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影の勇者の再冒険 ~~Re-Tale of the Brave~~  作者: ヒマジン
第51章 千年王国クーデター編

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第941話 一つの決断

 クーデター派の襲撃によりクーデター派指揮官の鎧姿の男と戦う事になったカイトは、とりあえずシャーナ女王を背後に庇いながら鎧姿の男との間合いを測る。


「兄上が何故・・・」


 嘆きを滲ませるシャーナ女王の困惑の声が、カイトの耳に聞こえてくる。半ば信じられない様な気持ちなのだろう。無理もない。とはいえ、嘆いてもらっても困るのが現状だ。なのでカイトは小声で、後ろの彼女へと問いかけた。


「陛下。緊急用の脱出口は?」

「え? あ・・・えっと・・・」

「私が案内致します。カイト殿。貴方は敵の指揮官の足止めをお願いできますか?」


 カイトは困惑して思い出せないシャーナ女王に代わって答えてくれたハンナの言葉に無言で頷く。彼女がクーデター派の動きを知らないとは思えない。ならば脱出ルートは考えているはずだ。


「とはいえ脱出ルートはおそらく空軍元帥であるシャリク様もご存知だと思われます。おそらく・・・」

「わかった。こちらで奴を一度抑えて、オレがその先の道を切り開く。ハンナさんは扉までシャーナ女王をお守りしてくれ」

「わかりました・・・皆も大丈夫ですね?」


 ハンナが側仕え全員へと問いかける。侍従長たる彼女が、ここでは従者達の指揮官だ。その指示に従って、彼女らも動くだけだった。


「良し・・・ならばっ!」


 後ろの準備が整ったのを見て、カイトは地面を蹴る。シャーナ女王の警護はハンナ達に任せた。ならば己は目の前のクーデター派の足止めだ。そしてそれと同時に、敵の指揮官の鎧姿の男もまた地面を蹴った。


「ふんっ!」

「「はぁ!」」


 二人は同時に剣を振りかぶる。が、どうやらこの鎧姿の男は制式採用の物ではなく自前の物を使っていたらしい。兵士から強奪しただけのカイトの剣が一撃で砕け散る事になった。


「ちぃ! やっぱ指揮官用は金かかってんな! 一発かよ!」

「この剣は金の問題ではない!」

「っ!」


 返す刀でカイトへと剣戟を放つ鎧姿の男の攻撃に、カイトはのけぞる様にして回避する。その動きに対して男は蹴りを放つ。

 そんな男の蹴りに対して、カイトは受け止める様にして力を流して防ぎ切る。とはいえ、どうやら男はさほど驚かなかったらしい。

 そのままカイトに身を預けて己の体を右足で持ち上げると、左足でかかと落としの要領でカイトの頭を狙う。かかとの部分には、鎧の尖った先端がある。明らかに、これを狙って取り付けられたものだった。それで、カイトはこの相手が真っ当な軍人ではない事を理解した。


「っ! 冒険者あがりか!」

「俺はシャリク様の理想に賛同した! 今は、軍人だ!」

「ちっ! 厄介な奴が・・・いや、妥当か」


 かかと落としを手からの魔力の放射で強引に彼を引き剥がす事によって回避したカイトは悪態をつくも、ここの襲撃を任されるぐらいなのだから妥当だ、とシャリクの手腕を賞賛する事にする。

 と、そうして吹き飛ばされた鎧姿の男だが、空中で地面を蹴ってカイトをスルーして移動中のシャーナ女王へと一直線に進む。


「いきなり(ぎょく)は取らせねぇよ!」


 それに気付いたカイトは即座に地面を蹴る。流石に男は姿勢などの問題で<<縮地(しゅくち)>>は仕えなかった模様で、<<縮地(しゅくち)>>を使ったカイトは余裕で間に合わせる事が出来た。


