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影の勇者の再冒険 ~~Re-Tale of the Brave~~  作者: ヒマジン
第51章 千年王国クーデター編

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第929話 千年王国へ

 カイトが冒険部に帰った後。とりあえずカイトは早急に上層部の一同へと招集を掛けた。


「と、いうわけだ。勲章の授与。行って来い、って事になった」

「勲章・・・すごいな」

「先輩・・・あんたも勲章に似たの貰ってんでしょうが。と言うか、皇国での対外的に関して言えばあんたの方が知名度高いんだが・・・」


 勲章の授与がある、と説明された一同だが、そこで瞬が驚いていた様子があったのでカイトが笑いながら忘れていそうな事を告げる。が、彼はいまいち実感が無いらしい。


「うん? そんなのあったか?」

「アルと一緒に皇国から二つ名授与されてるだろ。あれは無形だが一種の勲章と一緒だ」

「そうなのか・・・」


 瞬は今まで名乗る事も殆どなかった二つ名の意味を教えられて、今更ながらにあれがすごかったのだ、と理解したらしい。彼はあまり使わなかったが、実はあれを使えば結構なコネを得られるのであった。

 ここら、無形の道具の使い方がいまいちなのは彼の悪い点だろう。良く言えば愚直、悪く言えば脳筋。それ故に道具の価値などはいまいち理解していないのであった。


「まぁ、良いか。とりあえず、というわけで長くて二週間ほど出掛ける」

「そんな短くて良いのか?」

「勲章授与されて帰って来るだけだ・・・まぁ、その帰って来るのがとんでもなく面倒な話になりそうなんだけどな」


 カイトが小声で顔を顰める。本当にそうだった。そしてだからこそ、全員を集めたのだ。


「さて・・・一応直近でそんな話は無いだろうが、一応念のためだ。当分千年王国近辺へは出入り禁止だ」

「どういうことだ?」

「ちょっと危険があるかも、って情報屋から連絡が来てな。まぁ、近々討伐隊でも組まれる様な仕事があるんじゃないか? 詳しい事は流石にオレでも他大陸の事はわからん。が、下手に巻き込まれても面倒だろ」


 カイトはソラの問いかけに一応の所の念押しをしておく。クーデターの事は外に漏れると厄介だしまだ確定情報でもないので何も伝えないが、それでもこの程度はしておく必要があった。

 これで、しばらくは誰も近づかないだろう。勿論、実力から足を伸ばそうとする者もいないはずだ、とはわかっていたが金さえあれば行けるのだ。そして、彼らでも活動出来る場所がある事は事実だ。なら念押しは必要だろう。


「わかった。じゃあ、授与式の間ぐらいこっちを守ってりゃ良いわけか」

「そういうこと。ま、そういうわけだから行って帰って来るだけだしな。それに幸い、千年王国の王都はそこまで言うほど遠くはない。緯度がさほど変わらないからな。気候は少し寒いぐらいだ」


 カイトは笑いながら、何も問題はない、と明言する。わざわざ怖がらせたり心配を掛ける必要はないのだ。


「まぁ、行き帰りは送ってくれる、って話になってるし、今回は軍用機の払い下げ品らしいからな。危険はないだろう」

「軍用機・・・速度はやっぱ違うのか?」

「まぁ、そうなるだろうなぁ・・・」


 カイトはソラの問いかけにおそらく、と答えておく。軍用機と言っても正確には軍用機を王城用にしたもので、正確には民間機の立ち位置だ。なのでスペックとしては軍用機と変わらない。

 大きさは速度重視の小型艇らしく、ハンナは一人で来たそうだ。まぁ、使者が仰々しい行列や大人数で来ても可怪しいだろう。しかも今回はこの様子だと公の仕事として来たのだ。皇国側に隠す理由もない。そして道中の途中までは軍が警護についていた事は想像に難くはない。であれば、小型艇一隻でもなんとかなったと考えて大丈夫だろう。


