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影の勇者の再冒険 ~~Re-Tale of the Brave~~  作者: ヒマジン
第51章 千年王国クーデター編

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第931話 千年王国

 さて、千年王国の最後の派閥であるシャリク派のクーデター最後のピースであるカイトだが、ハンナの入国申請のおよそ1時間後に、神聖王国ラエリア王都ラエリアへと到着した。


「ここが、ラエリアね・・・何時見ても荘厳な景色だこって」


 カイトはハンナに入国申請などを任せると、一人空港の眺めの良い場所から千年続いた王国の王都を観察する。どこか雑多な印象のあるヴァルタード帝国帝都アニエス、活気あふれていてまるで日本のゲームさながらの印象を受ける皇都エンテシアに対して、王都ラエリアは西洋の映画で描かれる荘厳な城下町の印象を受けた。

 建屋の殆どは高さ制限がされている為かさほど大きくはなく、更には都市計画がきちんとされているからか町並みは綺麗だし、建物もきちんと一定の意思を以って整えられている。

 建物の多くは白系統の石造りだ。他も品の良い木製だ。街そのものが幻想的な印象を受ける町並みだった。そうして町並みを確認したカイトは、この街で唯一高さ制限から除かれている巨大な建造物に目をやった。


「ノイシュバンシュタイン城も劣るだろうね、あれには・・・」


 カイトは目の前にある巨大な白亜の城を見る。系統としては、彼の言うとおりドイツ南部のノイシュバンシュタイン城と似たような感じだ。が、規模はあれを更に上回り、荘厳さも桁が違った。

 こちらはノイシュバンシュタイン城とは違い、依頼人の死去などで中断されたわけではないからだ。完全に完成していたのである。当然といえば、当然だっただろう。

 更に言えば、あちらが周囲がかなり木々に囲まれているのに対して、こちらは城下町という本来は城には不可欠な物も完備されている。実用性の面でも、こちらが上だった。

 そんな荘厳な城なのに、仕切っているのは腐った老人達だ。カイトの口調がどこかため息混じりだったのは、そう言う理由だったのだろう。


「・・・さて。どうなりますかね・・・」


 カイトは改めて、今の己の状況を確認する。こちらの手札は皆無だ。身一つで、ここに乗り込んだ。流石に彼でも他国の船で他国に何かを忍び込ませる事はできなかった。決まったのが急だったのも痛い。とはいえ、だからといって何なのだ、という所だ。


「さて・・・警備は厳重。確かシャリク派は北部のヴェルフ基地を中心としている、だったか・・・」


 カイトは出発が決まってからヴィクトル商会に頼んで入手してもらった情報を思い出す。その中でも重要なのは、これだった。


「シャリク派というか北軍は今回の警備任務から除外された、か・・・どうする?」


 カイトは上空を警戒する飛空艇を見ながら、シャリクの思惑を考える。シャリクとその手勢達は警戒された事により、警備任務から外されたらしい。

 となると、上空で飛んでいるのは大大老と元老院の息の掛かった手の者達だろう。ここで事を起こすのは容易なことではない。


「少々、読みが外れた感があるか・・・」


 カイトはわずかに苦味を見せる。今回、そこまで大事にならないと思っていた。思っていたが、この調子だと大規模な戦闘が一度か二度起きる可能性はあった。そしてその一度は、ここで起きる可能性は高かった。レヴィも読み違えたという所だろう。百発百中の戦略家なぞ居ないのだから、仕方がないこととカイトも諦めていた。


「ヤバイな・・・」


 カイトは一番最悪な状況があり得る事を理解する。彼は口にする事はなかったが、それは彼がシャーナ女王の暗殺の下手人にされてしまうことだ。この場合、大大老派がこのクーデターの動きに乗じて動くと見て良い。そしてシャリク派がそれに介入してくる、という筋書きだ。

 この場合、カイトは孤立無援で動かねばならなくなる。冒険部にも咎が及ぶ可能性はあるが、そこはシャリクとの交渉次第だろう。そして彼の事だ。大大老を悪く見せる為には、カイトに罪を擦り付けた事を大々的に公表してくれるだろう。

