第920話 家族
一日だけ、時は遡る。ラカムの館にて一泊する事になったカイト達だが、そうしてカナンに与えられたのはその昔にメリージェーンが暮らしていたという部屋だった。
「ここが、メリー・・・お前の母さんが10年間暮らしてた部屋だ」
「ここが・・・」
カナンはラカムから案内された部屋を見て、どこか感慨深いものがこみ上げてくる事を自覚した。
「匂いは殆ど残ってない・・・悪いな。どうしても、気に入らない奴も多くてよぅ・・・俺の不在の間に度々匂いを抹消しやがった」
ラカムが申し訳なさそうにカナンへと謝罪する。ここは、メリージェーンの部屋だ。そして大凡20年前まではここで暮らしていたのだ。獣人ならわかる匂いが幾許かは残っていても不思議はなかった。
だが、それ故にラカムの妻達の中にはそれを快く思わぬ者達が居たのもまた、事実だった。痕跡を抹消しようとした結果、なのだろう。持ち物の破棄に拘らなかったのは、鼻が利く獣人故だろう。匂いの方を重視したらしい。そのままにされたようだ。
「あ、ううん・・・別に気にしてないよ」
「そうか・・・本当はお前の部屋を用意してやりたかったんだが・・・何分、今回は急だったからなぁ・・・悪いが、母さんの部屋で我慢してくれ」
「あ、ううん・・・ここで良いよ。私の部屋は今、冒険部にあるし・・・それに、こっちの方が・・・」
「・・・そうか。まぁ、俺は一度自分の部屋に行く。ラム姉が仕事しろ、って五月蝿いんでよぅ・・・三階の一番上の部屋だ。何かあれば、そっちに来てくれ。ああ、ここの奴は基本的には安全だ」
ラカムは改めて、この屋敷の中は安全であると明言しておく。なお、彼の妻達は大丈夫なのか、というとそれについては問題がないらしい。
基本的にこの屋敷は彼の物であり、妻達はここで寝泊まりする場合には離宮に近い形で空中回廊で繋がる別の屋敷に住んでいるようだ。彼も夜寝る時は普段はそちらに移るらしい。いわばここはお城で、離宮は彼の私邸という所と思えば良いのだろう。
その点を考えてみても、やはりメリージェーンがここに住んでいたのは色々と軋轢があったのだな、とわかる一幕だった。そうして、ラカムが部屋を去った後。カナンは一人、母の部屋を観察する。
「・・・うん。お母さんの部屋だ・・・」
ぽふり、とカナンはベッドに横たわる。匂いはラカムの言うとおり、何ら一切残っていない。特殊な匂い消しを使ったのだろう。
とはいえ、それで母の部屋がわからなくなるわけではない。曲がりなりにも親子だ。生前の母の趣味などを把握している。例えば、部屋についてはカナンの生家だったあの家の内装によく似ている。
まぁ、これはここをモデルに作ったのだから当然の話なのだが、それ故にカナンにもここが母の部屋なのだ、と理解出来た。と、そんな所に魅衣とティナがやって来た。
「カナン。元気?」
「あ、魅衣。ティナ・・・ちゃん」
「相変わらず言い難そうじゃのう」
「そりゃ、いきなり言われたって・・・」
カナンはティナの言葉に少しだけ気まずそうにする。そもそもいきなり自分の所属するギルドのマスターが伝説の勇者であり、更にはその恋人の一人がまさか同じく伝説の魔王とは思うわけもない。今まで通りに振る舞ってくれ、と言われた所で難しいのは、理解してほしかった。
「と言うか、逆にさ。なんで魅衣はそんな普通に振る舞えるの?」
「いや、だって・・・地球で魔王とか勇者とか言われたら笑うしかないわけだし・・・と言うか、ゲームで対戦やってたら時々ティナちゃん普通に『ふぁっはははは! 魔王に勝てるわけがあるまい!』とかガチで言ってたし・・・」
「なんじゃとぉ!?」
「気付いてなかったの!?」
魅衣の発言にティナが目を見開いて、そんなティナにカナンが目を見開く。どうやら、無自覚だったらしい。そもそも興奮状態の彼女は何を言っているかわからないのは自他共良くある事だ。むべなるかな、というところなのだろう。
