表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
影の勇者の再冒険 ~~Re-Tale of the Brave~~  作者: ヒマジン
第51章 千年王国クーデター編

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

948/3949

第928話 異大陸からの来訪者

 クズハからの伝言によりカイトがマクスウェル付近に新設された基地から移動していた頃。クズハはハンナとの会合を持っていた。

 確かに今回の用向きはカイト――ひいては冒険部――にあるが、曲がりなりにも大国の女王の側仕えがやってきたのだ。ハンナとしてもマクダウェル家に挨拶の一つはしないと千年王国としての面子が立たない。ある意味、当たり前の流れではあった。


「お久しぶりです、クズハ殿」

「確か・・・ハンナさん、とおっしゃいましたね? 今回はどの様なご用件でしょうか」


 ハンナの挨拶に対して、クズハは疑う素振りを見せる。二人に面識はある。方や女王の側近で、かたや大陸最大の都市を治める統治者だ。しかもクズハは英雄の義妹だ。面識が無いはずはないだろう。

 そして当たり前だが、彼女はカイトからクーデターの話を聞いている。この状況での来訪だ。疑わない方が不思議だろう。


「いえ・・・女王陛下より、依頼を持って来たというだけです」


 ハンナはクズハの問いかけを受けても、どこ吹く風という所だ。彼女とて千年王国の中で女王の側仕えとして生活している。疑惑の眼差し程度はさらっと受け流せる。


「依頼・・・ですか? 差し支えなければ、お教え願えませんか?」

「別段問題はありません。ただ女王陛下がお寂しい思いをされておりますので、彼を呼び立てようというだけにございます」

「その様な為だけにわざわざ大陸を渡ったと?」

「女王陛下の思し召しであれば、喩え異大陸だろうと足を運びお望みの物を調達してくるのが、臣下の務め。であればこそ、と存じ上げましょう」


 クズハの問いかけに対して、ハンナは一切の迷いも惑いも見せずに受け答えする。そこには一切の偽りは見えなかった。


「では、それだけ、と?」

「ええ、それだけです」


 ハンナは一切の迷いも無く断言する。とはいえ、クズハとてこんな所で本当の事を言うとは思えない。そして残念ながら、クズハ達はクーデターを掴んでいるとは言えない。そうして、そんなクズハに対してハンナが問いかけた。


「・・・もしや、依頼をお止めになるおつもりですか?」

「いえ、そんな事はありません」


 今度はクズハが即座に返した。当たり前だが、そんな事をしてしまえば外交問題に発展する。幾らクズハでもここで依頼が疑わしいからと差し止められるわけがない。彼女に出来るのは、前もって探りを入れるだけだ。本格的に関われるのは、カイトだけだった。

 と、そんな風なやり取りがしばらく交わされた後、クズハの側で待機していたフィーネがクズハへと耳打ちした。


「来られました」

「わかりました」


 クズハはカイトが来た事を知ると、後は彼を信じる事にする。どうなるかは、後はカイトに任せるしかない。


「カイトさんが来られた、との事です・・・案内差し上げなさい」

「かしこまりました。ハンナ様、こちらへ」


 クズハから命ぜられた公爵邸付きのメイドがハンナを案内する。そうして、彼女らが出て行った後、クズハがため息を吐いた。


「・・・今回は、長旅になりそうではありませんね」

「行かれるとお思いですか?」

「お兄様が行かれないと?」

「・・・いえ、行かれるでしょう」


 クズハとフィーネは二人して、カイトは受諾すると予想する。というより、受諾するしか手が無いのだ。そうして、二人はその後の幾つかの顛末の内、最悪と予想されるものについての対処を整える事にする。


「・・・お姉様を呼び戻してください。最悪の最悪は、私達だけでは知恵が足りません」

「かしこまりました。即座にご連絡を入れさせていただきます」


 その為に重要なのは、ティナだ。彼女の知恵を借りねばならなかった。そうして、今度は密かにティナが公爵邸へと入る事になるのだった。




 一方、その頃。カイトはいつの間にか部屋へ来ていたというレヴィとの会談を得ていた。


「お前か・・・何故ここに?」

「クーデターの動きは察しているか?」

「そっちも把握した、ということか・・・組織としてどう動くつもりだ?」


 レヴィの単刀直入の問いかけに、カイトはクーデターの動きが近い事を悟る。であれば問いかけるのは、ユニオンとしてどう動くかの話になる。


「動きは決めた・・・が、語るつもりはない」

「語ってくれよ・・・まぁ、良いけどさ・・・で?」

「ユニオンへと千年王国から勲章の授与の申し出があった」

「勲章? オレにか?」

「ああ」


 カイトの問いかけをレヴィが認める。だからこそ、彼女が来たのだろう。大国が勲章を授与するというのだ。そしてもう片方は別の組織の一員だ。相手方の組織の許可は必要だった。


「これを貴様には受けてもらう」

「問答無用にクーデターには関われ、というわけか?」

「そういうことだ・・・と言いたい所だが、そこまで大きく関わる事はない」


 レヴィはカイトの問いかけを半ば認めつつも、一応の所は断言する。この様子だと、カイトの勲章授与を起点としてレヴィは何かの行動を起こすつもりなのだろう。そうして、少しの間二人が見つめ合う


