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影の勇者の再冒険 ~~Re-Tale of the Brave~~  作者: ヒマジン
第52章 それぞれの修行編

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第971話 説明と根回し

 次回予告からタイトル変えました。

 サリアとの会談を終えてから、しばらく。カイト達は相変わらず修行の日々を送っていたわけであるが、そんな中。一人の来客がカイトの所へとやってきていた。と言っても今度は公爵邸にではなく、冒険部のギルドホームにである。


「マスター・・・お客様? です」


 カイトへとシロエが報告する。が、その口調に含まれていた訝しみに、カイトが首を傾げた。


「なんで疑問形なんだ?」

「いえ・・・なーんかよくわかんない人なんです。フードを目深に被った男か女かもわからない方で・・・ただ、マスターなら分かるとだけ・・・」

「・・・あいつか。ああ、わかった。オレの客だな」


 シロエから受け取った人物像から、カイトは前々から来ると言っていたレヴィが来た事を理解する。彼女は己の正体を隠している所為で、大抵の場合は不審者扱いだ。と言うよりあの姿で歩いていて不審者に思われない方が可怪しいだろう。


「今は?」

「桜さんが応対中です」

「わかった」


 カイトは椅子から立ち上がると、執務室を後にして応接室へと移動する。そこで桜が困惑気味にレヴィと会話していた。


「ああ、桜。悪いな、代わる」

「あ、はい」


 どうやらレヴィが傲岸不遜な上にあまり語ろうとしない事で桜も応対に困っていたようだ。カイトが来たのを見て、非常に安心した様子を見せていた。


「あの・・・それでこの方は・・・」

「預言者だ。前に会っただろう?」

「そうですが・・・これじゃあわからないので・・・」


 桜が困惑しながら告げる。何か証となるものでもあれば良いのだが、レヴィは己が何者でもないという事こそを重要視している。故にここでも何も残さなかったのだろう。彼女のやり方であるが、それ故、良く問題になっていた。それでも許されるのは、腕が良いからだろう。


「で? 来る来るとは聞いていたが、わざわざどうした?」


 カイトはレヴィへと問いかける。わざわざ彼女が密かに来るというのだ。何かよほどの用事があったと見るべきだろう。


「一応、サリアに伝言は渡しておいたな?」

「ああ、受け取った。奴らが、ラエリアで動いていたそうだな」

「ああ。詳しい事はまだ語れんが・・・少なくとも、奴らが大大老の存命に動いていた事は事実だ」


 レヴィはハンナの死に彼らが関わっていた事を隠しつつ、カイトへと改めて『死魔将(しましょう)』達が関わっていた事を語る。そうして、彼女が得た違和感等をカイトは説明を受ける。


「なるほどね・・・それで、兵力の大半を損出する事もなく移動していたわけか」


 説明を受けたカイトはレヴィの解説から、シャリク達北部軍の兵員が妙に損耗していなかった理由を理解する。


「ああ。基本的には私が裏から手を回して、賄賂だの揉め事だのを起こして巧妙に移動ルートを空けていた」

「なるほど。そりゃぁ、無理だわ」


 大大老達が本来逃げ切れなかった理由をカイトも理解して、この事件の前にあったレヴィの自信に納得する。彼女も動いていたのだ。中には内通者、外には密かな協力者だ。本来は、逃げ切れる要因は無かったと言って良い。


「だが、どうやって奴らが居る事を悟った?」

「ああ、それか。まず第一に気になったのは、数名が密かに別行動をした事だ。その時点で、何らかの手が入った事を理解した。一人なら、まだ不運にも・・・いや、奴らからすれば幸運にも何か虫の知らせの様に逃げられたとも言い切れる。が、それも二人三人となれば、やはり可怪しくはある」


 レヴィはカイトの求めを受けて、己が得た違和感を語る。シャリク達は最速で動いて、必殺のタイミングで事を起こしたのだ。まずそこが可怪しかった。


「そして次に疑問を得たのが、その人選だ。生き残った大大老と元老院のリストは見たか?」

「いや・・・あいにくこちらには何も回ってきていなくてな。あと少しすれば、皇国の諜報部から送られてくると思っているが・・・」

「そうか。ならば詳細はそちらから把握しておけ。とは言え、お前ならこの人選に作為的な物を感じるはずだ。巧妙に、そこを作為的に選び出している」


 カイトの言葉にとりあえず頷いたレヴィは人員の詳細は語らずとも、何らかの意図が感じられる人選である事を明言する。

 そしてこれは数日後の話になるが、その通りにカイトも作為的な物を感じられる人選だった。一言で言えば、一番汚い連中。シャリクではなくカイトが最も殺そうとしていた相手とも言える。そんな奴らだった。


