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とにかく今は、時間稼ぎをしなければ。
「あら、この街にも他にホワイトがいたのね…こんばんは」
あくまで初対面を装う。大丈夫、バレてないはずだ。
「こんばんは。…あなたも、この街に?」
「ええ」
羅梳シオンはどこか緊張した面持ちをしている。
よかった、その様子じゃバレてない。
「あの、こんなこといきなり言うのもなんだけどさ、俺の他にあと4人、ホワイトがいるんだ。俺たちと協力して、魔物を倒して欲しいんだけど」
相手からすると私とは初対面のはずなのに、奴はいきなり本題に入ってきた。
「魔物…?あぁ、ケリオスのこと?」
「ケリオス…そういうのか」
羅梳シオンは右手を顎に当て、そう呟く。
その反応を見て気づいた。
なぜ仲間を欲しているのか。
もちろん、成長したケリオスに太刀打ちできないからというのもあるだろう。
だが、そもそもの大きな理由。
こいつら、何も知らないんだ。
ホワイトになったはいいけど、何をしたらいいか分からず、あの魔物をとりあえず倒している。だから、情報が欲しい。そして仲間になって欲しい。そんな感じなのだろう。
そういえば、ケリオスという名前も知らなかった。
…だけど、私には関係ないかな。
「ごめんなさい、私、群れるのはあまり好きじゃないの。ケリオスは基本低級しか出てこないし、それなら1人でも十分倒せるでしょう?」
ちょうど背後から襲いかかろうとしてきたケリオスの気配を感じ、短剣で倒す。
一突きで低級レベル1のケリオスはあっけなくその場の空気に溶けるように消えていった。
「それが、最近それより強いやつが出てきてて」
「私1人の力でどうにかなる。問題ないわ」
羅梳シオンの言葉を遮り、きっぱりと断る。
「………」
羅梳シオンの身振り手振りで説明しようと上げた両手が行き場を失ったように止まる。
「用はそれだけ?もう行っていいかしら」
「あの、他にこの街にホワイトはいない?」
「さぁ…わからないわ。なにせ広いもの」
あの2人もあまり群れるのは好まない。
自分達でいうのもなんだが、3人は付き合いが長いだけで必要以上に深入りはしない、そんな関係である。
したがって仲間を探しているやつらに紹介などできない。
「あっ!一昨日の夜、コンビニに行ってたりしたか?」
踵を返し、去ろうとすると、思い出したように後ろから声がかかった。
げ…
「コンビニ…?おかしなことを聞くのね…行ってたわ、だから何?」
下手に嘘をつかない方がよいと直感したので、正直に言う。
後ろを向いていてよかった。表情の変化でバレたかもしれないもんね。
「やっぱり…一昨日、君を見たんだ」
「へぇ、そうなの。まぁ私はとにかく1人がいいから。さようなら」
はやく離れなきゃ。
今はこいつだけだからまだいいけど、多くなるとややこしい。
なによりこれ以上ここにいるとボロを出してしまいそうだ。
今度こそ去ろうとするが、再び声がかかる。
「僕達、情報が欲しいんだ。君の知ってること、教えてくれないか?」
やっと本題が出てきたようだ。
面倒くさいから嫌だけど。
「あなた達にあげれるような情報は生憎持ち合わせてないわ」
声を振り払うように1歩踏み出すが、声はやまない。
「俺ら、結構鍛えてるはずだから強いよ?」
「私には敵わないわ」
今度はなんか流れがヤバい方向に向かっていってる気がする。
「もう行くわ。さよなら。‘マカロ’」
「あ…」
咄嗟に瞬間移動魔法を使って場を離れた。
出たところでホワイト解いて、はやく逃げよ…
そう考えた矢先。
「え…?」
移動した先の目の前に人がいたのに気づく。
一般人?
一瞬そう思ったが、僅かな月の光に呼応するように反射している白い髪と、目の前に突然人が現れたことに驚き見開く目の色から、そうではないと瞬時に判断する。
だが、今この状況からすれば1番会いたくなかった面々の1人である。
俎頗ユマ。
これはまずい…
相手が呆気に取られている間にとりあえず距離を置く。
〈おい、みんな!今、肩くらいの髪の長さの女の子にあったんだ!でも瞬間移動魔法で逃げられた!もしかしたら話を聞けるかも!見つけたら捕まえて!〉
そこへ計ったように辺りに羅梳シオンの声が木霊した。
げ…
今のは伝達魔法…でも周りにまで聞こえてるし使い方知らないのか…?
「えっと、今のって、君のこと、だよね?」
我に返った俎頗ユマが遠慮がちに、だが1歩ずつ近づいてくる。
「‘マカロ’!」
やっばいやばいやばいやばいやばいやばい。
移動先ミスった…!
これではこの間に続き鬼ごっこ第2弾になってしまう。
今度はこちらもホワイトとはいえ、人数がこれ以上増えると面倒くさい。
着地したと同時に用心して、辺りを見回す。
今度は、誰もいないところにきた。
危なかった…
というか、まずいことになったな…さっきもいったが、追われるやつだ、これは…
ホワイト解けばいいのかもしれないけど、元の姿でも接触してるから見つかったら怪しまれるだろうしな…もう関係してるとは思われてないけど、今見られたら多分バレる。
あいつらがどの範囲までサーチできるかわからないから…とりあえず離れるしかないな。うん。
そう判断し隣のビルに飛び移るため走り出そうとした。
だが、最初の足を踏み出し、その足が再び地面につくまでのその僅かな間に背後に気配を感じる。
ぎゅっ。
「…見つけた」
「!?」
それに気づき振り向こうとした時には、私は後ろから抱きしめられる形で身動きが取れなくなっていた。