「ま、まさかそれ・・・ゲーセンなどでやってたりは・・・」
「しまくりだったよ?」
「・・・すまぬ。少し放置しておいてくれ・・・」
流石に恥ずかしかったらしい。耳まで真っ赤に染めたティナはとことこと部屋のすみっこへと歩いて行って体育座りをする。さしもの彼女も300歳を超えた年齢でおおっぴらにそんなことをしていたと自覚すれば、恥ずかしくもなろう。
「「あ、あははは・・・」」
それに、二人は乾いた笑い声を上げるしか出来なかった。というかそもそもカナンさえ気づいていたのだ。この様子だと、相当に広まっている事だろう。
「・・・はぁ・・・まぁ、そういうわけでさ。地球じゃ魔王だ勇者だ、って言われても馴染みないのよ」
「ふーん・・・」
こてん、とカナンはベッドに横たわる。言われてみれば、確かにそうなのかもしれない。そう思ったようだ。とはいえ、それだけでは終わらなかった。
「あー・・・でも裏じゃカイトとティナちゃんは色々とやってた、らしいんだけどねー」
「裏?」
「まぁ、あっちもこっちと一緒よ。裏じゃどこもかしこもドロドロとしたお話があった、ってだけ」
「ふーん・・・」
カナンは魅衣からわずかだが地球での話を聞いている。それ故、そう言う裏の血生臭い戦いがあった、とは聞いているだけだ。なので実感がこもっていなかったし、魅衣にしてもそこらはほぼほぼどうでも良かった。そして、それはカナンも一緒だ。なので彼女はわずかに上げた顔を、再びベッドへと落とした。
「ふぅ・・・結局、どこもかしこも一緒・・・なのかなー」
「そりゃ・・・そうでしょ。変わっても困るって」
カナンのボヤキに魅衣が笑う。何も変わらない。獣人だろうと人間だろうと人魚だろうと神様だろうと、須らく『人』という一括りにされる以上、何かが変わる事はない。家族のことも、世界のことも、だ。
「・・・で、さ。どうなの? お父さん・・・ラカムさんとは」
「うーん・・・わかんない。昔から、なんかお父さんとして振る舞おうとしてた、っていうのはわかってたんだけど・・・」
カナンは母も見たであろうベッドの天蓋を見つめながら、かつての事を思い出す。あの当時の彼女は10歳かそこそこだった。そんな彼女が一人で行きていける道理はどこにも存在していない。
運が良くて、孤児院入りかストリート・チルドレンの仲間入り。運が悪ければどこかの人買いに騙されて娼館送りと言うところで、最悪はどこかで野垂れ死んでいただろう。
現に当時のカナンは違法な悪徳業者に騙されて娼館に売られそうになっていた。そこに、偶然――を装った――ラカムがその業者をボコボコにしたのが、始まりだった。今思えば、物凄い上出来なタイミングだったと思う。が、近くで見ていたのなら、筋は通った。
「多分・・・だけど。昔から見守ってはいてくれてたんだろうなー、って思う」
「うん?」
「今のおじさんを見てると・・・さ。物凄い心配してくれてるんだなー、とは思うの。それに、さ・・・来た時ひと目見て、私が私だってわかったじゃん」
「そういえば・・・そうね」
魅衣はラカムが来た時の事を思い出す。カナンとラカムが最後に一緒に居たのは、13歳の時だという。それから4年だ。カナンは成長期を経て、見た目は大きく変わっている。
胸は大きくなったし、背丈も少しは伸びた。顔立ちにも女としての色気はある。少なくとも、何ら前情報無しであればエラクゥ村の面々がわからなかっただろうほどには、変わっていた。
だというのに、一切迷うこと無く彼はカナンがカナンだと理解したのだ。勿論、彼女がメリージェーンと似ていたという事もあるだろう。だが、それにしたってあまりに即座に見抜いていた。きちんと愛していたからこそ、直感でわかったのだろう。
「それに、さ。年がら年中私達も一つの領土に留まってたわけじゃないから・・・多分、こっちに帰って来る度に、カシムさんがおじさんに写真やらなんやらを渡してたんだと思うの」
