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影の勇者の再冒険 ~~Re-Tale of the Brave~~  作者: ヒマジン
第52章 それぞれの修行編

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第968話 開発開始

 ティナに連れられてマクダウェル家の公爵邸地下にある地下研究施設へとやってきた灯里だが、そんな彼女を連れ込んだ場所はティナの個室だった。


「ここは?」

「余の専用研究室、と言う奴じゃ」

「ふーん・・・ティナちゃんが魔王ユスティーナ・ミストルティンなら確かにこの個室も納得・・・」


 灯里は周囲をキョロキョロと見回して、その内装がかなりの上質な設備で整えられている事を理解する。やはり彼女も技術者だった者として、喩え異世界とは言えそこらを見て理解出来るらしい。


「で、それで? 私に何のご用事?」

「うむ・・・重力場発生装置じゃ」

「重力制御装置? 米軍の開発してる軍事機密級の品物じゃない。更に言えば、こっちにはティナちゃん発祥の飛翔機があるんでしょう? 作る必要、ある?」

「やはりお主は恐ろしいのう・・・」


 ティナは椅子に腰掛けると、足を組んで肩を竦める。ここらは軍事機密として、他国への情報流出は厳に秘匿にされていたはずだ。それなのに、彼女はどこからか仕入れていたらしい。その上で、ティナの要求まで理解していたのである。


「まぁ、釈迦に説法ではあるが・・・重力場に関しての話はわかっておるな?」

「地球時間2016年に欧州のとある研究設備にて重力場の観測に成功。その後十年以上に渡って実用化の研究が進められる。そして約十年後の2020年代中頃に桜ちゃんの弟にして、世紀の大天才と名高い神童・天道 煌士によって重力の制御方法がついに考案される・・・でしょう?」


 ティナの問いかけに灯里は己の知り得る限りの情報を開陳する。ここらも国家機密に類する事であったのだが、彼女が天道財閥より請け負っていたと言う研究が、この煌士の重力制御技術に関する研究だ。

 その彼の補佐として副主任に近い地位に居たのが、灯里であった。口止め料等を含んで千万単位の給金が振り込まれていたのも不思議は無い立場だった。そして詳細を知っていても不思議はない。


「うむ。まぁ、研究所所属の研究員に問う必要は無かったのう。とは言え・・・ようあっけらかんと語ったのう。守秘義務はあるじゃろうに」

「守秘義務契約は結ばれてるけど、ディープ・ブルーとその伴侶の<<金色の魔女>>相手になら、契約違反にはならないもの」


 灯里は氷の様な瞳で、ティナへと告げる。その冷たさは、下手をすれば魔王状態のティナにも比するだろう。これが、もう一つの彼女の顔だった。そうして、その顔のまま彼女は問いかける。


「その上で聞いておくけど、改めて何の用事? 米軍が最大に警戒する最強の男。それが、カイト。米軍の『GA』計画にあなた達の関わりがあったはずよ? そして現状を考えれば実用化させていたのは、あなたの筈よ」

「ふむ・・・正確ではないが、的を射ている話ではある。正確にはあれは余らではない。あれは純米国製じゃ」

「へー・・・じゃあやっぱり、米国は流石って所かなー」


 灯里はティナがここで嘘を言う意味の無さから、これが本当だと理解したらしい。そしてこれは本当だ。カイトは日本人として、日本政府には関わっている。

 が、逆にそれ故に他国のアメリカには関われない。と、そんな当たり前を理解した灯里はだらけた様に座っていた姿勢を正して、改めてティナの本題を見通した。


「ふむ・・・と言う事は、ティナちゃんが持ってる重力制御装置は未完成品、と言う事でおけ?」

「ご明察じゃ」


 ティナは灯里の言葉を受けて、己の個室に備え付けのモニターに一つの装置の映像を映し出した。これが、件の重力場制御装置であった。


「まぁ、改めて語る必要は無かろうが敢えて言うておくと余は重力場制御装置の理論についてはとんと理解しておらん・・・ちょいとした縁で重力制御装置の開発に関する論文を入手しただけじゃからのう。それも、最初期の物じゃ」

