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影の勇者の再冒険 ~~Re-Tale of the Brave~~  作者: ヒマジン
第52章 それぞれの修行編

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第969話 科学と魔術の融合

 ティナと灯里が交渉を行っていた頃。その映像は上の公爵邸にあるとある部屋にて、監視用のカメラを通して見られていた。


『その上で、私と交渉が可能なのは何か。答えは、一つだけ。カイトの為の何かを開発する。その場合に限り、私は私の持ち得る全ての力をそこに投ずる・・・そういう流れね』


 画面の中の灯里が声を発する。それを、クズハとアウラが確認していた。灯里がそうである様に、クズハもアウラも出会ったばかりの奴を信頼する事も信用する事もあり得ない。カイトが信じているから、というのは加算対象になってもそれで100点となるわけではないのだ。


「どう考えますか、アウラ」

「ん?」

「灯里さんの事です」

「んー・・・彼女は信頼出来る」


 クズハの問いかけに対して、アウラは断言する。彼女はこの間の会話で、直感的に灯里の人柄を理解していた。彼女の主義は、浅く広くだ。誰からも好かれるが、そのかわり誰からも一歩引いた所に立っている。

 それを、公爵家は見通していた。賢帝ウィスタリアスの弟子にして公爵代行歴200年とちょっと、というのは伊達ではなかった。それに、クズハが顎に手を当てた。


「ふむ・・・調査結果と言いますか、プロファイルでお兄様がお笑いになっていた理由がよくわかりますね。彼女は素直に、恐ろしい女性です」


 クズハがある種の空恐ろしさを滲ませる。彼女の演技は一言で言って、非常によく出来ていた。公爵家が騙される程には、だ。このマクダウェル家をして、彼女の根底にある物を見抜けなかったのである。だからこそ、今更ながらに二人が集まって見ていた。


「ん・・・多分、騙す事に掛けては彼女は天性の才能を持ってる」

「騙す、と言えば言い方が悪いですが・・・」


 クズハはアウラの言葉に微妙に同意する。微妙なのは良い言い方が見当たらなかったからだ。そうして、アウラが口を開いた。


「彼女は一歩引いてるけど、その分手の中にある物については絶対に守るという強い決意がある。そしてそれに、カイトは入ってる。だから、彼女はカイトを裏切らない。彼女にとってどんな金銭も、どんな名誉も家族には勝らない。彼女は、家族を裏切らない」

「・・・貴方と同じ、という事ですか」

「クズハとも同じ」

「・・・」


 アウラの言葉にクズハは無言で同意する。アウラ、カイト、クズハの三人には共通点がある。それは一つだ。そうして、ようやくクズハが口を開く。


「私達は、共に家族を失いました」

「ん・・・」


 アウラは祖父や父母を、クズハは父母に、それに連なる多くの者達を。共に失った。彼女らには、もはや直接血の繋がった家族は誰一人として残っていない。

 それ故に、彼女らは家族に餓えていた。だから、二人はマクダウェル家に入ったのだ。カイトが家族になろう、と言って自分達も望んだからだ。そして、それは彼女らだけではない。アウラの横に居るユハラや元孤児だったメイド、執事達は全員がそうだ。


「道筋は違う」

「ですが、得ている結論は同じ」


 アウラの言葉をクズハが引き継いだ。それが、結論だ。血の繋がりのない家族であればこそ、彼女らは何よりも家族という枠組みを大切にしていた。そしてそれは、カイトから教わったものだ。その源流を、二人は見た気がした。


「口さがない者達には単に家族ごっこがしたいだけなのだろう、と言われましたが・・・」

「それでも私達にとってはここが家で、私達は家族。お父さんもお母さんも居ないけれど・・・」


 アウラとクズハは二人で頷き合う。ここが、マクダウェル家の家族の暮らす家だ。それは何処へ行っても胸を張って断言出来る。

 そうして、クズハが指示を下す。直感ではなく、家族なればこそわかる。彼女は間違いなく自分の家族である、と。話した事がなかろうと、話す必要もない。家族なのだ。


「彼女の扱いは最上位に。当家の人間として扱いなさい」

「かしこまりました」

「彼女も遠からずこっちを信用してくれる。だから問題無い」

「まぁ、そうでしょうねー・・・では、手はず通りにお部屋を整えさせて頂きます」


 クズハの指示にフィーネが、アウラの指示にユハラが頷く。そうして、密かに公爵邸の中に灯里の為の部屋が用意される事になるのだった。




 一方のティナ達が向かった先は、というと魔導機の開発室だった。そもそも魔導機には重力制御装置が搭載されている。それに関連しているだろう事は、事情を知っていれば安易に想像が出来た。


