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影の勇者の再冒険 ~~Re-Tale of the Brave~~  作者: ヒマジン
第52章 それぞれの修行編

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第951話 各々の修行へ

 カイトがシャーナ達と共に帰国して、数日。カイトの演説はある効果をもたらしていた。


「ふむ・・・最近妙に全員が気合入っとると思うたらそういうわけじゃったか」

「まぁな・・・で、お前の方はどうだ?」

「こっちは何時も通りじゃ・・・まぁ、しいて言えば、若干は入隊希望者が減った、という所かのう」

「そいつぁ重畳。無駄死に犬死はこっちとしてもお断りだ」


 本来、カイトとしては若衆達も受け入れたくはないのだ。それでも政治的な理由は絡むし、さらに言えば誰も受け入れないのは流石に人手不足が深刻なカイト達としてはどうしようもない。そこらだけは避けられない問題だった。


「さて・・・まぁ、皆頑張ってくれてるのは非常に嬉しい所だな」


 カイトは伽藍堂(がらんどう)の執務室を見て、半ば呆れにも似た笑顔を浮かべる。今ここに居るのは、カイトとティナ、そして椿だけだ。

 カイトの演説の後、どうやら冒険部のギルドメンバー、それも天桜学園の出身者達はこれが遊びでない事を再度認識しなおしたそうだ。

その結果、何かを守る為には力が必要である事を改めて見直す結果となり、修行に熱心に打ち込む事になっていたのだ。修行を兼ねて訓練のやり直し――と言っても軍の訓練に参加させてもらう程度――を公爵軍へと依頼した者も少なくないらしい。


「とはいえ、それで依頼が些か回らんのは、些か頂けんぞ」

「わかってるよ・・・とはいえ、この流れを変えるのはあまり良いもんじゃないだろ?」

「そうじゃのう・・・」


 カイトの言葉にティナも同意する様に笑う。修行に打ち込んだのは良かったのだが、ギルドの規模に反して修行をメインとする面子の多さが些か問題になっていたらしい。

 とはいえ、折角やる気になってくれているのだ。この流れを敢えて遮って仕事をさせるのも奇妙な話だ。それに、強くなる事は一種の先行投資でもあるのだ。現状は少し苦しくはあるが、敢えて目くじらを立てる程ではなかった。それに、幸いといえば幸いな事はある。


「まぁ・・・つっても学園の方は軌道に乗り始めたんだろ?」

「そうじゃのう・・・えっと・・・」

「こちらを」

「うむ、すまん」


 ティナは椿から差し出された書類を見る。それは天桜学園の収支報告書と言うか、活動実績に関する内容だ。


「うむ。報告書に依ると、食料自給率はなんとか100を上回った。水田も上手く機能し始めたらしいからのう」

「そうか・・・ようやくか」


 カイトはため息を吐いた。学園の方でも、生徒達は頑張ってくれているのだ。その結果がここに来てようやく出始めていたのである。


「この調子だと秋には米を収穫出来そう、かな」

「じゃろう・・・ああ、そう言えば。お主、帝国・・・ヴァルタードから帰還してより、慰安旅行の計画立てとったじゃろ?」

「ああ、そう言えばそうだったな」


 カイトはティナから言われて、そう言えばそんな計画をしていたよな、と思い出す。夏の慰安旅行よりおおよそ8ヶ月。夏の季節も終わりかけ、秋が随分と近くなっていた。と言っても季節の移り変わりは遅いエネフィアだ。まだまだ暑い日々は続くし、現に続いている。


