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影の勇者の再冒険 ~~Re-Tale of the Brave~~  作者: ヒマジン
第53章 ラエリア内紛・序編

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第980話 上達

 瞬が帰還して、数日。カイト達は一度全員の上達を見る事を決めて、冒険部の半数程度を率いてマクスウェルを出て南東へ一日程歩いた所にある荒野へと来ていた。

 ここら一帯の平均的な魔物のランクはC。上は最大でランクBまで、下はランクDだ。かなり魔物の幅は狭い地帯だった。弱いが竜種もそれなりの頻度で現れる。それ故、今回の目的地に選んだらしい。

 この数ヶ月の訓練で新入り以外は全員ランクCまでは到達出来ている。ソラら一部の上位組はランクBへの道も見え始めた。ここが、最適な訓練地だった。


「えらく見通しが良いな・・・」

「荒野ですからね」


 瞬の言葉に桜が応ずる。と、その一方でカイトが椿に指示を与えていた。


「椿。お前は竜を結界の中に留まらせておいてくれ」

「かしこまりました」

「良し。魔物が出ても特に気にする必要はないからな」


 カイトは御者とご飯を作る為に一緒に来てくれた椿とその前に居る地竜、そしてそれが引いてきた荷馬車がすっぽり入る様な結界を展開する。そうして更にカイトはティナへと視線を送る。


「頼んだ」

「うむ」


 今回のティナはいつも通り、全体の監督だ。基本彼女に任せておけば問題はない。それに、今回は彼女以外にも来てもらっていた。


「先生。今回はありがとうございます」

「構わん構わん。たまさか直弟子を取った。稽古とあらば師も来よう」

「ありがとうございます」


 今回は全体的な上達の確認だ。故に剣道部の指南役として、武蔵も同行していた。勿論、彼も率先して戦うわけではない。捌ききれない場合の敵に備えて、というわけだ。


「・・・で? お主がやるか?」

「いえ・・・せっかくですので、ご一緒に」

「ふむ、よかろう・・・とは言え、開始は知らせねばなるまいよ」

「勿論です」


 カイトは武蔵の言葉に頷くと、野営の準備を整える冒険部の冒険者達に対して声を掛ける事にする。とは言え、そのままでは声は全員には届かない。


「ティナ、頼んだ」

「うむ・・・これで良いぞ」


 カイトの求めを受けたティナは<<映像投影(ムービー)>>という魔術を展開する。空中に巨大なカイトの映像を映し出すだけの魔術だ。使用用途は主に軍事用だ。演説をしたり指揮をしたりするのに使われる。

 まぁ、原理が簡単な光属性の下級魔術――単なる屈折の応用――なので覚えている魔術師は多い。冒険者としてはギルドマスターの補佐する者ぐらいしか使う者が少ないだけだ。


『あ、あー・・・全員注目』


 声を拡声したカイトが声を発する。こちらは風属性の下級魔術で<<拡声器(メガフォン)>>というそのままの名前の魔術だ。こちらも単に声を大きくするだけという簡単な魔術なのでカイトが使えても不思議はない。大声を出せば魔物を刺激するので、人にのみ届く様な魔術が開発されていたのである。ギルドマスターには必須の魔術だった。


『さて、この数ヶ月まずはお疲れ様。各員の奮闘はオレの耳にも届いていた・・・』


 カイトはとりあえず少しの短い演説を行っておく。こういう激励や賞賛はするべき時にはせねばならないのだ。そしてやっておいて損はない。ギルドマスターの器量に関わる。そうして、適度に激励と賞賛を織り交ぜた演説を行い、最後に今回の目的を告げた。


『さて・・・それで今まで数ヶ月に渡って諸君には訓練を積んでもらったわけだが、そうなるとやはり全体的な連携をギルドとして確認しておきたい、というのがオレの正直な意見だ。そして諸君らの正直な意見でもあるだろう・・・ああ、勿論、力を見せびらかしたいとかいうごく少数の見栄っ張りはいるだろうがな』


 カイトは敢えて肩を竦める。今回、実は強制参加にはしていない。告知そのものは一ヶ月程前からしていたが、参加そのものは自由意志に任せていた。流石に20ヶ月近くも冒険者として活動をしていれば、連携の重要性も理解出来ている。

 なのでここに来たのは自分の上達が他者と比べてどの程度か、そしてその上で上手くやっていけるのか、という事を確認しに来た奴だけだ。上層部は全員参加だが、それも自由意志に任せてはいた。


『まぁ、そいつらは置いておこう。痛い目を見るか、それともその見栄に見合った実力を手に入れられたかは、行動で判断させてもらおう。とりあえず、今回の任務は訓練だ。これから二日に渡ってここで野営を行いつつ、戦闘を行う事にする。ここら一帯は弱いながらも竜種の出現も比較的頻繁だ。マクスウェル近郊の草原と勘違いするなよ』


