波乱のハロウィン 1
ハロウィン特別企画。今日から波乱のハロウィン編と、この章の登場人物情報を午後9時に投稿していきます。
そして、この時期にこれの更新をするのが個人的に好きです。
今回、ルカ達の身にある事件が降りかかります。犯人は誰か、悪魔との契約とは。ジャック・オ・ランタンがこの事件の鍵を握ります。
それでは、始まり始まり〜。
研究で忙しくも穏やかな日々を過ごすルカはそろそろか、とカレンダーを見て思った。毎年恒例の行事が近づいている。毎年のことだが飽きることはない。恐らく伝統を大事にするという魔法使いのあり方がそうさせているのかもしれない。
今年は何を作ろうか、などと呑気に考えていた。
黒猫は少々肌寒くなってきた外から帰るなり温かい服を出してきて着こんだ。それを見てミイラは暗緑色の大きな目を丸くする。
黒猫はその視線に気づかずソファの上で丸くなった。そろそろ温かい服を用意して、冬支度をするべきだと黒猫は考えた。食料や燃料の備蓄も考えなければならないのだから、頭が痛くなりそうだ。
魔法使いは畑でカボチャの収穫をしていた。年に一回のハロウィンのため、カボチャのランタンを準備していたのだ。本来ならカブをくりぬくのが伝統的なのだが、最近はカボチャの方が温かい色味で綺麗に見えるということでカボチャで作る者が多い。
この魔法使いは伝統と流行の折り合いを上手くつけられる者だった。ちゃんとカブも用意していた彼は今年はどっちを持って行列に参加しようか楽しげに悩んだ。
ジャック・オ・ランタンとは、ランタン持ちの男という意味で、鬼火のようなものと言われている。火の玉の姿の他、光る衣装を身に纏うカボチャ頭の男の姿であらわれることもある、とされているが、ここにいる彼は少々違う。
ジャックと皆から呼ばれる彼は背が高く、執事服を身につけ、頭はオレンジのカボチャ頭で、手には燭台を持っている。カボチャ頭だが光る衣装は着ていないし、ランタンではなく燭台に火のついた蝋燭が刺さっているのだ。本家大元とは姿も少し違うが、大きく違うのは彼がどうしてジャック・オ・ランタンになったのか、その経緯だ。
それを彼は誰かに語ったことはないし、この先語ることはないだろう。勿論、共に暮らしている幽霊にも彼の正体を明かすなんてこともしないつもりだ。あの魔女は正体に気づいているが言わない。話したいときに話してくれればいいという気でいるのだろう。彼女はそういう魔女だった。
「ジャック、頭がそろそろじゃない?」
「そうですね。新しい頭が必要ですね」
幽霊のトムの言葉に彼は頭のカボチャをさすった。
そろそろハロウィンだ。カボチャを新調する時期だ。本来はカブらしいが、自分が人間だったときからジャック・オ・ランタンはカボチャ頭の男であった。毎年カボチャでいるのも少々面白味がない。今年は思いきってカブ頭にしてみようか。周りの反応が見てみたい。彼は少々お茶目なところがあった。
「トム、知ってましたか? 元々はジャック・オ・ランタンはカボチャではなくカブだったんですよ」
「え、そうなの!?」
「ええ。本家アイルランドではカブだったんです。アイルランド人達が移民としてアメリカに渡ったときカブは現地では馴染みのない野菜でしたのでカボチャが代用されるようになったんですよ」
「流石だねジャック。ジャックはなんでも知ってるんだね!」
嬉しそうにふよふよと浮くトムはジャックに向かって笑いかける。ジャックもトムがかわいいので笑いかけて返してやる。
ふと、トムが何かに気づいたように止まった。
「もしかして、ジャックは本当はカブ頭にしないといけないの? カボチャのジャックはもう二度と見られないの?」
顔を暗くしたトムの手をそっと引き、彼は自分の懐へ抱き寄せた。
「そんなことありませんよ。既に私のイメージはアメリカに渡ったときのカボチャジャックで定着していますから。絶対にカブにしないといけないわけではないんです。心配ご無用ですよ」
「ほんと? 絶対にカブにしなくてもいい? カボチャジャックでいられる?」
「ええ、勿論。ですからどうか泣かないでください。ちょっと今回はカブ頭にしたら周りはどんな顔をするのか気になっただけですから」
トムの鼻をティッシュでかんでやるジャック。その様は親子のようでもあった。泣き止んだトムはよかった、と笑顔になった。またふよふよと浮き上がり喜びを表現する。
「カブ頭のジャックって想像できないけど、たまにはいいかもしれないね! 今年のハロウィンはカブ頭にしてみるの?」
ワクワクしているのがわかった。トムのこういう無邪気なところは見ていて癒される。
