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ついこの間まで満月になるべくその身を太らせていた月も今度は痩せようと奮闘し、道を照らす光が少しずつ減っている夜。
風は時折思い出したように吹いているだけで、この暑さの中ではまるで意味がない。
そんな中、大量のケリオスを討伐し続ける少女が1人。
彼女はケリオスを積極的に討伐しているが、今夜の目的はそれではないようだ。少しずつ、どこかに向かって進んでいる。
ぱっと見た限りでは、目的地までの道を邪魔されているように見えるかもしれない。だが、よく見ると彼女が敢えてケリオスと戦っているのがわかるだろう。
「…もうそろそろ時間ね」
準備運動はばっちり。ケリオスを倒すこと三十分。今日はかなり出てきた。
まぁ、さすがに満月の時よりかはマシだけど。
「ちょっと予想以上に出てきたけど、まぁlevel1だし大丈夫よね。ハンデの足しにはなるでしょう」
1人でそう呟きながら、待ち合わせ場所へ向かう。
今日はPHANTOMSとの対戦日。
昨日は討伐しに行こうか迷ったが、念のため休んだ。
3日振りのあいつらのアジトが段々と近づいてくる。
目的地の屋上には、もう既に5人ともホワイトになった状態でいた。…1人寝ているが。
あいつ、呑気に寝てるけど私がもし来なかったらどうする気だったんだ。
いや、ちゃんと来たけど。
最初は仲間になるのを避けるため咄嗟に出した条件だったのだが、実は楽しみだったのだ。
ホワイトと戦えるなんて、ちょっとやってみたかったんだよね。
でもLAFは違法だし。
「来たわよ」
彼らのアジトに着地する。
「わ、可愛!僕が出会って来た中でもトップクラスだよ!」
榛中ホオが驚いた顔をしながらそう言う。
あなたがそんな可愛くない、普通って言ってた女子と同一人物ですけどね。と思いながら軽く無視する。
「よくここがわかったな。住所を聞いたとはいえ、わかりにくいのに」
感心したように掵原リクトが言う。
「こんなバレバレの場所に作っておいてよく言うわね」
だってつい最近来たもんねー
じゃなきゃ全くわからなかった。
ま、それはさておき。
「今さらやめる、なんてことはないわよね?」
まず確認しておく。
「あぁ、大丈夫だ」
邏梳シオンが言う。ならいい。
「じゃあ、今日のルールは聞いたかしら?…寝てるけど」
蜂道ナチは下へ行くための扉にもたれかかって、やはり寝ている。
「あぁ、聞いたよ、あいつはほっといていいから…」
この中で1番大変なのは羅梳シオンだろうな…
気苦労が知れる。
でもまあ、そう言うなら放っておこう。
前から見てるに、あいつはいつでも寝てるんだな…
まぁ、この時間ならそれが普通かもしれないんだけど。
「勝負の内容を確認するわ。私対あなた達の中の誰か1人が勝負をして、その1人が負けたら次の人、という風に戦う。ようするに私の勝ち抜けよ。戦っている間、その1人以外は手出し禁止。場所はここの屋上の範囲、それの、あなた達がいるその下へ行く出入口から半径5mの円以外の場所ね。場外、気絶、眠ったり戦闘不能になると負け。場外に関しては体の全てが出るとアウト。異議は?」
今更だがなんでこんな広いんだアジト。正直こんなに場所いらなかったけど…まずアジトがあるってすごくないか…?
「ないよ!」
「本当にそれでいいの?5対1だよ?一瞬で終わるよ?」
夜なのにやけに元気な俎頗ユマに続けて、榛中ホオが結構本気のトーンで聞いてくる。
それくらいの自信がなきゃこんな戦いしないでしょ…
「ええ。じゃあさっそく、始めましょうか。相手は誰かしら」
「はぁーい、僕行くよー」
俎頗ユマが手をあげる。
私と俎頗ユマは屋上のちょうど真ん中らへんに、5mほど離れて対峙した。
「じゃあ誰か合図を」
「はじめ」
「‘マカロ’」
声とともに目の前の俎頗ユマが消える。
瞬間移動魔法か。
でも、甘い。私にはどこに行ったか意識を集中させ、魔力の渦を確認する。
ーーー後ろ
「‘マカロ’」
「‘スレプト’」
睡眠魔法をかけてくる前にこちらも瞬間移動する。
まずは様子見しますか。
同タイミングで瞬間移動をした私に少し驚いていたようだが、今度は一気にこちらへ来る、そしてー
「‘スレプト’」
…また睡眠魔法。
「もしかしてあなた、それ以外使えないの?」
いや、でもありうるかもしれない。ケリオス知らなかったし。睡眠魔法と瞬間移動魔法を使えているだけ凄いのか?