カナンは、カシムの行動を思い出す。彼はブランシェット領に来る度に、時々どこかへと出かけていた。その当時はちょっと古い知り合いが居るから、と言っていたしそれを疑う事も無かったが、今思えばそれはラカムの事だったのだろうとカナンは思った。ラカムと敢えて言わなかったのは、そう言うとカナンが付いて来る可能性があったからだろう。
「荷物の中にさ。写真、あったんだ。私や皆が写った写真・・・」
カナンは一枚だけ抜き取っておいたかつての仲間達と取った写真を、大切そうに胸に抱える。アルバムはレーヴの趣味だ、と聞いていた。
だが、これも依頼の一環だったのだろう。改めて彼女の遺品を整理していて気付いたのだが、アルバムにはカナンが来る前の写真は一枚も無かったそうだ。そうして、そんな隠された真実を改めて思い直して、ずっと秘めていた想いを吐露した。
「・・・私、依頼で預けられただけの仲間・・・だったのかなぁ・・・」
「それは無いでしょ」
どこか悲しげだったカナンに対して、魅衣ははっきりと断言する。そして、そこには慰めでもなんでもなく、自信が伴っていた。
「そうかな・・・」
「当たり前じゃん。だって、あの戦いの時。カナンの求めに応じてカナンの仲間が駆けつけてくれたじゃん」
「あ・・・」
カナンが目を見開いた。その通りだ。依頼だから助けたのではない。仲間だから、助けたのだ。だから仲間の危機に死してなお、彼らは駆けつけた。そしてそれは、カナンが知る事は出来なかった今わの際の彼らの会話にも、現れていた。
「そっか・・・ごめんなさい、皆・・・」
カナンは一瞬たりとも疑った事を、死んだ者達に謝罪する。疑う必要なんて無かったのに、何も語られないからこそ勘違いしてしまう。これは、生者故の仕方がない事だろう。そして、カナンの顔に笑顔が浮かんだ。
「良し! 謝罪終了!」
「あははは・・・で、カナン。本当にどうなの?」
「・・・お父さん、って呼べるかはわかんない・・・おじさん、って呼ぶのに慣れちゃってるから・・・」
カナンは魅衣の問いかけを受けて、素直な所を語る。今でもそう呼ぶだけで気恥ずかしい。父なぞ居ないのが普通だったのだ。それがいきなり現れただけではなく、不器用ながらもまるで父の様に振る舞っていてくれた人物が真実父とは思いもよらなかったのだ。
「でも・・・家族として受け入れてもらえれば、とは思う・・・」
カナンは小声で、自分の望みを口にする。これは魅衣やティナの前だからこそ、言った事だろう。それぐらいには二人の事を信頼していた。
「ふぅむ・・・難しい所じゃぞ、それは」
「ティナちゃん?」
「すまんの。迷惑を掛けた・・・まぁ、ラカムの小僧は良かろう。あれはカイトの影響を多大に受けておるし、当人も種族に関しての偏見は無い。それ故、メリージェーンとやらを受け入れたわけじゃからのう」
復帰したティナは改めて、カナンへと現状を見つめ直させる。そう、ラカムは大丈夫だろう。そして、エールとエールの母は大丈夫と言える。ここはカイト達も懇意にしていたので、受け入れてもらえる事は彼らとしても断言出来た。
「じゃが、お主も知ろう。獣人という種は基本的に一族単位での繋がりを重視しておる。よそ者にはよほどが無い限りは心を開かぬ。それが、一族の血を半分受け継いだ混じり者であってものう・・・」
「っ・・・」
どこか悲しげなティナの言葉を聞いて、カナンの顔が悲しげに歪む。それは、わかっていた。獣人はどうしても獣の概念が加わっている。その為、群れという考えは人間やその他種以上に強い。
その中に、これからカナンは入っていこうとするのだ。困難であることはカナンにもわかっていた。とはいえ、そんな現実を突きつける為にこんな事を言いだしたわけではなかった。
「とはいえ・・・まぁ、そのために余とカイトが来た。辛いじゃろうが、耐えられるの?」