「・・・」

「・・・」

「・・・わかった。組織としての命令、なのだな?」

「そういうことだと思って構わん」


 カイトの言葉をレヴィが認める。勲章を受諾する事はユニオンとしても断れないらしい。であれば、もう仕方がない。如何にカイトとて現状でユニオンと揉めたくはない。ならば、答えは一つだ。受け入れる、というだけである。と、そんな話をしているとハンナが部屋に入ってきた。それと合わせてレヴィがバレない様に隠れておく。


「お久しぶりです、ハンナさん。いや、すいません。少々訓練で軍の方と共同で動いていたので・・・おまたせいたしました」

「ええ、カイト殿。お久しぶりです。過日は碌な挨拶も交わせず別れとなった事は、まことに残念な事でした」

「いえ・・・あれは状況が悪かった、と受け止めております」


 ハンナの言葉を受けて、カイトが少し残念そうに首を振る。これは演技ではない。結局、カイトはシャーナ女王とも挨拶を交わす事もなく千年王国の船を後にした。これは仕方がない事だったが、残念だったのは事実だった。


「それで? どういうご用件ですか?」

「依頼を」

「依頼ですか? その為にわざわざエネシア大陸まで?」

「貴方しか、無理ですので」


 ハンナはカイトが疑っている事を承知で、そう告げる。千年王国で一番カイトを警戒しているのは彼女だ。である以上、彼女はどこまでもカイトを警戒していた。


「女王陛下のお招きです。お断りはしませんね?」

「お招き? 一体それはどういう理由での事ですか?」

「陛下はあれ以降、貴方がいらっしゃらなくなり随分とお寂しい思いをされておられます。先にも言いましたが、別れの言葉ひとつ交わせなかった事を酷く心を痛めておられるご様子。ですので、貴方を一度招くという話になったのです」


 ハンナはカイトが逃げられない様に、先んじて裏向きの事情を語る。こうすれば、後はカイトは逃げにくくなってしまう事がわかってのやり方だった。とは言え、カイトは逃げるつもりはないのだが。


「そうですか・・・私としても陛下と何の言葉も交わす事もできなかったのは心苦しく思っていました。ですが、流石に私もこちらにて職務を担っている関係で私のわがまま一つで行くのは・・・」

「そうでしょう。当たり前ですが、陛下としてもわがままゆえに仰っているのではありません」


 ハンナはそう言うと、カバンの中から一通の書類を取り出した。それは国家としての正式な辞令だ。


「貴方にお礼を、というお話が出ております」

「お礼ですか?」

「過日の暗殺者の件ですが、覚えていますか?」

「ええ、それはまぁ・・・」


 カイトはハンナの言葉で、あの時交戦したシャリクの事を思い出す。その後彼がクーデターを行うだろう事までは見抜いたが、それ以外はわからなかった。今はまたヴィクトル商会が探っているのだろうが、まだこちらには何の情報も入っていない。

 ちなみに、カイトの予想ではこれは大大老排除の動きだと読んでいる。が、それがどこまでの規模のものになるのかは、まだ彼にもわからない。どういう手筈なのかも不明だ。幾らカイト達と言えども他大陸の情報は入手出来ないのだ。特にそれが要人の情報になるとほぼ皆無と呼んで良い。


「あの件の後、改めて軍議が行われて貴方に勲章を授けるべきなのでは、という意見が出ております。発起人はシャーナ女王の兄君様でもあらせられるシャリク空軍元帥。覚えておいでですか?」

「ええ。過日に握手させて頂きました」

「彼が警備隊の総指揮を取られており、自らの不備と合わせてお礼と謝罪、そして合わせて女王陛下をお守りくださった事への感謝の証として『神聖王勲章』を授けたい、と申し出ております」


 ハンナがカイトへと今回の用向きを語る。どうやらそれを餌というか隠れ蓑にして、カイトをシャーナ女王へと会わせる算段にしたのだろう。

 なお、『神聖王勲章』というのは千年王国では一般的な勲章だ。日本の勲位とは違い、上は勲一等から勲三等までしかない。勲一等を最高として上から順に貢献の度合いによって変わる。

 これは千年王国の所属ではない者、もしくは軍属などではない一般市民が何か千年王国に対して多大な貢献をしたとして授与させる勲章だ。冒険者も時折授与されており、カイトが授与されたとしても不思議の無い勲章でもあった。そうして、彼女は続けた。


「勲位は勲二等。女王陛下を単身守り抜いた事、敵の実力がかなりの高位の者であった事を加味した結果の勲位となります」

「それほどとは・・・身に余る光栄です」


 カイトは努めて言葉と同じ様に見える様に、深々と頭を下げる。功績に見合った勲位ではあるが、それでも他大陸の冒険者に勲二等を授けられるのは珍しい事は珍しい。とは言え、そこは大陸間会議の出来事だったので、とすべきだろう。