「最初期の論文・・・ああ、煌士くんがまだアメリカに軟禁されてた時に発表された奴?」

「うむ、それじゃな」

「あー・・・そう言えば一度日本で流出させかけた事がある、って聞いた事があるわね」


 灯里は煌士より雑談で聞いた範疇で、そう言えば、と思い出す。当時アメリカに軟禁されていた彼にとって数少ない友人と言うのは、その滞在先の家の兄弟と幼馴染にしてソラの弟である空也、そしてソラだけだったらしい。

 特にソラは年の近い兄貴分として接していた為、非常に懐かれていたそうだ。そんなソラとどうにかして関わりを持ちたい彼はどうやら当時まだ幼かった事で論文の重要性を理解出来ていなかったらしく、ソラに国家機密扱いの論文のコピーを渡してしまったらしい。

 個人で保有している分――しかも執筆者なので流出を避けるのも難しかったらしい――だし、まさかそんな大学の教授が見ても唸る程に難解な論文を中学生に渡すとはアメリカ政府も想定外だったらしく、ソラが中学校に持ってきてしまった事があったのである。煌士も子供という事で厳しく罰せられる事は無かったが、流石にこれには日本政府もアメリカ政府も肝を冷やしたそうだ。


「うむ・・・まぁ、させかけた、のではなくこの通り余とカイトの所に流出しとるがな」

「あー・・・そっか・・・ソラくんが当時仲良かったのってカイトだから・・・あー・・・」


 灯里はカイト達の繋がりを考えて、なるほど、としきりに頷いていた。ここで残念なのは、この時期に灯里がカイトと距離を取っていた事だ。理由はカイトに語った通りだ。この数ヶ月の事は彼女は知らないのだ。


「で、よ・・・その最初期の理論に基づいて更に魔術を加算して開発したのが、この重力場制御装置と言う訳じゃ」

「なるほどねー・・・と言う事は、ティナちゃんも重力場系の理論はそこまで詳しくないんだ」

「うむ・・・何分ここ10年で発達した分野で、しかも軍事機密の絡む技術となれば情報の開示はほぼほぼされておらん。余らも滅多に手に入れられる情報ではない」


 灯里の問いかけを素直にティナは認めた。一応、ティナも重力場制御装置を使える範囲には落とし込んでいる。が、それはひとえに、魔術への薫陶がずば抜けた彼女だから出来る事だ。

 量産性なぞ皆無だし、そもそも当時はまだ机上の空論だった所に魔術を応用して実現しているだけだ。科学技術分野に掛けては、どれだけ頑張っても理解が不足している。だからこそ、そこを自分以上に理解している相手に協力を申し出たのである。


「ふーん・・・ねぇ、ティナちゃん。どこまで日本の研究について知ってるわけ?」

「ふむ・・・余が知っとるのは、日本がF-X開発計画でF-2戦闘機に代わる技術実証機としてX-3を開発しておる事。それにお主らが関わっておる事。アメリカ政府はすでに『G.A』計画・・・『Gravity.Armour』計画において人一人を浮遊させられるだけの技術を手に入れておる事。イギリス政府もそれに続いて『M.D』計画・・・『Mobil.Dole』計画の派生で」

「ごっめん。聞いておきながらなんだけど、私その半分も知んない。と言うか『G.A』計画は『ギャラクシーエンジェル』計画じゃなかったっけ? 次世代宇宙飛行士開発計画・・・に偽装した重力場制御装置を搭載した非反動推進型の戦闘機開発計画。『E.E』社肝入りの開発プラン」


 灯里は想像以上にティナ達が裏の裏にまで突っ込んでいた為、素直にお手上げを宣言した様子だった。なお、半分と言うのは彼女らが関わる日本はともかく、アメリカはかつてのコネから少しと言う所で、イギリスは一切知らないらしい。


「それを更に隠れ蓑にした米軍に所属する魔導師用の軍用アーマー開発計画じゃな」

「はぁ・・・やっぱ私じゃ裏まで、かー」


 灯里がうだー、と背もたれにもたれ掛かる。勝てないのはわかっていたが、己がどこまで信頼されているのか確認する必要があったので問いかけただけだ。そしてティナはそれを理解すればこそ、彼女には全てを明かしたのである。


