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影の勇者の再冒険 ~~Re-Tale of the Brave~~  作者: ヒマジン
第52章 それぞれの修行編

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第953話 それぞれの修行の始まり

 カイトとバーンタインの間で連絡が取られてから、数日。カイトは瞬の見送りにやってきていた。


「ここが最後なのか」

「ええ・・・なにせ魔族領に入る場合はここを通るのが一番確実ですからね」


 カイトの言葉にブラスが頷いた。というのも、飛空艇には彼ら以外の皇国軍の軍人も乗り合わせていたのだ。流石に幾つもの船で他国に乗り込むわけにもいかない。

 なので各領土からの軍人は一度皇都に集まってマクダウェル家が持つ飛空艇に乗ってきたのであった。とは言え、集まっているのは各領土の軍人達だけでブラス達は別だ。こちらは、ここで合流する事になっていた。


「じゃあ、先輩。迷惑の無い様にだけは・・・って、言うのも変か。しっかりな」

「ああ、わかった。そっちも頼む」


 カイトの言葉を受けて、瞬が頷いて飛空艇に乗り込む。そうしてそれに続いてブラスも頷いて、飛空艇の扉が閉じられた。と、それを見送りつつ、ユリィが呟いた。


「結構、色々と動いてくねー」

「そろそろ全員一度見直すにゃ、良い時期だったのかもな」


 カイトが笑う。彼自身、少し修行をしておきたかった頃だ。それは彼自身の特殊な能力を用いる関係で、どうしてもかなりの時間が掛かるものだ。どうにせよ、カイトその人もしばらくは大掛かりな活動は自粛すべき時だった。少々急ぎ足で駆け抜けてきたのが、現状だ。そろそろ、自分達を見直しても良いだろう。


「良し・・・じゃあ、オレ達も行くか」

「うん!」


 飛び立っていく飛空艇を見送りながら、カイトとユリィがその場を後にする。そうして、そんな彼に見送られながら、飛空艇は緩やかに飛び立っていくのだった。




 それから、数日。瞬を乗せた飛空艇は魔族領を通って砂漠地帯へと入っていた。


「ここが、砂漠か・・・飛空艇の中だから流石に涼しいが外は暑そうだな・・・」

「熱いぜ、ここらは・・・つっても俺達が活動すんのはもっと南だけどな」

「そうなのか・・・にしても、珍しいな。ここらに砂漠なんて・・・」


 瞬は周囲を眺めながら、今のおおよその緯度を考えて告げる。地球で言えばおよそ北緯40度ぐらい。日本とさほど変わらない緯度だ。確かに広大な砂漠地帯があるのは無くはないだろうが、珍しいと言える。


「ああ、それか。ほら、随分と前に言った事あるだろ? 親父が盗賊相手に怪我させられたって」

「そう言えば・・・言っていたな」


 瞬はリジェと出会ったばかりの頃を思い出す。確か彼はあの時、砂漠の盗賊達にバーンタインが怪我を負わされた事を匂わす発言をしていた。


「そう言えば・・・確か古代文明の遺産が眠っている、とかいう話だったか?」

「ああ。ルーミアとは別個のな。こっちはあんま注目されないんだが・・・その文明がやらかしたなんらかの事件であそこら一帯が砂漠化してるんじゃないか、ってのが通説だ。実際、結構な空間の歪みってか・・・まぁ、そこらの何らかの空間に関する異常はわりかしある。そこらの兼ね合いで割りとデカ目の魔物とかと戦う事も多いからな」

「詳しいな」

「そら、累計で一年近くこっちに滞在してるからな」

「・・・何時から留学してるんだ?」

「んー・・・長期は今年からだけど、ちょこちょこは二年前から。まぁ、実際にゃ今とおんなじように行っちゃ戻っての繰り返しだけどな。ホントは駄目なんだろうけど・・・これでも英雄の子孫ってか英雄の末裔だからな・・・多分、そこらでお目こぼしもらえてるんだろうな」


 リジェは僅かに苦笑する。一応、校則などの規定で禁止されているわけではないが、やはりこう頻繁に出ていっては戻ってを繰り返せば教師などへの負担となる。

 そこらを考えれば本来はやるべきではないのかもしれない。が、そこらは家の格や彼自身に確かに一定の成果が上がっている事などを考えて、お目こぼしがもらえているのだろう。

 とはいえ、珍しい事ではないだろう。地球で考えれば実は瞬自身も似たような待遇を受けている。天桜学園としても瞬にマスコミからインタビューの依頼があれば、午後を公休にした事はある。

 これは瞬を担ぎ上げたいマスコミの意向と彼を使って陸上競技そのものを盛り上げたい厚生労働省や陸上競技連盟の意向を受け、天桜学園がその意向を考慮して動いた結果だ。いわゆる、忖度という奴だ。

 そういうお上の事情を察して、というのは何処の世界にも存在する。とは言えこの場合は家云々よりもリジェの頑張りの結果、と言えるだろう。リィルより遥かにはやく<<炎武(えんぶ)>>を使える様になっているあたり、しっかりと努力している事は実証されていた。


