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影の勇者の再冒険 ~~Re-Tale of the Brave~~  作者: ヒマジン
第53章 ラエリア内紛・序編

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第979話 二人の成長・2

 飛空艇の中ではあまり修行が出来なかった、という瞬に頼まれてお互いがどこまで実力を付けたのかを確認する事を含めて、ソラは彼と模擬戦を行う事になっていた。と、そんな彼らはお互いの成長を実感しあった所で、再び戦闘を再開する事にした。


「行くぞ」

「うっす」


 お互いに準備を整えたのを見て、瞬が消える。使うのは<<雷炎武・参式(らいえんぶ・さんしき)>>。彼が考えた通り、一気に押し切るつもりだ。


「<<風の踊り子シルフィード・ダンサー>>!」


 それに対して、ソラは瞬の<<雷炎武(らいえんぶ)>>が切れるまでの間耐え抜く事を選択していた。なので鎧は黄金色と赤いラインが抜けて、白系統のベース色のみだ。

 必要に応じて出力を上げて対応するらしい。その上で、5体の風の分身体を使って耐え抜くつもりだった。再調整で鎧の全力を出さなくても分身を生み出せる様にしてもらったのである。そうして、ソラを中心として五角形に風の分身体が生まれる。


「こっち!」

「っ! そういうつもりか!」


 瞬は<<雷炎武・参式(らいえんぶ・さんしき)>>の勢いで風の分身体を吹き飛ばしたが、その気配を察したソラがそちらを向く。風は彼の魔力で編まれたものだ。完全に独立しているわけではなく、簡易なセンサーとしても機能したのであった。


「ちっ!」


 真正面から打ち合って、ソラの防御を貫くのは厳しいらしい。瞬は即座に間合いから離脱する。


「行ける・・・か?」


 なんとか速度に対応出来たのを見て、ソラが一安心といった表情を浮かべる。実のところ、素で転身が間に合うかは賭けだったらしい。とは言え転身だけだったお陰で、なんとか対応出来たようだ。


「そっち!」


 安堵したソラの背後に、再び瞬が回り込む。やはり速度であれば、瞬の<<雷炎武(らいえんぶ)>>には勝てない様子だった。が、転身だけという限定条件であればこそ、ソラはなんとか反応出来ていた。と、次の瞬間、瞬が槍を突き出した。


「ふっ!」

「っ!」


 きぃん、という金属同士が衝突する音が鳴り響いた。それでソラは僅かに身体を硬直させる。それに対して、瞬が即座に消えて再び背後に回り込んでいた。


「!?」


 それに気付いて、ソラが驚きを露わにする。防御されればどうしても、攻撃側も衝撃で僅かに動きを止める事になるはずだ。それを見越して、ソラは防御をしたわけだ。勿論、そこからのカウンターも出来れば狙うが、狙えない事は承知していた。なので防御一択だ。

 なお、瞬はどうやら<<雷炎武(らいえんぶ)>>を使って攻撃の衝撃を大幅にキャンセルする方法を学んでいたらしい。それを使って、限りなく衝撃を無効化したそうだ。


「はぁ!」

「ちぃ!」


 再び突き出された槍に、ソラは転身の隙さえ無いと悟る。さらに言えば、現状では動き様もない。なのでソラは空いている右手を背後に突き出した。そして、その次の瞬間。彼の右手の前に魔力で編まれた半透明の盾が生まれる。


「<<双子の盾(ツイン・シールド)>>か!」

「知ってるんっすね、やっぱ!」


 瞬の告げた名前にソラは笑ってそれを認める。<<双子の盾(ツイン・シールド)>>。盾を持つ手とは逆の手の前にもう一つ魔力で編まれた盾を生み出す(スキル)だった。

 その分どうしても攻撃は不可能になってしまうが、相手の攻撃速度が速すぎたりする場合でどうしても防御の手が足りない時には使える手だった。


「だが!」

「っ!」


 ソラは一撃を防ぐと同時に、即座に転身して瞬を正面に捉える。瞬の手にはふた振りの槍が握られていた。彼お得意の二槍流である。


「たたたたたたっ!」

「っ!」


 瞬の連撃に、ソラは両手に盾を持って応対する。彼の方も両手に盾となった事で、瞬の連撃に対応出来る速度を手に入れられていた。とは言え、やはり手加減しては不可能らしく、鎧には全力の証である風の膜と金色の縁取りが表れていた。


「ちっ、駄目か」


 ソラが己の速度に対応してきたのを見て、瞬はこのままでは押しきれない事を理解する。そして参式は時間を犠牲にしている事は理解している。ならば、ここらで一気に押し切るしかないだろう。


「なら!」


 とん、と瞬は軽く地面を蹴った。距離を取って仕切り直しを図るつもりなのだろう。が、それをさせるソラではなかった。このまま離されれば、問答無用に超高火力の一撃を叩き込まれる。流石にそうなれば負けは確定だ。