 最後に、カイトは注意事項を述べておく。ここらはここによく入る者達ならわかりきった事だが、やはり皆が皆ここに立ち入っているわけではない。初見も少なくない。注意は、しておくべきだろう。


「こんなもんですかね」

「うむ、よかろう」


 武蔵は頷いて、ちんっ、と刀を鳴らす。少々近場に魔物が居たらしい。気付いたのはカイト、ティナ率いる超級面子ぐらいだろう。


「お見事、ですか」

「かかか。この程度で弟子から褒められてものう」

「あっははは。違いないですね」

「うむ・・・さて、ちょちょいと料理の下拵えでもしてしまうとするかのう」

「お手伝いします」


 カイトは武蔵が腕を回して己の調理道具を整え始めたのを受けて、水道等の一式を整える事にする。そうして、一時間程もすれば即席の野営地が出来上がった。規模としては半径100メートル程。夜間は大規模な結界で何とかするつもりなので、昼間は重要な場所への簡易な結界だけだ。


「良し・・・これで大丈夫かな」


 カイトは何個目かになるテントの設営を終えると首と腰を鳴らす。しゃがんだ姿勢だったので、少し凝ったらしい。


「よーし、じゃあ早速戦闘訓練に入りますかね」


 カイトは魔術を使って、空高くを飛翔する小鳥の視界を乗っ取った。小動物達のコントロールを奪う<<操作(コントロール)>>と呼ばれる魔術だ。こちらはそこそこの難易度を誇るが、カイトはかつての旅で必要にかられて覚えていた。と、そうして周囲の偵察を開始したカイトに対して、武蔵が声を掛けた。


「どうじゃ、周囲の様子は」

「んー・・・魔物は結構多いですね。ここ、マクスウェル―マクシミリアン間のルートとは外れてますから・・・」


 カイトは小鳥の視界を通して周囲を見回して、見たままを答える。ここは荒野でマクシミリアンへ至る為の街道に近いが、そこから少し離れたエリアだ。冒険者達も腕試し程度でなければ立ち入る事は少ない。というわけで、魔物の討伐はあまりされていないし見た限りでは他の冒険者達は居ない様子だ。そんな答えを聞いて、武蔵が顎に手を当てた。


「さて・・・となると、下手に呼び出しては魔呼びの連中が来ても面倒じゃのう・・・」


 武蔵は笑いながら、どうするかを考える。魔呼び、というのは他の魔物を呼ぶ魔物の事だ。彼独自の言い方――正確には彼と彼の弟子達――だ。


「竜種の群れはおらんか?」

「丁度良いのは、いまいちですね。西側に個別にランクBは数体見受けられますが・・・」

「ふむ・・・それ、キャッチじゃな」

「ですね。これは丁度良いのでやっちゃいましょう」


 カイトと武蔵はとりあえず、竜種を数体呼び寄せる事にする。が、流石にいきなりはやらない。まずは、きちんと感覚を養ってエンジンを掛けてからだ。


「んー・・・やっぱり近場に丁度良い魔物の群れは無いですね。結構混成の群れが多いです」

「そうか・・・仕方があるまい。儂が冒険部の逆っかわから来る奴らは討伐しよう。横の片方、お主がせいよ。もう片方はお主お抱えの小娘らに任せよ」

「それがベストですか・・・わかりました。ホタル! 聞いていたな! 南側はお前に任せる! 一葉! お前達は竜種の足止めをやってくれ! 疲労、蓄積させんなよ!」

「了解」

ご命令のままに(イエス・マイ・ロード)


 武蔵の指示を受けたカイトの指示を受けてホタルが南側へ、一葉達三人娘が西側の更に遠くへと飛翔する。西側は冒険部に任せて北部はカイトが担当、南部はホタルだ。で、全体の補佐をティナ率いる魔術師達が、という形にするつもりだった。後は適時臨機応変に、である。


「良し・・・全員、聞こえるな?」


 カイトは対処を決めると、<<拡声器(メガフォン)>>を使って冒険部の冒険者達に声を飛ばす。そうして、先程決めた作戦を全員に通達する。今回はあくまでも訓練だ。なので陣形はきちんと整えてから、戦いに臨ませるつもりだった。そうして、西側に瞬と桜率いる冒険部ギルドメンバーが陣営を整えた。


「前衛は先輩と翔率いる切り込み隊とソラ率いる防御部隊、中衛に桜率いる主力部隊、遊撃部隊は魅衣とカナン率いる軽歩兵部隊、上空に瑞樹率いる竜騎士隊、後衛に由利、ティナ率いる遠距離砲撃部隊・・・まぁ、何とかなる布陣ですかね」

