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影の勇者の再冒険 ~~Re-Tale of the Brave~~  作者: ヒマジン
第50章 草原で生まれし者編

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第921話 認めてもらう為の戦い

 再び少しだけ、時は巻き戻る。エールを中心として会話の輪が広がっていた頃だ。カイト達かつての英雄達もまた、話し合いを行っていた。と、そうしてまず口を開いたのは、ラカムだった。彼は酒盛りを始める前に、レイナードへ向けて深々を頭を下げた。


「・・・まずは、改めて頭を下げさせてくれ。すまなかった」

「もう良い。貴様に咎はない。貴様はやれるだけをやった・・・もう、解放されろ」

「すまねぇ」


 ラカムは微笑んだレイナードの許可を受けて、顔を上げる。これは、彼なりの最後のけじめだ。カナンを手放した事、メリージェーンを守れなかった事。それらへのけじめだった。

 それらは一度した謝罪だが、その時はまだ色々と区切りをつける事は出来なかった。それ故、これが最後の禊の様なものだった。そうして、最後の禊が交わされた後。成り行きを見守ったカイトが口を開いた。


「さて・・・じゃあ、しみったれたやり取りが終わった所で・・・飲むか」

「ああ」

「おう」

「わーい」


 そもそも謝罪する為に集まったのではない。これは丁度良いのでやっただけだ。というわけで、三人に加えて一緒だったユリィは酒盛りを始める事にする。


「で? 結局の所見込みはどうだ?」

「すまねぇ。また、お前の手を借りる事になると思う」

「あいよー」


 ラカムの求めにカイトは軽く応ずる。友の頼みだし、これは他ならぬカイトの方針に従ってくれて起きた悲劇だ。その為に骨を折るぐらいどうという事はなかった。


「ま、全部片付いた頃にゃ、いっちょオレ様降臨って所ですかね。流石にオレが出てカナンに手をだす馬鹿はそうはいねぇだろ」

「すまねぇな」


 ラカムは前報酬とばかりにカイトへと酒を差し出す。基本的に、今回の様な暗殺劇をやろうとすれば彼の出番だ。それ以外はやることはないというか、出来るわけでもない。家族の話し合いに他人が出て行くのも駄目だろう。そこは、ラカムが片付けるべき事だし、彼もそのつもりだ。勿論、万が一の場合には手を貸すつもりだが、その程度だ。


「で、レイ。お前の所はどうなのよ」

「我の所に問題はない」

「絶対王政だもんねー、レイの所って」


 一切憚る事なく断言したレイナードに対して、ユリィが笑いながら同意する。基本的に彼の態度を見ればわかるが、極論彼は自分一人で領内の全てを決めている。群れという考え方の強い獣人に対して、『夜の一族』は種という観念が強い。なのでその中でも最強であり王である彼には誰も逆らわないそうだ。そして、そんなレイナードにカイトが呆れた様に笑みを浮かべた。


「あー・・・そりゃ、似合いそうだわ」

「それが、我の王道だ」

「ま、そりゃそれで良い。王道なぞ千差万別。統一なぞ無理だしな・・・で、カナン。どうだろうね、あの娘は・・・」

「ふむ・・・銀の髪か」


 カイトから問われて、レイナードはカナンを思い出す。彼女の髪は銀色。父の髪も金色だし、母の髪の色も金色だ。それがなおさら、カイト達にはカナンとラカム、レイナードの間の繋がりの発覚を妨げていた。

 カナンの母親が金髪であった事は把握していたのだが、それ故、カナンの髪の色を考えて父親は銀髪なのだろう、と考えていたのだ。

 これは仕方がないだろう。特例中の特例がここにあるとは思わないのが普通だ。まさか両親ともに金髪なのに銀髪が生まれるとは思いもよらなかったのである。が、それも血筋を考えれば当然だった。


「『月の子(ムーン・チャイルド)』か」

「だな・・・」


 レイナードの言葉にラカムが朗らかに笑って同意する。だからこそ、彼らはカナンが両者を結びつける架け橋だと思ったのだ。恵まれた娘。運命がもたらしてくれた運命の子。そう思うのも不思議がなかった。が、それ故に排斥されたというのは、因果な話だろう。