「ちぃ! ランクAとは聞いていたが、若いにしてはよくやる!」

「そりゃ、どうも! そう言うってこたぁおっさんか、あんた!」


 カイトは鎧姿の男の真正面に立ち、男と取っ組み合う。そうして僅かに力の押し合いを行うが、これは当然カイトの勝ちだった。


「若者舐めんなぁあああ!」


 雄叫びと共に、カイトが数度回転して鎧姿の男を放り投げる。それに男は再び空中で姿勢を整えて、今度は<<空縮地(からしゅくち)>>を使おうとする。が、それと同時だ。二つの声が二人へと投げかけられた。


「カイト殿!」

「大尉!」


 片方は、シャーナ女王を守って逃走用の通路へと向かったハンナだ。もう片方は、鎧姿の男が率いてきた兵士達の一人だった。


「カイト殿! こちらを!」

「バリー大尉! 敵の増援です! 近衛兵団の本隊が来ました!」


 ハンナは通路の扉からカイトを招いて、兵士は扉を隔てて増援らしい者達と交戦していた。どちらも、これ以上お互いを相手にしている場合では無くなったらしい。


「ちぃ! カイトと言ったな! 見事な腕だった! この勝負はここで預けよう!」

「そりゃどうも! でも二度と会わない事を願うね!」


 バリーというらしい鎧姿の男は自分でシャーナ女王を追うよりも預かった兵士を無事に帰還させる事を選んだようだ。空中で姿勢を変えて、カイトへと言葉を送る。が、そうしてカイトの返答を聞くか聞かないかの所で、即座に指示を送った。


「こちらは俺が預かった! 第4分隊と第3分隊を除いた兵は全員シャーナ女王とあの白いロングコートの少年を追え! 気をつけろ! あの少年は手練だ! 第3分隊はここで陣形の構築! 玉座を確保するぞ! 第4隊はそのまま人質を確保しておけ!」

「ちぃ! どうせなら見逃してくれよ!」

「ははは! 冒険者だった時代にはこの程度の困難は何時もの事だったぞ!」


 カイトの罵声にバリーが笑う。冒険者崩れに相応しい豪快さがあった。と、その罵声と同時にカイトが隠し通路の入り口に入り、扉が閉じられる。

 幸いなことにまだ通路には敵は居ない様子だった。後は鍵を掛けておけば、少しは耐えられる。勿論、その少しも1分とかそういうレベルだ。即座に移動しなければならないだろう。とはいえ、一息はつける。なのでカイトは一度だけ、深呼吸をして呼吸を整えた。


「ふぅ・・・ここからはどこに?」

「このまままっすぐ進めば、今朝方話したエレベーターがあります。あれなら、直接地下の避難道へと通じています」

「そうか。とりあえずは、エレベーターまで行かないといけないか」

「前はお願いします。後ろは私が。前よりはマシでしょう」

「わかった」


 カイトはハンナの指示を受けて、前に出る。この場合は大大老派の襲撃さえあり得る前と追撃隊から逃げ切れるかもしれない後ろでは確実に前の方が危険だ。妥当な判断だろう。と、そうして歩き始めようとしたカイトに対して、ハンナがある物を投げ渡す。


「カイト殿、これを」

「っと。これは?」

「鍵です。当たり前ですが、陛下用のエレベーターには鍵は掛かっています。スペアはありますが・・・大大老達が保有しているだけですのでシャリク様が持っている事は無いでしょう。神聖王国の国章の入ったカードをエレベーター脇のパネルにかざせば、起動します」

「わかった。他のは?」

「飛空艇の鍵などです。基本的に王族専用の通路などに使う物は神聖王国の国章が刻まれています。外している暇が無かったので」

「りょーかい」


 カイトはハンナの言葉を聞いて、幾つかの鍵が取り付けられた鍵の束を腰のベルトに吊るしておく。一括管理しているのだろうが、彼女の言う通りいちいち外すのも煩わしい状況だ。故に一括で預けたのだろう。

 他にも彼女の私室の鍵や果てはシャーナ女王専用の飛空艇の鍵なぞ複数あったが、そこは気にすべきではないのだろう。


「さて・・・」


 カイトは次の手筈を考える。というのも、次に来るのはわかっている。ここで来ない道理はない。


「バリー大尉。あんた、ちょいとミスったな・・・あそこで追撃しろ、は余計だったぜ・・・」


 カイトは小さくつぶやいた。脱出の際、カイトはあの場に残っていた貴族達を確認した。そうして、気付いていた。あの場には大大老達は誰一人として残っていなかった。最後の最後で大大老がクーデター派の動きを察して、ざわめきが場を支配するよりも前に脱出していたのだ。一歩遅かったのである。