「一応、日程の調整は終わらせておいてやった。秋の中頃には、なんとか行けるじゃろう。その頃ならば色々と落ち着いた頃じゃろうからのう・・・」

「え、マジ?」

「うむ・・・この程度、余もしてやるわ」

「サンキュ」


 カイトはティナの采配に感謝を示す。こういう内政に関してはカイトよりもティナの方が高い。カイトがやるよりも遥かに良かった。


「行き先は温泉でよかろう。たまさか燈火にも会ってはおらんからのう」

「あー・・・確かに秋の中津国はエネフィアでも一番の名所の一つだしな。それで良いか」

「紅葉に美味い飯、ゆっくりと温泉に入っておればそれだけで精神的な疲れも肉体的な疲れも癒せよう。たまさか全員が一斉に修行に乗り出した。それらの疲労を癒やす事を考えれば、良いはずじゃろう」


 今度は遊びに行くのではなく、純粋な慰安目的の旅行だ。なのでティナは海や山に行くのではなく、ゆっくりと休める中津国にしたのだろう。カイトとは別の方向からだが、偶然にも同じ結論に至ったようだ。


「ああ・・・あぁ、そうだ。ならついでだ。シャーナ様達も連れて行くか」

「ふむ・・・確かに、それは良いやもしれん。まぁ、その頃には癒えておるやもしれんがのう・・・」

「どうにせよ、当分は新たに建てる館に半軟禁状態になる。その程度の羽根を伸ばさせるのは、悪い話じゃないさ」

「ふむ・・・」


 カイトの提言をティナは推考する。考えるべきは彼女らを守りきれるかどうか、だ。が、ふと土地柄を考えてみて簡単だった事を理解する。


「それで良いじゃろう。あそこは土地柄というかなんというか、強力な魔物の巣窟のようなもんじゃ。流石に揉めておる状態で残党共が刺客を放てる程の土地ではないかのう」

「だろうさ。あそこは、おそらく国として見りゃエネフィアで一番ヤバイ土地だろ」


 カイトが笑う。中津国の魔物は基本的に島国であるからか独自の進化を遂げている事が多い。そして文化も同じく独自の進化を遂げている。そこらが影響し合った事によって、魔物も人もかなり強力なのである。

 とはいえ、人も強力である事もあって、街に展開される結界の強度も桁違いだ。さらに言えば、街々の往来の為には国が優秀な戦士達を護衛につけてくれる。魔物が強力であるが故に盗賊もほぼ出現せず、奇妙な事に安全の面で言えば大陸の有名な各都市よりも安全性は担保されていた。


「良し・・・そうなりゃ、色々と皇国とやり取りやるか」

「なんじゃ・・・随分と書類仕事にやる気じゃのう」

「ここ当分こっちの統治はソラ任せだったからな・・・アイツがやる気見せてるのなら、こっちでやってやるさ」


 ティナが少し驚いた様子を見せたので、カイトは笑いながら理由を語る。ここ当分と言うか大陸間会議が終わってからというもの、カイトはほぼほぼマクダウェル領を留守にしてしまっていた。

 これは仕事上仕方がない事であるが、そうであるが故に今回心配を掛けてしまった事と合わせて当分の間はマクスウェルを中心として活動しよう、と考えたのであった。と、そんな所にどこかからの連絡を受け取っていた椿がカイトへと報告する。


「御主人様。武蔵様がお出でです」

「先生が? どこだ?」

「今、下に」

「わかった。すぐに向かう」


 何がなんだかはわからないが、とりあえず武蔵が来たというのだ。ならば弟子として出迎えねばならないだろう。というわけで、カイトは彼を出迎える事にするとすぐに執務室を出て玄関ホールへと向かう。


「先生。どうされました?」

「おお、来おったか。いやな、少々剣の稽古をして欲しい、と頼まれてのう。儂直々に来てやったわ・・・と言っても一週間程度じゃがのう」

「先生が? と言うかお頼みしてませんけど・・・」


 カイトが目を見開く。彼の言うとおり、武蔵に頼んだ事はない。と、そんな驚いていたカイトに対して、武蔵が笑って教えてくれた。


「かかか! お主なかなか良い演説をぶち上げたらしいのう! それで、兼続の奴に頼まれてな。まぁ、夏月の奴にでも頼んでも良かったんじゃが・・・今、奴は相当修練を積んでおってのう。中津国へ足を伸ばしておる。一週間向かっては一週間こちらに戻りヤマトと稽古、の繰り返しじゃ。ヤマトも熱を上げておるからのう」

