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Trick.or.Treat  作者: 風雅雪夜
波乱のハロウィン編
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波乱のハロウィン 3

 波乱のハロウィン編、第3話。

 10月31日のハロウィンが昨日終わった。しかし、感謝祭自体はまだ続くため、ケルト系の魔界の民の方ではまだ祭りが続いている。

 昨日はルカ達も町の中心部へ行って祭りを楽しんだ。露天の食べ物やお菓子を買って食べたり、ノアールやマミの家を回るイベントに付き合ったり。今年も大量のお菓子が手に入ったことで二人は柄にもなくはしゃいで盛り上がって浮かれていた。

 しかし、一番驚いたのはジャックだ。彼の頭がカボチャではなくカブだった。今年はカブにすると言っていたがまさか家の飾りではなく自分のことだったとは。ベストハロウィンイベントにエントリーまでしていたのにも驚いたが、まさか優勝してしまうとは。驚きと楽しさで今年のハロウィンもいい気持ちで終われた。

 いつもの日常に戻らねば、と玄関前のカボチャとカブの撤去を始めた頃だった。空間が切り裂かれた。この登場の仕方を知っている。これは件の死神の方のサリエルだった。なんだか急いでいるようにも見える。



「ルカ!」

「お早う、サリエル。どうしたの? そんなに慌てて……」



 ルカの腕を掴んでサリエルが叫ぶように、しかしノアールやマミには聞かせたくないのでなるべく声を圧し殺して言った。



「ジャックが拘束された!」



 それはあまりにも突然の知らせだった。

 ハロウィンはまだ終わらないらしい。驚きは続く。

 マミとノアールを家に残し、ルカは魔界警察署へと向かった。ノアールにはジャックに悪いことが起こったことを伝え、マミにはまだ伝えないように、家から出ないように、とだけ残して来た。

 魔界警察署には既にグレン、ヴァン、セーレ、リナーリアが集まっていた。ウルは置いてきた、とヴァンが言う。それは正解だっただろう。彼がいたなら、きっと大荒れすることになるだろうから。



「トムとフランが事情聴取を受けている。それで、ジャックだけじゃなく、昨日のハロウィンでカブ頭だった奴等が拘束されている」

「カブ頭だけ? 種族は?」

「種族は関係ないが人形の民は拘束されてる。犯人がそうらしい」



 犯人。淡々と説明してくれるセーレのその言葉にぞくりと背筋が震えた。ジャックに何があったと言うのだろうか。



「トム! フラン!」



 奥からフランと彼に抱えられてぐったりとしたトムが現れた。いつから聴取を受けていたのだろう。纏う空気が悪い。



「ジャックは……違うもん……ジャックはそんなことしてないよ! だって! 僕らと一緒だったんだもん!!」



 そう叫んで泣き出した。ルカには何がなんだかわからない。ただ、ジャックが冤罪で拘束されている、というのだけはわかった。詳しい話を聞きたい。ルカは仲間を見回した。



「私から話そう」



 名乗りをあげたのはルカに知らせたサリエルだ。

 サリエルは昨日は丸一日仕事で人間界と魔界を行ったり来たりしていた。真夜中に仕事が終わり、家に戻って休んでいた彼女は、何処かへ召喚されたという。それは悪魔を呼び出す魔方陣に酷似しており、サリエルもそれで呼ばれたことに対して驚いた。

 召喚され、目の前には若い司祭と修道女がいたのだ。神のために奉仕する者がこんな悪魔を呼び出すような魔方陣で、しかも天使でも悪魔でもなく死神の自分を呼んだことに更に驚いたし、疑問でもあった。

 そして、この状況を知るためにその司祭から彼等の教会で起こったという事件を聞いた。その事件の犯人はカブ頭の人形の異形の者だと。そしてこの教会に保管・封印されていた魔界とも深く関わりのある物を盗まれたこと。



「盗まれたものって?」

「初代ジャック・オ・ランタンの唯一の遺品、“煉獄の炎が灯るランタン”だ」



 なんとタイムリーな。一昨日、その話を隣のブリジットさんから聞いたばかりだというのに。ジャックは、たまたま伝統に則りカブで自らの顔を彫っただけだというのに。

 タイミングが悪すぎる。



「ジャックは盗んでなんかいないよ! 本当だよルカ! だって僕らとずっと一緒にいたんだから! ベストハロウィン優勝のパーティーをしたんだから!!」



 トムが叫ぶ。ジャックの無実を訴えて。

 泣き出したトムを優しく抱えてフランがトムの言葉を肯定する。



「トム、私もトムやフランが嘘をついているなんて思ってないよ。それに私達はジャックがそんなことをするはずないって知ってる。きっと何かの間違いだよ。ジャックはすぐに帰ってくる」



 本当にすぐ帰るか確証はない。が、トムを落ち着かせてやらないといけないし、それにただ黙っていることはできそうにない。リナーリアの方へ視線を動かせば彼女から頷きが返ってくる。悪魔の方でも捜査に協力しているようだ。早く事件が解決すればいいが。



「グレン、二人を任せていい?」

「いいよ。こっちは僕に任せて」

「ありがとう」



 グレンにトムとフランを任せてルカは犯人を捜す手伝いをすることにした。自分も動けば何か手がかりくらいは掴めるのではないか、掴めなかったとしても何もしないよりはいい。