「『リミットブレイク・ワンセカンド』」


 ソラは口決と共に、瞬に肉薄する。その鎧には赤いラインが刻まれていた。そうして、ぎゅん、と急加速して己に食い下がってきたソラに瞬が目を見開いた。


「っ! 赤いライン!?」

「くっ!」


 どうやら、今度はソラの変化は瞬にも理解出来たらしい。まぁ、どう見ても加護は使った様子がない。先程は土煙で隠れていたが、今回はそれもないのだ。仕方がなかっただろう。その一方、ソラはリミットブレイクの反動を強引に押し込んで無視する。


「はぁ!」


 驚きを露わにした瞬に対して、ソラは問答無用に斬撃を叩き込む。流石に反動を強引に押し込んだ関係で(スキル)を使っていられる余裕は無かったらしく、普通の斬撃だ。


「ちぃ!」


 強引なソラの一撃に、瞬は顔を盛大に顰めつつも身を捩る。加速する方法はあるだろうが、とまで予想していた彼だがソラがここまでの速度が出せるとは完全に想定外だったらしい。が、その努力は半分しか、実らなかった。


「ぐぅ!」


 瞬の左腕に鈍い痛みが走る。ギリギリ、直撃は避けられた。が、完全には無理である事を悟った彼は左手を犠牲にする事を選択したのである。

 幸いこれが訓練である為斬撃が打撃に変換された事とソラがかなり強引に斬撃を繰り出した事、防具をウルカで強化した事で腕が切断される事は避けられたが、実戦なら切断までは行かずとも失血死が怖いレベルの手傷だっただろう。一時的な使用不能で済んだのは訓練で良かった、というわけだ。


「っ」


 これは拙い。左腕を潰された瞬は本能でそれを悟る。ソラにこちらの速度に対応されるというのは、非常に拙いのだ。これを何度使えるかは、瞬にはわからない。わからないが、それでも回数制限付きとは言え対応されるというのは有難くない。しかも彼の側は左腕を失った。手数では攻められない。なので瞬は強引に一気に決める事にした。


「おぉおおおおお!」


 呼吸を整えて追撃に移ろうとしたソラに対して、瞬が雄叫びを上げる。<<戦場で吠えし者(ウォー・クライ)>>としての素質がある事を見出された瞬は、ウルカでこの技術も学んでいたのである。そうして、ビリビリと大気が鳴動してソラが身を固くする。そして、次の瞬間。瞬が全身から全力で魔力を放った。


「っ!」


 攻撃の為に身を固くした所に、瞬の全力の魔力放出だ。流石にソラもこれにはたまったものではなかったらしい。ダメージこそ無かったものの、大きく吹き飛ばされる事になった。


「がはっ! ちぃいいいい!」


 ソラは一度地面に激突すると、転がる身体を捩って強引に体勢を立て直して地面に剣を突き立てて勢いを殺していく。そうして、ぎぃいいいい、という音を上げながら彼と地面の間で火花が上がっていく。

 それに対して、左腕を使用不能に追い込まれた瞬は地面を蹴って加速して、ある程度加速出来たのを見て一気に跳び上がった。


「っ!」

「行けっ!」


 瞬は無数の槍を創造すると、槍を振り下ろす動作に合わせてソラへと投ずる。それを、ソラは停止した所で見た。


「ちっ! この程度ならなんとかなる!」


 ソラは投ぜられた無数の槍に対して、片手剣は地面に突き刺したまま盾を両手で構える。そうして、更に力を込めた。


「っ!」


 が、その次の瞬間、ソラは瞬の手に槍が握られている事を見る。実は瞬は己の手の槍は投げておらず、周囲に創造した槍だけを牽制に投げつけたのであった。

 そうして、ワンテンポ遅れて瞬は槍を投げる為の持ち方に持ち替えると、身体をえび反りに大きく仰け反って雄叫びを上げてソラへ向けて投じた。


「おぉおおおおお!」

「これは避けらんないか! 『リミットブレイク・スリーセカンド』!」


 無数の槍を牽制にした上に、間を置かず本命の槍だ。しかも、ソラの片手剣は先程の影響で地面に突き刺さったままだ。瞬を相手に少しでも勝ちを得られたいのであれば、武器のロストは流石に許容出来ない。

 なのでソラもこれは避けられない事を理解した様で、リミットブレイクの上に風の加護を併用して全力の防御で迎え撃つ事を選択する。


「おぉおおおお!」


 瞬の槍を受ける直前、ソラも雄叫びを上げる。そうして、ソラの盾と瞬の槍の衝突で轟音が響く。しばらくの均衡の後、ソラがずずず、と後ろの動いていく。


「ぐぅうううう! おぉおおおおお! ちぃ! 『リミットブレイク・オーバーブースト・ワンセカンド』!」


 再度ソラが雄叫びを上げて、更に魔力を込めて腕に力を込める。そしてそのまま、大きく槍を上に吹き飛ばした。なお、オーバードブーストとは限界を更に超える場合の非常用のシグナルだ。正真正銘の限界突破だった。


