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影の勇者の再冒険 ~~Re-Tale of the Brave~~  作者: ヒマジン
第51章 千年王国クーデター編

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第946話 さよならと共に

 シャリク達が大大老の大半を処刑していた頃。カイト達は御召艦に乗って、西へと進んでいた。


「・・・これで・・・終わったのですね・・・」

「ええ・・・終わりました。後は、私におまかせください」

「ありがとう・・・」


 シャーナはゆっくりと、崩れ落ちる。そうして小さく、嗚咽が聞こえてきた。


「ひっぐ・・・ハンナ・・・」


 今までずっと我慢していたのだ。後は、堰を切った様に涙がこぼれた。そうしてそれにシェルクが支えようとしてしかし彼女も泣き始め、またそれを支えようとした者達が泣き始める。


「・・・ハンナさん・・・あんた、愛されてたよ・・・」


 女達の嗚咽を聞きながら、カイトもまた涙を零す。とはいえ、前を向かねばならない。立ち止まっていてば、何時生き残った大大老達や元老院の議員達に狙われるかわからないのだ。

 シャリクが権勢を手に入れたのは王都だけだ。王都を手に入れた上にシャーナが禅譲を表明した以上王位は彼の手にあるが、各地の貴族達がそれに納得しての事ではない。まだまだ、危険は多かった。


「飛空艇、進路西へ・・・航路確定。地図展開・・・良し」


 カイトは一人、為すべきことを為す。彼の今の仕事は、彼女らを無事皇国へと送り届ける事だ。そして彼は更に、通信回線を開いた。とはいえ、モニターは使わない。ヘッドセットと同期して、音声だけだ。


「シャリク殿。カイトだ・・・手が空いていれば返してくれ」

『・・・ああ、私だ』

「そちらの状況は?」

『たった今、大大老の頭首格だったジュシュウを処刑した所だ。これで王都近辺の戦いは収まっていくだろう』

「そうか・・・」


 あちらも為すべきことを成したのだな、とカイトは複雑な感情になる。カイトはアルミナから大大老の中に裏切り者が居て、そしてそれは頭首格とされている男だ、と聞いていたのだ。まさか一番上が自分を含めた者達を殺す為に裏切っているとは思わなかったが、そうなるとここまで上手に事が進んだ事に筋が通ったのだ。


『それで、何の用事だ?』

「ああ・・・ハンナ殿の事だ」

『彼女か・・・シャーナを逃がす為にエレベーターを封じた、と聞いた。彼女は、忠臣だったのだな』

「ああ・・・女王の忠臣だった」


 シャリクの賛辞にカイトもまた、賛辞でハンナを称える。彼女は、疑うことなく忠臣だった。それを僅かにでも疑った己を二人は恥じていた。とはいえ、そんな事を話したいが為に連絡を入れたのではない。


「ハンナ殿の出生については、申し訳ないがとあるルートより知った・・・王城で息絶えたとしても、そこに葬られたくはないだろう。彼女の愛した王の側に、葬ってやりたい」

『・・・そうだな。遺体は必ず、こちらから届けさせよう』


 シャリクはカイトの意見に同意する。彼女の来歴を考えれば、王城の近くに葬られたくはないだろう。シャーナの側を望むはずだ。その意向を汲んだのだ。


『ああ、そう言えば忘れていた・・・皇国へは、シャーナ達の亡命先での費用はこちらが補填する、と伝えておいてくれ。ハンナには、伝えていたのだがな・・・おそらく彼女の事だ。船内の何処かには、それを示した書類を隠しているはずだ』

「亡命と言えるのか、それは?」

『純粋な亡命・・・ではないだろうな。とはいえ、シャーナを疎む者が居るのは事実だろう。亡命とは政治的な理由により他国へ逃れる事だ。これも十分、政治的な理由だろう』

「それも然り、か・・・わかった。ハンナ殿の遺した書類はこちらで探そう」

『そうしてくれ。私のサインが入っている正式なものだ』

「甘い男だ、あんたも」

『肉親の情はある、と・・・いや、これを言ったのはハンナにだったな。忘れてくれ』


 シャリクが少し苦笑気味に首を振った様な気配を見せる。どうやらどちらもまだ、本調子とは言い難いのだろう。


「・・・わかった。そちらはこれから頑張ってくれ」

『ああ・・・そして、こちらこそ申し訳ない。君のような少年に重荷を背負わせる事になってしまった』

「ぷっ・・・」


 シャリクからの言葉に、カイトが思わず吹き出した。まさか気付いていないとは思っていなかったのだ。ハンナが気付いていたから彼も気付いているかと思ったが、どうやらハンナはほぼ全て、墓まで持っていったのだろう。それに、シャリクが首を傾げた。


