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影の勇者の再冒険 ~~Re-Tale of the Brave~~  作者: ヒマジン
第52章 それぞれの修行編

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第954話 ウルカの冒険者達

 リィルの弟のリジェに誘われる形で武術留学としてウルカに到着して<<(あかつき)>>のギルドホームへとやってきた瞬は、カイトから預かった手紙をバーンタインに手渡した。

 そうしてその場で即座にバーンタインは手紙を読み始めたわけであるが、その間何時もは騒々しいと言われる<<(あかつき)>>のギルドホームは静寂に包まれ続けていた。


「一体何の手紙なんだ?」

「知らん・・・これを頼む、と言われただけだ」

「にしちゃぁ・・・相当親父真剣だぜ?」


 リジェはバーンタインのあまりに真剣な様子に瞬へと小声で問いかける。周囲の者達も状況が掴めず小声で話し合ったりしていた。その一方、真剣な表情のバーンタインであるが、彼は手紙を見つつ時折それを片手に纏めては空いた手に雷や炎、水を生み出したりしていた。


「ふむ・・・五行説・・・ふむ・・・おい、瞬」


 手紙を片手に一人真剣な表情で何かを考えていたバーンタインが唐突に瞬へと問いかける。視線は手紙から外していない。


「あ、ああ、なんだ?」

「日本じゃ五行説ってのは有名なのか?」

「有名・・・かどうかは知らないが、聞いた事はある」

「そか・・・ってことはこの五行相克や五行相生ってのはそれなりに知られてんのか?」

火剋金(かこくきん)・・・とかだったはずだが・・・まぁ、よく講談では語られるから知ってる奴は知ってる、って所だろう」

「おう、それよ。ちょうどいいの挙げたな、お前・・・ってことは、結構知られてた話になるわけか・・・」


 バーンタインは瞬の言葉に頷くと、なるほど、と一人納得した様に頷いていた。と、そんな彼にリジェが問いかける。正確に言えば先輩達にお前の責任だろ、とせっつかされて、なのだが。


「えーっと・・・親父? 何かやべぇことあったのか?」

「あん? あ? てかお前ら何見てんだよ」

「「「えぇえええ!?」」」


 どうやらバーンタインはよほど集中していたらしい。ぶち抜きの三階層全部から注目されていた事に今頃気付いて何事か、と驚いていた。それに対してすわ一大事か、と心配していたギルドメンバー達はまさかのうざったそうな返しに大いに驚いていた。そうして、ギルドの古株の一人が口を開いた。


「い、いや・・・親父が見たことも無い程に真剣なツラで下に居たもんだから・・・てっきりなんかあったんかと・・・」

「あぁ、別にわけねぇ話だ。単なる親書だ、親書・・・んなツラしてたか、俺ぁ」

「お、おう・・・少なくとも親父が親父になってからのこの20年見たこたぁねぇ」

「・・・そりゃ、すまねぇな。まぁ、気にすんな。ちょいとさるお方からの親書ってだけの話だ」


 ぽかん、とバーンタインが呆ける。どうやら彼自身、気付いていなかったらしい。そうして彼は一度吹き出して、頭を掻いていた。


「ってこたぁ、戦争とかでかい喧嘩とかじゃねぇんだな?」

「おう。それどころか喧嘩の得物くれるってぇ奇特な方からの手紙でな。ちょいとつい真剣に成りすぎちまってたようだ。すまねぇな」


 バーンタインは心配をしてくれていたギルドメンバー達に豪快に笑ってみせる。それはどうやら何時もの彼の笑みだったらしく、そんな彼にギルドメンバー達はやれやれ、と呆れていつものように席に戻っていった。


「いやぁ、すまねぇな、お前らも。ついうっかり緊張しちまった」


 少し照れくさそうにバーンタインが喧騒を取り戻し始めた<<(あかつき)>>ギルドホームの入り口付近にて頬を掻く。

 実際、彼が今までになく真剣な顔をしていたのはこのためだ。彼からしてみればまさに雲の上の人からの手紙だ。しかも自分宛てである。柄にもなくここ一週間は緊張しっぱなしだったらしい。