「はぁ・・・はぁ・・・」


 流石にソラもこれには疲れたらしい。立ってはいるものの足は笑っており、荒々しく肩で息をしていた。更に左手の盾はほぼほぼ半壊と言って良い状態で、瞬程ではないが左腕もダメージを負っている様子だった。とは言え、他にも吹き飛ばされた反動で身体全体にダメージは負っている。痛み分けが正解だろう。

 そして、満身創痍なのは彼だけではなく瞬もそうだった。どうやらかなり無茶をしたらしく彼も着地と同時に左手を押さえ、かなりつらそうに立っていた。こちらも膝は笑っている。槍を投げた際に全力を出した所為で魔力を大きく消費して、左腕にも負荷が掛かったようだ。


「くっ・・・」

「ははっ・・・」


 ボロボロの二人だが、共に顔には笑みが浮かんでいた。どうやら瞬に対して一歩置いて行かれた感のあったソラだが、なんとか追い縋れるぐらいの実力は手に入れられている様子だった。


「両者、そこまで!」


 と、そんな狭間にカイトの声が響いた。単なる模擬戦なら、これで十分だろう。そして、その声を合図に二人は膝を屈した。


「はぁー・・・」

「ふぅ・・・」


 カイトの声と同時に結界が切れて、左腕の鈍痛が消える。とは言え、瞬の方は鈍痛が長かった所為か少しだけ幻痛にも似た感覚を得ているようだ。が、後遺症が残るわけではないので問題はない。


「いや、やっぱ先輩強いっす」

「ははは・・・ソラも大分と腕を上げた様子だな」


 二人は座ったまま会話する。お互いにお互いの力量のパワーアップを確認出来たようだ。


「うん、まぁ、こんなもので良いだろうさ。十分に強くなってた」

「そうか・・・留学が無駄にならなくて済んで良かった」


 瞬はカイトの賞賛に満足気に寝転がる。どうやら、少し疲れたらしい。まぁ、あれだけ全力で戦っていたのだ。仕方がなくはあっただろう。


「にしても、かなり涼しくなったな、こっちは」

「夏は過ぎたからな・・・まだ暑い日も続くが・・・大分と過ごしやすい季節にはなってきた」


 瞬は肌に当たる風が出て行った頃よりも僅かに爽やかだった事を見て、季節の移り変わりを実感する。ウルカは砂漠に近かった事でそれなりに熱い風が流れ込んでくる事も多く、冬でもそこそこ暖かい気温が続く。夏なので当然暑かったのだが、秋に入ってからもさほどそれは変わらない。なので、こちらに来て秋になったのだな、と思ったのだろう。


「ふぅ・・・そう言えば、カイト。お前も何か訓練をしていたんだろう?」

「あ、そういやそうだよな・・・お前、結局ずっと何やってたんだ?」

「ああ、それか・・・実はちょいと過去世に手を伸ばしててな。まだまだ未完成なんだが・・・とりあえず、という所かな」


 瞬とソラの問いかけを受けたカイトは、ここで己がやっていた事を告白する。別に隠すわけではなかったのだが、全員が自分の訓練に精を出していた結果、誰も聞いてこなかったのだ。と、そんな話を聞いたからか、ソラが興味を抱いたらしい。


「過去世・・・そういや、お前の過去世ってどんなのなんだ? また女誑しか?」

「おい・・・そうだな、直近の過去世は誰でも知ってるよ・・・でもまぁ、今回はそれじゃないな」

「もっと前のなのか?」

「ああ」


 瞬の問いかけにカイトは頷く。


「まぁ、色々とあって使いこなすのはまだまだ難しいんだが・・・それでも、身体への負担は避けられる」

「身体への負担?」

「っと、まぁ、色々とな。無茶な技も結構抱えてるからな」


 カイトは訝しんだ二人の顔に、少ししまったと内心で思いつつもそうはぐらかす。と、その追求が来る前に、カイトにとっては幸いな事に灯里が現れた。


「あ、いたいた。カイト、ちょっとお呼び出しー」

「おぉう・・・あ、ちょっと待って。ズリズリ引きずんな!」

「じゃ、行くよー」

「だから立つっつってんだろ! 良いから首筋から手を離せ!」

「頑張れよー」


 強制連行されていくカイトへとソラが手を振る。灯里の暴走は彼にとっても何時もの事として認識されている。なので疑問も何もなかった。一方、瞬の方は初めて見る灯里の素の姿に呆気にとられていた。


「・・・あ、ああいう人なのか・・・」

「あっははは。学校じゃあ猫かぶってるらしいっすからね・・・っと、俺、一度風呂行きます。汗掻いちまって・・・」

「っと、そうだな。いつまでも専有しているわけにもいかないか。良し、行くか」

「うっす」


 瞬に続いて、ソラが立ち上がる。模擬戦は終わったのだ。ならば、いつまでも修練場の模擬戦エリアを貸し切りにしておくわけにもいかないだろう。そうして、二人もまた、修練場を後にするのだった。

 お読み頂きありがとうございました。

 次回予告:第980話『上達』


 2017年10月28日

・語句変更

『防御全振り』という単語を『防御一択』に変更しました。

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