 各々は動くことにした。


 リナーリアは悪魔達を使い情報を得ようと次々と悪魔を召喚していく。彼女の魔力が続く限り悪魔達を召喚して話を聞いていくようだ。セーレは何か情報を得られた時にリナーリアとの連絡役で残ることにした。ついでにノアール達のことも時々見に行ってくれるようで安心だ。

 グレンはトムに眠り薬を飲ませて休ませるために彼らの家に行った。悪い夢だったんだと彼には思わせたい。こんなことは誰だって望まないのだから。



「ルカ、一緒に来てもらってもいいか? 私が召喚された教会へ」

「わかった。ヴァンも行く?」

「うん。役立てることがあるなら是非」



 サリエルは空間を切り裂いて道を作り、ルカ達を導いた。

 空間を越えて辿り着いたのは人気のない教会だ。ひっそりとしていて、若干陰鬱な印象の小さな教会だ。奥のステンドグラスとその下、恐らく祭壇があったであろう部分が無惨に破壊されていることを除けば。



「死神! どこへ行っていたのですか!? 探しましたよ!」

「すまない。助っ人を呼びに戻っていた」



 サリエルの後ろから続く者を見てその人は顔をしかめた。その人は伏し目がちな若い修道女だった。普段はきっと静かに神に祈りを捧げる落ち着きのある女性なのだろう。少々服装は東洋の文化も感じる個性的なものであるが、信心深い女性であることは雰囲気で伝わる。今は少し取り乱しているから焦っているだけで。

 修道女の声を聞き付けて男性も姿を現した。カソックを着た、目を伏せた糸目の若い男性。きっとこの教会の神父さんだろうか、それとも牧師さんだろうか。なんだか、いたずらっ子のような雰囲気で修道女とは正反対な気がする。



「まぁまぁ、そんなに死神さんを責めんであげなさい。助っ人を連れてきたってことは、助けがないよりいいんだから」



 修道女を宥める。彼はルカ達を見てほぉ、と声を漏らす。



「面白い組み合わせですな。ハロウィンは昨日ですが、延長戦ですかな? 申し遅れました。私、この教会で牧師をしております、ジュードと申します。こちらは妹のカメリアです」

「助っ人のルカです」

「同じく、助っ人のヴァンです」



 それぞれが挨拶をして事件の詳しい話を聞いた。


 事件があったのは深夜。人里離れたこの教会はとても静かで、夜でも人が近寄らない場所にあり、ここに住んでいた彼らしか人はいなかった。教会の横に小さな家があり、二人はそこで生活をしているのだ。家や教会の周りは防犯目的で敷いた砂利があり、音を立てれば来訪者が来たことがわかるようになっている。しかし、昨日は音も鳴らず静かな夜だった。

 真夜中のことだった。ジュードがおかしな気配を感じて目を覚ました。カメリアを起こし気配を探っているときに教会から轟音が聞こえた。駆けつけてみれば教会の中は荒らされており、昼間には太陽の光を受けて輝くステンドグラスは無惨に割られていた。そして、その場所には青く燃える炎が灯るランタンを持つ影があった。その影はボロボロの服に身を包んだ萎びた大きなカブを被った細身の男。それは伝承のジャック・オ・ランタンのようだった。それは高笑いをあげながら外へ飛び出し煙のように消えたという。



「あれは我々この教会の管理者に代々受け継がれてきたものです。あれは門外不出の炎。祭壇の下に封印していたのです。あれは遠い昔に神と天使によってこの教会へと賜った聖なる炎。それを奪われたとなれば世界に何が起こるか……神はたいそうお怒りなのではと心配です」



 カメリアはとても心配そうで落ち着きがない。



「何かあったら見るようにと伝えられていた古文書にしたがって我々は神の遣いに相談をしようと思い、そこの死神を呼び出しました。神の遣いを呼び出すものだと伝えられていたが、まさか神そのものを呼び出すことになるとは……生きているとこんなこともあるのですねぇ」



 兄妹は真夜中の事件の詳しい話をしてくれた。その時、召喚されて話を聞いたサリエルは一度、魔界に戻り魔界警察に通報した。そうして魔界警察はすぐに動いてくれたが、ジャックまでも拘束されるとは思っていなかった。彼女はジャックがハロウィン当日カブ頭だったことを知らなかったのだ。



「私のせいでジャックが……」

「サリエルのせいじゃないよ。だってジャックは無実だもの。真に悪い奴は、犯人は、そのランタン持ち去ったカブ頭。とにかくそいつを捕まえないと」



 サリエルを慰めながらもルカは自分の友人を容疑者の一人にしたてあげたその者に怒りを覚える。そして必ず自分達で見つける、という決意を胸に抱いた。

 その様子を見てジュードはこちらの状況を推察したらしく声を掛ける。



「成る程、そちらにも犯人を捜す理由があるわけですね。カメリア、あれを」



 カメリアに出させたのは話に出ていた古文書。ジュードはそれを受け取り、あるページを開く。そこに記されていたのは、初代ジャック・オ・ランタンが如何にして怪異と化し、怪異として死んだか、その方法と彼の遺品の行方の取り決めについてだった。

 ついに事件が。

 囚われた仲間を救う鍵はジャック・オ・ランタンにあるようです。


 明日は4話目。犯人を追い詰められるのか。

 それでは、また明日。

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