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影の勇者の再冒険 ~~Re-Tale of the Brave~~  作者: ヒマジン
第51章 千年王国クーデター編

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第943話 二人の王

 結論から言えば。一切の容赦を無くしたカイトは確かに最強と言われるだけの事はあった。どんな攻撃も『祝福の指輪』の力と彼の持つ圧倒的な出力を背景にした障壁の前には通用せず、敵が最初の手を考えるよりも前に行動を終えていた。千年王国の兵士達に勝ち目なぞどこにもなかった。

 そんな中、シャーナ女王達はそんなカイトの絶対的な庇護を受けて、ついに一隻の飛空艇の地下格納庫へとたどり着いていた。


「・・・」

「動くな! これだけの兵力に勝てると思うな!」


 そんな彼らの前には、別のルートから地下格納庫へとやってきていた兵士達が銃口や魔法陣を向けていた。各個撃破される可能性を見た大大老派と元老院派の指揮官が急遽連携を取ったのだ。変な話だが、何時もはいがみ合う彼らはシャーナ女王殺害という奇妙な一致により手を結んだのである。どうやっても倒せない相手である事を見て、戦力の逐次投入を止めたのである。


「は・・・はははははは!」


 そんな兵士達に、カイトは嘲笑とも自嘲ともなんとも言えない笑い声を上げる。それは狂気が滲んでさえいた。そんなカイトに、兵士達は思わず気圧された。


「なぁ、おい・・・」


 笑い声が収まった瞬間。兵士達は自分達が踏んではいけない『何か』を踏んでしまった事を本能で悟る。そんな彼らに対して、可視化する程の魔力を漂わせるカイトが語り始めた。


「オレは、よ・・・長いこと地獄の底からてめぇら人類を見てきた・・・あぁ、今みたいにそいつらは連合を組んで、必死で抗ってたよ・・・すげぇ奴らさ。人類の誇りを胸に奴らは戦って、散ってった。そんな奴らとお前らが同じ人類? ははははは! 巫山戯てんじゃねぇぞ恥さらし共が!」


 カイトが吼える。それに、彼の後ろに誰もが龍を幻視して、それが吼える様を幻視した。それは大気をビリビリと震わせて、全ての魔術をかき消した。


「てめぇらが矛向けてんのはてめぇらの王様だろうが! 誰に刃向けてやがる!」


 ビリビリビリ、と大気が鳴動し、それどころか地面さえも揺れ動く。彼は本気で激怒していた。まだ、クーデターに参加した奴らは良い。彼らは彼らで国を思っての事だ。カイトとて敬意は払おう。だが、彼らだけは許せなかった。彼らの祖先と共に戦った男として、許せるわけがなかった。


「・・・」


 それに、誰も反論は出来なかった。それどころか、誰も立っている事が出来なかった。圧倒的な覇気と力と殺気。その奔流により、完全に意識が刈り取られていたのだ。


「・・・目覚めてやり直す機会があるのなら、お前らの生き方を見つめ直せ・・・それでも立ち塞がるのなら、オレが殺してやる」


 後ろに控えさせたシャーナ女王達を守る為に一撃で全てを気絶させて、カイトが告げる。この数だ。逐一殺していると時間がかかりすぎるし、彼らは飛空艇の上部にも陣取っていた。飛空艇は彼女らの脱出に使う物だ。傷付けるわけには、いかなかった。


「・・・これで間違いないな?」

「はい」


 カイトは念のために問いかけておく。目の前にあったのは、白を基調として蒼や桃色などで彩られた一隻の大型飛空艇だ。大きさはおよそ100メートル程だ。

 見える様には魔導砲は設置されておらず、見た目は単なる無防備の飛空艇だ。形状はロボット物のSFや近未来を取り扱った創作物で思い浮かべる戦艦に似た形状だ。形状としては同じ人の考える物だ。似てくるのは当然だったのだろう。


「・・・これだろうな」


 カイトはハンナの言葉を思い出す。彼女は、この鍵を渡す時に言っていた。王族専用の物の鍵には全て千年王国の国章が刻まれている、と。そして千年王国の飛空艇は最悪は一人で動かせて、操作系は一般の物と実は変わらないのだ、と。

