1章 9
「……やっぱり納得できねぇ。どういう目的だ」
「何が?」
響子は臆した様子も無く、軽く眉を上げて問い返して来た。
緋一は顔をしかめた。
「一年前のオオカミが……今度は何で俺に守られてんだよ!」
銃口がかき分けた彼女の前髪の向こう。そこには昔、緋一自身がつけた銃弾の跡がくっきりと残っていた。
風の軌跡のような銃創の前で、突きつけた銃口は微かに震えていた。
「……また敵同士の方がよかった?」
少女の呟きにはっとする。
響子はすっと身を引くと、銃の先から逃れた所で肩をすくめた。
「言ったでしょぉ、状況が変わったって」
やれやれとため息をつき、両手を肩に上げる。
「あれから一年も経ったんだよ。僕がおしとやかな女の子になっててもいいじゃない」
唖然と見つめる緋一、そして白羽の視線の中をすたすたと歩き始める。
「いい? 僕らは今、目玉狩りの狩人っていう異端のネクスタブルを追ってる。その中で今回みたいに危険な目に合う可能性もある」
ざっ、と足を止める。
ブランダーの死骸の前で、響子はくるりと振り返った。
「緋一君はそんな時に僕を守ってくれればいい。それだけだよ。銃なんていくらでもあげるからさぁ」
響子は両腕を広げた。吹き抜ける風の向こうでウェーブのセミロングがなびく。
緋一は細めた目で、笑っている少女の姿を眺めた。
「あ……あの……」
白羽が何か言いたげに口ごもった。緋一は目を向けたが、白羽は結局何も言わないまま下を向いてしまった。
緋一は小さく息をついた。
そして、
「お前があのオオカミなら、護身用の盾なんて必要ないんじゃねぇのか」
顔を上げ、響子に向かって言った。
響子は明るい笑い声を上げた。
「殺戮者も守られたい時代が来たんだよぉ」