2章 14
「あんたが……ハカセか」
地面に横たわったまま、緋一がこちらを仰いでいた。
彼が虚ろな目で見ているのは、御影だった。
うつつに戻り切れていない瞳を、御影はまっすぐに見つめ返した。
「あんた……あのクーデターの現場にいた」
御影は緩く微笑んだ。
「叫んだのはあんただった……。思い出した。一年前……あの現場で……大声で叫んだのはあんただったんだ」
緋一は地面に手を突いた。身を起こそうとするが、頭を完全に潰された後遺症でうまく力が入らなかった。
半ば無理やり上半身を起こすと、崩れかける足を制して立ち上がった。
「……っ、『オオカミを止めてくれ』って――――」
下を向いたまま視線だけを擡げた。
あの時、パニック状態の人ごみに揉まれ、それでも必死に助けを乞うていた青年。白衣と濃い色眼鏡に身を包んでいた青年。
視線の先の青年は微笑んだままだった。
突然、胸にズキリと激痛が走った。
「うあ!?」
叫びを上げた緋一に、白羽とDDがビクリと身をすくませた。
緋一は胸を押さえたまま、どさりと地面に崩れた。
「うっ……あ……」
「組織が再構築した際に異物を取り込んでしまったみたいだね」
激痛に霞む意識に足音が聞こえて来る。動揺など微塵も無い、平静な革靴の足音だった。
「DD、帰ったらすぐに手術だ」
「あっ、了解しました!」
幼い少女が即答する。あいつがやるのか、と不安がよぎったが、この痛みの前では何も拒めなかった。
「緋一くーん。大丈夫?」
隣にしゃがみ込んだ響子が間近に覗き込んで来た。
「おま……お前……今度こそ説明……」
ふふ、と響子は笑んだ。
「勝手に死んじゃダメだよぉ」
銃口の深淵のような瞳が瞬いた、直後。緋一の意識はプツリと途切れた。