「良いわ。やりましょ」

「早いのう」


 姿勢を正した灯里の承諾に、ティナが笑う。要求も何も一切されていない。が、それでも分かる物は分かる。と言う事で、灯里がティナの要求を口にする。


「要求は、カイトへの何らかの開発計画への協力・・・違う?」

「その通り、じゃな。相も変わらず恐ろしいまでの洞察力よ」

「そう? この程度は簡単だけどなー」


 灯里が笑う。そうして、彼女はその答えに至るまでの筋道の解説を始めた。


「まず、私の正体を明かした後でティナちゃんは要求を持って来た。その時点で、私に表立って依頼出来る内容ではない事は明白。そこに、カイトの裏の立場<<深蒼の覇王(しんそうのはおう)>>であると言う要素を加えると、答えは限られる。では、何か。答えは一つ、重力場制御装置への技術協力」

「ふむ」


 ティナは灯里のそこまでの推測を認める。これは彼女の言う通りだ。そうして、更に灯里は続けた。


「とは言え、言っちゃあなんだけど、私は冷酷よ。ただ単にティナちゃんの頼みなら、私は聞かない」

「じゃろうな」

「ええ。そして、ティナちゃんもそれは把握している・・・その上で、私と交渉が可能なのは何か。答えは、一つだけ。カイトの為の何かを開発する。その場合に限り、私は私の持ち得る全ての力をそこに投ずる・・・そういう流れね」


 灯里は答えへの道筋を詳らかにする。彼女は本人が言う通り、酷薄だ。それ故、学園内であればおそらくカイトの為以外には全力を出さない。

 あくまで、彼女にとって学園とは職場だ。共同体の一員と認めてはいるが、家族ではないと考えている。敢えて言えば、村や街だ。ご近所付き合いで助け合いはするが、そこは家ではない為に全力は尽くさない。

 彼女は冒険部の冒険者達をどこまでも一歩引いて見ている。隣人故に助けはするが、その為に全力は出さない。あくまでも義理や人情の範疇だ。究極的には、彼女には関係がないからだ。

 とは言え、だからこそ上手く回ってもいる。カイトは何処まで行ってもお人好しだ。いや、冒険部全体が、と言うべきだろう。勿論、裏切られた場合にはカイト達がきちんと備えている。そこはカイトやティナが経験を積んでいるので問題無い。お人好しと備えを怠らないのは相反しない。

 その際にそれを忘れさせない為に一歩引いて一言、大丈夫か、と問いかける者が必要なのだ。その問いかける者が、彼女だったのである。


「うむ、その通りじゃ・・・さて、では付いて来い」

「良いよー」


 灯里は笑いながら立ち上がる。彼女は、学園の為には全力は出さない。愛も情も無い相手に全てを投げ打つのはよほどの好き者だろう。彼女はそうだと言うだけだ。

 が、逆に家族なら。彼女は全てを投げ打ってでもそれの為に奉仕する。それが、『三柴 灯里』と言う女の生き方だった。と、そんな灯里はティナに従って、地球の研究所にはあり得ない程に騒がしい研究所を歩いて行く。


「うっわー・・・これ、すっごいなー・・・」

「あっははは。カイトがお抱えのこの世最高の技術者共。全力は己の為にしか出さぬ愚か者共。プロではなく、頑固者の職人。仕事であれど好まぬのなら一切手を付けぬと言う仕事人よ」


 耳を押さえる灯里にティナは笑いながら、『無冠の部隊(ノー・オーダーズ)』技術班の間を抜けていく。とは言え、その間の灯里は興味津々、という感じだった。


「気になるか?」

「あったりまえでしょー? だって、カイトが堂々と胸張って言える仲間なんでしょ? そりゃ、興味無い方がおかしいって」


 灯里は笑う。正直言って、彼女からしてみればソラ達を除く学園生達よりもこちらの方が信頼を置いている。数百年経過してもカイトを信じて集ってくれる様な好き者だ。話した事が無かろうとこれを信じるな、と言われても無理だ。


「うむ。では、改めて紹介しよう。これが、余が・・・いや、カイトの誇る最大にして最高の仲間『無冠の部隊(ノー・オーダーズ)』が率いる技術班じゃ」


 ティナは両手を広げて、研究所全体を灯里へと提示する。


「・・・何やってんの?」

「む・・・」


 きょとん、と全員にされて、ティナが思わず羞恥に頬を染める。と、そんな訳で恥ずかしかったらしいティナが灯里の手を引いて地下格納庫へと再び歩き始めるのだった。

 お読み頂きありがとうございました。

 次回予告:第969話『魔術と科学の融合』

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