「『月の子(ムーン・チャイルド)』・・・夜を駆ける神獣に連なる獣人と月の女神の奉仕者たる『夜の一族』の間に生まれし子は月の加護を受けし『月の子(ムーン・チャイルド)』である、か・・・」


 カイトはある謳い文句を口ずさみながら因果なものだ、と思う。己は、月の女神の神使。カナンは、『月の子(ムーン・チャイルド)』。笑いたくもなった。


「今だから明かすんだけどよ・・・オレ、実は月の女神の神使なんだわ」

「何? 何時からだ?」

「ずっと前・・・お前らと出会うよりもずっと前・・・オレとこいつで旅してた時からだ。あの時、シャムロック殿の妹・・・シャルロットと出会った。で、唯一の神使になった」


 カイトの今更ながらの暴露に、レイナードが驚愕で目を見開く。実は彼は一族揃ってシャルを信仰している。彼女が月を象徴した女神であるからだ。月を信仰する彼らにとって、月と月の女神は不可分だ。

 というのも、夜行性の獣の神獣を祖とした獣人――獅子系もその一つ――と同じく、『夜の一族』にとって月とは重要な意味を持つのだ。なので、月の女神とはレイナードが唯一無条件に敬うと言っても良い相手だろう。自分の友人がその神使であれば、驚きもするだろう。


「そうか・・・では、お前が救ったのは偶然では無かったのかもしれんな・・・」


 レイナードが酒を呷り、しみじみと告げる。素直に、こう思えた。月の女神がカナンを守り、カイトの所へと届けたのだ、と。そして、カイトも同じように思ったが故に笑ったのだ。


「もしかしたら、そうだったのかもなぁ・・・」


 カイトは月を見上げる。いつも変わらぬエネフィアの双子の月。彼女の象徴。それに、カイトは盃を掲げた。水面に移る、双子の月。その中に、カイトは彼女の姿を見た。


「シャル・・・お前はどこで眠るのだろうな・・・」


 カイトは思う。もう目覚めつつある月の女神。彼女がどこで眠るのか。それを、探しに行きたい。が、今は状況が許さない。とはいえ場所さえわかれば、今すぐにでも行くつもりだ。場所がわからないが故に行けないだけだ。


「・・・月の女神に」

「「「月の女神に」」」


 カイトの言葉にラカムとレイナード、ユリィが応ずる。ユリィは友人で、ラカムとレイナードはその信仰者だ。不思議はなかったが、今だけは、素直に祈りたい気分だったらしい。こうして、この夜の飲み会はそんな形で始まったのだった。





 翌日。ラザフォードの邸宅にて。カイト達から『月の子(ムーン・チャイルド)』と呼ばれたカナンは、己の異母兄であるラザフォードと相対していた。


「っ・・・」


 カナンは地面を蹴って、こちらから仕掛けに行く。武器は、母から受け継がれた魔力の爪。血色の爪のはずが白銀なのは疑問だが、それはさておいても爪の形に出来たのは良しとした。


「はぁあああ!」


 カナンは己の右腕を振りかぶり、空間そのものを切り裂くイメージでラザフォードへと振りかぶる。それに対して、ラザフォードは魔力を込めた棒を突き立てて食い止める。


「・・・付け焼き刃であるか」

「それでも、これを使う事にしました」

「・・・その心意気、見事である」


 ラザフォードはカナンが己に認めてもらいたいと願っている事を理解する。が、それで納得するかどうかは、話が別だ。

 それに対してカナンも純粋な獣人と戦うのは、これが初めてではない。経験そのものは何度もある。というか、純粋な経験だけで言えば年齢差を考えてもラザフォードを上回っているかもしれない。だから、気を付けるべきことは理解していた。


