?何?どっきり?」
「黙っとけ能力屋!」
「トルクばかりに負担をかけるわけにはいけないもの。ねぇ、能力屋、これ気になる」
「ん、どれどれ~?『親指姫』かぁ」
「親指くらいの大きさなのでしょう?」
某映画の人間の物を借りて暮らす小人のような感じなのだろうか。
「そおだよ~。でも、人型召喚なら大きくなることもできるよ?」
「ほんと!」
「どうする?買う??」
「…ねぇ、ご主人最近お金ないって言ってなかった?」
まだ腕に巻きついているトルクの視線が痛い。
「ぐ…聞いてみただけよ」
「姫系はねぇ、しょうがないよ。『ラプンツェル』だって値が張ったでしょお?」
「うん…」
「藺緒ちゃんは毎回お目が高いからねぇ。まぁ、みんな楽しそうだけど。ねぇ、『長靴を履いた猫』」
「あったりまえでしょ!!」
「じゃあ、また貯めてからくる」
誰かに買われる前に貯めなくちゃ。
どれも一点限定の早い者勝ちのような感じだからね。
「…僕も手伝うからね!」
「ありがと、トルク」
「頑張って~」
「うん。じゃあ帰る。今夜はよろしくね能力屋!」
「はいは~い」
チリンチリン、チリン。
しっかり最後に釘をさしてから、能力屋の店の外に出た。
だが、扉を出て数歩、完全に能力屋の店の扉が閉まった後。
フラッ…
「ご主人!」
トルクに支えられて初めて自分が倒れそうになったことに気づいた。
「…え?あ、あぁ、トルク。ごめんちょっと貧血かも…」
「…やっぱり無理してたんだね。はやく帰るよ」
私の顔色を見たトルクがそういうやいなや、身体が宙に浮いた。って、
「なな何してんの!?」
「え、歩いたら危ないじゃん」
トルクは平然とした顔だが、
どういう状況か一言でいうと、うん、お姫様抱っこされてる。
こんなことをされたら貧血どころの話じゃない。
「いや大丈夫だから!」
「嫌」
「え!?」
嫌!?
「大丈夫だって、ここほとんど人通りないし」
「そういう問題じゃ」
「もーわかったよ。しっかりつかまっといてね」
「へ?」
「‘トレイト’」
驚く私を他所にトルクは指にはめていたシルバーの指輪を外すと、それを懐にしまい代わりにゴールドの細い指輪を私にはめてそう唱えた。
これは透明魔法で、トルクと私は視覚的には見えなくなったはずだ。
「一気に帰るよ!“魔法長靴、超飛躍”!!」
「え、えええええええええ!!!」
そして、ぴょーーーんという効果音でもつきそうなくらい一気に高く飛び上がった。
そのまま建物の上を無駄に軽快に跳んでいく。
自分で跳ぶのは大丈夫だけど、この状態だとやばい。完全にアトラクションである。
「トルク、私、絶叫系無理でっ」
うっ、酔う…
とんっ。
「ついたよっ」
何回か跳んだ後、もうそろそろ限界だと思っていた時、ようやく上下運動が終わる。
気がつくと私の部屋の窓の前にいた。
よかった…危なかった。
トルクに降ろしてもらい、屋根から部屋の中
へ入る。
「ありがと」
振り返ってそう言おうとしたが、いきなりガッ!!とまた抱えあげられ、ベッドに押し込まれた。
「もうしばらくは安静にしときなよ!ここで回復させなかったら本当にやばいからね!ただでさえ最近浪費しすぎなのに」
そう言ったトルクはムッという効果音がつきそうな顔をしていた。
本気で怒っている訳ではないだろうが、心配してくれていることはひしひしと伝わる。
「わかったわ。ちゃんと回復させる」
「ん。でももし何かあったら遠慮せず呼んでね。魔力はあまり使わせずに来るからさ」
そう言うと、ニコッとトルクは笑いながら戻っていった。
ーーーーーこの時には、無事能力屋に釘もさしたので私の脳からはとっくにPHANTOMSのことなど消え去っていた。
だが、実は私はホワイトではなく、航益 藺緒としてPHANTOMSと接した時に、あるミスをしていたのだ。
とても初歩的で根本的で単純で、重大な。
その事により後々『航益 藺緒』にとってただならぬ事態が起こるのだがーー
今はまだ、知らぬ話。
すいません少し編集しました。大筋は変わってない(はず)なのでご了承ください。