「ええ。ハロウィンだけそうしてみようかな、と。好評だったらもう少しやってみてもいいと思います。ルカ達がいい反応を見せてくれるといいのですが」
「きっと大丈夫だよ。ふふっ、ルカ達の反応が楽しみだね」
「ええ。今から楽しみですね。なら、カブを用意しないと」
「グレンが育ててた筈だよ。なんかね、薬に使うとかでカブも育ててるんだって」
「じゃあ早速行ってみましょうか」
二人はグレンの家に向かった。
それを見ているものがいたが彼らは忘れていた。
「僕、居たノラよ……」
一緒に暮らしている人造の怪人が呟く。充電中のフランは最初から二人の様子を見ていたが完全に二人の世界だったので立ち入れなかった。まぁ、充電中のため動くことができなかったのもあるが。
そして彼も今の話を聞いて、ジャックのカブ頭を楽しみにしていた。
快くグレンからカブを分けてもらったジャックは家に戻り早速顔をどうするか考えた。
『顔のデザインも流行があるんだよね。最近は人間界のキャラクターがモデルなんてのもあるし、多種多様になったよね。でもいいの? いつものカボチャと勝手が違うと思うけど』
魔界の流行に乗る彼はこんなことを言っていた。
カボチャのように上手く顔が作れないかもしれない。恐ろしい顔になってしまうかもしれない。
なるべく自分の今の顔に近いデザインを心がけ作ろうとジャックは思った。
トムはジャックのデザインが楽しみなので完成まで見ないようにと決めた。ハロウィンは来週だ。それまでウキウキ過ごしたい。
「へー、ジャックがそんなことを」
「うん。今じゃ魔界も、ほぼカボチャになったからね。たまには伝統的なものもあっていいと思うよ。新しいものは古きものから生まれるからね」
グレンの元へカボチャを貰いに来たルカ達はジャックの話に飛び付いた。オレンジに染まっている魔界で、白いカブはきっと目立つだろう。伝統的なカブ頭は魔界の話の種になる。
「ハロウィンって……カブ、だった?」
ルカの服の袖を引っ張ってマミは問う。
「ハロウィン、というより仮装行列とか象徴としてよく例に挙がるジャック・オ・ランタンだね。ハロウィンは元々ケルト、イギリスとかヨーロッパの一部のことね。そのケルトの収穫祭で、ハロウィンがアメリカ大陸に渡ったときにカブからカボチャに変わったの。アメリカ大陸だと馴染みの無い野菜だったから」
「じゃあ、カボチャは、カブの、代わり、なの?」
「そう。代わりだったの。今はカボチャで定着してるけどね。ハロウィンは人間界の魔除けの行事で、10月31日は夏の終わりで冬の始まり。その時に人間界で言うところのあの世とこの世の境目の扉が開いて、死者が家族を訪ねてくるの。ハロウィンの目的は、先祖の霊の供養と悪霊を追い出すこと。人間達が仮装するのは私達魔界の民に魂を連れていかれないためで、私は貴方達の仲間です、っていうアピールをすることで自分達の身を守るの。魔界の民の中には人間は食料だったり、嫌悪している者だったり、いろんな仲間がいるからね」
マミとノアールは目を丸くして話を聞いていた。キラキラと星が輝いて瞳から出てきそうな、そんな目で見られる。この二人は魔界に来てから日が浅い方だ。そういえばちゃんと魔界のハロウィンについて教えたことはなかった。魔界の歴史と行事について教えようとルカは思った。自分が魔界に来たときに見せてもらった行事の本はまだあっただろうか。そしてどこにやっただろうか。
「はい。これが魔界の行事一覧ブック。魔界の行事が子供でも分かりやすく書かれているから。ルカもこれで魔界のことを勉強したんだよ」
そう言いながら彼がマミとノアールに渡したのはルカがたった今その所在を気にしていた本だった。グレンは大事にとっておいていたようだ。というよりもそれをずっととっておいてくれた彼の優しい母親のお陰であるが。
お茶のおかわりを持ってきた母親はグレンとルカに親指をたてて合図を送っていた。それに気づいて二人も合図を送り返す。
マミとノアールの二人の目にはキラキラとした光が見えたのでグレン達はとっておいてよかったと思っている。
「ねぇルカ。私達も今年はカブでやりましょうよ! せっかくなんだから伝統に則りたいじゃない!」
「ノアールに、賛成」
「はいはい。じゃあカブもくれるかな?」
「いいよ。どれくらいいる?」
今年はカブの売れ行きが良さそうだとグレンは思った。
また明日、続きを載せます。
明日はハロウィンなので、ハロウィンの情報盛り盛りで。ハロウィンの情報は各自しっかり調べて、楽しく、そしてコロナの感染に気をつけてお過ごしください。
それでは、また明日。