『獅子系の獣人と戦う際に気を付けるべきはスピードとパワーだ』


 かつて自分を教え導いてくれた魔族の男性の声が、脳裏に響く。速度に長けた狼系の獣人。パワーに長けた類人猿系の獣人。それに対して、獅子系の獣人は速度よりのバランス型の獣人だった。そして、脳裏のカシムは更に続けた。


『だから、絶対に突っ込むな。お前じゃあいつらのスピードとパワーにゃ勝ち目がない。真正面から挑んだ所で勝てやしねぇ。カウンターを狙え。あいつらはな、実は軽い。そこに、攻略の鍵はある』


 あの時はルードと戦っていたのだったっけ。カナンは密かに笑みを浮かべる。同じぐらいの年頃だった、獅子系の獣人の男の子。過去になってしまった少年。彼とカナンは何度となく、矛を交えた。

 同じパーティだったのだ。そして年頃も実力も同じぐらいだった。やらない方が可怪しいだろう。だが、やはりここらは純粋な獣人とハーフの身体能力の差だ。本来は純粋な獣人の方が身体能力が高いのだ。なのでフォルスの時とは違いカナンが翻弄されたわけだが、そこでのカシムのアドバイスだった。

 だが、今回はそれを無視した。当たり前だが敢えての事だ。それが、出来る。そう思う事にしていた。母の子なのだ、と思えばこそだ。


「はぁ!」

「っ」


 爪を引っ掛けて、まるでポールダンスの様に回転したカナンがラザフォードへと襲いかかる。


「爪は出来た。スイッチも押してもらった・・・なら、出来る・・・」


 カナンは自らに言い聞かせる様に、出来ると口にする。そして襲いかかったカナンに対して、ラザフォードは悠々と身を屈めて回避した。


「ふんっ!」


 ラザフォードは突き立てた棒を振るい、爪を引っ掛けたカナンを振り回す。が、その直前にカナンは爪を消して振り回されるのを回避する。そうして、僅かに回転した彼女は地面に着地すると同時に地面を蹴る。


「その程度で敵うと思うたか」


 それに対して、ラザフォードは真っ向からの迎撃を選択する。というよりも、今のカナンと彼の実力差は歴然だ。軍が、それも皇国においては格が違うと言われる公爵家の軍が指南を頼みに来るラザフォードと、たかだかランクC程度にしかならないカナンだ。どちらが上かなぞ、子供でも分かる話だ。


「ふんっ!」

「っ」


 爪を振るったカナンに対して、ラザフォードが棒を振るう。が、やはり力の差は歴然だった。それ故、カナンが大きく吹き飛ばされる事になった。


「つぅ!」 

「ふんっ!」


 どんっ、という音と共に今度はラザフォードは地面を蹴る。その力はなかなかのもので、彼が立っていた地面にヒビが入っていた。


「っ!」


 空中のカナンはそれに対して、即座に着地すると右手を地面につけて足を開脚の要領で伸ばして身を屈める。その次の瞬間、カナンの頭上を棒が轟音を上げて通り過ぎていった。


「おぉおおおお!」

「ふっ!」


 ついでラザフォードは雄叫びを上げると上から叩きつける様にして、カナンへと棒を叩きつける。が、それに対してカナンは右腕一つで逆立ちして棒を回避する。そしてそのまま、彼女は右腕一つで飛び上がった。

 空中でカナンは上下逆のまま、使い捨ての短剣を投げる。彼女は冒険者。かつてカイトが言った様に、当然の様に使い捨てのナイフを持ち合わせていたのである。

 そしてこれは戦いなのだ。爪だけで戦うなぞ、誰も言っていない。そして、カナンも決めていない。主兵装を爪にしただけだ。冒険者であればこそ、そこは間違える事はなかった。


「ちっ!」


 それに対してラザフォードは防御ではなく、距離を取る事での回避を選択する。この短剣がなんの力を持っているかはわからない。冒険者相手に安易な、そして常識的な判断は危険。彼はここに通う、そしてここに通っていた者達の行動からそれを理解していた。


「はぁ!」


 カナンは地面に着地すると、更に連続して5本の使い捨てのナイフを投げ放つ。それに対してラザフォードは今度は迎撃を選択した。先程の投擲でこれが単なる使い捨てだと理解したのだ。


