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影の勇者の再冒険 ~~Re-Tale of the Brave~~  作者: ヒマジン
第51章 千年王国クーデター編

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第933話 漆黒の封筒

 カイトのロングコートから舞い落ちた金縁で漆黒の封筒を手に個室へと入ったカイトは、とりあえず個室の全ての監視をカットすると、ベッドに腰掛けて封筒を改めて確認する。


「金縁に、漆黒・・・そして、真紅の蜜蝋・・・何時だ?」


 カイトはこの封筒に見覚えがあった。が、これは決して、カイトが持ち込んだ物ではない。彼が気付かぬ内のいつの間にかに、彼のロングコートに忍ばせていたのだ。


「っ! あのタイミングか!」


 カイトは思い当たる瞬間を思い出す。それは今から1時間ほど前。空港での事だ。あの時、カイトは一人のダークエルフの女性とぶつかった。その際に、彼女がカイトのポケットに忍び込ませたのだろう。


「相変わらず怖いな、どうにも・・・」


 カイトはため息混じりに封筒の宛名を確認する。そこには案の定、己の名が記されていた。勿論、天音姓のものだ。

 この封筒は、見たことがある。いや、正確にはこの封筒の様式を、か。これはある組織の大幹部が使う密書の様なものだ。そうして、カイトはその名を告げた。


暗殺者(アサシン)ギルドの大幹部達が動くか・・・」


 カイトは封書を弄びながら、この封筒の送り主を口にする。そう、この封筒は闇に潜む所謂闇ギルドの一つである暗殺者(アサシン)ギルドの大幹部達が使う物だった。

 とは言え、この封筒は暗殺の予告状などではない。どちらかと言えば暗殺者(アサシン)ギルドの幹部達が好意的に捉えている人物に対して警告を送る為の手紙のようなものだ。警告もその対象に対して危機が迫っているぞ、という為のもので、逃げる様に促したりするものであった。


「・・・ダークエルフ・・・変装・・・とは思いたくないなぁ。最早オレの腕が信じられなくなる」


 カイトは苦笑気味に笑う。あのダークエルフの女性が誰だったのかは、カイトにはわからない。が、少なくとも誰かの変装ではあるだろう。それ故、知り合いとは思いたくなかったらしい。が、その淡い望みは淡い望みであるがゆえに、早々に切って捨てる事にした。


「いや・・・有り得んか。オレ宛だと・・・ガチでオレの暗殺やれんじゃねぇのか、あの人・・・」


 カイトは僅かに背筋を凍らせる。カイトは大半の暗殺なら無効にしてみせると豪語して、そして確かに無効にしてきてみせた。が、この相手だけは、正直自信はなかったらしい。

 一応、阻止出来るとは思っている。思っているが、大怪我は避けられないとも思っている。カイトが不安になるほどにはすごい暗殺者(アサシン)だった。その腕前は、彼のお抱えのストラ・ステラ兄妹の腕前を遥かに上回っていた。


「はぁ・・・ほんと、何時までも勝てそうにねぇや・・・」


 カイトはどさり、とベッドに横たわった。当たり前だがカイトが暗殺は対処出来る、というのにも理由がある。毒殺はまぁ、彼の身体の特質から仕方がないとしても、その他の暗殺に関しては実はこの今回来たらしい相手の手ほどきによって、対策と言うか対処法を学ばされていたからであった。

 それは自信を持てるだろう。相手はカイトでさえ暗殺出来るかも、と怯えさせる相手だ。その手腕はおそらく、エネフィア一と断言出来た。


「さて・・・まぁ、お陰で手に入ったんだ。とりあえず、見せてもらう事にするか」


 カイトは気を取り直して封筒を開く事にする。そうして出て来た手紙からは、独特な甘い香りが漂った。それは男を惑わす香の匂いだった。女が暗殺の為に使う香だから警戒しておけ、と言われた事を、カイトは思い出した。


「やっぱり、か・・・だから怖いんだよ、あんたは・・・」


 カイトは苦笑を滲ませる。これで、確定だ。カイトに暗殺術の手ほどきをした者が、カイトへと警告文を送ってくれたのである。そうして、彼は中身を確認する。


「これは・・・」


 カイトは中身を見て少しだけ目を見開く。中に記されていたのは、シャリク達のクーデターの流れだ。彼らがどのようにして動くのか、というのは流石に長さ的に記せなかった様子だが、どの様な手筈で動くつもりなのかは記されていた。そうして、彼の顔が歪んでいく。