「まさか・・・あいつらも参加するつもりなんですか?」

「アニエスも、よな。久しぶりに宮本家での合流になりそうじゃ」

「い、いやっすねー、それ・・・ランクSの冒険者に匹敵する奴らなんでまぁ、いいっちゃいいんですけど・・・」


 カイトが顔を顰める。良いと言いつつも、かなり渋っている様子だった。カイト自身の同期の桜である夏月はともかく、武蔵の子供であるヤマトもアニエスもカイトからすれば家族だ。流石にこの戦いに参加はして欲しくはなかったが、向こう側がやる気を見せているのだろう。そんなカイトに、武蔵が笑った。


「かかか! 阿呆。何時までも子供扱いしてやるでないわ。父である儂が認めた。あの力量ならば、儂らの足を引っ張りはしまい。無事、生還は出来おるよ」

「・・・そうですか。要らぬ心配を致しました」


 武蔵の顔を見て、カイトはそれを了承する事にする。武蔵が大丈夫だ、と太鼓判を押したのだ。ならば、それを信じるだけだ。


「まぁ、後はお主の嫁子の何時もの訓練をさせてやれば、基礎能力も向上するじゃろう。伊達に儂の所で300年修行を積んだわけではない。信じよ、あやつらを」

「そうですね・・・傲慢、といえば傲慢だったのかもしれません」


 カイトは武蔵の言葉を受け入れる。今は、昔ではないのだ。あの時置いていった者達がすでに戦士として羽ばたいているのだ。ならば、それを拒絶するのは傲慢だろう。と、そうしてカイトが受け入れたとほぼ同時――と言うか空気を読んだ――に、藤堂が声を掛けた。


「武蔵さん」

「おぉ、おったおった。兼続、来てやったぞ」

「ありがとうございます」


 武蔵が笑って藤堂と挨拶を交わす。見れば彼らは久しく着ていなかっただろう剣道着を着ていた。一からやり直すつもりで、全員で竹刀を振るっていたそうだ。そうして、その傍ら。カイトは更にソラと出会った。


「あ、良かった! カイト、こっちか!」

「ん? ああ、どうした?」

「おう・・・って、武蔵さん?」

「まぁ、色々とあるらしい・・・で?」


 ソラは横に武蔵が居た事に驚いて目を見開いていた。とはいえ、そう言う場合ではないので、彼はカイトの促しを受けて気を取り直す事にした。


「あ、っと・・・えっとな? 軍の訓練に参加出来ないかな、って・・・」

「軍の訓練? それならアルかリィル、軍の方に言えよ。そっちは軍に任せてるからな」

「いや・・・そっちじゃなくてよ・・・ほら、お前の部隊の方あるじゃん。あっちの修行。別に部隊に参加させろってわけじゃない。修行の方に参加させて欲しいんだよ。確か、あれ、やってるんだろ?」


 カイトの言葉を受けて、ソラが申し出る。あれ、とは冒険部の活動が始まった頃に行っていた基礎ステータスアップの訓練だ。魔力量の増大の為にティナが作った訓練道具を使って身体に過負荷を掛けて基礎ステータスをアップさせるというトレーニングである。

 その『無冠の部隊(ノー・オーダーズ)』向けの訓練は今も『無冠の部隊(ノー・オーダーズ)』にて実施されているのだが、ソラは何かの縁でそれを聞きつけたのだろう。それに参加したい、と言ってきたのである。


「あれを? あれ、結構時間掛かる訓練だぞ?」

「ああ・・・当分、冒険者としての活動おやすみしてさ。ちょっともう一度ゼロからやり直したい。基礎ステータスアップして、最低ランクBにまで届かせとかないとこっから辛いだろうし・・・それに、お前の所の人達なら、色々と知ってそうだしな」