『どうした?』

「いや、いいさ。何でもない・・・それに、かわいい女の子の手助けになるのなら、頑張ってやるさ」

『口説かないでくれよ・・・と言いたい所だがもう無理か。シャーナとその子達の事を、よろしく頼む。今度来た時には、ゆっくり観光出来るようにまで回復させておこう』

「ああ・・・頑張ってくれ」

『ああ。そちらもな・・・それと泣き止んだ時で良いので、シャーナに達者でな、と伝えてくれ』

「わかった」


 二人は最後に激励を交わし合い、シャリクの伝言を最後に通信を途絶する。どうやら彼も音声のみな理由はわかっていたようだ。

 これからお互いに大変な戦いになるだろう。カイトはこれから皇国と交渉しなければならない――当たり前だが勇者だからと彼女を連れ帰る事が出来るわけがない――し、シャリクはこれから残る大大老と地元のあいさつ回りなどで参列していなかった残る元老院議員の捕縛を急がねばならない。更には他の貴族達を納得させる必要もある。どちらも別方面であるが、困難な戦いだった。


「・・・今度こそさよならだ、ハンナさん。勇者カイトの名を懸けて、絶対にシャーナ様と側仕えのメイドちゃん達は守り抜いてやるさ」


 その言葉を最後に、カイトは飛空艇の出力を上昇させていく。王都から離れた事で巡航速度まで速度を上げられる様になったのだ。が、その前に障害が立ちはだかっていた。目の前には、大大老達と繋がっていただろう何処かの貴族らしい軍勢が現れていた。


『シャーナを乗せた船だな!』

「そうだ」

『彼女を置いていってもらおうか! 禅譲を撤回させ、シャマナへと・・・』

「やれやれ・・・」


 ここで足止めをするぐらいなのだからそんな事だろうと思っていた。カイトはため息と共に、何処かの木っ端貴族の言い分を聞き流す事にする。聞く必要性なぞ皆無も良い所だ。そうして、彼は笑みを見せる。守り抜くと決めたのだ。問答なぞ無用だった。


「其は(うろ)・・・其は(くう)・・・世界を写せし影への扉をここに」


 カイトがそう告げる。その声に引き寄せられて元御召艦の横に、無数の武具が現れる。それはどれもこれもが本物の聖剣や魔剣、名刀利刀の類だった。確かに本物であるが、また別に本物はこの世界にも存在している。そんな矛盾した武器の数々だった。


「行け!」


 カイトの号令と同時。それら無数の武具達が一斉に射出される。それらは全てカイトの魔力を纏っており、聖剣や魔剣の名に恥じぬ切れ味を有していた。


「邪魔してんじゃねぇよ」


 数多の聖剣や魔剣に串刺しにされ墜落していく艦隊を横目に、元御召艦が更に速度を上げる。そうして、カイトという最強の戦士の操る御召艦はこの数時間後、千年王国の領土を後にして、大洋へと出て行くのだった。




 その光景を、遠くから一人の仮面の男が見ていた。仮面は、半分だけの道化師の仮面。『道化の死魔将(どうけのしましょう)』だった。


「・・・まったく、世話が焼けますね。とはいえ・・・これならば、彼は勇者カイトとして立ってくれるでしょう」


 道化師がため息を吐く。彼は今回実は、密かに裏からこの戦いの手引をしていた。とはいえ、それは当たり前だがカイト達の味方をした、というわけではない。そうして、そんな彼の後ろに一人のフードを目深に被った人影が現れた。


