19
「………」
「おやすみ、ご主人…」
青年は眠りについた彼女を抱き上げると、建物の下へと続く階段のある扉の壁のところまで運び、そっとおろした。
「お前ら…ご主人に手出ししたら切り刻むぞ」
少女の寝顔を慈しむように見た後、4人に向けてつい数秒前からは想像もつかない敵意むき出しの顔で威嚇して、屋上の真ん中らへんに向かって歩いていく。
蜂道ナチに向かって立ち、面倒くさそうに。
「じゃ、選手交代ってことで、始めんぞ」
主人が眠った途端に口調が変わったことに、5人は少なからず驚く。
「ま、待ってよ!あんたみたいなのがいるなんて聞いてないっ」
慌ててそう声を荒らげる秦中ホオを青年は一瞥し、嘲笑した。
「そっちは5人がかりで来といてよく言うよな?」
確かに女子1人対男子5人の対決と聞けば、誰もが不公平だと思うだろう。
「だってそれはそいつが…」
「言い訳なんか聞きたくねーよ。ほら、そこのお前、あとお前倒せばいいんだろ?はやく終わらすぞ。今のご主人、魔力あんまりないから、さっ」
ガッ!!
青年が繰り出した蹴りを相手は受け止める。青年は瞬時に姿を消し相手の背後にまわるとそのまま拳を出すが、避けられるーーー
「はや…」
「あれについてってるナチ、すげぇな…」
傍から見れば目で追うのに苦労するくらい、2人は速かった。
一瞬でも気を抜けばやられる。そんな状況が続く。
だが、しばらくの間鎬を削っていた2人が同時に動きを止めた。
「……まぁ、そりゃあ来るよね。逆に今まで来なかったのがすごいくらい」
宙を見つめながらなお面倒くさそうにそう独り言を呟く青年。
どこからか現れたのはケリオスの中級レベル3。しかも6体だった。
「こんな時に…」
「でも、こんなに大勢のホワイトがいたら強いのが集団でくるのも有り得るんじゃない?」
そう、全員、試合中でなくてもずっとホワイトになっていたのだ。
「面倒臭いな。ご主人の魔力なくなるから長居できないんだけど…あ、あんた達1人1体いけるだろ?まさかこんなのも倒せなかったりしないよね?」
「言われなくて、も!」
出した槍で1体を突く邏梳シオン。
「僕、ご主人守るから。あんたらにしたらちょうどいいトレーニングでしょ?」
そういい青年は自分の目の前にいた敵を完全無視しわ眠っている自分のご主人の元へといき、
「ご主人に触ったら…」
近づいていたケリオスレベル3を蹴り飛ばした。
だが、進化形のケリオスは強くなっているので、これくらいでは消滅しない。
「切り裂くって言っただろ」
青年の手から爪のような形状をした長い刃が出る。
ザシュッ!!
そして避けようとするケリオスの後ろに素早く回り込み、容赦なく切り裂いた。
「…歯ごたえねぇなぁ」
消滅していくケリオスから視線を外し青年が周りを見ると、蜂道ナチはいつの間にか倒しているが、あとの者はケリオスの動きが素早く苦戦しているようだった。
どうしようか、と考える。
「あっ」
が、彼女の魔力が切れかかっているのがわかったので、急いで自分の魔力消費に切り替えた。
もう危うい。もう彼女のホワイトが解けるのも時間の問題だろう。
「やっば…ご主人の元の姿を見せちゃダメなんだっけ…」
そこで初めて青年は焦りの表情をみせる。
主人は危ない。今から手を貸し勝負をつける
までの時間はないだろう。
だが、目の前のあいつを倒すことも頼まれている。
どちらが大切か。
青年は自分の天秤に2つをかけ、推し量った。




