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影の勇者の再冒険 ~~Re-Tale of the Brave~~  作者: ヒマジン
第52章 それぞれの修行編

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第963話 龍姫の血を引く者

 カイト達が各々の修行を始めるより少し前。その頃から、桜は己の修行を始めていた。それは勿論、龍の力に関する物だ。とは言え、これは残念ながら簡単な物ではなかった。

 それも当然だ。本来は生まれた時から慣れ親しんで、その上で年単位の修練の先に習得するはずの物だ。それをたかだか数ヶ月で習得出来るはずがない。新技開発とかではないのだ。なので数ヶ月先に始めていてなお、桜の進捗率は同じようなものだった。とは言え、それでも下地として冒険者としての訓練があった為、基礎の基礎には到達していた。


「・・・すぅ・・・」


 桜は呼吸を整えて、腕に意識を集中させる。そうして、半ばトランス状態にも近い状態で受け取った桜色の篭手に魔力を通した。それは龍の因子に由来する力のみを厳選した龍の力の塊だ。数ヶ月の訓練の果て、なんとか龍に由来する力をコントロール出来る様になったらしい。


「ふむ・・・まぁ、良しだな。疲れも見えない。遮二無二やっている様子は無いな」


 そんな桜の様子を見て、カイトは及第点を下す。数ヶ月前までの桜であれば、急激に吸い取られるだけで龍の力をコントロール出来なかった。

 もし篭手から外に出したいのであれば、出力を上げて強引に突破するぐらいしかなかっただろう。が、今は見える程度には篭手の外にまで魔力が漏れ出ている。良しと言えるだろう。


「ちなみに聞いておくが、その状態で魔糸は生み出せるか?」

「それは流石に・・・」


 桜はカイトの問いかけに言外に無理だと告げる。まぁ、これはカイトとて望んではいない。できれば良し。出来なくてもそれは当然というだけだ。才能があろうと些か高望みしすぎだろう。というわけで、カイトが笑って首を振った。


「いや、それで良いし、逆に出来たらびっくりだ」

「はい・・・」

「とは言え、最終目標はそれに近い。良し、じゃあ基礎が出来たのだから、改めて龍という種族と桜のご先祖様についての話に入ろうか」

「はい」


 カイトの言葉に少し落ち込んでいた桜が姿勢を正す。それにカイトも姿勢を正して――釣られた――語り始めた。


「さて・・・まず桜のご先祖様の『富士桜の姫』。御年5000歳以上の超古い龍だ。おそらく、地球とエネフィアを含めた上で最古の龍の一体と言えるだろうな」

「ご、5000歳・・・」

「あはは。この間も言ったが、それでも見た目は大学生程度の若いお姉さんだ。桜の親父さんは時々会われている・・・いや、それは良い。彼女は他にもヒメちゃん・・・アマテラス様と<<騎龍の契約>>を結ばれている由緒正しい方でもあらせられる」

「アマテラス様と契約を?」

「ああ・・・幼馴染ではないらしいんだが、古馴染みだそうだ。地球人として見ても、おそらく神様以外では最年長だろう」


 カイトは桜の疑問に更に解説を加える。更に詳しく言っておけば今の日本の祖となる様な里があり、そこをアマテラスが治めていた頃に居た龍族の一人が、その『富士桜の姫』という龍らしい。と、そんな話をされて桜はふと、疑問に思った。


「そう言えば・・・お名前は無いんですか?」

「名前か・・・ああ、あるよ。桜姫(さくらひめ)

「は?」


 笑いながら何処か茶化す様に告げたカイトに対して、桜がぽかん、と口を開ける。桜と、桜姫。似た名前なので担がれていると思ったのだろう。とは言え、これは冗談でもなんでもなかった。


「あっはははは。ま、そうなるよな。でも冗談じゃない。富士の桜の側に暮らすお姫様。それで、桜姫なのさ・・・名付けたのは、オレ達のご先祖様だとよ。それまでは名前が無かったらしい。誰も呼ばなかったし、当人も気にしてなかったからな。アマテラス様は姫ちゃん、って呼んでたしな。多分日本政府の誰も・・・いや、多分、桜の親父さんも知らないんじゃないか?」


 カイトはケタケタと笑う。そうして、彼は更に己が聞いた事を話し始めた。


「まぁ、その前の姫ってのも本来は渾名だそうだ。アマテラス様と一緒にえっと・・・お姫様ごっこ? とかやって、その時一番始めにお姫様になったのが、桜姫だそうだ。ほんとは名前もあるそうなんだが、だーれも覚えてないってさ」