「やはり、貴様らか」

「おや・・・これはレヴィア殿。お久しゅう」


 道化師はレヴィへ向けて恭しく頭を下げる。そんな彼女は杖を構えて、攻撃の用意を整えていた。


「可怪しいと思ったが・・・大大老を逃したのは貴様らか」

「ええ、ええ。私が逃させて頂きました・・・ですが、どうやってお気づきに?」


 レヴィの問いかけに対して、道化師は楽しげに笑いながら頷いて問いかける。そう、今回彼らというか道化師がやったのは、シャリク達のクーデターから特定の、彼らの願いに合致する者をあの場から逃がす事だったのだ。


「やはりか。シャリクとジュシュウはほぼほぼ大大老達が逃げ切れるタイミングでは無い時点で事を起こした。必殺のタイミングと言える。なにせ筆頭が裏切り者だったのだからな。私も、そうなるように巡視艇の動き等を密かにコントロールさせて貰った・・・だが、数人生き延びた。それはあり得ない事だ。何処かでなんらかの変数が入った。そう考えただけだ。であれば、それは貴様らぐらいしかあり得ないと思っただけだ」

「これはこれは・・・愚問でしたね。失礼致しました」

「ふん・・・思ってもいない謝罪はするな」

「これは重ねて失礼を」


 道化師は再度、慇懃無礼に一礼する。勿論、今度は努めて真摯に申し訳なく思っている様に顔を見せて、だ。が、そんな物が演技であるぐらい、レヴィにもわかっていた。なので彼女は苛立たしげに、杖を振った。


「っと・・・暴力的なのは、相変わらずですか」

「私を苛立たせるな」


 極太のレーザーの様な魔力による砲撃を軽々と回避した道化師は笑いながら再びカイト達が去った空を眺める。


「いやはや似合いませんね、どうも。ああ、それでどういうことか、ですか? そんなもの決まっているではありませんか。この内乱を長引かせる為に、ですよ。私と貴方達は敵同士。敵の足の引っ張り合いなぞ見過ごすわけがないではないですか」


 道化師は至極当然の事を至極当然の様な顔で告げる。確かに、それはそうだ。当たり前だ。が、当たり前ならそもそもレヴィは聞いていない。


「嘘を言え。いや、嘘は無いな。だが、真実は語ってはいまい」

「おや・・・これは失敬。見くびっていたつもりは無いのですが・・・悟られますか。えぇ、えぇ。実はこちらの実験が思うように進んでいませんで・・・天才ではない凡夫の身としては悲しいかな、かの魔王様の様にはいかないものでして。些か時間稼ぎをしたいのですよ。今、勇者カイトに動かれるのは少し拙い。ですのでお三方ほどには生きて頂き、というわけです」


 道化師は本当に嘆かわしい、と手を振る。これで、レヴィはおおよそを理解したらしい。


「・・・なるほど。そういうことか」

「・・・嫌ですね、どうも。もう理解されましたか。直情的な彼とは大違いだ」

「ここで死ぬ覚悟は出来ている、という事で良いな?」


 レヴィは道化師の苦言を無視してそう言うと、問答無用に先程より遥かに高威力の魔力の砲撃を道化師へと加える。これは流石に道化師も楽々回避する事は難しい様子で、僅かな力の拮抗が生まれた。そうして閃光が生まれ、轟音が響いた。


「ふぅ、危ない危ない・・・私に勝てるおつもりですか?」

「逆に聞くが・・・私に勝てるつもりか?」


 衝撃でフードがたなびいて長く蒼い髪と凛とした美しい顔が露わになったレヴィは、道化師の問いかけに対して問いかけで返す。そんな彼女の身体からは可視化する程に強大な魔力が漂っていた。それに、道化師が僅かに気圧されて後ずさりする。


「おや・・・まさかここまで本気になられますか」

「怒らせたのは誰だ? あのタイミング・・・ハンナが死ぬ様に仕向けたのは貴様か」

「これは失礼・・・」


 道化師はレヴィの問いかけに頷いて、恭しく謝罪する。そう、あのタイミングでカイト達の所に兵士達が来たのは偶然ではなかった。カイトを目覚めさせる為、敢えて道化師がタイミングを操作していたのである。大方、大大老派の指揮官の一人は彼の偽装なのだろう。