「これ・・・うっわー・・・」


 全長30メートル前後。地球の科学技術では大凡開発がまだ無理とされている領域に手を伸ばしている魔導機を見て、さすがの灯里も頬を引き攣らせる。


「魔導機。余らはそう呼ぶ軍事兵器じゃ」

「ふむ・・・このサイズで自壊しない、と・・・なるほど。わかった」

「さすがじゃな」


 ティナは灯里が見取った事に賞賛を送る。そうして、少し周囲を見回して三人娘と共に居たホタルとアイギスを見つけ出した。


「おお、おったおった。ホタル、アイギス。ちょっとこっち来い」

「イエス」

「了解」


 ティナの指示を受けた二人は三人娘に断りを入れて、灯里の前にやってくる。


「この二人は謂わば人工生命体・・・余が創った、と言うても肉体だけじゃがの」

「かっわいー!」

「・・・」

「ありゃ・・・ご機嫌斜め?」


 ホタルに抱きついた灯里だが、無愛想だった事を受けて少しだけ悲しそうに距離を取った。それに、ティナが笑って説明した。


「うむ・・・まぁ、今抱きついた方の名はホタル。身体はゴーレム・・・いや、どちらかと言えばアンドロイドに近い身体での。魂の方もまだ硬さが残る」

「あー、光里曰くのロボ娘ちゃんかー」


 なるほど、と灯里は納得する。それなら固さも理解出来たらしい。なお、光里とは灯里の大学生の妹――あくまでも転移前だが――の事だ。こちらもカイトと親しくしている。


「まぁ、そんなものと考えよ。中身は普通に人と同じ魂持っとるから、人工知能とは些か違うがのう」

「ふむ・・・使い魔ちゃん達と一緒って所ね。りょーかい」

「・・・」


 なるほど、と再度頷いた灯里に対して、相変わらずホタルは無表情だ。が、その目に浮かんでいた微妙な光には、灯里が気付いていた。そして気付いている事に、ホタルも気付いていた。故の沈黙だ。


「・・・教授(プロフェッサー)。発言の許可を」

「うむ、構わんぞ」

「了解・・・彼女は演者でしょうか?」

「っ・・・」


 灯里の顔が僅かに歪む。ティナもわかってはいるが、今の彼女は素に見せかけた仮面だ。それを、一瞬で見抜いたのである。それを見てアイギスが止めに入った。


「あー、ホタル。あんまり初対面の方にそう言う事言うのは・・・」

「了解。失礼しました」

「・・・ものすっごいね、この二人」

「あ、私は何分三万」

「プラス一万数千」

「歳・・・って、被せた!?」


 ホタルのボソリとした一言に、アイギスが目を見開いた。なお、ホタルは一切ニコリともしていない。が、どうやら冗談や揶揄の類だったらしい。何処か分かっていて素知らぬ顔をしている様子があった。


「・・・」

「あ、急にロボ娘モード入りおったな、こやつ」

「マスター! ホタルが! ホタルが酷いです!」

『なんだよ、いきなり・・・』


 うわーん、と嘆きを見せるアイギスが急遽カイトへの通信を開く。と、そんなカイトは胡乱げにしながらも即座にその横に灯里が居る事に気付いた。


『おろ・・・灯里さん。なんでそこに?』

「マスターのお知り合いですか?」

『ん? ああ、オレのもう一人の姉みたいなもんだ。正直、オレが精神的に勝てない相手の一人だろうさ。まぁ、そういうわけだから、手荒には扱うなよ。扱っても暖簾に腕押しで逃げられるけどな』

「酷い・・・」

「イエス」

「了解です」


 ホタルとアイギスはカイトの家族とあっては、丁重に扱う事を決める。彼女らはある種盲目的にカイトに従順だ。別にカイトがそれを強いているわけではないが、彼女らの魂はある種ノームの眷属の精霊にかなり近い。故に大精霊と友誼を結ぶカイトには従う様に本能的に考えているのだろう。


「あ、カイトカイトー」

『ん?』

「この子達とどういう関係? またこれ?」

『また言うな! また!』


 ニコニコとした笑顔を浮かべる灯里に対して、カイトは怒鳴りつける。なにげに小指だけを立ててフリフリとしていた。そしてその笑顔は何人もの人を見てきた彼女らからすると、やはり少しだけ違って見えた。

 カイトの前で見せる笑顔には遠慮が無いのだ。心の底から笑っている。一歩引いた所がない。わかる者にしかわからない、僅かな差だ。が、それでも確かにそれは存在していた。


『ホタルはオレの懐刀。アイギスはオレの補佐官。どっちもオレには居なくてはならない存在だよ』


 むすっ、っとした様子のカイトが断言する。そうして、改めて断言する。


『まぁ、ホタルは前文明時代の遺産だ。戦闘中に鹵獲。その後システム切り替えで現在オレに<<隷属呪法>>により隷属中・・・危害は加えらんないよ』

「前文明・・・マルス帝国の事?」

『ああ。その秘密研究所地下の隠しエリアに眠っててな。そこで戦闘中に鹵獲した・・・物を素体としてそこに宿っていた付喪神的な何かにアイギスと同じく超古い魔石の一歩手前、魂が形作られる直前の魔石と合成。で、出来上がったのがホタルってわけだ』