「あの・・・親御さんは・・・」

「ん? ああ、孤児だよ、彼女は。赤子の時にアマテラス様に拾われたんだと。当時は神代。神様が平然とそこらを歩いていた様な時代だ。アマテラス様が助けたって奴は結構多いらしいぜ? んで、古馴染みなのさ。実際にはアマテラス様の方が一千歳ぐらい年上らしい」


 カイトは笑いながら、桜姫の来歴を語る。ここらは、当人から聞いていたらしい。そうして、来歴を語った後は、本題だ。


「まぁ、そういうわけでな。そんな由緒正しき龍の血を引いているのが、オレ達というか、桜を筆頭にした天道家の者達だ」

「はぁ・・・」

「ん、まぁ、ここは話半分で良いさ・・・とは言え、名前から一文字頂いていたからかどうかはわからんが、桜は彼女と同じく桜花龍の力が備わっている。さて・・・ここで龍という種族の説明に移ろう」


 半ばわかったようなわからない様な、という顔をする桜に対して、カイトは笑いながら更に話を進める。


「龍という種族は基本的に、基本四属性の力の効果が薄い。上位になればなるほど、その向きは強まる・・・ミントを覚えているか?」

「はい・・・あの剣士さんですね」

「ああ・・・彼女との戦いでも、それがよくわかっただろう」

「一条会頭の槍を掴んでいましたね」

「ああ、その通りだ」


 カイトと桜が思い出したのは、ミントとの戦いの一幕だ。かつての戦いの時、瞬が繰り出した雷と炎の二槍の内、彼女はなんと炎の槍を素手で引っ掴んでみせた。あれには攻撃の意図が含まれている。普通に触れればただでは済まない。それなのに、ほとんど対策もせずに掴んだのだ。それが、龍の力のおかげだった。


「彼女はあの時、掴んだ腕に龍の力を漲らせていた。龍の鱗をも焼ききれる参式状態の先輩の炎だ。やはり素手ではただでは済まん・・・が、力を漲らせれば、あの程度はどうとでもなる。勿論、あそこまでの修練の賜物があってこその芸当ではあるがな」


 カイトは一応、重要な事を断っておく。龍族だから誰でも出来るのではなく、曲がりなりにも一国で最強の称号を持つ程の武芸者だからこそ出来た事だった。そこは勘違いしてはならない事だろう。


「さて・・・とは言え、これで使えるのが防御だけか、というとそうではない」

「攻撃にも使えるんですか?」

「ああ。例えば、レイやカナンがやる様な魔力の爪。あれも、龍の力を使えば再現出来る。<<龍の爪(ドラゴン・ネイル)>>という(スキル)だな」


 カイトはそう言うと立ち上がる。そうして己の龍の因子を活性化させて指先に魔力を集めて、それを尖らせた。これがその<<龍の爪(ドラゴン・ネイル)>>だった。

 なお、ミントがかつてソラの魔力の盾を引剥したのも、これらしい。<<龍の爪(ドラゴン・ネイル)>>で盾を貫いて、強引に引剥したのだそうだ。


「貫手、切り裂き、斬撃・・・とっさの場合の攻撃に使えるな。勿論、名匠の作る武器には劣る。万が一、最悪の場合の切り札ってやつだ」


 カイトは口に合わせて手を動かす。実際に何かを切っているわけではないので威力の程はわからないが、確かに尖そうではあった。


「ふむ・・・」


 カイトの<<龍の爪(ドラゴン・ネイル)>>を見て、桜はそれと己の相性を考える。が、答えはほぼほぼ考えるまでもなく出た。


「私向きでは無いですね、それは」

「そうだな。これは桜向きじゃあない。流石にゼロ距離も度が過ぎる。勿論、これは一例というだけで他にも<<龍の咆哮(ドラゴン・ブレス)>>や龍の力を使っての威圧もある。あくまでも、これは一例だ。流石に室内でオレの<<龍の咆哮(ドラゴン・ブレス)>>なんぞやった日にはホームが倒壊しかねないからな」


 桜の判断にカイトは笑って頷いた。これはあくまでも、近接戦闘を行う者が非常手段として使う手だ。最後の手段の一つとも言える。桜の様な中距離~遠距離型の戦士向きではなかった。

 とは言え、まだ別の攻撃手段があることも事実だ。あくまでも見せるのが簡単、というだけで<<龍の爪(ドラゴン・ネイル)>>を選んだだけだ。というわけで、カイトは桜へと選択肢を提示した。


「さて・・・桜。その上で聞いておこう。どちらへ進みたい? 流石にどっちもは無理だ。時間が幾らあっても足りない。どちらかを優先的に考えるのがベストだろう。攻撃か、防御か。どちらかを選択してくれ」