 クーデター派は大大老を一網打尽にするつもりだっただろうが、残念ながら全ては無理だろう。数人は残ってしまうはずだ。そしてそれ故、カイトは大大老の次の動きを理解していた。


「そこの角を曲がった先が、エレベーターへ通じる通路になります。真ん中の物を使ってください。左右は貴族用です」

「わかった」


 背後の轟音に紛れそうなハンナの言葉を聞いて、カイトは曲がり角へと歩を進める。そうして、曲がり角を曲がる直前。その貴族用のエレベーターではなく、左右の壁がいきなり下に移動した。


「え?」

「はい?」

「これは・・・ちょい想定外! 全員、走れ!」


 全員が、それこそスパイしていたはずのハンナや来る事を予想していたカイトさえ、目を見開いた。カイトはせいぜいエレベーターでブッキングと予想していたのだ。そして実はハンナも、そう予想していた。

 というよりも、シャーナ女王の側近の彼女らでさえ王族用の通路にこんな隠し通路が仕込まれていたなんて聞いていない。カイトとて流石に思わなかった。

 敵に知られた瞬間に終わるからだ。そして現に敵が知っていたが故に、このタイミングで隠し通路を使われたわけである。確かに、ある意味敵である大大老達からすると正しい判断だった。

 そうして、カイトの号令で我を取り戻した一同が一気に走り始める。幸いだったといえば幸いだったことは、敵もまさかここまで進んでいるとは思わず目の前でのブッキングは想定外だった、という事だろう。

 敵にとってもまさか壁の先にカイト達が居た事は想定外であった為、咄嗟のこと過ぎて判断が遅れてしまったのだ。どうすべきか、と即断出来なかったのである。


「無いよりマシだろ!」


 敵も味方も一瞬のあっけに取られている隙に、カイトは己の魔力を使って敵の出て来た扉の前に無数の大剣を突き立てて即席の壁を作り出す。即興品の上に数を重視したので強度は本当にお察しレベルになったが、それでも僅かな足止めにはなってくれる。


「っ! 急いでこの壁を破壊しろ! なんとしてもシャーナを殺せ!」

「やっぱそうですよね! ここで来ますよね!」


 響いてきた怒声に、カイトはこれがやはり大大老の手勢だったとある意味で安堵する。と、そんな彼に、咄嗟にカイトが手を引いていたシャーナ女王――当たり前だが彼女の確保が最優先――が問いかけた。


「カイト様、今のは敵だと何故わかったのですか!?」

「大大老のクソジジイどもがどう考えるかぐらい手に取るようにわかるっての! そりゃ、今が最適に決まってるだろ! ここであんた殺りゃ、シャリクの罪に仕立てられるんだからな!」

「っ!」


 カイトの答えを受けて、シャーナ女王も状況を理解する。とはいえ、大大老に対しては彼女としても信頼はしていなかったらしい。驚きも嘆きも見せなかった。

 とはいえこれで、彼女は完全にこの混迷を極める王都の中にカイトを含めて二桁にも満たない手勢だけで取り残されたわけだ。というわけで、カイトは何かを言われる前に先に答えを口にする。


「言っとくが、貴方だけ逃げて、とか言わないでくれよ! あんたの身の安全の確保! それだけがこっちにとっちゃ安全の確保の絶対条件だ! どうなってもあんたの守りについた時点でオレはあんたを生還させないとシャリク殿の雇った暗殺者か女王殺害の下手人扱い! 皇国にも戻れん! 最悪はウチのギルドだけでなく学園も拙いんだよ!」