「そ、そんなにか?」

「ああ。まぁ、お前さんらにゃわからねぇんだろうがなぁ・・・っと、ついこんな所で話始めちまった。付いて来い。疲れてんだろ、酒飲ませてやる」


 瞬の問いかけにバーンタインは笑いながら立ち上がると、彼とリジェを引き連れて己が何時も愛用しているという三階の奥へと連れて行く。

 そこにはオーグダインもおり、聞けばここらはギルドの幹部達がよく屯している所だそうだ。他にも若い奴もたまに来るが、多いのはリジェの様に長期でどこかに出掛ける場合の挨拶やこちらに来て挨拶に、という所だそうだ。

 と、彼は大陸間会議の折に瞬とリジェを側近として戦っていた為、瞬の事もよく覚えていたようだ。笑顔で片手を挙げてくれた。


「お、瞬か?」

「ああ、オーグダインさん。お久しぶりです」

「おいおい! んな固い事言うなよ! ダインで良いっつっただろ!? って、おぉ! リジェ! 帰ったか!」


 オーグダインは彼らしからぬ様子でバシバシとリジェと瞬の肩を叩く。その顔は赤らんでおり、相当飲んでいる様子だった。


「ちょ、兄貴! 相当飲んでるな!」

「おうよ! お前らが来るっつってたからな! 先に始めちまった!」

「いやぁ、悪い悪い! 先に飲ませちまった!」


 ギルドの幹部達が笑い声を上げる。どうやら先に飲んでいたらしい。ちなみに、オーグダインは祖先と同じで結構酔いやすいらしい。しかも笑い上戸だそうだ。と、そんな所にバーンタインが割って入る。


「おう、俺の席も開けてくれや」

「おう、親父・・・おい、親父の席空けろ!」

「おうよ」

「おい、ちょっと詰めろ・・・って、リジェとそっちの小僧・・・は知んねぇや。ま、良いか。とりあえず座んな」

「お、どもっす」

「ありがとうございます」


 バーンタインの席を空けると、ついでなのか瞬とリジェの席も空けてくれた事を受けて二人も相席させてもらう事にする。それと同時に二人分の酒とでかいジョッキが出て来た。


「強いから気をつけろよ。あっちの上物と味は比べんなよ」

「これでも向こうでもそれなりには飲んでたからな・・・っと、そうだ。えぇっと・・・」


 リジェからの忠告に笑いながら瞬が酒に口をつけるが、そこで一連の出来事ですっかり忘れていた事を思い出したらしい。カイトから別に預かった小袋を取り出した。


「バーンタインさん。こっち、ウチのギルドマスターからの手土産です」

「おう? おぉ、こりゃ酒か! しかも樽ごと!」

「あと、こっちはバーンタインさんへ、と」


 瞬は更にカイトから手渡された小袋から、更に追加で瓶入りの酒を10数本差し出す。ここらは相変わらずのカイトの気前の良さというか冒険者の好む事をわかっているところというかなので、バーンタインの顔に喜色が浮かぶ。どうやら、彼も結構酒は好きらしい。そして、それは横の幹部達も変わらなかった。


「「「おぉおおお!」」」

「豪快だな! おい! おい、樽二つは下の奴にくれてやれ!」

「おう! おーい! てめぇら! 客の手土産の酒が来たぞ! 欲しい奴ぁ先着順だ! マクスウェルの上物だ! 急げよー!」

「まじかよ!」

「あ、おい! 抜け駆け禁止だ!」

「そういうてめぇは吹き抜け飛んでんじゃねぇよ!」

「いってぇ! 誰だ今あたしの肩踏み台にした奴ぁ! 出てきやがれ!」

「だっ、くそ! 俺は飲まないぞ! やめろ、引っ張るな!」

「良いって良いって! 後で後悔すんだからよ! 来いよ!」


 周囲の上役達が下の酒場で飲んでいる面子に声をかけると、即座にわんさかと人が集まってきた。すごいのは吹き抜けを跳び上がってやって来る奴が居る事だろう。

 男も女も老いも若きも関係なく、ここの冒険者達は全体的に豪快だった。と、そんな酒樽から酒を強奪する様にジョッキを突っ込んで呷っていく冒険者達に、瞬が思わず気後れした。樽を持っていってくれ、と言われた時は大いに驚いたが、カイトの見立ては正解だった、という事だろう。