「電撃戦による首都の陥落か・・・決行は明後日。オレの授与式と同時か。なるほどな。確かに、現在の配置なら不可能じゃない・・・ふむ・・・やっぱりシャリク殿は妻子を人質に取られていたわけか。で、暗殺者(アサシン)ギルドに救助の依頼が、か・・・あの人が動いたということは、こっちの達成は確定として良いな。なら、後顧の憂いはないだろう」


 カイトはシャリクの動きを見て、可能だと判断する。彼らは警備から外されて、全軍この王都ラエリアから北にあるヴェルフ基地という所に集められている。

 勿論、この軍の中には大大老や元老院に属する軍人も居る。なので彼らに監視させているのだろう。が、この時点で、彼らが軍人ではないという所で失態が出てしまっていた。


「失敗だな。一箇所に対象を集めればこちらから監視も討伐もしやすい、とでも考えたのだろうが・・・それは逆に敵は力を最大に整えられる、という事なんだがね・・・」


 おそらく、大大老達はこの授与式の後にでもシャリク率いる北軍を討伐する予定にして、彼らを一箇所に集めたのだろう。この様子なら南軍やその他地方の軍の用意は整いつつあると考えて良い。戦乱が拡大する事を避ける為を考えているのだろうが、これは悪手だった。


「大大老も元老院も軍内部にかなりの賛同者が紛れ込んでる事に気付いていないな。やはり軍は実情を把握しているか」


 カイトは手紙に記されていた情報から、シャリク達が上手に立ち回っている事を理解した。どこの世でも一番民衆が苦しんでいる事を把握しているのは軍隊だ。当たり前だろう。

 彼らは民衆が一番苦しい所へ向かい、それを救っているのだ。どういう風に民衆が苦しんでいるかを知っているのである。故に、上層部の官僚化した部分では腐敗も相応に進んでいるが、末端ではなんとかしたいと思っている者は多かった。

 独裁者や腐敗した官僚達はいつも、内部の軍事クーデターによって粛清の形で打倒されている。これは地球でも変わらない、ある種の道理だった。軍高官を手懐けられた事で軍全体をコントロール出来ていると考えている大大老や元老院の失態と言えるだろう。


「地方軍の一軍と首都と玉座の3つ。これさえ確保しまえば、大大老達が逃れられた所で手はない。民衆はシャリクに靡くな。後は、どうやって玉座を確保するか、か。軍とて勅令ともなればおいそれとは逆らえん。シャリクが政権を取れば、後は西部も靡く。であれば、東部と南部が心配か。さて・・・どう出るつもりだ・・・? 逃げられれば事だぞ・・・」


 カイトは完全に下手を打った大大老達の悪運が尽きた事を理解した。当たり前だが、この首都の警備にもシャリク派の内通者達は多数紛れ込んでいるはずだ。事が起きれば確実に警備は大混乱に陥るだろう。

 今頃大急ぎで大大老も元老院も内通者のあぶり出しを行っているのだろうが、流石に時間が足りなかった。今までじっと堪え続けたシャリクの指揮力と反腐敗に対する団結力、我慢強さの勝利、という所だろう。情報屋さえ掴めなかったのだ。相当な我慢をしていたはずだ。

 それを明後日までに全員の摘発なぞ不可能だ。怪しいというだけで摘発した場合、警備に穴が空く。そうなれば今度は逆に楽々とシャリク達北軍が入り込むのだ。それも出来ない。内通者が居る事を知りつつも、摘発には時間を掛けるしかないのである。後手に回った時点で、今回は彼らの負けだった。次に繋げられるかは、大大老達の運次第という所だろう。


「ということは・・・オレがやるべきはシャーナ女王を守りながらの撤退戦。いや、脱出戦か。敵は大大老派と元老院派。元老院派がどう動くかは微妙だが・・・ここまで動くなら一掃したいと思うのが筋か」


 カイトはため息を吐いた。相当困難な戦いになることだけは、確かだ。とりあえず確定の敵は大大老派。彼らは確実にこのタイミングでシャーナ女王を狙い、後継者と言われるシャマナ王女を担ぐはずだ。