 そうして両者の間で闘気が高まっていくが、その次の瞬間、高まりつつあった両者の闘気の内道化師の方の闘気が消滅した。


「・・・いえ、止めておきましょう。貴方も止めておいた方が良いでしょう・・・下手をすると、悟られますよ? 今悟られて良い事はおありですか? 彼が引き返すかどうか逡巡する事は貴方にとっても彼にとっても得では無いはずです。それに、貴方ならお気づきでしょう?」

「・・・ちっ」


 西の空を見ながらの道化師の提案をレヴィは苛立たしげに受け入れる。どうやら、彼女にも何らかの受け入れねばならない理由があるようだ。


「まぁ、感謝してください。どうにせよ、彼はもう一度この大陸に来なければならない。紛争を終わらせる為に。失せ物を取り戻す為に」

「・・・失せ物、か」

「ええ、失せ物です。もともと、それについてはお伝えするおつもりだったのでしょう?」

「当たり前だ。あれは悔恨の一つ。どうやってもあいつは取り戻したい物だろう。私には無理だ」

「なら、良いではないですか。それに大大老討伐という任務が増えるだけのことでしょう?」


 道化師は笑いながら、そう告げる。だがそんな彼に対して、レヴィは呆れを滲ませた。


「わかっていて、敢えて言わせるか?」

「これは失礼・・・」

「・・・いい加減に道化の態度はやめておけ。身に沁みて取れなくなるぞ」

「・・・」


 レヴィの唐突な警告に、過度に恭しく一礼していた道化師の表情が固まる。それは先程の彼と同一人物とは思えないぐらいにのっぺりとしたものだった。そうして、顔を上げた道化師が口を開いた。それは先程までの彼とは同一とは思えないぐらい、感情の滲んだ声音だった。


「敢えて、言っておこう。あまりズカズカと人の心に入り込むな」

「ふん・・・先に心を踏みにじる事をしたのはどちらだ? 道化とは真摯さがあればこそだ。貴様のそれは道化師ではなくピエロのそれに近い。時に己を出さねば、いつしか道化そのものになるぞ」

「ふん・・・承知の上だ」


 不機嫌そうに、道化師が背を向ける。彼とてこれが人の心を踏みにじる物である事ぐらい理解してやっている。良い事と思っていないのも事実だ。

 だがそれでも、彼は彼の目的の為に道化師の面を被り道化を演じているのだ。仮面は、その本心を隠す為の物だった。逆恨みに近くはあるが、わかっていてやっている事がわかっているのに指摘されて怒らぬはずはなかったのも道理だろう。と、そんな背を向けた道化師に対して、レヴィは問いかける。


「最後に、教えろ・・・どうなっている?」

「ハンナについては、当然の結末になっている。それは如何にこちらでも変えられない結末だ・・・私はそれを利用させてもらっただけだ」

「・・・そうか」

「ふん・・・」


 道化師は不機嫌そうに一瞥すると、それ以上何も言わず何処かへと消えていった。


「ふん・・・阿呆が。道化を演じる事に夢中で悪辣な事を言おうとするからだ。そこだけは、大昔から貴様の悪い癖だ」


 それに対して、レヴィも不機嫌そうに背を向ける。先に人の心を逆撫でしたのは道化師の方だ。彼女はただ、意趣返しをしてやったにすぎない。が、そうして消える直前、僅かに彼女の顔が歪んだ。


「・・・にしても、そうか・・・」


 足を止めたレヴィは僅かに悲しげに、道化師が去ったとは別の東の空を見る。まだ、戦いは完全に終わっていない様子だった。


「どうやってか、奴らはこちら側を内紛に関わらせるつもりか・・・これは難しい決断になるぞ」


 首を振って気を取り直したレヴィは最後に小さく、そうつぶやいた。彼女にはやはり、何か遠くの未来が見えているらしい。そうして、彼女はその未来を己にとっての最善にするために、再びフードを目深に被って活動を開始するのだった。

 お読み頂きありがとうございました。というわけで、もう数回ラエリア編はあります。が、今回はここまで。エピローグを挟んで、新章です。

 次回予告:第947話『その後の顛末』

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