「んー・・・まぁ、基本的にあいつらならただ普通に生活するだけになってるから邪魔にはなんねぇんだろうけど・・・んー・・・」


 カイトはソラの申し出に、少しだけ頭を悩ませる。どうやら、それなりに長期の訓練期間を見込んでいるのだろう。彼の言うとおり一朝一夕で身になる訓練ではないのだ。最低でも3ヶ月以上は欲しい所だ。


「んー・・・確かに、色々軌道に乗ってきたし・・・まぁ、当分オレが滞在する事考えりゃ、お前居なくても問題はないか・・・わかった。手筈を整えておいてやる」

「うっし! サンキュ! じゃあ、準備してくる!」

「おーう・・・って、ソラ! 時々戦闘忘れない為にこっちにも顔出せよ!」

「おーう! なんか依頼入ったら教えてくれ!」

「それは自分で調べろ・・・はぁ」


 カイトはソラの言葉に半ばあきれた様に笑って、執務室へと帰っていく。と、そこには何故か、リジェと瞬が一緒に並んで立っていた。


「ああ、挨拶か?」

「俺はな。姉貴が向こうに武官として行くから、それに合わせて戻るよ」


 カイトの問いかけにリジェが笑って頷いた。大陸間会議の後から彼は魔導学園にて短期講習を受けていたわけであるが、それも一通り終わりを迎えてこれからまたウルカに戻ろう、という事らしい。

 今度帰って来るのは、秋の1月になるそうだ。今回はウルカでの滞在が長引いたそうだが、本来は3~4ヶ月に一度ぐらいは帰って来る予定らしい。というわけで、前に彼が言っていた二年ぶりというのは真っ赤な嘘だったりする。単なる気分という所だろう。まぁ、それほど久しぶりという事でもあった。


「で、先輩は?」

「ああ、俺か・・・実はそれに同行させてもらいたいんだ」

「ウルカへか?」


 瞬の提案にカイトが首をかしげる。確かに、ウルカは瞬程度の力量があればやっていけるだろう。が、遠い。大陸の反対側だ。行って帰って来るのは簡単には無理だ。とはいえ、それはそれまでの話ならば、という所だ。


「ああ・・・ソラと天道が今、龍族の力の練習をしているだろう?」

「ああ、そうだな。まぁ、ソラよりも桜の方が進んでいる様子だが・・・」


 カイトは二人の現状を思い出す。桜は4属性に長けている事がわかってからどうやら武芸よりもそちらを伸ばす事にしたらしい。これはある意味彼女にのみ許された特殊な能力だ。確かに良い判断と言えた。なのでカイトの一件とは関係なしに、彼女はティナが作った特殊な部屋で練習を重ねていた。

 それに対してソラは龍族としての力はあまり強くなかった事もあり、基礎ステータスの向上を目指す事にしたらしい。先程の彼の申し出には、そこらが関係していた。


「で、それが?」

「いや・・・鬼族の力を使えないか、と思ってな。それか、<<炎武(えんぶ)>>のどちらかか・・・」

「ふむ・・・確かに中津国行かれるよりはマシっちゃあ、マシか・・・」


 瞬の申し出の内容をカイトは考える。ウルカへ行って帰ってこれるのはリジェと同じく数ヶ月先だろう。と、少し考えたカイトだが、一度頭を掻いてため息を吐いた。


「はぁ・・・わかった。こっちで手続きはやってやる」

「ああ、すまん」

「付いて来い。ユニオンの支部に頼んで向こうと連絡を取ってもらおう」

「すまん」


 瞬が歩き始めたカイトに従って、歩き始める。時差はあるが、こちらは今昼頃。運が良ければ向こうは丁度朝方だろう。応じてくれる可能性はあった。そうして、カイト達は一度ユニオン支部へと向かう事にするのだった。

 お読み頂きありがとうございました。

 次回予告:第952話『ウルカへと』

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