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気配が、なかった。
この私が、何も気配を感じることなく捕まってしまうなんて。
てかいきなりで本当叫ぶかと思った。今の完全にホラーだったよね?
目線を下に下げ、自分の前で組まれた腕をみる。
細いが確実に男性のものであるとわかる骨ばった大きな手と程よくついた筋肉。
大体予想はついていたが、その腕を見て背後の人物が確実に特定された。
あぁ…5人の中でも特にこいつには会いたくなかったのだけど。
蜂道ナチ…
「…離して、貰えません?」
とりあえず冷静に対処する。
「捕まえとけって」
前と同じように、眠気を含んだ声が上から降りかかる。
相手が誰だろうがこの喋り方は変わらないようだ。
まぁ、まさか私が今朝別れたばかりのやつだとは気づかないだろう。
「私、あなた達に話すような事ないですから」
とにかくこの意味不明な状況を打破すべく離れようともがくと、ますます腕の力が強まる。
「…俺らは、ある」
「!!」
と、同時に左耳に吐息がかかった。
な、なにしてんのこいつ!?
「逃げないで…」
「っ…!」
掠れた低音ボイスが耳元で聞こえる。
うわあああああああああああ耳がぞわっとする!!!
ほんとなにこいつ!?なにがしたいの!?
「っやめて!!」
気持ち悪いわ!!!!
逃げようとするけど、やはり所詮は女子と男子。悔しいし差別されるのは嫌いだが、力が違う。
また足掻いたが逃げられない。私の体は依然としてホールドされたままである。
「~~っ、わかった!わかったわよ!チャンスをあげるわ!!!だから離して!」
観念し両手をあげる。
「…逃げない?」
「逃げないわよ!」
ゆっくりと離す蜂道ナチ。なんの天罰だ今のは。
よく考えたらあの抱き方リア充がするやつじゃん。変態かよ。
「腕はつかんどく」
もしかしたらこのまま逃げられるのではないかと淡い期待を抱いたが、右腕だけは掴まれたままだった。
「……。まぁ、いいわ…。あなた達にチャンスをあげるわ。私と勝負するの。勝てば私の知ってることはなんでも教えてあげる。でも…負けたら、今後一切関わらないで。それが最大の譲歩。これ以上は無理よ」
「…勝負って?」
「戦うのよ。あなた達と、私が。純粋にね。形式は私の勝ち抜けでいいわ。ちなみにそれ以上を要求するなら私は今ここから何としてでも逃げる」
少しの間。
「……わかった。それでいい。けど、俺らは5人いるぞ?」
「ええ、いいわ」
そんなこと知っている。
「じゃあ、3日後、22時に…俺たちのアジトで。場所は、ーーーーーーーーー」
アジトなんだ。そんな言い方なんだ。
前のあそこね。ならわかる。
「わかったわ」
「…ほんとに来る?」
少しだけ、腕を掴む力が強くなる。
まぁ、こんな口約束だけでは不安なのも無理はないだろう。
なんせ私の情報は与えていないのだ。逃げてしまえば、それまでなわけだし。
「私は約束は破らない。証拠はないけど保証はする。なんなら契約でもーー」
「いや…じゃあ信じる」
だが、あっさりと蜂道ナチは引き下がった。
こんな簡単に信じていいのか?逆にこっちが不安だ。
お望みなら契約魔法でも結ぶけど。
まぁ、ちゃんと行くけどね?戦うのは好きだから。
それよりも、他の連中が来ないうちに逃げなければ。
「じゃあ、今日は追いかけて来ないよう仲間にも言っておいて。さようなら。また、3日後」
そう言うが否や腕を外すと、瞬間移動魔法を使い、その場を離れた。
そして本当に今度こそ誰にもいないところへ移動したことを確認すると、ホワイトを解き、2人に謝罪のLIMEを入れ、自宅へと向かった。