 だが、この場合、カイトは大大老の討伐にも協力しなければならなくなる。そうしないと冒険部には帰れないからだ。


「・・・まずこの場合やるべきことは・・・シャーナ女王の確保か。シャリク殿は味方と考えるべきだな」


 少なくとも、現状から考えればシャリクが敵に回る事はない。カイトはそれを予想する。というよりも、カイトを敵に回す理由がないのだ。

 彼を下手人にしたとしても、シャリクは乗り込む為にそれを利用したとてシャーナ女王さえ確保しておけば逆にカイトを保護した功労者として喧伝出来る。大大老が日本人を巻き込んだ、という風にも触れ回れる。有利にしかならない。

 とは言え、クーデター勃発時には一度は敵として戦わねばならない。その時点では表向きカイトには相手が不明だからだ。シャリク達は正体不明の襲撃者として、カイトが対処しなければならないのである。


「怖いのは・・・これに乗じて始末しよう、としてきた場合か」


 カイトはシャリクの思惑で一番の最悪の可能性を口にする。一番怖いのは、これだ。シャリクまで率先してシャーナ女王を廃嫡する、という事だ。これもあり得る。

 が、その場合はカイトを招き入れる事に矛盾が生ずる。カイトの実力は彼が一番良く知っているはずだ。守りきれる可能性が高い事ぐらいわかっていて、敢えてその近くに呼び寄せるべきではないだろう。なので、一番可能性が高い事で想定する事にした。


「・・・一番の可能性は、己が事を起こした際にシャーナ女王がその事に乗じて大大老達に殺される可能性か。それを防ぐ為に、オレを中心へと招き入れた、か。多分、これかな」


 カイトはそう言うと、気合を入れ直す。この場合、敵は事に乗じて始末しようとする大大老と元老院だけで、シャーナ女王をシャリクへと引き渡せばカイトの勝ちだ。

 シャリクらが恐れるのは、シャーナ女王が殺された挙句にそれを自分達の所為にされる事だ。この場合、一気に自分達は反逆者へと貶められる。そして大大老達はシャーナ女王の暗殺を急いでいると言う。この機に乗じて、彼女の命を狙う事は容易に想像出来た。


「良し。ま、やるこたぁわかった。いつもどーり」


 となると、彼は安堵を滲ませる。やるのは何時もの事だ。かわいくて優しい女の子を守ってお兄さんに引き渡して、自分は帰還する。ついでに勲章が貰える、というだけだ。彼が300年前からやってる事と殆ど何もかわらない。


「さて・・・じゃあ、乗り込む事にしますか」


 カイトは見ていた外から後ろを向いて、背筋を正す。見ればハンナは全ての手続きを終えてくれたらしく、こちらに向かってきていた。


「終わりました。どうですか? 我が国は」

「荘厳ですね。これは圧倒される。これでも、神殿都市は見てきたんですけどね」

「勇者殿の白亜の都市も、これには勝てませんか」


 カイトの言葉にハンナが少しだけ上機嫌に頷いた。やはり彼女もラエリアの民として、自分の都が他国でも有名な都市より上と褒められれば――それが喩え社交辞令だったとて――嬉しいのだろう。


「さて、では、こちらへ。空港の者が王城へと言って馬車を回してくれています」

「ありがとうございます」


 カイトは少しだけ上機嫌になったハンナに導かれて、空港を出るべく足を進める。と、空港を出た所でカイトはふと、一人の女性とぶつかってしまった。原因は相手の不注意だ。

 ダークエルフの女性だったのだが、どうやらここまで大きな街に来るのは初めてなのか周囲をキョロキョロと見回していたのだ。更には地図を片手に、である。どこか浮かれている気配もあったので、所謂お上りさん、という所なのだろう。


「っと、失礼」

「ああ、いえ。こちらこそよそ見をしていました。お怪我は?」

「ああ、いえ。そちらは?」

「こちらは、特に。では・・・えっと・・・『森の小人』亭は・・・」


 二人はそれを最後にうなずき合って女性は地図を見る作業に戻り、カイトはその場を後にする。が、その時にはハンナが少しだけ、機嫌を損ねていた。


「不注意ですよ」

「いや、流石に今のは許してくださいよ・・・」

「冒険者なら、避けてみせなさい」

「はーい」


 カイトは不満げに、返事をする。相手の不注意でぶつかられたのに、この対応。幾ら勲章を授与されるとはいえ、どうやら彼女のカイトに対する評価はあまり変わっていないらしい。そうして、そんな事を幸か不幸か確認して、カイトは馬車に揺られて王城へと案内される事になるのだった。