 なお、勲位については多いのはどこかの討伐戦において勲三等を授与される事で、冒険者に対して勲二等が授与されるのは十年に一度程度、勲一等はここ50年は一般市民を含めて出ていなかったとカイトは記憶している。それを考えれば、相当な厚遇と言って良いだろう。


「とはいえ・・・過日に私は大大老殿に少々ご無礼を働いてしまいました。彼らが気にしていらっしゃらないかどうか・・・」


 カイトは大大老についてを突っ込む。何か無礼な事を働いたわけではないが、口答えしたことは事実だ。そして怒らせたのも事実である。気にするのは当然だろう。


「それについては、ご安心を。今回の発議には大大老のお一人であるジュシュウ殿が発起人として賛同されております。あの後の会議により、あの時は貴方の判断が正しかった、という事が大大老殿もよくおわかりになられたそうです」


 カイトに対して、ハンナが笑顔を浮かべる。この様子だと、シャリクの根回しは終わっているのだろう。大大老はそもそも腐敗の象徴。賄賂も口利きも普通に通用する相手だ。金さえ積めばどうにでもなると言える。そうして、ハンナが問いかける。


「どうされますか?」

「・・・わかりました。そういうことでしたら、お受け致しましょう」

「そうですか。ありがとうございます。陛下もお喜びくださるでしょう」

「それで、何時の出発に?」

「出来る限り早い内、可能なら明日の朝になります。船はこちらで用意しておりますので、後はそちらの問題だけになりますが・・・」

「わかりました。早急に手続きをさせて頂きます」

「そうですか」


 カイトの言葉を受けて、ハンナが頭を下げる。これで、彼女のここでの仕事は終了だ。そうして、彼女が部屋を後にした。明日空港で合流する事になったので、今日はホテルに泊まるらしい。と、ハンナが出ていった後。カイトは先程までの柔和な笑みを消して隠れていたレヴィへと問いかけた。


「・・・で? お前はどうするんだ?」

「問う必要があるか?」

「ねぇな・・・今年の全体会合はお流れになりそうかね」

「いや、流れん。この戦いはすぐに終わる。と言うより、そう動いている。大大老共には、ここでこの世から去ってもらおう」

「賄賂やら何やらがお盛んなようで・・・」

「ふふ・・・国も末端まで腐敗が行き届いていて助かる。シャリク達の兵の動きを隠すのは容易い」

「そうか。なら、こっちはスルーするか」


 レヴィの見立てだ。そこに何らかの変数が加わらない限り、その通りに動くと見て良い。カイトはそれを信じている。なら、そう考えて動くだけだ。


「とはいえ、そういうことなら中枢だけを器用に排除する流れか」

「そうなるな。混乱はさほど生まない予定だろう」

「軍は掌握済み・・・いや、軍を中心とした軍事クーデターか。で、シャリクが妹であるシャーナ女王を擁立して復興に乗り出す流れか。民衆好みのストーリーだな・・・怖いのは、その逆張りだが・・・ここ、わかるか?」

「そこは、わからん。が、少なくとも確保はしようとするだろう」

「まぁ、そりゃそうか」

「それはな。最悪は貴様を頼って亡命させるとかだろう」


 カイトの見通したストーリーにレヴィも同意する。民衆だって腐敗の原因は把握している。そしてシャーナ女王が傀儡政権である事も、だ。なら、よほどではない限り危害は加えられないと見てよかった。


「となると・・・オレがやるのは脱出戦か。万が一の場合は飛空艇ぐらい用意してくれてるのか?」

「万が一の場合には、その前にこちらから救援が向かうだろう。先にクズハが用意を整えていた」

「それよりあっちで足を用意してくれた方が早いんだがね」

「ユニオン本部まで来れればな」

「どちらが楽か、か」


 千年王国の王都で飛空艇を奪取して安全圏まで逃げるのと、ユニオン本部に逃げ帰ってそこから飛空艇でここまで送り届けてもらうこと。どちらが楽なのかは、カイトにもわからない。

 まぁ、カイトなので前者の方が遥かに楽だろう。後困るとすれば奪取した飛空艇でどうやって逃げるか、という所だが、そこは考えない事にした。そうして、カイトが立ち上がった。


「はぁ・・・クーデターに巻き込まれ、か。最悪はお前が・・・あ。忘れてた」

「うん?」

「ほらよ」


 カイトは唐突に何かを思い出して、球状の光り輝く物体を取り出してレヴィへと投げ渡す。そうして彼女が受け取ったのであるが、その瞬間、彼女は目を見開いた。


「何? これは本当か?」

「ああ・・・注意しておけよ」

「わかった・・・こちらに滞在しているグインとグライアには?」

「すでに協力を依頼した。放浪中の馬鹿と寝てる馬鹿にはそっちで頼んだ」

「わかった・・・ではな」


 その会話を最後に、レヴィが消える。帰ったのだ。彼女も実力者。単独で大陸を移動出来るだけの力は持ち合わせていた。ついでに中津国の仁龍と運良く遭遇出来ればフリオニールにも会いに行くつもりだった。そうして、カイトは己も準備を整えるべく、冒険部へと顔を出す事にするのだった。

 お読み頂きありがとうございました。

 次回予告:第929話『千年王国へ』

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