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影の勇者の再冒険 ~~Re-Tale of the Brave~~  作者: ヒマジン
第50章 草原で生まれし者編

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第925話 過去より続く鎖

 山獅子(やまじし)族の里へと足を踏み入れたカイト達一同は、今回の一件の首謀者であるとされているラカムの子、ラッセルの館を目指して歩いていた。

 その一方。ラッセルの館ではラッセルを筆頭にして、今回の暗殺に関わった者達の中でも父の意向を見極めよう、という者達が集まっていた。カイトの言うとおり、対面する事を望んでいたのである。


「どうやら、ラザフォードはあの白銀の子を妹と認めたようだ」

「そうか・・・」


 弟の言葉に、ラッセルがため息を吐いた。後に彼から聞いた事なのだが、ここらは彼らにとっても半々の確率だったらしい。認める可能性もあるし、認めない可能性もある。そしてそれを理解していれば、次の展開は理解出来ていた。


「であれば、遠からず父はここに来るだろう・・・各自、好きにしろ」


 ラッセルは通知を出す。この後どうなるかの展開は、幾つかに分かれる。一つ目としては、この暗殺に加担した者達への処罰。これはなされるだろう、と推測している。そしてそれを避ける為に、ラッセルは敢えて己一人で泥を引っ被るつもりだった。

 実はラザフォードは読み違えたが、ラッセルは情報の露呈を避ける為ではなく、万が一の場合は己一人で事を済ませる為に己を交渉の窓口としたのであった。

 母は違えど、父は同じ。そして彼もまた、ラザフォードと同じ様に父の背を見て育っている。英雄の子足らんと己を律してもいる。こういった高潔さは彼にも備わっていた。

 そもそも、いくら『夜の一族』を嫌おうと彼とて一角の人物としてラカムにも知られている若者だ。この様な度量を持ち合わせていても不思議はない。現にラカムその人がラッセルの事を悪い子ではないと明言している。そうして、その言葉を受けて幾人かの兄弟達が彼の邸宅を密かに後にした。


「残るは・・・この面子か」


 ラッセルは円卓に腰掛けて、残った兄弟姉妹達を確認する。そうして浮かんだのは笑みだ。よくもまぁ、ここまで多種多様な奴が残ったものだ、と思ったらしい。


「ラッセル。どうするつもりですか?」

「姉上こそ、どうされるおつもりですか? このままここに残れば、父から如何な沙汰が下されるかわかりません。逃げるのなら、お早目に。今回の一件は全て、私が主導して仕組んだ事。姉上であれば、上手く逃げおおせましょう」


 ラッセルは己の実の姉に対して告げる。この場では唯一、両親を同じくしている。彼は英雄の子。であればこそ、その沙汰も全て受け入れるつもりだ。潔く、堂々と。誇り高き一族の末裔であればこそ、追い詰められたとて見苦しい真似をするつもりは彼には一切なかった。醜態を晒せば父の名に泥を塗るのだ。潔く、罰を受けるつもりだった。


「私はこのままここに残るだけです。父が何を想い、何を為すのか。彼らの声に、なんと答えるのか。私は貴方の姉として、それを見届けるだけです」

「そうですか」


 ラッセルはただそれを受け入れる。彼女は本当にこれだけだ。常に一歩引いた所で一同を見守る。そういう立ち位置だ。敢えて言えば、カイト達にとっての弥生の立ち位置に近い。何を考えているのかは、知恵者として知られる彼にも理解不能だ。が、別に姉なので気にしてはいない。何時もそうだからだ。


「さて・・・」


 ラッセルは残った面子から、次の一手をどうするかを考える。暗殺には失敗したし、この様子だと情勢は圧倒的に不利である事はわかっている。それを見越して、勘の良い者達はそそくさとこの場を後にした。が、実のところ。その面子についてはラッセルとしては端から勘定に入れていなかった。


「・・・各々、思う所はあるのだろう。好きにしろ。最早ここに至っては、策略は無意味だ。カナンには父が直々に護衛についている。更にはエールとラザフォードが一緒の状態では敵う事はないだろう。こちらが打てる手では、最早カナンを討つ事は出来なくなった」


 勘の良い者はこの場を去った。それは当たり前だ。いわば彼らは風見鶏。風向きが逆になれば、一目散に去っていくのが道理だ。

 だからこそ、ラッセルからすれば逆風の中でこそ残った面子にこそ意味があった。それは己の理由で残っていたからだ。だから、彼は好きにさせる事にする。そうして、彼の所に残っていた面子も各々、思うようにする。