「あ、うん!」
「あ、私も手を貸すわよ? 何が出来るかわかんないけど」
「魅衣もありがと。ティナちゃんもありがとう」
カナンが今日一番の笑顔になる。友が辛いのなら、自分達が支えるまで。そう思って彼女らはここに来た。それは喩えカナンがどういう地位になろうとも変わらない。
そもそも、彼らのトップは地位や権威を蹴っ飛ばして踏み潰して突き進む伝説の勇者なのだ。その影響を受けた彼女らには、お互いの地位や立場なぞほぼ無意味だった。と、そんな部屋の中に、また別の声が響いた。
「あ、じゃあ私も手を貸すわ」
「あ、エールさん」
「エールお・ね・え・ちゃ・ん」
「え?」
「エールお姉ちゃんよ」
入ってきたのはエールだ。横には、また別の女の子が一緒だった。と、そんなエールはカナンに対してずいっ、と顔を近づけてそう告げる。それにカナンは少し気圧されつつも、言われた通りにする事にした。
「え、えっと・・・エールお姉ちゃん・・・?」
「良し・・・よろしい」
密かに拳を握りガッツポーズをしたエールはカナンが姉と呼んだ事に満足気に頷いていた。ちなみに、何故『お姉ちゃん』という呼び方にこだわったかというとそう呼んでくれる者が少ないから、らしい。基本的に弟や妹からの呼び捨てが多いそうだ。
最近になってすでに育ちきった面子の矯正は無理と悟り、幼少期からの調教が重要であると思い知らされた彼女は積極的にそう触れ回っているそうである。というわけで、なにげにカナンへの彼女の密かな調教の一環だったりする。と、そんな彼女はティナの姿を見付けて、頭を下げた。
「あ、魔王さま。お邪魔します」
「もう遅いわ! お主、そこら辺父と母によう似とるのう・・・」
「よく言われるんですよー」
「褒めとらんわ・・・」
がっくし、とティナは肩を落とす。どうやら、エールはそこそこずぼらというかガサツというか、な性格らしい。母譲りらしい元気な娘ではある様子だが、それが有り余っている様子だった。そうして、ティナは一度ため息を吐いて、彼女が連れてきた
「はぁ・・・で、そっちのは?」
「あ、この子はクルルです。ほら、さっき言った・・・」
「ああ、その娘が・・・」
ティナも魅衣もカナンもそろってそう言えばさっきあと一人ラカムの娘がここに滞在している、という言葉を思い出す。それが、この子だったのだろう。顔立ちはあまりラカムに似ておらず、さらに言えば幼いが故に背丈もそこそこだ。まだまだ幼さが見えた。そうして紹介されたクルルが、頭を下げた。
「クルルですよ?」
「ですよ?」
「あはは・・・最近どうにも側付きの女の子の口調真似るの気に入っちゃったらしくて・・・」
自己紹介なのに疑問形とは、と目を丸くした一同に対して、エールが苦笑混じりに教えてくれた。どうやら、誰か側近がこんな口調なのだろう。と、そんなこんなで和気あいあいと話し始めた一同だったのだが、唐突に怒号が響いてきた。
「お嬢ー!」
「あ、やば! ごめんなさい! ちょっと行ってきます! クルル! 急ぐよ!」
「終わりなのですよ? またね、カナンおねえちゃん、魅衣おねえちゃん、ティナおねえちゃん」
エールから小脇に抱えられたクルルは最後に普通の口調に戻って、手を振ってさよならをする。どうやら、所詮は子供のお遊びという所なのだろう。と、そんな唐突な一幕に呆気にとられながらも見送った後、魅衣が口を開いた。
「・・・ごめん、カナン。ちょっと良い?」
「何?」
「羨ましいんだけど、このこの! 何、あのかわいい生物!」
「きゃー!」
グリグリグリとカナンの頭を小脇に挟んだ魅衣が楽しげに抗議の声を上げる。一方のカナンの悲鳴も楽しげだ。なにげにクルルという女の子は所作の一つ一つが可愛らしく、姉しか居ない魅衣のツボに入ったらしい。なにげに一人っ子と思っていたカナンのツボにも入っていた。と、そうしてしばらくして、窓からエールが帰って来た。