 開祖の名を受け継いだものの傀儡として丁度よい少女だ、というのがヴィクトル商会からの情報だ。丁度数年前に成人したばかりらしく、このタイミングでの事件ならシャーナ女王の廃嫡を狙わないはずはない。


「・・・やれやれ。とはいえ後数日は、楽にできるか」


 カイトは封筒の書類を何時も通りの異空間に収納すると、ため息と共にとりあえずの安堵を浮かべる。


「はぁ・・・敵は多そうだな」


 カイトはため息を吐いた。兎にも角にもどうやって脱出するか、が大事だ。それを考えたい所だが、残念ながら王城の中を自由に出歩ける事は無いだろう。行き当たりばったりになるが、そこらは仕方がない。そうして、カイトは最後の懸念を口にした。


「後は・・・ハンナさんの出方だけか」


 これだけが、カイトは不安だった。彼女がどこのスパイなのかというのは、未だに不明だ。情報屋ギルドも暗殺者(アサシン)ギルドも掴めていないのだという。彼女だけは、本当に独自の思惑で動いているらしい。個人から情報を得る事は幾らその二つだろうと出来ない。何が目的なのかはさっぱりだった。


「・・・敵には、回ってくれるなよ」


 カイトは小さくつぶやいた。これが淡い願望だというのはわかっている。だが、流石に彼も馴染みの女を手に掛けたくはなかった。それが悪く思っていないのなら、なおさらだ。が、それが許されないのが戦場でもある。敵として出逢えば、殺さねばならない時もあるのだ。


「シャーナ女王を連れて、ハンナさんを捕らえて脱出・・・流石に無理か」


 カイトは冷徹に冷酷に現実を見据える。何処の国の城でも、事が起これば使い魔を出されない様に結界が展開される事になる。

 それは当たり前だが強力なものだ。王城の守りなのだ。この国で一番強固と言って良いだろう。それが展開されれば、如何にカイト達だろうと即座にルゥ達を顕現させる事は不可能だ。しばらくは時間が必要だった。そしてそのしばらくとカイトがシャーナ女王を連れて脱出に必要な時間であれば、後者の方が短い。


「・・・覚悟を決めるか」


 カイトはぐっ、と手を握る。己の手で殺さねばならない時は、殺す。それだけは覚悟しておかねばならない。重要なのは、シャーナ女王の方だ。彼女を救わねば最悪は冒険部にも咎が及ぶ。それは避けねばならなかった。と、そうして覚悟を固めてすぐ。部屋の扉がノックされた。


「あいよー」


 カイトは一瞬で険しさを取ると、気軽に返事をする。と、声が返って来た。


『シェリアです。お仕事の方は終わられましたでしょうか』

「っと、悪いな。丁度終わった所だ。鍵は開けた。入ってくれ」

「失礼致します」


 カイトの言葉を受けてシェリアが部屋に入ってお辞儀をした。そして扉を閉じると鍵を掛ける。そうして、彼女はカイトへと告げた。


「横になってください。魔術を使用します」

「どれぐらい必要だ?」

「10分ほど目を閉じて頂くだけで結構です」


 シェリアは事務的に告げる。どうやら眠る必要は無いらしい。ちなみに、地球でも西へ東へ大騒動をやっていたカイトはこれが普通に出来るのだが敢えて言うのも可怪しいし、そのための彼女らだ。従者の仕事を取るのは主として失格だろう。というわけで、カイトは素直にベッドに横になった。


「椅子を失礼します」

「好きに使ってくれ」


 カイトの許諾を受けて、シェリアはベッドの横に椅子を持っていってそこに座る。立っても出来るが彼女の背丈でも流石に少しつらい姿勢だろう。座ってやった方が良いのは良い。そうして、横たわったカイトの額の部分へと、シェリアが右手を乗せた。


「・・・意外とひんやりしてるな」

「ご不満ですか?」

「いや? 手が冷たい奴は心は温かい、と言うからな。意外とそうなのか、と思っただけだ」

「左様ですか」


 シェリアの事務的な態度の中に少しの照れを見て、カイトは笑う。所詮時差ボケは体内の生活リズムと外側のリズムが崩れている事によって起きる一種のズレだ。であれば、魔術を使って強引に体内の生活リズムを整えてやれば、何も問題もなく活動が可能になる。

