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影の勇者の再冒険 ~~Re-Tale of the Brave~~  作者: ヒマジン
第50章 草原で生まれし者編

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第924話 英雄の苦悩

 ラザフォードとの戦いを終えた翌日。カイト達は再度旅路を開始する事にしたわけだが、その前に一人離脱者が出た。それはレイナードだ。


「我はもう戻ろう。想定外に長居してしまった・・・が、これ以降は任せて大丈夫だろう」

「と、言いつつドレスの仕立てをさせる用意を整えているレイなのである」

「・・・」


 カイトの言葉に、沈黙が舞い降りる。事実である。彼は傲慢と言うか傲岸不遜な彼であるが、基本身内には激甘だ。というわけで、昨日の喧嘩の流れでカナンの為のドレスの用意をしに行くらしい。

 と、そんな一幕をスルーして、レイナードは去っていった。まぁ、彼の領地はここから更に北東の方角だ。ラカムを信じている彼がわざわざ逆方向となる北西に向かう必要はない。ラザフォードまでは道中帰り道なので付き合った、という所だったのだろう。


「さて・・・で、ラカム。最後のラッセルってのはどんな奴なんだ?」

「あいつか・・・」


 カイトの問いかけを受けて、ラカムがため息を吐いた。とはいえ、そこには何処か苦笑が滲んでおり、呆れ果てた、とか見捨てた、とかいう雰囲気はなかった。


山獅子(やまじし)の一族は知っているよな?」

「ああ。昨日も同じ会話やったしな」

「まぁ、基本はそれの申し子の様な感じだ・・・悪い子じゃあ、ないんだよ。ああ・・・悪い子じゃあ・・・」

「フォードとは別の意味で生真面目・・・と言えば良いんだと思います」


 ラカムの言葉を引き継いで、エールが語る。が、これには魅衣が――彼女だけではないが――首を傾げる事になった。


「生真面目?」

「そう、生真面目」


 エールは肩を竦める。と言うか差別意識や排斥というのは、よほど排斥される側に原因が無い限りは受け取り手の問題が大きい。そしてそう言う場合は得てしてある種の潔癖さがもたらす純血主義や経済的な理由が原因だ。

 そしてこの内、後者はこの場合にはあり得ないと考えて良い。ここらを治める族長の子で、彼は地元の豪族の跡取りとも言える。もし後を継がないとしても、よほどの失態をしない限りは一族の有力者にはなれる。それを考えれば、経済的な困窮はほぼありえないと言える。

 さらに言えば、族長であるラカムに隠れてカナンの生存を把握するアンテナがあり、それに対して独自に動けるだけのコネと知恵がある。これで無能というのはあり得ないだろう。フォルスの様な劣等感によるもの、というのもあり得ない。

 であれば、答えは前者の純血主義的な考え方だ。何らかの理由で『吸血姫』を嫌っていると考えて良い。そして、山獅子(やまじし)族が最も強固に反対していた事を考えれば、その何らかの理由もおおよその想像は出来るだろう。


「基本的に、ウチというか獣人の中でも月に影響される奴らと『夜の一族』の仲は良くはない。まぁ、それでもあの大戦期にゃどうしようもなくなったし、両軍の間で立ち塞がった奴が居たからなぁ・・・」


 娘の言葉を引き継いだラカムは半ば苦笑でもするかのように笑う。その立ち塞がった奴とは言うまでもなくカイトだ。彼がいがみ合うこの二つの種族の間に立ったのだ。


「あー・・・父様何時も言ってたっけ・・・たった一人で立ち塞がった挙句、父様とレイナードさん同時にブチのめしたって・・・」

「あっはははは。まさか負けるたぁ思ってなかった・・・いや、今思や、当たり前なんだけどよぅ・・・」


 ラカムは懐かしげに、そして楽しげに笑う。いがみ合う両種族に対して、カイトはウィルの皇子命令を活用してこう言ったのだ。両種族の最強を連れてこい、と。そしてやって来たのが、ラカムとレイナードだった。

 そうして己の前にやって来た二人に対して、カイトはこう告げたのである。どのぐらいの実力か見極めてやるから同時に相手してやる、と。


「情けねぇ話だ。足の引っ張り合いやって、挙句カイトの奴にボコボコにされたんだからよぅ・・・」

「当たり前だろ。まさか初手の次にお互いに攻撃し合う馬鹿にどうやったら負けるんだよ」

「あっはははは! だよなぁ!」


 ラカムが笑う。同時に相手をしてやる。この一言にラカムもレイナードも当然怒った。誇り高い自分たちを相手に舐めるのもいい加減にしろ、としか言えなかった。勿論、言わずに行動で彼らは示した。