「ふむふむ・・・にしても妙に日本人っぽい名前ね」


 灯里はカイトの解説で大凡どういう理論なのかを理解する。そして更に、隷属されているのであれば問題は無いと判断したようだ。


『ああ、名前はオレが付けたからな。コード番号は・・・』

「試作特型ゴーレム07改・改」

『と、いうわけだ』


 カイトの促しを受けたホタルが己の製造番号を答える。型式名としては、これが正式名称だ。ちなみに『改・改』というのは彼女が一度家庭用になった時に改が付き、その後再度戦闘用に調整された時に更に改が付けられたらしい。


「おー・・・改・改とかロマンだねー」

「・・・?」


 己へ向けてにこやかな笑顔を浮かべた灯里に、ホタルは僅かに違和感を感じる。そこには気負いも遠慮も無かった。この笑顔は、演技ではなかった。

 カイトが二人を家族と扱っている事に灯里は気付いたのだ。そして、もう一つ。二人がカイトに向ける信頼が絶対的な物であると見抜いていたのだ。故に、彼女もカイトの意向に沿って家族として扱う事を決めたのであった。と言ってもこれは見せてくれただけだ。まだ、完璧ではない。敢えて言えば、家族と扱うと決めての今からの慣らし運転の様な物だろう。

 と、そんな違和感を覚えたらしいホタルの顔を見て、灯里がわずか一瞬だけ密かにウィンクして、ティナに向き直った。


「よっし・・・じゃあとりあえず私は何すれば良い?」

「うむ・・・アイギス。設計図を」

「イエス・・・」


 カタカタカタとコンソールを操って、アイギスが魔導機の設計図を提示する。


「これが、魔導機の設計図じゃ・・・アイギス。制御装置に関連する部分を拡大せよ」

「イエス・・・これになります」

「うむ・・・さて、灯里。これに見覚えは?」

「見覚えってか・・・うん、これは私達が作ってた重力制御装置の亜種だね、多分。と言っても飛行機用の物だから合ってないんじゃない?」


 ティナの問いかけを受けた灯里は科学者としての目で答えた。あくまでも亜種で、しかも断言しなかったのは科学者故だろう。そうして、ティナが改めて要求を口にした。


「その通りじゃ・・・この改良に手を貸して欲しい。お主の言うたとおり、これは飛行機用。魔導機に流用しておるがそれ故、完璧ではない。まだ調整の真っ最中じゃ」

「答えはさっき言ったよ。イエス。カイトを守る為なら、私は全力投球するって」

「うむ、そうじゃったな」


 灯里の返答にティナは頷いた。が、これは再度の問いかけというだけだ。要求を口にして、再度受け入れる。念押しのような物というか、言質を取るという所だ。


「にしても・・・こんなの作っちゃうかー・・・異世界、侮れないわ」

「あっははは。余の趣味の品じゃったんじゃが・・・そうも言っていられん状況になってしまったからのう」


 ティナは一度笑うも、一転真剣な目をして遠くを睨みつける。この世界の何処かに、彼女らでさえ恐れる敵が居る。カイト達をも翻弄する敵が居るのだ。少しでも、力は欲しかった。


「『死魔将(しましょう)』、か・・・カイトとティナちゃん以外には勝てない最強の敵・・・」

「うむ・・・いつの間にやら、奴らに合し得る人数も覆されてしもうた。そして余らとて状況の不測故に全力では戦えぬ」

「質は高く、数は敵が多い・・・大将軍となら戦えるのは、こちら陣営で何人?」

「両の指で足りような・・・ユニオンマスター・バルフレア、バーンタイン・バーンシュタット・・・そこら戦闘においては頂上におると言われる戦士のみじゃろう。アイシャも、か。クオンは剣のと戦わねばならんじゃろうし・・・どうあがいても、数は足りん」


 灯里の問いかけに、ティナが実情を隠すこと無く明かす。灯里の力は今後、是が非でも必要だ。まだ卵の段階だが、極まれば『無冠の部隊(ノー・オーダーズ)』の技術班としてもやっていけるだけの知性がある。そして、カイトを絶対に裏切らない。それを活用しない手は無かった。


「じゃあ、やりますか。カイトには死んでほしくないけど、そのカイトは戦おうとする。なら、私は私の全力でカイトをフォローするだけよ」

「うむ、世話になる・・・というわけで、お主にはこれを渡しておこう」


 灯里に頭を下げたティナは懐から一冊の分厚い冊子を取り出した。


「これは?」

「魔導書・・・というても、魔術が書かれた物ではなく、その理論が書かれた物じゃ」

「解説書って所ね。りょーかい」

「うむ・・・わからぬ事があれば、余に聞くが良い」

「はいはーい」


 灯里は手頃な椅子に座って早速魔導書を読み始めると、ティナの方を向かず手を振った。そうして、この日から数ヶ月に渡って、ティナと灯里によって魔術と科学の組み合わせが行われていく事になるのだった。

 お読み頂きありがとうございました。

 次回予告:第970話『各国の動き』

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