 さて、王城へ案内されたカイトであったが、まずは本題であるシャーナ女王へのお目通りをするように、と言われて彼女の私室――彼女の仕事は午前に終わる――へと案内された。


「シャーナ様。お客人を連れてまいりました」

『入って頂いてください』


 部屋の中から、シャーナ女王の声が返って来る。その声が僅かに嬉しそうなのは、やはりカイトの気の所為では無いだろう。


「失礼します」

「カイト!」

「陛下。少々、お下品ですよ」


 カイトが部屋に入るなり喜色満面の笑顔を浮かべたシャーナ女王に対して、ハンナが苦言を呈する。やはり嬉しかったらしい。しかも別れを交わせなかった事でより一層、期待が膨らんでしまったようだ。


「あ・・・失礼しました」

「はい」


 照れた様子で小さく頭を下げたシャーナ女王を見て、ハンナが微笑ましげに頷く。彼女は乳母であるが、同時にお世話役として躾けもやっていたらしい。そうして、そんなまるで親子の様なやり取りを横目に、カイトは跪いた。


「貴方の道化師・・・と言いたい所なのですが、流石にあんな事があったのであれは廃業致しましょう。ということで、貴方の騎士カイト。女王陛下のお招きにより、ここに参りました」

「はい、よく来てくださいました」

「どこが道化師を廃業なのですか・・・」


 楽しげなシャーナ女王に対して、ハンナが呆れ100%の顔でため息を吐く。当たり前だが、カイトとてわかってやっている。そしてそんなハンナに対してさえ、シャーナ女王は楽しげにしていた。と、そんな彼女だが、やはり女王なので職務は忘れていない。


「過日は碌な挨拶も出来ずに別れになった事、まことに申し訳ありませんでした」

「いえ、あの時は仕方がありませんでした。大大老方も激闘で疲労していた我が身と活躍した我が同胞の状況を慮り下してくださった恩義でしょう。確かに別れの挨拶は交わせませんでしたが、この事を恩義と捉えこそすれ、恨みなぞ致しません」


 カイトはシャーナ女王の謝罪に対して、笑って首を振った。当たり前だが彼の降板には何らかの理由があっての事になっている。その理由が、これだった。

 表向きと言うかあの時の戦いでは、カイト本人の影でカイト――少年版――が孤軍奮闘していた事を一応ユニオンを通して各国へ通達されていた。これは論功行賞を行わねばならない関係と、彼が何処に居たのか、という疑問を逸らす為にレヴィがした隠蔽工作の一環だ。

 それに対して、こちらはほぼ全ての国が確認していた事として、冒険部が弥生と八咫烏の助力を受けて特段の活躍をしたことはプロパガンダの一環として各国が利用していた。日本人の集団が活躍した、というのは勇者カイトが居ないとされている現状では非常に民衆受けするのだ。使わない道理はなかった。

 であれば、これら冒険部の活躍と本人の活躍を合わせて同胞が心配だろう、としてカイトを降板させても不思議はなかったのである。勿論、表向きは千年王国側が恩を掛けてやった、とする事も出来る。大大老達にとっても万々歳の策だった。


「とはいえ、碌な挨拶もできなかったのは事実・・・ああ、そうでした。ご同胞は無事でしたか?」


 シャーナ女王はカイトからの表向きの言い訳を聞いて、冒険部についてを問いかける。ここらは彼女も心配してくれていたので、社交辞令とは言い難い。


「はい。幸いにして遺跡に遺されておりました我が国の神物のご助力により、誰一人として欠けること無く」

「そうですか。さすがは日本人、と言いたい所ですが、皆様の頑張りの賜物でしょう」


 シャーナ女王は笑いながら、カイト達の努力を賞賛する。そうして、しばらくの間カイトはシャーナ女王との束の間の対談を楽しむ事になるのだった。

 お読み頂きありがとうございました。

 次回予告:第932話『変な誤解』

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