 そうして、カイトは飛空艇用の鍵と思しき幾つかのスイッチが取り付けられたリモコンの様な魔道具を手に取った。


「・・・良し」


 カイトが昇降用タラップを下ろすスイッチを押すと、案の定目の前の飛空艇のタラップが下りてきて、一同を招き入れる。

 そうして即座に乗り込むと、カイトは内部を占拠していた兵士達を全て、外の目印(マーカー)へ向けて転移させて除外した。カイト達は二桁にも満たない人数だ。殺すと掃除が面倒になるし、数日とは言え死体が転がったままでは精神衛生上悪い。それは最善ではない。


「隔壁の開き方は?」

「飛空艇から操作可能だ、とハンナさんは仰っていました」

「そうか・・・」


 どうやら、シャーナ女王の安全の確保が出来る為の全てを遺していたのだろう。彼女が確実に脱出出来るように。それだけを考えて、全てをどこかに紛れ込ませていた。

 そんな会話をしていると、カイト達はすぐに艦橋へとたどり着いた。そこも占拠されていた様子だが、全員揃って気絶していた。それについてもカイトが即座に転移術を行使して吹き飛ばした。


「隔壁の解除は任せる。こちらは飛空艇の立ち上げを行う。荒い操縦になるだろうからな」

「「「わかりました」」」


 カイトの指示を受けて、シャーナ女王の側仕えのメイド達が一斉に行動に入る。これで、後は飛空艇を発進させて脱出するだけだ。


「メインエンジン起動・・・終了。出力30%へ上昇・・・完了・・・出力安定・・・」


 カイトは定められた手順に従って、飛空艇のエンジンに火を入れる。メンテナンスはされていると信じるだけだ。そして彼は更に、この状況で絶対的に必要なものを探し始める。


「強制コントロールの強制解除システムが絶対にどこかにあるはずだ・・・」


 このまま外に出た所で、シャリク派か大大老・元老院派どちらかの軍に即座に捕縛されるのが関の山だ。世界中に存在する飛空艇にはすべからく軍の飛空艇によってコントロールを奪う機能が搭載されている。安全の確保の為の必須装備だ。

 だが、この飛空艇は曲がりなりにも女王専用の飛空艇だ。軍が王の飛空艇を操作出来てはそれこそ大問題だ。何処かに、万が一に備えてそれらの強制を無効化するシステムがあるはずだった。


「・・・あった。これだ」


 そして案の定、それはシステムの深い階層に存在していた。カイトはそれを起動する。そして更にカイトは通信機を起動する。敵は軍用の回線を使っているはずだ。そしてカイトらの乗るこれも千年王国の船。情報が流れてくるかもしれないのだ。使わぬ道理はない。

 と、それと同時だ。いや、おそらくカイトが起動するよりも前から、連絡が入ってきていたのだろう。通信機に伝言が残っていた。カイトはそれを起動する。


『シャリクだ。ハンナ、聞いていればこちらへと連絡を送れ。脱出ルートを送信する』


 声はシャリクのものだった。どうやら、彼もハンナと共謀してシャーナ女王の脱出をサポートするつもりだったのだろう。

 勿論、本来ならば捕縛がベストだし、兵士達にはそれを命じている。が、兄としての甘さというか、彼の言うとおり肉親の情を捨てきれなかったというべきか、密かにハンナの行動を許可していたのだろう。それを、カイトもここで理解した。


「・・・シャーナ様。通信を繋ぎます」

「誰へですか?」

「兄君です。ハンナ殿はどうやら、彼と繋がっていた様子。彼からの伝言が入っておりました。着信はクーデター派の襲撃よりも前です・・・」

「っ・・・では・・・」

「ええ・・・おそらく、クーデター派の動きを察した彼女は一人、脱出の為の手筈を整えていてくれたのでしょう」


 シャーナ女王の顔が悲しみに歪む。とはいえ、今はそんな暇は無いのだ。一刻も早くここを脱出しなければならなかった。なのでカイトは即座に軍用の回線を開いた。


「・・・ハンナ殿の代理だ。この意味の分かる者は、所定の個別回線を使ってくれ」


 カイトは軍の回線の中に声を乗せる。これで何処からこの連絡が送られているかわかるのはシャリクだけだ。そうして案の定、即座に回線が開かれた。


『・・・シャリクだ。カイト、だったな』

「ああ・・・今更、何故、とは問わんぞ」

『・・・恩に着る』


 僅かにドスの利いたカイトの言葉にシャリクは深く頭を下げる。カイトに対してだけは、シャリクは申し訳無さしかなかった。そしてその理解が得られていたのなら、ただ感謝を示すだけだった。だから、カイトも問うべきことは一つだけだ。