「始め、死にそうになったなー・・・実際、あの当時とかランクD程度で何度死にそうになったかわかんねぇや」


 リジェは笑う。確かに今でこそ適正と呼ばれるだけの力量はあるが、その当時はなかっただろう。今強くなって帰って来たからこそのこの結果だ。それを考えれば、わかろうものだ。


「そうか」

「ああ」


 二人はそんな雑談をしながら、砂漠を通り過ぎるのを待つ。残念ながらこの熱砂の気温の上にそこそこ強大な魔物の出没する地で甲板に出て修行をするというのは誰にとっても迷惑にしか成り得ない。なのでここで待機するしかやることはなかった。そうして、しばらくの間二人はここで待機する事になるのだった。




 さて、それから数時間後。大体昼を過ぎた頃に、飛空艇はウルカ共和国首都ウルカへとたどり着いていた。そこは一言で言えば、交易の拠点と言うところだ。先程までの砂漠地帯とは打って変わって、草の香りを含んだ心地よい空気が肺腑を満たしてくれた。


「ここが・・・本当に一変したな」

「だから、言ったろ?」


 瞬の感想にリジェが笑う。瞬は砂漠が近いからもっと暑いのか、と思っていたのだが、やってきてみればすごしやすい気候だった。そうして、そんな瞬にリジェが北を指差した。そこには山々が連なっていた。


「ほら、あの山あるだろ? あれが、かつてバランタインが奴隷として過ごした旧ウルカ王国の王都だ」

「あれが・・・確か今も闘技場は有るんだったか?」

「闘技場跡、な。闘技場もこっちに移転されてるよ」


 リジェは山とは反対の南側を指差す。そこには円形のドームがあり、少し注意してみれば強大な魔力が時々迸っていた。


「で、まぁ、こっちで仕事してくとよくあの闘技場跡を拠点として活動する事があるから、ウチのギルドの拠点はそこにある。またそんときゃ道案内すんぜ」

「ああ、頼んだ・・・で、<<(あかつき)>>の本部は何処にあるんだ?」

「っと、それか。案内・・・親父ー! 俺、瞬連れてバーンタインさんに挨拶してくるけどなんかあるかー!」


 リジェは各種の手続きを整えている父親に問いかける。彼らは正規軍人の為、冒険者であるリジェと瞬よりも手続きは厳重かつ煩雑らしい。もうしばらくは動けないそうだ。と、そんな彼にリィルが声を返した。


「リジェ! とりあえずご迷惑は無いように、と! 瞬もがんばってください!」

「ああ!」

「おーう!」


 瞬とリジェはリィルに手を振ると、そのまま歩いて行く。と、そうして飛空艇の発着場を出ると即座に、リジェが知り合いに出会ったらしい。


「おう、リジェ! 帰ってきやがったか!」

「ってぇ! もうちょい優しくしろや!」

「がはははは!」


 リジェの肩をばしばしという音が鳴るぐらいに強い力で叩く巨漢の冒険者が大笑する。と、そんな彼が瞬に気付いた。


「って、おう? お前さんどっかで見たな」

「ああ、ほら、こないだ会議んときに挨拶に来てたろ?」

「おぉ、そういやそんな奴居たな・・・あの奇妙な力使ってる小僧か」

「はじめまして。瞬・一条です」

「お、おう・・・おい、こんな奴連れてきてどうすんだよ」


 巨漢の冒険者が何故か気圧されてリジェに問いかける。ちなみに、こんな丁寧に挨拶する冒険者を彼は見たことがなかったらしい。


「俺と一緒だよ。留学・・・つってもこっち親父が招いたらしいけどな」

「親父が?」

「っと、そうだ。親父は? こいつ、親父に手紙預かってんだよ。親父がすぐに持って来いっての」

「親父のか・・・って、そういや出かけしな親父が珍しく1階に降りてきてたな。それか・・・っと、それなら引き止めてちゃ俺がしばかられんのか・・・ちょっと前だったから、飲んでりゃ今も多分1階いんぜ」

「おう、サンキュ」


 巨漢の冒険者はどうやら<<(あかつき)>>のギルドメンバーらしい。バーンタインが何処に居るのか言うとリジェの拘束を解いて手を上げて去っていった。少し後に酒飲み話で聞けば、どうやら彼は夜間にのみ出る魔物の討伐依頼があり、それに出たらしい。


「おし・・・さて、行くか」

「あ、ああ・・・豪快な人だな」

「ああ、ゼイラか。あの人暑苦しいから注意しと、っと!」


 リジェは屈んで背後から飛来した何かを回避する。それはリジェを通り過ぎると、そのまま来た方向へと戻っていった。


「あっぶねー・・・そういや獣人の血混じってたんだったっけ」

「・・・何があったんだ?」

「ああ、ゼイラが木の枝投げたんだよ。近くで悪口言うと気付かれんだよ、気をつけろよ」


 困惑する瞬に対して、リジェがやれやれ、と言ったぐあいで再び歩き始める。そこに淀みはなく、まるで何時も通りという風しかなかった。それに、瞬は半ば驚きながらもそうなのか、と思うしか無い。それどころかどうやら<<(あかつき)>>のメンバーは大半が街の警吏達と顔見知りなのか、彼らも笑っているぐらいだ。