『兼続は・・・うむ、遊撃部隊か。足回りの良さは剣道部の持ち味よな』

「空手部なんかの連中と一緒に、ですからね。足回りは良いですし、空手部が防衛への支援、剣道部は火力支援と丁度良い住み分けも出来ています」


 武蔵が己の弟子達を確認したのに続いて、カイトが更に補足を入れる。これなら、潰走でもしなければ満足に各々が各々の役割をこなせるだろう。


「じゃあ、やりますか」

『うむ』


 カイトと武蔵は頷き合うと、かっ、と目を見開いて闘気を放出する。魔物の群れを呼び寄せるつもりだった。そうして、そんな二人の闘気に当てられて西側の魔物の群れが動き出す。


「来るぞ」


 カイトは魔物が動き出したのを再び間借りした小鳥の視界で確認する。そうして、それに合わせて西側の瞬とソラが各々の武器を構えた。


「良し・・・ソラ、こちらが切り込む。お前は後ろへ通すな」

「うっす・・・てか、なんか揺れてません?」

「だな・・・この揺れは・・・っ! 下だ! 全員、一気に回避行動に入れ!」


 どこか馴染みのある振動を感じて、瞬が声を上げる。そうして、それと同時に一斉に全員がその場から飛び退いた。


「おっと・・・そのぐらいの慣れはあるな」


 カイトが笑うと同時に、地中から3匹の巨大な芋虫型の魔物が姿を現す。全長は30メートル程。ランクはB。初手で陣形を崩された格好だ。とは言え、この魔物――と言っても別種だが――は瞬はウルカで単独で討伐していた。なので対処法は学んでいた。


「ソラ、盾持ちは下がらせろ! 軽歩兵部隊は援護に入れ! 足を止めるな! デカブツは往々にして動きが遅い! 足を止めさえしなければ恐れる必要はない!」


 瞬は一気に指示を飛ばす。ここら、ウルカでの修行の成果が出ていたようだ。どの部隊は危険で、どの部隊なら安全なのか、というのを理解出来ていた。


「良し良し・・・デカブツの一番危険なのはその巨体から繰り出される一撃だ。たった2メートル程度の人で防ぎきれる威力じゃあない。回避が基本。盾を持った重歩兵は戦わないのが、正解だな」


 カイトは瞬の判断に合格点を送る。そして、その次にソラの行動を見る。


「うっし! 盾持ちは側面から来る狼を潰すぞ! 敵は軽い! 確実に防御してカウンターで行け!」


 ソラは狼型の魔物に対して、かつてブランシェット領で試したパリィからのカウンターを決める。速度があろうと、直撃の瞬間にはかならず密着するのだ。その瞬間なら、確実に攻撃を叩き込める。


「こちらも良し、か・・・っと」


 カイトの言葉を遮る様に、狼型の魔物の遠吠えが響き渡る。どうやら、増援を呼んだらしい。それに呼応するように、東西南北から魔物の雄叫びが響き渡った。と、それを受けてティナが連絡をくれた。


『カイト、北部からも来るぞ』

「わかった」


 カイトはこちらからも来るか、と頭を掻く。が、まだやる気は無かった。


「日向、伊勢・・・少し遊んで来い。最近お前ら食っちゃ寝生活だろ」

『はい』

『はーい』


 カイトの言葉を受けて、伊勢と日向――散歩に連れてきた――が消える。せっかく散歩に来たのだ。少しは遊ばせないとデブ犬だのと太る原因である。


「あ、日向も伊勢も食べちゃ駄目だぞー」

『食べません』

『美味しくない』


 カイトの言葉に伊勢と日向が不満げに噛み砕いていた魔物を吐き捨てる。最近意思を得たというか女の子化出来る様になったからか普通の食事も与えられており、グルメ化が著しいらしい。

 それでも魔物の性質は失われていないので、魔物を噛み砕くのには抵抗は無いそうだ。そもそもルゥらも噛み砕くので、同じ感覚なのだろう。なお、獣化等によって味覚も変わるらしい。が、やはり食用ではないので美味しくないらしく、あまりやりたがらなくはなっていた。


「ゲテモノは美味いという噂なんだがね」

『魔物料理はゲテモノ?』

「んー・・・魔物肉とかゲテモノ・・・じゃあないか。竜肉とか最近食えないなー、とかなんとか思ってるけどな」

『共食い反対』


 日向がカイトの言葉にぷいっ、とそっぽを向く。彼女は竜。竜肉は共食いであった。まぁ、野生の竜同士で戦い肉を食う事はあるのでそもそも共食いをやっているのだが、そこはそれという所だろう。


『あ、でも別の意味で食べる?』

「おい。オレの頭と下半身を合致させて考えんじゃねぇよ。つーか、お前ら限定になってんじゃねぇか」

『ミツキも居る』


 カイトと日向、伊勢は話しながら、魔物の討伐を進めていく。そうして、冒険部の数ヶ月の総仕上げとなる実地訓練が本格的に始まったのだった。

 お読み頂きありがとうございました。

 次回予告:第981話『戦闘開始』

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