「っ!」


 カイトから言われて、シャーナ女王がカイトの置かれた状況を理解した。彼女を救うために、カイトは共にここに逃げ込んだ。その時点で彼に残された道は共に助かって英雄となるのか、捕らえられてシャーナ女王と共に殺されて下手人に仕立て上げられるかの二つに一つしかないのだ。シャーナ女王の安全の確保はこの時点で、彼にとっても帰還の絶対的な条件となってしまったのである。


「ごめんなさい!」

「そういうなら、力を抑えとけ! ダダ漏れだ!」

「っ!」


 シャーナ女王はカイトから言われて俯き僅かに顔を朱に染める。緊張やらカイトに触れられている事やらで力が暴走しているらしく、先程から思考がだだ漏れしていたのである。

 ある意味、彼女らの力のデメリットでもあった。そうして、その会話とほぼ同時に二人は角を曲がって、カイトの目にエレベーターが見えてきた。


「見えた! おらよ!」

「何を!?」

「糸で先に起動させるんだよ!」


 ハンナから預かったエレベーターの起動キーをエレベーター横のパネルへと投げつけたカイトは、シャーナ女王の問いかけにその意図を語る。魔糸(まし)を使って先にエレベーターを起動させておくつもりだったのだ。そして、王族専用のエレベーターが起動した。出来れば走っている内にここまで来て欲しいが、そこは運だろう。しばらくエレベーター前で戦う事も考えねばならなかった。


「良し! 全員残ってる力全部で走れ!」

「「「はい!」」」

「はっ・・・きゃあ!」


 カイトは魔糸(まし)を使いエレベーターの鍵を回収すると、それを腰に即座に腰に括り付ける。と、それと同時だ。シャーナ女王が足をもつれさせた。

 どうやらカイトが手を引いていた所為で彼の速度に合わせようとして、無理をしたのだろう。息も相当上がっている様子だった。もともと彼女は女王だ。ここまで全力疾走する事は稀だろう。


「ちぃ!」


 倒れ込んだシャーナ女王に勘付いて、カイトは即座に転身して彼女を引っ張って浮き上がらせて、そのままお姫様抱っこの要領で抱きかかえる。

 今までは急がせる事だけを考えていたが、それ故シャーナ女王の体力については度外視していた。とりあえず敵陣のど真ん中を逃げ切る事が重要だったので、そこまで気を回せないのだ。勿論気にしていたので即座に対処出来たが、僅かな判断ミスというのは否めないだろう。


「行け! こっちは大丈夫!」

「あ、はい!」


 一瞬足を止めようとしたシャーナ女王の側付き達だが、カイトが即座に対応したのを見てそのまま駆け抜ける事にする。そもそも抱きかかえようがカイトの方が速いのだ。ならば、走る方が良いだろう。と、それと同時。後ろで轟音が響いた。


「っ! 貴様らは!」

「シャリク派の奴らか!」

「敵だ! 戦闘用意!」

「シャーナを追え!」

「急げ! 奴らにシャーナ女王を殺させるな! なんとしても捕らえろ! シャリク様へと譲位させねばならん!」


 どうやら、扉を破壊したクーデター派の追撃部隊と大大老派の暗殺部隊が遭遇してしまったらしい。しかも戦闘をしながらもこちらへの追撃を忘れていないようだ。完全に乱戦の中でこちらに追撃を仕掛けてきた。


「おいおいおいおい! なんでこんな所でそんな職務に忠実なんだよ、貴様らは!」


 それに、カイトが怒声を飛ばす。そんなに職務に忠実なのだったらいっそシャーナ女王の警護任務にも全力を尽くしてくれ、とカイトは言いたかった。と、そんな彼の怒声を聞いていたわけではないのだが、エレベーターが扉を開いた。機械は職務に忠実だった。


「よっしゃ! 駆け込め!」

「カイト殿、貴方は先に。なんとしてもシャーナ様の安全を。青のスイッチを押し続ければ非常用の機能が作動して、直通で指定の階へと行けるようになります」

「あいよ!」


 何時しか真横に控えていたハンナの言葉を受けて、カイトが更に加速して一同を置き去りにしてエレベーターへと駆け込む。どうにせよ誰か一人は先んじて入って扉を開けておかねばならないし、さらに言えば行き先の指定も必要だ。