 カイトは魔力で左手に攻撃、右手に防御という文字を編んで問いかける。それに、桜は少しだけ考える事にする。


「さっきのカイトくんの質問・・・そして、所詮これは私自身の魔力であるということ・・・」


 桜は少しだけ、先程の会話を思い出す。そうして思い出したのは、カイトが問うた魔糸を作れたか、という質問だった。何の意味も無く問いかけたとは思いにくい。そして、更に記憶を探って、目を見開いた。


「あ・・・もしかして・・・」

「ん?」

「龍の力を使って、魔糸って強化出来ますか?」

「ああ、出来るな」

「ということは・・・」


 笑顔のカイトの返答を受けて、桜は更に考える。思ったのは、龍の力は強大である事と、基本四属性の効果が薄いという事だ。そうして、桜も笑顔を浮かべた。


「防御を」

「それはなぜ?」

「魔糸を龍の力で強化する・・・それができれば、全体の防御力の底上げが出来るから・・・です」

「その通り!」


 たんっ、とカイトが満足気に膝を打つ。実は選択肢を与えていながら、カイトは始めから進んでもらいたい方向、もしくは彼女が進むべき道があったのだ。そしてそれこそが、防御という選択肢だったのである。


「よく気付いた。魔糸はそのまま、使用者の魔力で編まれている。であれば必然、龍の力を使って魔糸を編む事は不可能ではない」


 カイトはそう言うと、桜の目の前で己の身に宿る龍の因子を僅かに活性化させてその力で魔糸を創り出す。見た目としては何も変わらないが、実際には強度は数倍にも上昇していた。勿論、操作難度もそれ相応に上昇している。


「とは言え、あまり龍族は魔糸を得意としていない。出力バカ高いからな・・・が、もし出来れば、非常に驚異的なんだ。元々物理攻撃が効きにくい魔糸だ。そこに、龍の力が加わる事による基本四属性の効きが悪い魔糸だ。その上、桜の桜花龍としての力を加えるとすると、どこまで驚異的なのかは推して知るべし、という所だろう」


 カイトは笑いながら、最大の利点を語る。実はこの方向性はとことん桜向きだった。基本中距離から遠距離に位置を取る彼女にとって、仲間を防御出来る術が手に入るというのは非常に強みになる。

 その上、単なる防御用の手札ではなく物凄い強度の盾になるのだ。しかもこの方向を伸ばせば、牽制や拘束の力に関しても強化されると同義だ。たった一つ強化するだけで、これほどまでに強化出来るのだ。このメリットは計り知れなかった。とは言え、勿論デメリットは存在している。


「とは言え、その分桁違いに操作性は悪化する。その様子だと、すでに試してはいるな?」

「はい・・・でも糸の形を作るのも難しくて・・・」

「だろう。龍の因子という今まで眠っていた物を活性化させてやる訓練を始めたばかりだ。そう簡単に出来てもらっちゃ、龍族達だって立つ瀬がない」


 少し落ち込んだ様子の桜に対して、カイトは朗らかにそう落ち込むな、と慰める。当たり前だが、まだ始めたばかりだ。これで桜はようやく入り口に立った、と言える。それなのに一足飛びにそこから先へ進めても可怪しいだろう。それに、この段階でも十分良い事はあるのだ。


「まぁ、そう言っても。この段階で十分訓練の成果は実は現れている」

「?」

「桜は今、龍の力をコントロールして表に出せる様にまでなったんだ・・・戦闘時に展開する障壁にその力を回してみろ。桜は桜花龍・・・基本四属性の攻撃をかなり低減出来るはずだ」

「あ・・・」


 言われて、桜はハッとなった。桜花龍は基本四属性の力に対してかなりの耐性を持つという。そしてそれ故、彼女はそれを魔糸に活かす事を考えついたのだ。

 が、これは単純に考えれば己の持つ障壁にその力を応用してやるだけで、その基本四属性に対してかなりの耐性を付与出来る、という事なのである。難しく考えていた所為で単純な話を見落としていたらしい。そしてそれを、カイトも見抜いていた。


「あっははは。その様子だとやっぱ見落としてたな?」

「うぅ・・・」


 桜は恥ずかしげに俯いて前髪で顔を隠す。流石に単純過ぎて恥ずかしかったらしい。


「ま、そう言う抜けてる所もかわいいから良いさ・・・とは言え、覚えとけ。それだけでも、桜の身を守る手段になる」

「・・・はい」


 気を取り直した桜がカイトの言葉を胸に刻みこむ。そうして、桜はこの日から方向性を決めて魔糸の訓練と共に更に龍の力を使いこなす為の修練を続ける事にするのだった。

 お読み頂きありがとうございました。

 次回予告:第964話『もう一人の姉役』

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