プロローグ 2
冷たい北風が吹き抜ける。
夜半も間近に迫った空気はとうに温度を手放し、暗色の空と同じ気配を纏っていた。
廃墟の残骸を縫って進む風が時折高い鳴き声を上げる。その響きの真ん中、瓦礫を叩く足音が聞こえた。
「お見事だねぇ」
ひょうきんな口調は十代の少女のものだ。
緩くウェーブしたセミロングの髪が風にふわふわと揺れている。プリーツのスカートから出る足が、軽やかに瓦礫の上を進んで行く。
「ほんの短時間でブランダー二体。周りの建物もぶっ壊しちゃって、派手にやったもんだねぇ」
ぐるりと周囲を見回す。
「この感じだと、建物壊したのはブランダーの方か。となると、狩人さんは相当すばしっこいヒトみたいだねぇ」
ざしっ、と地面に降り立つ。
顔を上げた少女の前には巨大な影がそびえていた。
くっ、と少女は両目を細めた。
「……目玉狩り、ねぇ」
と、そこへ
「響子さん! なんであなたがここにいるんですか!」
甲高い声が響く。少女は肩越しにそちらを振り向いた。
「彼の監視はどうしたんです。せっかく生物学的にも本人だと判明したのに、逃げられたら元も子もありませんよ!」
積み上がった瓦礫の上に、大小二つの白い輪郭が揺らめいていた。
「まあまあ。ゲストルームにいるなら心配しなくても大丈夫さ。いくら宇佐見君でも、身一つで鉄格子は破れないよ」
白衣を纏った青年が、同じく白衣を纏った幼い少女をなだめる。少女は不満そうな顔をしたが、反論せずに口をつぐんだ。
「巷で話題の〝狩人〟の仕業だね」
青年は地上の少女、そしてその先に横たわる無機質な影を見ながら言った。
「目玉狩りなんていい趣味してるね」
青年が小さく笑う。
「狩人自身は確実にネクスタブルだ。自分は既に世代亢進を成功で終えている。それなのにブランダーの眼球――亢進抑制能を有する部分を集め続けている」
「集め方も特徴的ですね。スパンは二週間。決まって二体のブランダーを狩って、眼球を綺麗にえぐり出してます」
白衣の少女が腕を組む。
「この法則の意味に気付く人間がいるのか、それがどれくらいか、見当すらつきませんね。おまけに……」
「手を出しちゃったからね」
青年が濃い色の眼鏡を押し上げる。
「狩人はブランダーだけでは足りず、同類にまで狩りの手を伸ばした」
ちらりと彼の目が、地上に佇む少女を窺う。
「彼も狂ったってことかな?」
冗談めかした言い方だったが、彼の瞳は笑っていなかった。
少女は緩く目を細めた。
「そうまでして守りたい誰かでもいるんじゃないの?」
夜闇の間合いの中を、透き通った風が通り抜けて行った。




