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4章 5

 けたたましい音を立てて響子は階段を下った。

 二階の実験室のドアを蹴破るように開け、中に躍り込んだ。

「DD! 起きてぇ!」

 実験室に大声が響く。くたびれたソファに寝転がっていたDDがビクッと跳ね起きた。

「あっ……しまった。あのまま寝てた」

 呟く少女へ、響子は急き立てるように叫んだ。

「緋一君がいなくなったんだよぉ!」

「……えっ!?」

 一瞬の間の後、DDは勢いよく振り向いた。

「緋一さんが? ホントですか」

 頷く響子。腕組みすると、そわそわと窓の外を見た。

「今、白羽が外を見てきてくれてる。……DD、何か知らない?」

「昨日の深夜に見かけたきりですよ」

 片手間のように尋ねていた響子は「えっ」とDDを振り向いた。

「実験器具の騒音が部屋に伝わってたみたいなんですよ。緋一さんの部屋は真上じゃないですか。何事かって様子を見に来たんです」

 DDは天井を指差しながら説明した。響子は納得した顔で頷いた。

「他に何か言ってた?」

「いつも通りでしたよ。あ……でも」

「何? またケンカしたのぉ」

 なじる目でDDを窺う。

「違いますよ! それにケンカなんてした覚えもありませんっ。私は私の意見を述べたまでですからね!」

「はいはい。で、何を話したのさ」

 DDは唇を曲げると、視線を流してぶっきらぼうに言った。

「私がこの組織にいる理由を話しました。緋一さん、どうも勘違いしてたようなので。それから……緋一さんの〝やり方〟の理由も聞きました」

 響子はピクリと反応した。

「なんでも、己の中の罪悪感に誓ったらしいです」

 理解しきれない、と言いたげにDDは眉をひそめた。

「罪悪感……ねぇ」

「響子さんは何か知ってるんですか?」

 目を上げるDD。響子は一瞬考えるそぶりを見せたが、首を横に振った。

「それより今は緋一君の行方だよ。ここに来たのは何時頃なの?」

「えっと……三回目のインキュベートの時間だから……一時すぎですね」

 響子は顎に手を当てた。

「夜中も夜中だねぇ……。でも、その様子じゃ逃げちゃったって感じじゃなさそうだし」

「そうですよ。緋一さん、本条邸へのアタックには加勢する気だったみたいですし」

「え、そうなの?」

 響子は眉をひそめた。

「緋一君め。最初はぶつくさ文句言ってたくせに、いつの間に心変わりしたのぉ? この間も白羽と何か話してたし、今度はDDか。緋一君の浮気性はいい加減にしてほしいなぁ」

 なにやら不愉快そうに呟く響子。憤りの方向性がどうにもズレている事は、十二歳のDDにもよく分かった。

 DDは眼鏡を押し上げると、

「結局彼は、自分のポリシーを曲げられる事が一番気に食わないみたいですよ。本条邸への突入も、響子さんが囮になる条件なら受け入れたじゃないですか」

「でもさぁ、僕が切り出す時はイヤそーな顔するんだよぉ」

「それは響子さんの接し方の問題だと思いますよ……」

 呆れ交じりに指摘する。響子は開き直ったように腕を組んだ。

「僕の態度はぜーんぶ愛の証だって事、緋一君は分かってないんだから」

 明らかに歪んだ主張だ。DDはため息を返した。

 その時、開けっ放しのドアから白羽が飛び込んで来た。背には翼を開いたままだ。

 少女の足が床を蹴りながら着地する。

「お帰り白羽ぁ!」

 響子が駆け寄る。しかし白羽の顔を見れば、芳しくない報告は明らかだった。

「繁華エリアまで見て来たけど、宇佐見君らしい人はいなかったよ……。やっぱり宇佐見君、もうこの近くにはいないみたい」

 沈んだ声で視線を下げる白羽。響子は「むぅ」と眉を寄せた。

「じゃあ、緋一さんはどこに行ったんですかね」

「あっ、あの、私の勘違いかもしれないんだけど」

 白羽が一歩踏み出す。

「ちょっと先の地面に血が飛び散った後があったの。も、もしかしたら宇佐見君の血じゃないかって思って……」

「血が?」

「うん。飛沫が丸く飛び散ってる所があって……まるで大きな花の輪郭みたいに」

 響子の顔が変わった。

「戻り切れなかった血……」

 目の奥に同じ光景が浮かんでくる。

 彼の血液は〝例え本体が真っ二つに炸裂しようが〟大半が〝体内〟に舞い戻る。しかし重力に打ち勝てなかった僅かな飛沫は残留し、血だまりの輪郭を描き出す。

 響子は喉の奥で呻いた。

「緋一君だ……。その場所で誰かに襲われたんだよ」

 白羽とDDが息を呑んだ。

「誰かって……ブランダーですか?」

「ブランダーならもっと騒ぎになってるよ。奴らは目茶苦茶に暴れるから」

「うん。血が残ってた場所もブランダーが暴れたような感じじゃ無かったよ」

 響子は眉を険しく寄せた。

「緋一君はネクスタブルに襲われて、どこかに連れて行かれたんだ」

 その時、突然DDが「あっ」と叫んだ。ビクッと飛び上がる響子と白羽。

「な、何、DD!」

「緋一さんの居場所、たぶん分かりますよ!」

 はぁ!? と吃驚する二人を置いて、DDは窓際のコンピュータへと走り出した。

 慌てて響子たちは白衣の背に続いた。

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