「いやー、ごめんね? 実はクルルが寝る前にお話してたら会ってみたい、って言われてね? 連れてきちゃったのよ」
「はぁ・・・で、なんで窓からだったんですか?」
「ああ、怒られそうになったから逃げたの」
魅衣の問いかけに対して、エールはたはは、と笑いながらあっけらかんと語る。クルルは先にも言ったが、まだまだ幼い。そろそろ眠らせるか、と思っていた所でエールが勝手に連れ出していたらしい。連れ出した、と言ってもこの館から空中回廊で繋がった所だ。なので安全は安全だ。が、時間が時間なので怒られて当然、というわけであった。と、そんなエールに対して、ティナがしみじみと頷いた。
「うむ。お主はどんな言い逃れをしようと、エーテラの娘じゃわ」
「よく言われるんです。お前らはいつも変わらないな、って」
「はぁ・・・お前ら、のう・・・」
ティナが呆れた様にため息を吐いた。ぜんぜん、堪えていないようだ。そして、母もそうだった。この様子だと今もまだおてんば娘のままなのだろう。
そうして、なんだかんだとカナンはいつの間にか、エールとクルルから家族と受け入れられていたのであった。なお、これが実はエールがカナンがこの家に馴染める様に気を遣ったものなのかどうかは、彼女以外にはわからない事なのであった。
その一夜から明けて、翌日。そんな想いがカナンの胸にはあった。
「・・・私は、認めてもらいたい」
家族が居なかったからなのかもしれない。欲しいと思った事はない。今更家族になってくれ、といわれても何を今更、と思わないわけでもない。
だがそれでも、父が何十年も必死で自分の為に奔走してくれていたというのだ。そのせいで妻の何人かとは今でも不仲だという。それでも、彼は自分を受け入れる事を決めてくれた。
そしてその家族も奔走してくれていたのだ。敵は古い風習。幾ら英雄だろうと強敵なのは嫌というほど理解している。なら、その想いを受けたかった。そしてその手助けになりたかった。そして、もう一つ。母の想いも受け継ぎたかった。
「・・・私は、獣人と吸血姫のハーフ」
カナンは己の出自を口にする。なぜそれが問題になったのかは、今の自分にはわからない。わからなくとも、少なくとも何らかの問題になる事なのだろうとはわかった。
「・・・」
カナンはカイトを見る。おそらく、自分が彼と出会ったのは運命だと思う。赤い糸とかではなく、純粋な両種族を巡っての運命だ。そうして、カイトが無言で頷いた。それで、カナンは覚悟を決めた。
「・・・む?」
ラザフォードが眉の根を付けて訝しむ。カナンが唐突に短剣を鞘に収めたのだ。
「んっ」
イメージは、たったひとつ。自分の中に眠るもう一つの血を活性化させる事。どうなるかはわからない。出来るかもわからない。正真正銘のぶっつけ本番だ。
そうして、彼女は右腕に力を溜める。やり方は、一昨日見た。他ならぬ一族の中でも最優と言われる男が見せてくれた。
「出来た・・・かな?」
「白銀の・・・爪・・・?」
「行きます!」
腕に魔力で白銀の爪を創り出したカナンが、地面を蹴る。彼女は、ハーフ。吸血姫でもあり獣人でもあり、そしてそのどちらでもない。故に、生み出したのはどちらの物でもあり、どちらの物でもない爪だった。それを武器とすることで、己の出自を示す事にしたのである。
「・・・<<月爪>>が出たか・・・覚醒が始まったか」
「どこまでか、見ものだな」
「人の娘を勝手にそんなレア物みたいに見るなよぅ・・・」
レイナードとカイトの言葉にラカムが肩を竦める。が、その彼自身も興味津々だった。数千年に一人しか生まれない、奇跡の少女。それが、カナンだった。そうして、遂に戦いが始まったのだった。
お読み頂きありがとうございました。
次回予告:第921話『認めてもらう為の戦い』
2018年1月1日 追記
・誤構成修正
『魅衣はカナンから~』という一文ですが、魅衣とカナンが逆でした。