 初手を全力で打ち込んでカイトに身の程をわからせようと思ったらしい。そうして初手を全力で撃ち込んだ後、次は貴様だ、とばかりにお互いに攻撃を始めたのだ。

 が、ここでそもそもの誤算があった。というのも、初手で全力を打ち込もうともカイトには勝てない、ということだ。そこからは、平然と防ぎきったカイトに対して、二人はお互いに戦いながら攻撃を仕掛ける事になった。所謂、三つ巴の戦いになったのだ。

 が、そもそも単独でやっても協力して戦ってもカイトに勝てる見込みはなかったのだ。そこにお互いにいがみ合って足の引っ張り合いをして三つ巴の戦いを演じれば必然、勝ち目なぞ皆無になるだろう。


「で、最後はオレに二人してボコボコにされたんだったなー」

「あっははは! いやぁ、あのときゃほんとに二人してお前を殺してやる、って話し合ったんだったわ! で、それで意見が合った事にまた喧嘩して、ってなぁ・・・懐かしい!」


 ラカムは本当に心の底から楽しげに笑う。いわば、彼にとっての青春時代だ。そうして、一頻り笑った彼は、思い出す様に告げた。


「で、喧嘩始めた俺達に言ったんだったなぁ・・・巫山戯てんじゃねぇぞ、クソボケ。何時まで現実が見えてねぇ・・・てめぇら誇り高き獣だ、月の奉仕者だっつってんのにガキ以下か。ガキだって強い奴が現われりゃいがみ合うの止めて徒党組んで戦うわ。ガキでこれだつーのに、まだやるか。この場で止めねぇってんなら、今すぐオレが殺してやる。強大な敵より、無能な味方の方が邪魔なんだよ・・・あっははは! 言うに事欠いて無能呼ばわりされたが、そりゃそうだわな! あのときゃ本気で死ぬかと思ったわ!」


 ラカムは一言一句忘れる事のなかったセリフをそのまま口にして、再び笑う。そう。あの時のカイトは呆れ返っていたのだ。圧倒的な敵を前にしてもいがみ合う事を止めない両種族に。

 なので、カイトは手っ取り早く現実をわからせる事にしたのである。手を組んだ所で勝てない奴にこれから挑むのだ、と。そして現実として足の引っ張り合いをして、両種族の最強を誇る誇り高い男達がみっともない姿を晒していたのだ。流石にこれには両種族共に堪えたらしい。そうして、カイトも笑って正直な所を告白した。


「ガチで殺すつもりだったからな。足引っ張るくらいなら居ない方がマシだったし」

「あっははは。で、お陰で現実見せられた俺たちゃ、嫌々ながらも手を組んだってわけだ・・・まぁ、嫌々だったのは嫌々だったけどなぁ・・・どうしてか、数千年の誇りを賭けてた敵なのに同じ釜の飯を食って一緒に血を流してると、いつの間にか変な信頼関係出来ちまった。で、信頼関係出来たら、逆にそれまでの俺達が不思議になっちまう。どうしていがみ合ってたのか、ってな」


 結局、絶対に無理だと思えていた和解は簡単に成せてしまった。そもそもいがみ合っていた理由は他人の理由だ。祖先と言えど所詮は他人。その環境が彼らにいがみ合わせていただけだ。ただ、恨みや軋轢を前の世代が今に伝え続けていただけだ。(ラカム達)の世代が何かしたわけでもないのに、である。

 となれば、環境が変わればいがみ合うのが変に感じてきてしまう。そうなると、いがみ合うのがバカバカしくなったらしい。そうして、彼は少し悲しげな目をして、告げた。


山獅子(やまじし)の連中は、その時の俺らなのさ・・・今のレイナード達が俺達に何かしたか? いや、何もしていない。俺達はあいつらに何かしたか? いいや、何もしていない。やったのは前の世代の奴らだ。いや、そんな話でもねぇ。最初に爪を振り上げたのがどちらか、なんぞ最早誰にもわかりゃしねぇほどに前だ・・・それを伝えていくのは、馬鹿だ。恨み、ってのは鏡だ。こちらが恨みを向けりゃ、向こうも同じ感情を返してくるのさ。何処かで止めねぇといけねぇ、ってのをこいつが教えてくれたのよ」


 ラカムは300年に渡り両種族の和解に奔走した男として、そこで見た答えを一同に語る。それに、カイトは複雑な表情を浮かべるだけだ。彼自身が、己の経験からその結論を出していたからこそだ。そうして、ラカムは複雑な表情を浮かべて、カナンを見た。


「・・・すまねぇな、カナン。巻き込んじまって。本当は、お前の前の世代で止めるつもりだったんだがよぅ・・・300年かかっても、まだ終わらねぇ。ホントなら、カイトが帰って来る頃にゃ全部終わらせてる予定だったんだがよぅ・・・」

「あ、ううん・・・」


 疲れたように笑うラカムの謝罪にカナンは英雄と呼ばれる者の偉大さを垣間見て、呆然と首を振る。彼女はこの時、本当にラカムが己の父親なのだ、と理解した。血の繋がり云々ではない。己の父という概念としての父なのだ、と理解したのだ。