「す、すごいな・・・」

「あっはは。だろ? まぁ、こんなもんだよ、何時もは」


 ぎゃあぎゃあと騒がしい事この上ない。が、楽しそうではあった。それに二人も笑みを浮かべていた。と、そんな喧騒の横で、オーグダインがカイトから別口で提供された酒を盃に注ぎながらバーンタインへと問いかけた。


「そういやぁ、どうしたんだ?」

「手紙だ手紙。こりゃ家宝モンだ」

「ってこたぁ、これが当分の親父の緊張の原因か。誰だよ」


 オーグダインは酔っている為か、何時もはあけすけに聞かないだろう事をあけすけに聞いてくる。それに、酒を口にしたバーンタインがため息と共にその手紙をひらひらと振った。


「言ったろ? 家宝モンって・・・始祖バランタイン様の手紙だ。直筆のな」

「「「ごふっ!?」」」


 酔っていた周囲の幹部達が一斉に吹き出した。始祖バランタイン。言うまでもなく、このギルドの創設者だ。一気に酔いが覚める名前だった。というわけで、オーグダインが頬を引き攣らせながら問いかけた。


「お、親父・・・まさか一口目で酔ってんのか?」

「馬鹿野郎。この程度で俺が酔うか」


 バーンタインがため息を吐いた。そもそも彼はまだ一口目だ。この前にも飲んでないらしい。その珍しく酒を飲んでいない様子が尚更事が深刻なのでは、と思わせて静かになっていたわけだ。


「え? おい、瞬。お前、いつの間にんな手紙もらってたんだ? たしかギルマスの手紙って話だろ?」

「お? って、あぁ、そうか。リジェ、お前さんにゃ話してなかったな」


 いつの間にそんな手紙を受け取っていたのかわからないリジェに対して、バーンタインはそろそろ良いか、と思ったらしい。カイトがしても良かったのだが、向こうでリジェに騒がれたりすると面倒なので言わなかったのだ。


「瞬。お前さんから話してくれ。そっちのが確実だ」

「あー・・・それは良いんだが、他の方も良いのか?」

「あぁ、構わねぇ構わねぇ。こいつらぁウチで生まれ育った俺の兄弟みてぇなもんだ。今回事の性質でどうなってんのかがわかんねぇから、俺の胸の内に入れといただけだ」


 バーンタインは少しだけ詫びる様にして上役達の事を良いと語る。瞬はここらはバーンタインの指示に従う様に、とカイトから言われていたのでならば良いか、と語る事にした。


「ああ、なら、わかった。えっと・・・すまん、リジェ。実はウチのギルドマスターなんだが・・・本物の勇者カイトだ」

「・・・あ?」

「・・・うん?」


 幹部達もリジェも総じて首を傾げる。たった今、伝説の名を耳にした様に思ったのだ。そしてそれに同意する様に、バーンタインも頷いた。


「こいつぁ、そのカイト様とバランタイン様の手紙ってわけだ。そりゃぁ、俺も緊張はすらぁな」


 たはは、とバーンタインが恥ずかしげに笑う。が、信じられないのが普通だ。なのでオーグダインは担がれていると思ったらしい。


「お、おい、親父・・・フカシじゃないのか?」

「馬鹿野郎! ここまで書ける方がお二人以外に居てたまるかバカ!」

「いってっ!」


 どごん、という音と共にオーグダインの頭が机にめり込んだ。そうして即座に復帰してきた彼に、バーンタインは手紙を見せる事にした。


「こ、こらぁ・・・」

「はぁ・・・わかったか? そいつぁ<<炎武(えんぶ)>>の指南書だ。初代様でしかわかんねぇだろう領域で話がされてる・・・これで偽物と思うか?」

「・・・」


 オーグダインが押し黙る。それは彼らウルカに渡ったバーンシュタット家からは時の流れで失伝されてしまっていたり、バランタインから離れてしまった事によって習得出来ずに独自の考案などでやられていて失敗していたような所に対する指摘がされており、確実に<<炎武(えんぶ)>>の全てを知らなければ記せないだろう内容が記されていたのだ。