「わかった。とりあえずそちらは見たら分かるということなら、それで良い。で、他には?」

「ああ・・・となると、と考えた時、奴らはお前が居る事を知っているはずだと考えた」

「当然だな。オレの授与式は新聞でも乗っていた。知らない道理はないだろうな」

「であれば・・・貴様がどう逃げるかを考えてみろ」

「ふむ・・・」


 カイトはレヴィの言葉にあの当時の状況と己の取るだろう行動を考える。まぁ、これはほとんど考えるまでもない。大大老が逃げた云々は彼に関係が無い。その彼があの時取るとすれば、それはあの時取った行動が最適だ。流石の彼も皆殺しなぞやらない。それを考えてみれば、ハンナが死ぬか死なないかの差でしかない。


「なるほど。確かにオレの脱出を見届けない奴らじゃあないな。それを考えれば、どこに居ればそれが見れるかまるわかりか」

「ああ。案の定街の外の見晴らしの良い高台の上に奴は平然と立っていたぞ」

「はぁ・・・もし万が一オレが少しでも視線を外に向けていれば、見付かっただろうにな。運の良い奴らだ」

「だろう」


 カイトの言葉にレヴィは苦笑混じりに同意する。と言っても、彼女は内心で何があったかを理解している。あの時点でカイトがそちらに気を配れない事は道化師にとってみればわかっていたことだ。他ならぬ彼らがそうしていたのだ。当然である。

 が、それは今は言わない。まだ状況が掴めない上にカイトがこちらを預かっているのだ。そこでもし彼が迂闊な行動をすれば、調査が困難になってしまう。事を荒立てて良い時ではないのだ。しかも、他にも理由がある。


「で、それはシャリク陛下達は知っているのか?」

「いや、教えていない。もし万が一あの戦いに奴らが絡んでいる事が露呈すれば、シャリク達の権勢に影響が出かねん」

「それは確かに。今ここで奴らの介入が露呈すれば、最悪はクーデターそのものが奴らの手引だったのでは、とも言われかねんか」

「そういうことだ。物分りが良くて助かる」


 カイトの言葉をレヴィが認め、頷いた。敢えて言う必要はないが、まだクーデターが終わって一ヶ月も経過していないのだ。かつての王都ラエリアにして現帝都ラエリアはまだ色々な事で揉めている。少しでも政情を安定させるのなら、これは今は黙っておくしかなかった。


「なるほどね・・・そりゃ、しゃーないか。わかった。こちらも黙っておこう」

「そうしておけ」

「それで? こちらはどうすれば良い」

「とりあえず、私はラエリアで奴らが何をしようとしているのかを探る。実験と言っていたということは、何かをしているはずだ」


 カイトの問いかけにレヴィが自分の動きを告げる。兎にも角にも探るべきはこの実験だ。この実験が何を示しているかはわからないが、とりあえずこちら側に良い事ではない事だけは確かだ。とは言え、難しい事は事実だろう。


「目処は?」

「南部のどこか、というだけだな。西部を中心とするこちら側には厄介な所だ」

「東部の可能性は?」

「それも勿論ある。現在は廃棄された廃坑等も多い。奴らの隠れ蓑はゴマンと存在しているな」


 カイトの問いかけにレヴィは肩を竦める。彼女もこれが非常に難しい事を知っている。が、それでもやらねばならないのだ。やるしかない。


「とりあえず今は北部の人員と南部の国の人員密かに入らせて南部と東部を探らせているが・・・難しいな。入り込む事から難しい。安易には調査が出来ん」

「内紛か。やはり、道は遮断されるか」

「ああ。限定的にしか探りを入れられん」


 レヴィはため息を吐いた。冒険者、と言ってもやはり住んでいる土地やそれまで居た土地がある以上、行動は制限される。ラエリアが二つに割れている以上、これはどうしようもない。南部を治めている大大老達の統治下の所にはカイト達の目の届かない大きな空白地が生まれていたのである。


「わかった。であれば、こちらも何時でも動ける様にだけはしておこう」

「なら、あまり無茶はするなよ」

「お前もっすか・・・」

「当たり前だ。切り札が無茶をして行動不能では笑い話にならん」


 呆れたカイトにレヴィが逆に呆れ返る。これはカイトの行っている修行に関しての事だった。どうやら、こちらも把握しているのだろう。とは言え、これ以上突っ込んでもカイトは痛い所しかない。というわけで、彼は他の所に話を移させる事にする。


「まぁ、良い。ラエリアのことは理解した。他には何かあるのか?」

「ああ・・・こいつだ」


 レヴィはそう言うと、青い小鳥を机の上に置いた。それをカイトは知っていた。というわけで、カイトは嫌そうな顔をして、その小鳥に声を掛けた。


「お前までかよ・・・」

『言うなよ』


 小鳥から響いてきたのは、バルフレアの声だ。別に青い小鳥だからといってカイトの使い魔であるわけではない。彼は蒼を好むだけで、他の色の使い魔も作れる。そして彼以外も青色を好めば青い小鳥を作る者は居る。