 彼は必死で、両種族の和解に奔走したのだ。その結果の光の側面が彼女であり、そしてその闇の側面がメリージェーンの死であった。ただ、それだけだった。そうして、ラカムは少し恥ずかしげに、一同へと頭を下げた。


「あー・・・すまねぇ。いっちょ、手を貸してくれ」


 ラカムはそう願い出る。何時の日か本当に全てで和解出来るのだ、と彼は信じている。これが甘い考えだ、というのは何度も言われた。カイトも言われた。現に彼らはどうしようもなくなって、守る為に刃を抜いた事もある。恨みの連鎖を彼らが始めた事は数限りない。それでも、彼らはそう信じていた。


「「「・・・」」」


 それに、誰もが何も返せない。それこそ、ラカムの子で彼と母に付き従って和解に奔走したであろうエールさえ、何も言えなかった。

 初めて見る、父の苦悩の一端。英雄が英雄と崇められる所以と、それが背負う重荷。それを垣間見た気がしたのだ。だが一人。それに平然と返せる男が居る。同じ重荷を、否、更に重い重荷を背負えばこそ、だ。


「なーに言ってんだよ馬鹿。オレの仕事だぜ、それは。今更言うな・・・さ、行くぜ。お前らも悪いが、ちょっと手を貸してくれ。なぁに、ちょっと馬鹿な奴らに説教かましてくるだけだ。手間は取らせねぇし、なんなら待っててくれても良い」

「あ、お、おう。行こうぜ」


 カイトから言われて、ソラがようやく我を取り戻して返事をする。そうして、カイト達はラッセルが暮らすという山獅子(やまじし)達の里を目指して、走り出すのであった。




 さて、そんな一同だったが、北西へ進み続ける事およそ半日。夕暮れが見え始めた頃に、少し小高い山にある一つの里へとやって来ていた。


「ここが、山獅子(やまじし)の里にござる」


 道案内を務めていたラザフォードが一同に対して、里の門の前にて告げる。山間部にある獣人の里。町並みとしてはラカムの暮らす里や湖獅子(こじし)族の里とさほど変わらない。ただ山間部にある、というだけだった。

 ちなみに、山と言ってもエラクゥ村の周囲を取り囲む山の様に木々が生い茂っているわけではない。どちらかと言えば、龍族の自治区の周囲を覆うあまり木々が多くない岩肌が見える山の方が感覚としては強いだろう。


「これは・・・ラカム様、ラザフォード殿・・・それに、エール殿までご一緒ですか。如何ご用事で?」


 門の前に立っていた一同に対して、門番が問いかける。それは何ら不思議な所の無い普通の応対だった。そうして、ラカムが要件を告げた。別に彼なので顔パスも可能だが、変に騒ぎ立てるつもりもなかった。

 ちなみに、騒ぎになられても面倒なのでカナンに関してはフードをかぶってもらう事にしていた。ここでひそひそ話をされて存在を気取られても面倒だと判断したのである。


「ああ、ラッセルの奴に会いに来た」

「はぁ・・・ラッセル様ですか?」

「ああ。居るか?」

「はい・・・確か今はえーっと・・・誰か来たって話じゃなかったか?」

「ああ、ご兄弟のどなたかが来られている、という話だっただろ?」


 門番達が話し合う。どうやら、ここらの話は詳しく聞いていないらしい。なお、至って平然に見える彼らだが、彼らが嫌悪感を向けるのは『夜の一族』だけだ。レイナードは居ないしカナンも姿を隠しているので彼らにとってすれば、この応対は至って普通の事だった。


「あ・・・もしかして、その件でラカム様もご一緒に?」

「ああ、そんな所だ。通してくれるか?」

「わかりました。どうぞ」


 門番達は笑いながら、ラカム達に対して通行を許可する。そもそも族長が何もしていないこちらに対して攻撃をしないと信じている。なので、検査はおざなりで良かったのだ。


「さて・・・ご兄弟の誰かが来ている、ねぇ・・・」

「フォード。知ってるか?」

「申し訳ござらん。拙者はラッセル一人が動いているとばかり・・・おそらく、避けられていたのだと」

「当たり前、か」


 ラカムは笑う。ラザフォードはこの通り武骨な男だ。カナンを妹と認めれば、必然情報を全て明け渡すだろう事は明白だ。とはいえ、生半可な事では彼は動かせない。なので知恵者として知られるラッセル一人が接触して被害を最小限に食い止める予定だった、というわけだったのだろう。


「まぁ、それならそれで良いじゃねぇか。この様子だと、あちらさんも対面を望んでるんだろうぜ」

「かねぇ・・・」


 カイトの言葉にラカムはラッセルの屋敷を見ながら、そうつぶやいた。そうして、一同は今度は騒ぎになる事もなく、里の中を歩いて行く事になるのだった。

 お読み頂きありがとうございました。

 次回予告:第925話『過去より続く鎖』

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