「まぁ、それはおいといて。とりあえず行くっつっても見えてんだけどな。ほら、あのでかいの。あれがそう」

「・・・ウチよりもでかいな」

「それと、その横二棟な」

「え゛」


 瞬が目を見開いた。リジェの指差した方角にあったのは、10階建て程の建物が一つに5階建ての建物が二つだ。左右の物は冒険部のギルドホーム程ではないが、それでもそれなりの大きさはあった。

 そして中央の一棟については、高さも広さも冒険部以上だ。一千人以上は寝泊まり出来るだろう巨大な建物だった。伊達に、このエネフィア最大のギルドというわけではないらしい。


「まぁ、中央の一棟は一階から三階まで全部ぶち抜きで酒場だ・・・んなのやってるから、人寝泊まりするスペースないんだよな、あそこ。最上階は執務室だの色々とあるわけだしよ」

「いや・・・それもそれですごいんだが・・・」

「そだな」


 瞬の言葉にリジェも笑う。三階層まるまる居酒屋だというのだ。確かにこれはこれですごい事だった。


「まぁ、帰って来ると誰かしらは飲んでる・・・から、喧嘩に巻き込まれないようにな。ま、つっても日に三度ぐらいやってるからその内慣れるさ」

「お、おう・・・」


 瞬は引きつった様子で、荷物を片手に巨大なギルドホームへと歩いていく。ちなみに、そんなのでギルド内の治安は大丈夫なのか、と思われるそうだが、基本的に古株の者達も一緒に飲んでいるのでじゃれ合い程度の喧嘩にしか成り得ないらしい。喧嘩をするほど仲が良い、というわけだそうだ。と、そんな騒々しいはずのギルドホームのはずだが、今日は妙に静かだった。


「・・・あれ? っかしーな・・・こんな静かな筈無いんだが・・・」

「どうした?」

「いや、静かだなーって・・・」

「ふむ・・・襲撃とか・・・じゃあなさそうだな」

「そりゃ、親父居るのにんなのなるわけねぇって」


 リジェが笑う。冒険者というとやはり命懸けの商売だ。当然何処かで恨みは買うし、時と場合によってはギルド同士の抗争にも発展する事もあるらしい。

 そうなると襲撃されたりもあるそうだが、それにしたってさすがにバーンタインが居る時にそうはならないだろう。そしてここまで静かなのも些か可怪しい。が、それは入って早々に理解出来た。


「おーう、ただいま・・・って、おう?」

「リジェ! 来やがった! お前、客連れてくんならさっさと来やがれ!」

「お前、親父になにしやがった!?」


 リジェが入ってくるなり、<<(あかつき)>>のギルドメンバーらしい者達に大挙して囲まれる。どうやら彼が何かしでかしたと思われているらしい。


「え? いや、何さ?」

「親父がお前が来る云々でものすっごい状態だったんだよ!」

「何した!? 親父の女に手ぇ出したのバレたとかじゃねぇだろうな!」


 ギルドメンバー達が小声でリジェを問い詰める。どうやら焦っているらしい。が、そんな彼らの焦りも、一人の男が立ち上がった事で終わりを告げた。それは言うまでもなく、ここまで手だれの冒険者達を焦らせるバーンタインその人しかいない。


「リジェ、お帰り。瞬もよく来たな」

「おう、親父。また世話になるぜ」

「バーンタインさん。お久しぶりです」


 とりあえず何もしでかしていないので何時も通りのリジェが片手を挙げ、目上の者として敬う瞬は頭を下げる。それに、ごくり、と全員が生唾を飲んだ。この後どうなるかがわからなかったのだ。が、そんな彼らを他所に、バーンタインは緊張を滲ませながらも瞬に申し出た。


「で、瞬。お前さん、俺に手紙、もらってんだろ?」

「ああ・・・ウチのギルドマスターとその友人からの親書だ。受け取ってくれ」

「受け取った・・・中身、ここで確かめて良いか?」

「俺はただ持っていってくれ、と頼まれただけなんだが・・・多分、良いと思う」

「すまねぇ・・・」


 どかり、と瞬から二通の手紙を受け取ったバーンタインがその場に腰を下ろす。その顔は真剣そのもので、周囲の者達が誤解するのも仕方がない様な雰囲気だった。


「一応、カイト曰く読む時には自分の手紙を合わせて読んでくれ、だそうだ」

「おう・・・」


 バーンタインは瞬から受け取ったカイトとバランタインの手紙を読み始める。そうして、しばらくの間<<(あかつき)>>のギルドホームは滅多にない静寂に包まれる事になるのだった。

 お読み頂きありがとうございました。

 次回予告:第954話『ウルカの冒険者達』

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