 その一人が、バルフレアだったわけだ。彼の場合は大空の様な青色を好むので、水色に近い青色の使い魔を良く使っていた。他にも実はレヴィも青系統の使い魔を好んで使う。流石に彼女も何ら己の素性が見えぬ様にはしていないらしい。一応の証明は可能なようだ。

 なお、こちらはカイトと同じく深い海の様な蒼を好むので、少し見分けは付きにくい。雄鳥がカイト、雌鳥がレヴィぐらいの差だ。この三人が、ユニオンで青い鳥を使い魔として使う有名な者と言えるだろう。


「で? なんだよ。お前が使い魔飛ばしてきた時は大抵良い話にならん」

『あっははは。悪いな、正解だ・・・根回しの真っ最中でな。お前にも言っておかないと駄目なわけよ。それで今、丁度こっちはレオンハルト陛下と会談を終えた所だ』


 バルフレアは笑ってカイトへと謝罪する。どうやら、厄介な話を持ってきたということなのだろう。大抵の場合は勢いだけで押し通す彼がわざわざ根回しということは、相当重要な議題になるのだろう。


「根回し、ねぇ・・・」

『ああ・・・八大全部のエースを投じての仕事を一つ、しようと思う』

「八大全部?」


 事の大きさを聞いて、カイトが目を見開いた。八大とはユニオンの八大ギルドの事だ。それのエース達を投じて、となると相当な大事だ。であれば、『死魔将(しましょう)』達関連しかありえなかった。


「何をするつもりなんだ? んな化物共を集めて・・・」

『暗黒大陸の調査だ。今度の全体会合でそれを提起しようと思っている』

「暗黒大陸の調査・・・本格的にやるつもりか?」

『いや、ざっとだ。これでもしこれが狙われている動きだった場合、奴らがその間隙を縫う様に行動を起こしかねん。が、場所を考えればエース級でなければ満足には戦えん』


 バルフレアは己の現在の考えをカイトへと告げる。これを語らないと根回しの意味がない。そうして、カイトは少しだけ真剣に考える。


「・・・確かに、暗黒大陸は調査した方が良いか。お前もほとんど行った事はないんだったな?」

『補給路が無いからな。流石に無闇矢鱈に突撃はしねぇよ。最後に行ったのは、飛空艇が発達する前の話だ。それでも、やめておくべきかと思って奥までは行ってねぇ』

「飛空艇で補給線の確保が出来る様になったから、提案したわけか」

『そうだ。以前よりも遥かに補給線は確保出来ている。んで、お前の帰還もある。奴らの調査をするのなら、今がベストなタイミングだ』


 バルフレアは再度、己の考えをカイトへと告げる。そしてこれはカイトも同意する。暗黒大陸は誰も寄り付かない。魔物が強い上に文明は無いとされているのだ。が、それ故に奴らならば隠れられる絶好の隠れ家でもある。調査は、しておくべきだろう。


「わかった。そういうことなら、ウチも引き受けよう。オレは一応ランクA。十分に資格あり、だろう?」

『ああ。それに、日本人に反応する術式があるかも、と偽装も出来る。わり、頼んだ』

「あいよ」


 カイトはバルフレアの依頼に応ずる。これは彼にとっても必要な調査と言える。彼の参加は必須と言えるだろう。とは言え、バルフレアの言う通り、ここに全部を投じるのは駄目だろう。というわけで、彼はそれを告げる。


「とりあえずそれなら、ウチはオレとティナ、クオン率いる天将の半数としておく。アイシャは、残留だな」

『ああ、そうしてくれ。お前の部隊はそのまま置いておく方が良いだろうな』


 バルフレアはカイトの申し出に応ずる。カイトが欠けている以上、彼の帰還まで戦線を保たせられる戦力が必要だ。となるとまず『無冠の部隊(ノー・オーダーズ)』は残留だろう。

 そして向こうの調査を考えれば、クオン達<<熾天の剣(してんのつるぎ)>>は連れていきたい。が、同じ理由で全員は連れて行くべきではない。そこらを考えた結果の結論だった。


「クオンへは?」

『これから預言者に行ってもらう。まぁ、詳しい人選はまた総会の後にでも詰めようや』

「わかった。総会には必ず参加する」


 バルフレアの言葉にカイトは冒険者で行われる総会の参加を明言する。この議題だ。今回は八大ギルドの全部が参加したかなり大規模な物になるだろう。そうして、カイトはバルフレアとの会話を終えて、そちらに向けての準備も並列して行う事にするのだった。

 お読み頂きありがとうございました。

 次回予告:第971話『カイトの修行』

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