「さて・・・ってわけで、まぁ、早けりゃ一週間で帰って来る。軍用機なら2日の距離だからな。時差だの何だの考えりゃ、アメリカ行って帰って来るのとさほど変わらん」

「そか・・・なら、今回はほんとに楽になりそうかー」


 ソラが安堵の表情で椅子に深く腰掛ける。カイトが外に出る度に、彼が代理として駆り出されるのだ。泣き言を言いたくなるのも仕方がない。


「「「あはははは」」」


 そんなソラの様子に、一同が笑い声を上げる。そうして、カイトはこの日ささやかな壮行会が開かれるだけで、明日の朝には密かに空港へと向かう事にするのだった。




 さて、明けて翌日。カイトは密かにティナと打ち合わせをしていた。


「まぁ、一応の救助の手筈は整えておる・・・が、流石にクーデターの真っ只中に乗り込む事は出来んじゃろうし、そもそもこちらから察する事は出来まい」

「だな・・・あー・・・やっぱ衛星通信による通信網は完璧にしておくべきだったかー・・・」


 カイトは間に合わなかった通信網の確立を嘆く。これさえあれば、ティナと頻繁に連絡をとりあえたのだ。そうすれば、脱出もしやすくなった。


「しかたがあるまい。とはいえ、次弾打ち上げやらの目処は立てておいてやろう。後は、お主に任せるしかない・・・ここでお主以外に出来んのが厄介な所なんじゃのう」

「それな」


 ティナが嘆いた点を、カイトが笑う。まさにその通りで彼しか行って帰れないのが難点なのだ。いや、一応言えばティナでも可能なのだが、その場合は外から総指揮を行える者が居なくなる。結果、カイトだけなのが痛い所だった。


「はぁ・・・とりあえず今回は昔ながらの方法で脱出するしかないか・・・」

「うむ。一応、何時でも三人娘が行ける様に準備は整えてやるが・・・やるが、まぁ、お主の場合は向こうで飛空艇を奪取して単独で離脱するか、ユニオン本部へと行って保護を要請するか、とした方が早いじゃろう」


 ティナは昨日のカイトと同じ事を告げる。彼女としてもクズハからどうすれば良いか問われたが、答えたのはこれだ。カイトの場合ユニオン本部に伝手がある為、そちらを頼った方が早いのだ。

 そしてもしカイトでなくても、こちらから迎えを出してもらう場合でもユニオン本部へ行かねばならないのだ。結局変わらない。


「仕方がない。頑張るとしますかね・・・」

「そうせい。ま、最悪は姉上・・・は誰もおらんか」

「ティアは現在浮遊大陸をこちらへと移動中、グライアはどこかへ旅行中、グインは・・・」


 カイトは上を見上げる。そこは己の寝室だ。


「何時もの様にお休み中、と」

「最悪はグイン姉上に頼め」

「そーする」


 カイトは最悪の最悪の手段を言及されて、苦笑混じりに同意する。それぐらいが、今回準備出来る事だろう。そうして、彼は一人で空港へと向かう事にするのだった。




 カイトが空港に到着すると、ハンナが待合室で待っていてくれた。


「スーツは?」

「用意しています」

「よろしい。では、向かいましょうか」


 ハンナはそう言うと、読んでいた書類をカバンへ入れて立ち上がる。


「飛空艇は何処に?」

「20番格納庫をお借りしています」

「運転は?」

「私が可能です」

「じゃあ、お願いします」


 歩き始めたハンナに従って、カイトもまた歩き出す。そうして、しばらくすると飛空艇があるという個人所有の格納庫へとたどり着いた。

 そうして二人を出迎えたのは、小型の飛空艇だ。速度重視の為か形状は流線型に近く、常時で対魔物用の隠蔽の為の結界を展開出来るタイプの物だった。確かに、ハンナが乗るには過不足ない機体だろう。