「・・・父よ。穢れた血を何故受け入れなさったのか・・・こうなる事は早晩わかった事ではないのですか・・・」


 ラッセルは一人、ここには居ない父へと問いかける。ラカムの言うとおり、彼は古い獣人の申し子という様な存在だ。それ故、『夜の一族』に対しては嫌悪感を抱いていた。

 それが他者から抱かされたものであるとも知らずに、だ。だが、それでも感じているのは彼だ。それ故、嫌悪しているのは彼である。それもまた、事実だった。


「・・・父がもし来られた場合には、ここに通せ。何があったとしても、一切の手出しは無用」

「かしこまりました」


 ラッセルは最後に配下の者へとそう告げる。そうして、その後。彼は終始無言のまま、ラカムの到来を待つ事にするのだった。




 その、一方。カイト達はというとラッセルの家の前までたどり着いていた。たどり着いていたが、その前で所謂、手荒い歓迎とやらを受けていた。


「早晩、こうなるだろうとは思ってたんだが・・・まさか、お前までか」

「よう、父上」


 一同の前に立ち塞がったのは、深い茶色の髪を短めに切り揃えた一人の女性。ラザフォードの様な武骨さではなく、武人としての荒々しさが滲んだ女性だった。彼女はラカムの言葉に陽気に片手を上げて応じた。


「茶髪・・・こっちの自治区じゃなしに、南の部族の出か。外からの獣人か」

「ああ・・・幌獅子(ほろじし)のランタナだ」


 ラカムがため息を吐いて彼女の名を告げる。彼の告げた一族は、ここには存在していない一族だ。だが、南の方、それも海に近い所に居を構えている一族だった。

 金獅子(きんじし)の一族にも幾つかある。皇国に根を下ろしたブランシュ家を頂点とした一族に、ランタナという女性の母の出身地という一族だ。別に彼らの為の自治区が皇国のここ一つだけというわけではない。

 前者の出身者として有名なのはこのラカムで、後者で有名なのはカイトの使い魔であるファナとファルネーゼの姉妹だろう。なのでラカムとファルネーゼ達は大別すると、同じ一族になる。

 神獣を祖とした一族がエネシア大陸、それも皇国にのみ固まっているわけではない。かなり古い一族だ。群れという考え方で動くのであれば、必然として何処かで同じく金獅子(きんじし)の一族として別の群れとして独立した者も居るだろう。

 暖簾分けや兄弟で独立した様な形だと考えれば良い。勿論、そういうことなので海を隔てた先にも居る。何処が祖の一族か、というのは最早誰にもわからない。

 とはいえ、それで仲が険悪か、というと必ずしもそうであるわけではない。なのでラカムと南の部族の様に、時折婚姻関係を結ぶ事もあったのであった。勿論、レイナードも他国の娘を迎え入れている。ここらは、古い一族といえども組織である故と思えば良い。


幌獅子(ほろじし)・・・大陸南方、海の側の一族か。今はどの国だったかな・・・海渡りをした奴ら、だったか? こっちが祖だな。双子の方に暖簾分けした一族が居るはずだ」

「へぇ・・・良く知ってんねぇ、あんた・・・」


 カイトの言葉を聞いて、ランタナが笑う。彼女はカイトの正体を知らない。皇国の外の一族を知らないのが普通の奴が知っていれば驚きもするだろう。


「まぁ、そういうわけだから湖や海が得意なんだけどねぇ・・・言いっこなしだ」

「待て。その前に、聞かせろ。お前は何故立ち塞がる?」


 構えを作ったランタナに対して、ラカムが問いかける。なぜ、立ち塞がるのか。それは彼としては是が非でも聞いておかねばならないことだろう。それに、ランタナが笑った。


「・・・知ってんだろ、父上は。ウチは外様だ。今回は、ここに(おもね)らないといけない、ってわけさ。本家からの指示でね・・・やれやれ、って奴さ」

「っ・・・なるほどな。ワリィ」

「いや、良いって。かたっ苦しいが、何分外様の上に本家筋まで別に抱えてる身だからねぇ・・・一つカッコイイ所は見せとかないと、後先に関わるのさ。その点、父上にゃこう言っときゃなんとかなるだろ?」


 快活に笑ったランタナは、最早問答は無用と雰囲気で告げる。彼女の母は彼女の言うとおり、外様だ。外から来た者だ。一応は同族なので受け入れられているが、やはり立場としてはここに根が無い為に弱い。

 そういった中で上手く立ち回るというのなら、こういったお付き合いはどうしても必要らしい。ここでラッセルに恩を売っておこう、という算段だったのだろう。


「父上。そういうことでしたら、私が」

「そうだな。そうしてくれ。父であり族長に手を上げた、となると流石に幌獅子(ほろじし)の連中も良い顔はしないだろうからよぅ・・・が、程々にな」

「はーい」


 ラカムの許可を得て、ランタナに相対する様にエールが一歩前へと進みでる。ランタナはカナンについてはどうでも良さげだったのだが、どうやら別の金獅子(きんじし)の分家である幌獅子(ほろじし)という所の兼ね合いでどうしても戦わねばならないそうだ。