 そうして、カイトはゆっくりとだが今まで感じていた心身の気だるさが薄れていくのを自覚する。如何にカイトと言えども人だ。時差ボケはある。


「・・・」

「・・・」


 しばらくの間、両者の間に沈黙が降りる。シェリアは無口なタイプだし、カイトは心身のバランスを整えている事の副作用でリラックスしており、何かを発したい気分ではない。と、そうして治療が終わった所で、シェリアの手がカイトの額から退けられた。


「終わりました」

「んぁ・・・ああ、助かった。随分と楽になった・・・まぁ、眠気はまだあるが・・・それは我慢するか」

「別に今からお休みになられても問題無いかと思われます」

「変な時間に起きちまうからな。まぁ、寝だめするのもありかもだが、な」


 カイトは笑う。何かやれるわけではないし外には出れないだろう――要らない事を知られない為――が、とりあえず折角の他国だ。寝通しなのも勿体無い。と、そんなカイトに対して、シェリアが申し出た。


「あの・・・カイト様」

「うん?」

「もしご入用でしたら、今からお相手させて頂きますが・・・少なくとも三日ほどはご無沙汰と理解しております。男性ならば、溜まっておられるのではないかと愚考致します」

「あー・・・いや・・・必要はない」


 かなり緊張を滲ませるシェリアの申し出に、カイトは苦笑混じりに首を振る。先も言ったが、別に彼女らを抱くつもりは毛頭ない。そして彼女らはそう言う目的でも出された従者であるが、ここで抱く抱かないはシアの時とは違い彼の勝手になる。問題は無いだろう。と、そんなカイトに対して、シェリアが申し出た。


「・・・あの子を、抱くおつもりですか?」

「・・・姉妹とかなのか?」

「私が姉です・・・と言っても母は違いますが・・・」


 シェリアはカイトの問いかけに対して、そう実情を明かす。わかっていた事だが、やはり王城のメイドともなるとどこかの貴族の落胤なのだろう。

 とはいえ、シャーナ女王の側付きだ。本来ならば高貴な出が予想されるが、ここでの彼女の扱いを考えればどういう出自かは安易に想像が出来た。

 おそらく、どこかの名家の貴族が戯れに孕ませた子なのだろう。扱いも良いものとは思えなかった。そう言う意味では、この女王の私室の近辺は総じてこの王城でも爪弾きにされる者達のエリアなのだろう。


「そうか。道理で似てると思った」

「ありがとうございます」


 カイトの言葉にシェリアは僅かに笑みをこぼした。ここで見た初めての彼女の笑顔だった。どうやら、カイトの読みは正しかったようだ。姉妹ぐらいしか信頼のおける者はいないのだろう。


「とはいえ、まぁ、抱くつもりはない・・・ぶっちゃけると、帰ってバレると拙いんだよ。で、抱きたくても抱けないわけ」

「左様ですか」


 カイトの言っている事は真実ではなかったが、同時に嘘でもなかった。ここで彼女らを抱けばカイトには報告の義務が生ずる。で、流石に差し出されたから抱きました、では確実に桜達の悋気を買う事になるだろう。黙っておけば良いと思うが、絶対にどこかでバレる。

 何が起こるかわからないのが、この世の中なのだ。女性関係で大丈夫と高を括って摩訶不思議な事態からしくじった経験は山ほどあるのだ。それがわからないカイトではない。伊達に10年以上も女性達に囲まれているわけではなかった。


「ま、そういうわけだから。まぁ、とりあえず本でも読んでおくから、そっちものんびりしておいてくれ」

「かしこまりました」


 カイトの言葉に、シェリアがお辞儀してその場を後にする。そうして、カイトはとりあえず読書をするフリをして、以前この王城に来た時の古びた記憶を頼りにこの場からの脱出計画を練る事にするのだった。

 お読み頂きありがとうございました。

 次回予告:第934話『クーデターの予兆』


 2017年9月15日 追記

・誤字修正

『決行』が『結構』になっていた所を修正しました。

『覚悟を決める』が『覚悟は決める』になっていた所を修正しました。

『上手に立ち回っている』から『立ち』が抜けてしまっていた所を修正しました。

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