「まさか!」
さすがにそれだけではないらしい。
新人の自覚があるのに私の勝負を受けるのもおかしな話だもんね。
「あんまりつまんないと、終わらせちゃうわよ?」
「!?」
せいぜい楽しませてよねー?
「‘フレイド’」
何かを決心したようで、俎頗ユマは炎魔法を出してきた。
「‘アイシア’」
それを氷魔法で相殺する。
これ、下級魔法じゃん。こんなので倒せると思ってるの?
と思った矢先、相殺されて一瞬向こうが見えなくなったところから、鋭い何かが飛んできた。
「わ…‘シルディア’」
咄嗟にシールド魔法で守る。
が、シールドに当たったそれは勢いを失うことなく進み続け、私ごと後ろに押されそうになる。
さっき端の方に移動しちゃったから後ろに行くと案外すぐ場外になってしまうな…
そう思って、踏ん張りながら、飛んできたモノをよく見る。
これは…矢?
俎頗ユマを見ると、弓を持っていた。
へぇ、弓矢使い。
おっと、シールド魔法にヒビが入ってる。威力は並ではないようだ。これじゃあ屋外に放り出されるのが先か、シールドが破られるのが先か…
と、俎頗ユマがもう1本射ってきた。今度はまっすぐ進まず、矢とは思えない動きで私の後ろにまわった。
矢を自由に動かせる…?
少し侮りすぎていたかも。
シールドが破られるのも時間の問題だし、何より腕がだるくなってきている。でも力を抜くとくらってしまう。
そうしている間にも前の矢は勢いをどんどん増し、後ろの矢も私に向かって飛んできた。
もう。しょうがない。
「“ヘアルーキー”!」
私は叫んだ。
後ろの矢が私に当たりそうになった瞬間ー
キィンッ!!
矢は二つとも真っ二つに折れ、屋上に落ちた。
「え?」
俎頗ユマが思わず声をあげる。
「何あれ!?」
フィールド上にいる秦中ホオも声をあげている。
私の髪が、斬ったのだ。
肩より少し下くらいの長さだった私の髪は、膝あたりまで伸びており、一部はまるでそこに剣があるかのように尖っている。
そして、全て白かった髪色は、右後方一筋だけ、黒くなっていた。
こんなはやく使うつもりじゃなかったんだけどなぁ。
予想外だった。
「もういいよね。反撃するよ」
地面を蹴り俎頗ユマのところまでひとっ飛びする。
弓は接近戦に向いてない。
「っ、‘スレプト’!」
睡眠魔法をかけてくるが、それらを避ける。
「“ダブルウィップ”」
バチィンッ!!
左右二つの髪の一部が鞭のようにしなる。
攻守交替だね。
最初は鞭にしといてあげるよ。
「ほら、受けなきゃ」
左右両側から攻撃する。
「‘シルディア’!」
今度は俎頗ユマがシールド魔法を出す。
「矢、あれ本気じゃなかったよね」
「!」
攻撃しながら問う。
そう、あの矢は、手加減していたのだ。勢いが強くなっていったといっても、俎頗ユマが矢の強さを加減しているのを感じ取れた。
そこまでの気配りが出来るほど戦いにおいてはすごいらしい。
欠落しているのは知識だけ?
「ありがと。でも、勝負は本気でこなきゃ」
少しずつ、後ろに退かせる。
私がいうのは説得力ゼロだけど。
私は両手を前に出し、左右両方からの髪の鞭にシールド魔法を二つ出し防いでる俎頗ユマの体に当てた。
あーあ、前ガラ空きじゃん。
気づいた時にはもう遅いよ。
「‘インパクト’」
ドンッ
俎頗ユマの身体が吹っ飛ばされて、全て場外に出た。
「……!!」
て、手加減したよ?衝撃を抑えて吹っ飛ばすだけになるよう配慮したよ??
下に落下していった俎頗ユマを屋上から覗き込むと、浮遊魔法で帰ってくるところだった。
「よかった、浮遊魔法使えなかったらどうしようかと」
「それくらいは使えるよ…」
俎頗ユマが屋上に降り立つ。
「あーあ、負けちゃったよー!ごめんみんな!」
「思ってたより強いな、あいつ」
「まぁ、ユマは遠距離派だからねー」
掵原リクトと秦中ホオがそう言い合う。
「さあ、次は誰?」
「じゃあ次は俺が行く」
そう言って出てきたのは、掵原リクトだった。
ふうん。見た目的に見ると接近戦好きそうだな。
定位置につく。
「いいよ始めて」
「始め」
「俺、どっちかっていうと前衛なんだよな。だから、魔法とかあんまり使えねぇ」
開始早々そう言う掵原リクト。
「ぽいね。あ、本気で来てね?」
「じゃあ遠慮なくっ」
一応、と思ってそう言うと、そう返して殴りかかってきた。