 こればかりは、群れといえども組織である以上は仕方がなかったのだろう。いわば実家の意向、という所だろう。その実家が何を考えているかは不明だ。

 だが、ランタナの様子を見れば、こちらでの安住を確保するとか、実家の利益を確保する為、と見て良いだろう。カナンとて跡取りの可能性はあるのだ。ライバルを減らせるのなら減らしておけ、と言われているのかもしれない。


「・・・貧乏くじにゃ、慣れてるんだけどねぇ・・・」

「なんで皆そういうのよー」


 エールが不満げに口を尖らせる。どうやら、エールが一族の子供の中では最強というのは知られた話なのだろう。そして彼女が出てくれれば、ランタナとしても面子が立つ。ベストな決着だ。

 そうして、相対する二人の横をラカム達に守られながら歩いて行くカナンに対して、ランタナが苦笑気味に謝罪した。


「すまないねぇ・・・本当なら、そっち側に立ってやりたい所なんだがねぇ・・・ウチも実家の兼ね合いがあるからねぇ・・・」

「あ、はい」


 ランタナから謝罪されて、カナンがそれを受け入れる。彼女自身は実はカナンについてはどうでも良いと考えていた。それはそうだ。彼女は彼女自身が言うように外様だ。やはり、そこらで風当たりは強いらしく排斥されるカナンの気持ちがわかるのだ。


「ま、これが終わったら顔に一発ぶん殴って終わりにしてくれ」

「あ・・・じゃあ、その・・・お姉ちゃん、って呼んで良いなら・・・」

「・・・ぷっ。ああ、いいさ。じゃ、行きな」


 ランタナは笑って、そう告げる。どちらにせよエールを相手にしている彼女には、カナンにまで気をかける余裕はない。そうして、一同はエールにこの場を任せて更に中に進んでいく。


「さて・・・」


 ラッセルの館の門の前にたどり着いた一同は、背後に響く打撃音を背に改めてラッセルの館を観察する。建屋は3階建て。平屋ではないのは土地柄の関係だ。材質は木材だ。


「・・・んー・・・」

「最上階の部屋に5人ほどおるが・・・お主の子か?」

「ああ、全員な」


 ラカムは鼻を鳴らす。匂いでわかるらしい。


「ラッセルに姉のリベラ、雷獅子(らいじし)族のルドラ、風獅子(かぜじし)族のレックウ、水獅子(みずじし)族のランバートだな。他にも何人かは、居たくさいな」

「お前何人ガキ作ってんだよ・・・」


 カイトがため息を吐く。この上にラザフォードにエール、カナンも居るのだ。彼としては呆れたくなるのも無理はなかったのかもしれない。勿論、彼自身の未来を見なければ、の話であるが。


「お前が言うか・・・」

「は? 一人も居ないけど? つーか、隠し子騒動は絶えねぇんだからその冗談はマジにやめれ。その度に大昔クズハもアウラも超不機嫌になってんだぞ・・・」

「いや、お前何人女抱えてると思ってんだ・・・」


 カイトの素っ頓狂な答えにラカムが肩を落とす。カイトはド天然に答えていた。と、そうして改めて言われてみて、カイトはふと気になったので数えてみる事にする。


「ひのふのみの・・・あ、やめとこ」

「記憶する術式開発して良かったじゃろ?」

「ほんとにね」


 ティナの言葉にカイトが笑って応ずる。一人につき一人計算でも二桁は簡単に超える。が、それで止まってくれなさそうなのが問いかけた本人を含めて複数居るわけだ。何人になるか数えるのを止めた方が良いと気付くのにそう時間は掛からなかった。


「・・・良し。それは良いとして、とりあえず話すすめるとしようか」

「なんかメタいのう・・・」

「そういうこっちゃないっての・・・で、ラカム。とりあえず窓ぐらい割って良い?」

「まぁ、状況が状況だしな・・・姉御。全員頼まぁ」

「しゃーないのう・・・」


 ラカムの要請を受けて、ティナがため息を吐いた。何をしようかというと、全員を浮かせて窓から突っ込むつもりだったのだ。内部にどんな罠があるかもわからないし、バカ正直に進んでやるのはカイトの流儀でもない。なので直接乗り込むつもりだったのだ。


「さて・・・じゃ」

「おう」

「「せーのっ! おらぁ!」」


 カイトとラカムの二人は同時にうなずき合うと、三階の大部屋らしき所の窓を叩き割る。まぁ、窓と一緒に窓枠と壁の一部が壊れたのはご愛嬌、という所だろう。


「おーう、邪魔すんぜー」

「よう、オメェら。元気してたか?」


 砕いた壁から、カイトとラカムが部屋へと乗り込む。そこにはラカムが見通した通り、5人の獣人が待機していた。そうして、カイト達は今回の首謀者達と対面を果たしたのだった。

 お読み頂きありがとうございました。

 次回予告:第926話『もう一つの誰かの声』

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