「へー・・・」


 やっぱり女王の側仕えとなると良い物を使わせてもらっているのだな、とカイトは思う。一応聞けば台所などは無いらしいが少しぐらいは滞在出来る様にトイレとシャワーぐらいはあるらしい。


「さて・・・では、行きましょうか」

「はい」


 ハンナはそう言うと、懐から鍵を取り出してスイッチを押し込んで、搭乗口を開ける。中は少し狭いが、品の良い内装に椅子とテーブルがあった。

 と、そうして内装を確認していたカイトは、出発の用意を整えるハンナへととりあえず必要な所を問いかける。一応は高空を飛ぶのだ。竜種と出会う可能性があった。


「寝ずの番は?」

「必要はありません。この船に搭載されている結界は我が国が開発した良い物を使ってあります。さらに言えば、整備も出発前に終わらせています。効果切れ等もあり得ません」

「なら、安心ですか」


 カイトはそう言うと、邪魔にならない様に手頃な椅子に腰掛ける。ちなみに、どうやら土足厳禁らしく靴は脱がされた。


「ああ、そうだ。ベッドの確認をお願いします」

「ベッドの?」

「ええ。二つあるのですが、左側を使ってください。不満があれば、ソファをどうぞ。右側は私が使っているのですが・・・まさか使いませんね?」

「あっははは。流石に理由も無しに女性のベッドを使うほど、オレも不躾じゃないですよ」


 カイトが笑いながら、リビングらしい空間の後方に向かってベッドを確認する。流石にこんな飛空艇なので質はお察し、というレベルだが、それでも寝れるだけ御の字だろう。まぁ、一応の所その事を確認しておけ、という所だろう。が、気になったのはそこではない。


「・・・近かねぇですかね、これ・・・」


 カイトは苦笑する。一応、間にスペースがあるが手を伸ばせば触れられるほどには近い。まぁ、飛空艇の大きさを考えれば仕方がない所だろう。


「良し。これならまぁ、良いか」


 どうせ冒険者として野営は慣れている。ベッドで寝られるだけ御の字だ。なら、文句はなかった。


「はい、大丈夫です」

「よろしい。ではこちは空港から許可が出ましたので、シートベルトを」

「はい」


 カイトはハンナの言葉に従って、コ・パイロットの所の席に座ってシートベルトを装着する。一応3人目の座る為の席がこの後ろにあったが、それはわざわざ出さねばならない類の席だったので使わなかった。

 この様子だと、この飛空艇は最大でも三人までの用途で作っているのだろう。個人で活動する冒険者向けには使えそうだった。


「良し・・・そう言えば、装着などに迷いはありませんでしたが・・・免許をお持ちなのですか?」

「ええ、一応は。軍用の物も使えるものです。昔公爵家から手習いをしていましたからね。その折に、一応ギルドのトップとして必要だろうと取らせていただきました」

「そうですか・・・なら、万が一の場合でも安心ですね。我が国の飛行艇は実はシャーナ様の専用機さえ、単独で操縦が可能です。私が風邪などで寝込んだ場合はこの飛空艇の操縦はお願いしましょう」

「引かないでくださいね」

「一応です」


 ハンナはカイトの言葉に彼の方を向くこともなく、頷く。操作に集中しているらしい。と、そうしてしばらくして、どうやら発進許可が下りたらしい。ゆっくりと飛空艇が動き始めた。


「では、発進します」

「はい」


 ゆっくりと動き始めて少し。飛空艇が浮き上がり、マクスウェルを後にする。ここら出発の手続き等は、ヴァルタード帝国も皇国も千年王国一緒だ。大本にカイトとティナという根っこがある以上、これは当然といえば当然の流れだろう。そうして、カイトは一路、千年王国へと向かう事になるのだった。

 お読み頂きありがとうございました。

 次回予告:第930話『閑話』

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