「ぬぅん!」


 ラザフォードは棒を振り、カナンの投擲したナイフを弾き飛ばす。刃は砕け、金属片が舞い散った。そして更に彼は神速を以って、落下していく金属片を風で絡め取って半円状にカナンへと投じた。


「っ!」


 カナンが目を見開く。見たこともない武芸だった。が、それも当然で、これはラザフォード独自の武芸らしい。名は<<風纏棍(ふうてんこん)>>という。敵の武器を破壊した後に棒に風を纏わせて、その破片で敵を追撃する武芸らしい。名前は風を纏うのは先端部分だけらしくその見た目が棍に見えるから、だそうだ。


「でも!」


 一瞬驚いたものの、対応出来ない速度ではない。そしてそもそも、対応してくる事自体は想定済みだ。なのでカナンはこちらへと迫り来る無数の刃の破片を回避する様に大きく回り込む。が、それはラザフォードが誘導した動きだ。


「ふんっ!」


 ラザフォードは再び地面を蹴る。そうして、彼はカナンの真横から今度は風を纏わせた突きを放った。が、カナンとてこの流れは読んでいた。なので彼女は突きに対して身をかがめて再び右手一つで立つと、身体全体を使って真横に位置するラザフォードに対して足払いを仕掛けた。


「っ!」

「軽い」


 このカナンの足払いは失敗する。力量差が大きかった為、丸太の様なラザフォードの足を払えなかったのだ。伊達にラザフォードも鍛えていない、という所だろう。


「ふん!」


 足払いを仕掛けたカナンに対して、ラザフォードは再び棒を振り下ろす。それを察知したカナンは右手を地面から離して、足の力だけでラザフォードから距離を取った。


「はっ」

「・・・訓練は積んでいる様子」


 横を滑る様にして距離を取って更に地面を蹴って飛び上がったカナンが着地するのを見て、ラザフォードが感心した様に頷く。少なくとも、冒険者としての日々は認められたようだ。正道ではないが、生き残る為の図太さは持っている様子だと理解したようだ。


「とはいえ・・・それで英雄ラカムの子と認められるまでもなし。これより更に力を上げるでござる」


 どんっ、と再びラザフォードが地面を蹴る。その速度は先程までのものと桁違いだった。今までの彼が師範としての彼だとするのなら、今の彼は英雄ラカムの子としての彼だ。その差だった。これからは、英雄の子として戦う。そういう事なのだろう。


「っ!」


 あまりの速さに、カナンは愕然となる。速すぎる。これが、ラカムの子の本当の力。それを、彼女は初めて見た。とはいえ、まだなんとか目視は出来た。そして出来たのなら、身体は動いた。


「っ!」


 カナンの頭の僅かに上を、ラザフォードの棒が轟音を上げて通り過ぎる。が、その次の瞬間。ラザフォードは棒を彼の頭の上に通して、袈裟懸けにカナンの脇腹を打った。


「あ・・・」


 カナンは激痛の中、自分が直撃を食らった事を吹き飛ばされながら理解する。


「カナン!」


 魅衣の悲鳴が響き渡る。それに、カナンが手で制止する。まだ、行ける。身体がそう訴えかけている事を理解していた。


「まだ・・・もっと速くなれるはず・・・」


 カナンは激痛の中、己に言い聞かせるように血を活性化させていく。もっと速く走れる。もっと強く攻撃出来る。そのはずなのだ。ただ、自分がまだ力を使えていないだけだ。そしてその次の瞬間、彼女は自らの身体が灼熱の如き熱を帯びるのを感じ、その次の瞬間にはそれが己を覆い尽くすのを理解する。


「・・・あ」


 目の前がぼやけ、脳に霞が掛かったかの様に意識がブレる。例えるのなら、高熱にうなされるような感覚。ただ、一言熱い。正気が保てない。そうして、遂にカナンの覚醒が始まるのだった。

 お読み頂きありがとうございました。

 次回予告:第922話『月の子・覚醒』

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