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ウィーーン。
「ありがとうございましたぁ」
店員さんの声を背後に聞きながらコンビニの扉を出る。
途端、むわっとした生ぬるーい空気が私を襲ってきた。
だが今の私にはそんな事など気にもならない。
あぁ、二十四時間営業ってなんて素晴らしいんだろう。思い立った時に店で物を買えるなんて昔では有り得なかった。絶対に。
みんなは当たり前のように過ごしているがこの文明の発展にもっと感謝すべきだ。うん。
コンビニエンスストアに感動しながら少し明るめの月の光と街灯の光を頼りに家への道のりを歩いて行く。
はやく食べたい。
「雪見饅頭…」
歩く度にカサカサと音をたてるビニール袋。その中には突如食べたくなった雪見饅頭が入っている。
最近急に何かが食べたくなる。昨日も突然ガキン、とパイナポーが食べたくなって来てしまった。
これはやばい。わかってはいるが食べたいものは食べたいのだ。
歩きながら中に入っている雪見饅頭の味を想像して、一刻もはやくそれが現実となるよう早歩きに切り替える。
「ねぇ、こんな時間に危ないよ! PHANTOMSが出たらどーすんの!」
「出るわけないじゃん! そこのコンビニ行くだけだから!」
道路沿いの家から出てきた兄妹らしき人達がそう話しているのが聞こえた。
PHANTOMS、ねぇ…
ここ最近PHANTOMSという集団の噂が絶えない。
だが、噂にはなるものの何をしているのか、などは一切不明のよくわからない類のものである。
あの兄妹の妹のような小さい子になら充分通用するだろうが、所詮は誰かが退屈しのぎに作ったホラ話だろう。大体ネーミングがまんまというか、なんというか…
そんな事を考えながら角を曲がる。人気が全くないが、ここが近道なのだ。
…せめてもう少し現実味のある感じにすれば信憑性があったのではなかろうか。と私は考える。
でも、なぜか設定は細かいのだ。なんでもその集団は夜中、黒フード付きの黒マントで全身を隠し行動するらしいーーー
「ねーシオン、この子とか、そんな感じじゃない?」
「あ、こいつかも…!」
ふ、と目の前から聞こえてきた声。そこには黒マントにフードといったいかにもな出で立ちの2人組がいた。
その内1人が指をさしているのはこちらの方向。多分後ろのーーー
「……」
振り向いた先には誰もいない。たださっきまで歩いていた月明かりに照らされた道があるだけだ。
「ねー、君さ」
先程聞こえてきた声と同じ声が続く。聞いたところ、男だろう。
振り向きたくないが十中八九この声は私にかけられているはずだ。どうでもいいが、さっき、私こいつって言われてなかったか? 初対面なのに。
「なんですか?」
答えながら、もしかして、と嫌な予感がする。
急に心臓がバクバク言い始める。これは恋愛漫画的なアレではない。ホラー系のアレである。
走る? 走るか?? いや、足が動かない。
お、落ち着け自分。まだ噂の集団だと決まった訳ではない。ただたまたまそういう格好をした人達がたまたま私に声をかけただけかもしれないから。ね? うん。
そ、そもそもブラックなことをしてるなんて限らないからね!
「あのさ、申し訳ないんだけど、ちょっとついてきてくれない?」
「いや、あの、私ちょっと今忙しくて…」
ちょっとついて行って何をするというのだろうか。ま、まさかカツアゲ?私は今残金328円だぞ?
そしてこんな時になんだが彼らは私が想像していたよりも若そうだ。たぶん、私と同じくらいの年齢だろう。って、もうそれ前提で話しているが。
違うよね? 違うよ!? うん大丈夫自分。さっきあんな噂話思い出したからそう見えるだけで。
いや、そんな事よりなんか言わなきゃ。
「あ、あの、あなた達は噂の、PHANTOMS、です、か…?」
…え?
今なんて言った、自分?
うわああああああ! 言ってしまったぁあああああ?! よく言えたな自分! こんな時にこの台詞はダメじゃないか!? 考えてることそのまま言うとかやばいよやばい。
でも私の失態に対し、相手は
「あ、うん。僕達PHANTOMSって噂されてるらしいね。え、君も知ってるの?」
悪い意味で予想通り答えてきた。しかもなんか疑問系で返ってきた。
まじか…あっさり答えられすぎて逆に恐怖心がなくなってくる。
これ、もしかしたら大丈夫じゃない?
たとえ勝負してしまったとしても、私も少しは身体能力に自信はある。もしかしたら倒せてしまうかもしれない。
「いや、でも俺らはそんな変なことはしてないぞ?な?」
「そうだねー。ただ、仲間探ししてるだけでーっ」
私の疑問を読み取ったのか、今まで喋らなかったもう1人がそういい、それに喋っていた方も賛同する。
…え?
仲間、探し?
カツアゲとかじゃなくて?
それなら安心。戦う必要もないし…あれ?
「え、じゃあなんで今私ーー」
不意に迫ってきた手。それに気づいた時にはもう逃れられない程近くて。
バッと視界を遮られ、思わず後ろに倒れ込みそうになるが、受け止められる。
そのまま布のようなものを口に当てられた。
えっ、これってテレビとかでよく見るやつーー?
そして案の定襲ってくる睡魔のようなもの。
「それはすぐわかるよ。ごめんだけど、少し眠ってて?」
抗うこともできず、その言葉を最後にただ落とされるままに深い闇に私は落ちていったーーー