「それで? オレ達はどうすればいい」

『・・・シャーナ。お前には、国を出てもらう』

「っ!」


 シャーナ女王の顔に驚きが浮かぶ。とはいえ、カイトもハンナがシャリクと共同して動いていた事を知った時点で、この流れを理解していた。


「自らが王となるか・・・一応、職責として聞いておこう。その道理は如何に」

『無い。道理なぞあるものか』


 シャリクははっきりと断言する。これは真実だ。カイト達にだけは、腹を割って話さなければ彼自身が彼自身を許せないのだ。

 だから、道理はないと断言する。彼は簒奪者の王として、記されるつもりだ。喩えこれ以降の彼の統治がどれだけ善政を敷こうとも、彼自身はそう捉え続けるつもりだった。


『だが・・・最早これしかない。君にも分かるだろう? 今更私がシャーナを盛り立てたとて、それは私の傀儡となるだけだ。シャーナの統治ではない・・・同じことの繰り返しになるだけだ』


 シャリクの言葉は道理だった。今までは大大老と元老院の傀儡だったのが、今度は軍の傀儡となるだけだ。シャリクが死ねば次はまた別の者がその座を引き継いで、時の王を操るだろう。そしてその果ては考えるまでもなく今と同じ事の繰り返しだろう。

 だから、彼が王として立たねばならなかった。王に権力を集中させる為に、だ。その為には、シャーナ女王は国政の中心から追放されねばならないのだ。彼女はお飾りの女王様。国民はそう捉えているし、これからもそう捉え続ける事になる。それは王位の軽視に他ならない。それを変える為には、王自らが立たねばならないのであった。


『故に、私は全ての咎を背負おう。恨んでくれて構わない。憎んでくれて構わない・・・それでも私は、この国を、千年続いた王国を、その民達を守りたいのだ』


 シャリクは真摯な目で、カイト達へと訴えかける。そこには一切の私情は無く、王として国を憂う気持ちだけがあった。彼は犠牲も全て、受け入れていた。だからこその、決断だった。

 犠牲の無い変革はない。変革とは変化である以上、それまであったものは破壊されてしまうのだ。それが多くの者達が関わるものである以上、犠牲が出ないはずがなかった。


『だから・・・すまん、シャーナ・・・私にお前は救えなかった。ハンナに任せるしかなかった』


 シャリクは半分しか血の繋がらない兄として、シャーナ女王へと頭を下げる。その顔は先程までの王ではなく、兄としての嘆きで歪んでいた。王としての彼と、兄としての彼。その齟齬が、彼を苦しめていた。

 彼はどれだけ足掻いても、王としての職責によって妹であるシャーナ女王は救えない。王という存在に権力を集める為には、シャーナ女王だけはどうやっても犠牲にするしかないのだ。

 これが、彼が言った出来る限りのわがままだった。シャーナ女王だけはなんとか救える様に、カイトとハンナを使ったのだ。カイトならば守りきれ、ハンナならば脱出まで導けると考えたのである。

 実のところ、この専用機の鍵をハンナに渡したのは彼だ。これは普段は空軍によって保管されており、必要に応じて保管庫から出されるものだ。悪用を防ぐ事を考えれば、なんら不思議のある話ではない。

 どれだけ頑張っても単なる側仕えであるハンナでは手に入らないのである。が、空軍元帥である彼であれば、その鍵の管理を任されている立場だ。盗み出す事は容易だった。


「・・・わかりました」


 シャーナ女王は兄の言葉を聞いて、その心にある兄としての想いと、王としての願いを理解する。そしてそうであれば、覚悟の決めた彼女には為すべきことが見えていた。


「・・・カイト。全域へ向けた通信の解放は出来ますか?」

「可能だ・・・だが何をするつもりだ?」

「為すべきことを」

「わかった。少し待ってくれ」


 カイトはシステムを探って、王の顔つきになったシャーナ女王の望みを達する為のシステムを探し始める。普通の飛空艇には無いだろうが、これは女王の御召艦(おめしかん)だ。ならば、演説の為のシステムは一通り揃っているはずだった。


「見付けた・・・システムはクーデター派に掌握されているが・・・シャリク殿」

『わかった。こちらが手を打とう・・・許可を出させた』

「良し・・・街全域のスピーカーをハッキングした。これで、大丈夫だ」

「ありがとうございます」


 シャーナ女王が頭を下げる。そうして、一つの演説が。千年王国の崩壊を告げる演説が、最後の女王によって始められる事になるのだった。

 お読み頂きありがとうございました。

 次回予告:第944話『譲位』

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