 そしてそれを記せるとすれば、この世には二人しかいない。それは開祖たるバランタインその人か、同じレベルで極めたと彼自身が断言したカイトその人だ。これは何よりも、この二人からの手紙である事の証明だった。


「お、おい! 今すぐ額縁買ってこい!」

「馬鹿野郎! 当分は神棚に飾るほうが先だろうが!」

「っと! 保管容器が先だ! 密閉する奴あったろ! 地下から探して来る!」


 どうやら、オーグダインの様子からこれがなんら嘘偽り無いカイトとバランタインの手紙だと分かったようだ。上役達が一斉に動き出す。そんな様子に、瞬が気圧された。


「・・・そ、そこまでなのか?」

「ばっか! お前、えぇ!? カイトだぞ!? 伝説の勇者ってか、どんだけのお人かわかってんのか!? 俺タメ口聞いちまったよ・・・」


 ずーんとリジェが落ち込む。ものすごい怯えようだった。


「はぁ・・・そこら、お前さんらの悪い所かも知れねぇなぁ・・・いや、こいつぁ勇者カイト様の間違いってのかもしれねぇ・・・あの方は自分の凄さをしっかりと認識出来てらっしゃらねぇ。あんま、あけすけと言わねぇ方が良いぜ」


 バーンタインは困惑する瞬に対して、僅かに顔を顰めて一応の所の忠告をしておく。とはいえ、これはバーンタインの言う通りカイトとしても仕方がない。彼自身が実感としてそれを持ち合わせていないからだ。

 というのも、クズハとアウラの尽力により、おかしな話だがマクダウェル領ではカイトはあくまでも勇者カイトとして尊敬されているだけだ。が、その影響の強い魔族領の魔族達はともかく、他の領地や他国では逆に彼の扱いは最早信仰のレベルにも等しいのだ。

 更にはカイトはあまりに神がかった功績を残している為、特に冒険者からしてみれば守護神にも近かった。人によっては最早神格化さえされている。伝説の勇者にして勇者の代名詞というのは伊達ではなかった。


「そ、そうなのか・・・」

「たりめーだよ・・・ここで聞いてみろよ。ウルカで勇者カイトっていやぁバランタインに並ぶ大恩人だぞ? この大陸から奴隷制度が完全に撤廃されたのは、間違いなくあの方の影響がでかい。下手すりゃ神様以上の扱いうけるっての・・・」


 リジェは僅かに恨めしい様子で瞬の言葉に頷いた。もっと早く言ってくれ。彼の顔がそう物語っていた。どうやら彼はウルカの冒険者達の影響が強いようだ。精神的にはこちらの民と同じ様な感じらしい。が、そのリジェの言葉に瞬が首を傾げた。


「そう・・・なのか? いや・・・アイツ、神格化されるのが嫌だ、って話で神殿都市に自分の銅像建てられそうになった時は猛反対したらしいんだが・・・それでも自分の像が作られそうになって結構キレたってクズハさんの話なんだが・・・」

「・・・どして?」

「神様扱いされたくない、とかなんとか・・・」

「謙遜とかじゃなくて?」

「ああ・・・オレに出来る事は限られてる。祀られた所で救ってやれねぇんだから、ご都合主義の神様と一緒にしてくれるな、とかなんとか・・・」

「はぁ・・・マジものすごいわ、やっぱ・・・」


 こっ恥ずかしいとかなら、まだわかる。だが誰もが羨む功績を残しながら、それでもなお人として扱われる事を望む。それは誰もが出来る事ではない。それを成し遂げれば、リジェにはただただ感嘆しか出なかった。と、そこでふと気付いた。


「ってか、ちょい待ち!」

「うん?」

「ってことはアルも姉貴も全員知ってたのか!?」

「ああ・・・来たその日に知ったらしいな。俺はちょっとした戦いの後、ギルド立ち上げの際に教えてもらったんだが・・・」

「うぉおおい! 姉貴ぃいいい!」


 リジェが膝をついて絶叫する。どうせならもっと早い内に教えてほしかった、とでも思っているのだろう。そうして、彼の絶叫はそれよりも騒がしい<<(あかつき)>>の喧騒の中に消えていくのだった。

 お読み頂きありがとうございました。

 次回予告:第955話『暁の冒険者達』

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