 大大老の手勢がエレベーターに気付いて下へ呼び戻すかもしれないのだ。そうなれば、カイト達は圧倒的に不利だ。エレベーターの確保だけはしておかねばならない。それを考えれば、カイトが先行するのは最適だった。最悪はシャーナ女王だけでも逃がせるからだ。


「えっと・・・青・・・青・・・あった! 良し! 急げ!」

「青? え?」


 カイトはシャーナ女王を下ろすと同時に自らの体を盾にして彼女を奥へと押し込める。そうしてからパネルの中から青のスイッチを見つけるとそれを押し続けて、一同に先を急ぐ様に促す。

 最悪は左右の貴族用の非常エレベーターから敵がなだれ込んでくるのだ。スイッチを押し続けている関係と己の身をシャーナの盾にしている関係で、カイトは外に出るわけにもいかない。そうして振り返った後ろ側では、ハンナ達の後ろにはすでに敵の姿が見え始めていた。


「っ! あのエレベーターを行かせるな!」


 敵の誰かが叫ぶ。どうやら、敵もこちらが王族専用のエレベーターへ入った事に気付いたのだろう。非常用を使えば止められない事を知っているのだろう。だが、その間にもシャーナ女王の側付き達はエレベーターへと駆け込んで、最後は殿を務めていたハンナだけとなった。


「良し! ハンナさん!」


 なんとかなった。カイトは笑みを見せる。これで、とりあえず脱出任務は次の段階に移れる。そう、思った。が、その次の瞬間。彼女が扉の前で、足を止めた。


「・・・ありがとうございました、カイト様」

「は?」


 唐突なハンナからの礼に、カイトは呆然となる。そして彼が呆然となった隙を付いて、彼女は横にある外側のパネルへと手を伸ばした。


「非常用の回路は誰か一人が外から、同時に赤のスイッチを押さねば起動しないのです。同時に押す。それが、回路の作動の合図なのです・・・行き先は、お任せを。後は貴方なら、おわかりになられるはずです」

「なっ・・・」


 カイトが愕然となると同時。彼の目の前に透明な壁が上から下りてきた。それは、かつて大陸間会議の折に彼らが露わにした未知の物質で出来た壁だった。


「っ!」

『やめてください。それを破壊しようとすれば、戦艦の主砲並の出力が必要です・・・貴方様ならば出来るのでしょうが・・・それだけの力を放てば後ろの皆も死にますよ』

「ちぃ!」


 カイトが盛大に舌打ちする。最後の最後で、カイトはハンナに裏切られたのだ。とはいえ、これは悪い意味での裏切りではない。確実にシャーナ女王を生還させる為の、忠臣故の裏切りだった。

 確かに、ハンナが来ても大丈夫かもしれない。このシャッターが無かろうとエレベーターの扉は強固だ。だが、まだ万が一が。先程のバリーとやらの様に強い冒険者だった者が紛れ込んでいて、エレベーターに向けて上から攻撃される可能性があったのだ。大大老の手勢には何が居るかわからない。暗殺者として対カイトの為に腕利きが居ても不思議はないのだ。それを防ぐのなら、誰かがこのスイッチを作動させるしかなかったのだ。

 それに、今までカイトと同じく呆然となっていたシャーナ女王がようやく、ハンナの意図を理解して目を見開いた。だから彼女はカイトが青いスイッチを押し込んだ瞬間、困惑の声を上げたのだ。あのスイッチの意味を知っていればこそだ。


「ハンナ? ちょっと待って! ハンナ!?」

『シャーナ様・・・今まで五十余年・・・楽しい一時でした。どうか、お達者で』

「ハンナァァアアア!」


 シャーナ女王の叫びを最後に、エレベーターはハンナ一人を残して定められた緊急用の回路の作動に従って、一切止める事を許さず一直線に降下を始めるのだった。

 お読み頂きありがとうございました。

 次回予告:第942話『閑話』


2017年9月19日 追記

・誤字修正

 『滲ませる』が『ノジマセル』という摩訶不思議言語になっていたのを修正。

・追記

『玉』にルビを振りました。

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