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ドンドン!
「出てきなさいっ!能力屋!!」
能力屋の店の扉を叩く。
その扉にはというと、closedとかいてある木の看板が中からさがっていて、カーテンも閉まっている。
普通なら完全にここでゲームオーバーだが、そんなのは気にしない。
やっぱり閉まってた。だが中にいるのはわかっている。
「ご主人どいといて。僕が扉を蹴り飛ばーーー」
いつまでたっても無反応な扉についにトルクが痺れを切らし、そう言いながら前に出ようとした時ー
チリンチリン、チリン。
「もう、まだ営業してませんよーーって、なんだ、いおちゃんと『長靴を履いた猫』か。なんか物騒な単語が聞こえてきたから何かと思ったよ~」
軽快な音とともに扉が少しだけ開き、すごく背の小さい、なのに服はだっぼだぼで後ろに引き摺るぐらい大きく、頭にも大きいシルクハットを被り目が見えてないなんともアンバランスで変な人が出て来た。
その変な人こそ、この店の主人である。
「聞こえてたんなら開けろよ」
「いやぁ、最近物騒じゃん~?」
機嫌悪めなトルクにへらへらと対応するのはいつものこと。
「話があるの。入ってもいいかしら」
「えー、特別だよ~?」
しゃがんで目線をあわしそう言うと、口調とは裏腹にすんなりと扉を開けてくれた。
チリンチリン。
ドアの上についている鈴がまた音を立てる。
私とトルクは一応外の周りを見回し誰もいないことを確認してから、中に入った。
「お邪魔します」
「ほんとにね~」
「社交辞令って知ってる?能力屋」
扉を開けて先に入れてくれた能力屋とトルクが言い争うのを聞き流して、店に足を踏み入れる。
店の中には小瓶やいろいろな形状の入れ物が置いてある。それらの横を通り過ぎ、さらに奥へ進むと、店ではなく和室6帖の部屋に出た。
いつも思うがなぜに和室なんだ。
「さぁ、何の用だい?」
ちゃぶ台の前に向かい合わせに座り、話を再開させた。
ちなみに今は座布団を3枚重ねているから大丈夫だが、座布団なしで能力屋が座るとちゃぶ台から顔がギリギリ全部見える程度である。なぜこのちゃぶ台を購入したのか。
まぁそんなことはいい。
「率直に尋ねるわ。蜂道ナチ。この名前の客、何を買っていったの?」
「えー。ここで何か買った前提の質問ー?というか、一応ここにも個人情報保護法っていうのがあるんだよね~」
確かに、これは結構な個人情報かもしれない。それはわかっている。乱用する気はないのだ。
ただ、知りたいだけ。
「何、ご主人の頼みが聞けないの?」
「わぁ怖い。だいぶ飼い慣らされてるねぇ、『長靴を履いた猫』」
「何言ってんの??飼い慣らされたんじゃなくて、飼い慣らしたの!」
「何言ってんの!?」
「だってご主人、めったに僕のこと召喚てくれないのに、前に僕が『ピンチの時は僕を召喚なよ、何があっても助けてあげるから』って言ったから、あんな魔力ギリギリで倒れかけでも、僕を呼んだんでしょ?」
つっこんだ私に対し、きょとんとした顔でこちらを覗き込んでくるトルク。
その顔の近さと図星を隠す為とで全力で顔を背ける。
「…!あ、あれは…!その…」
「ご主人赤くなってるー!かーわいっ!!」
「きゃあ!?」
だが顔を逸らすとガバッ、とトルクが抱きついてきた。トルクの方が身長が高いので必然的に私はすっぽりその中におさまってしまう。
言っておくが私の背が低いのではない。あくまでトルクが高いだけだ。
座ってるけど。座っててもだから。
「いやぁ、以前からはありえない姿だよ~。強いし魔力も高いけど、その分値段も高くて性格に難しかなかったから長続きせずにすぐに戻ってきてたもんね~」
「黙っとけ能力屋。契約切って逃げる度に捕まえやがって」
ギンッと凄い勢いで睨むトルクにも能力屋は動じない。
「でも、だからこそ、いおちゃんと会えたんでしょお?」
「そこは感謝してる」
「潔いねぇ~」
相変わらずのやり取りだが、忘れていることがある。
「ねぇ、トルクいつまでこのまま?」
「え?いつまでも。てかご主人まだ顔赤ーい!」
「離しなさい…!!」
「うん、もう話を進めてもいいかな?」
「はぁ?邪魔すんな能りょ」
「いいわ!進めましょう!!!」
トルクから無理矢理抜け出して話を再開させる。
「特別に、常連さんだから特別にだよ?」
「ええ」
「その客ーーーーーーーーー知らないよ」
間。
「え」
「初めて聞いたよぉ、そんな名前」
予想外の答えに間抜けな顔をしているだろう私に向かって、能力屋はへらへらとそう言う。
「本当に?」
「僕は嘘はつかないよっ☆」
「ご主人、どうする?」
能力屋が嘘をついているとは考えにくい。ついたとしたら、それはよっぽど重要な何かが隠されているか、蜂道ナチと何かあるか、とりあえず私達では許容できない何かがあるのだろう。
それなら仕方が無いけれど、やはりその可能性も低いだろう。
「…能力屋。私達、あることを条件にホワイトと戦ったの。もちろん、LAFではないわよ。そして、その時戦ったうちの1人に、アビリティかもしれないものを感じたの。魔力がすぐになくなるアビリティとか、ない?」
とりあえず質問の方向を変える。
あんなにすぐに立てなくなるなんて、おかしい。確かに操作眼を使ったし、対決の前にケリオスを何体か倒したけど、それでもおかしい。
だからアビリティかキャラだと思っていたんだけど。
「うーん、有り得るのもあるけど、そのアビは今行方がわかってるから違うしなぁ、なんなんだろうね?」
能力屋が知らないのならアビリティやキャラではないのだろう。
「そう…ならいいわ」
「ご主人、もう1個あるでしょ用事」
「あ、そうね。能力屋、今日、たぶんその戦った5人組の男が来ると思うんだけど、そいつらにいろいろ教えてやってくれない?私の名前は絶対出さないでね」
危ない、こっちが本題だった。
「えー、僕が説明するのぉ?いおちゃん教えてあげなよ」
「うまくすれば儲かるでしょ?」
返答は予想済みだった。だから、やる気にさせる返しも考えたのだ。
「そんな言い方~。わかったよ、ちゃんと売るよ~」
能力屋は案の定引き受けてくれた。
「目的が違くない…?」
「いいじゃない、あのままだとじきに最近増えてる“ホワイト狩り”に狩られるわよ。今まで狩られなかったのが不思議なくらい。……あいつは別として」
確かにあれがアビリティやキャラなら、あいつが他の奴らにも教えているはずだ。
「ねぇねぇいおちゃん。それよりまた新しいの入荷したんだ。見てかない??」
話もひと段落し、帰ろうかという流れになりかけたところで能力屋が立ち上がった。座布団3枚の上に立ち上がるなんて、危なくないのだろうか。と思いながら、能力屋の言った[入荷]という文字を頭に入れる。え、入荷?
「見たいわ!」
「えー、なんか契約するのー?」
「とりあえず見てみたいの」
面白くなさそうな顔をするトルクの横で立ち上がると、先に和室を出て、店に戻る。
「もう、あんなルンルンしてさー…僕がいれば充分なのに」
それを見つめるトルクはやれやれとそう言って立ち上がった。




