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影の勇者の再冒険 ~~Re-Tale of the Brave~~  作者: ヒマジン
第50章 草原で生まれし者編

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第915話 カナンの処遇

 洞窟での魔物の巣の壊滅を終えた翌日。カイト達は一路北へと進路を取っていた。目的は勿論、今回の一連の騒動に決着をつけるためだ。移動方法は飛空艇だ。

 カイトがカイトとして動く事にしたので、三姉妹達を呼び寄せて飛空艇を持ってこさせる事にしたのだ。勿論、ブランシェット家と皇国へと連絡を取る為もあった。というわけで、カイトは飛空艇の操縦を三人娘に預けるとシアと連絡を取り合っていた。


「というわけで、この子はお前のお母さんの従妹になる」

『私のお母様の・・・従姉妹!?』


 珍しくシアが驚愕の声を上げる。今まで彼女にさえメリージェーンの子供のことは隠されていたらしい。そもそもここらはブランシュ家の恥になる。一介の皇女に過ぎない彼女に隠されていても仕方がないだろう。とはいえ、噂程度に存在している事は聞いていたらしく、その生存は彼女からしてみても驚愕に値したようだ。


『ちょ、ちょっと待って・・・それ、お父様には?』

「まーったく上げとらんのですよ、これが。お家騒動らしくてね。今からです」

『う、うわ・・・ちょっと待ちなさい・・・』


 シアは事の重大性が良く理解できていた。それこそこれから皇女に会うと言われたカナンが緊張しているだけなのに対して、彼女の方は思い切り顔を青ざめていたほどだった。


『ちょ、ちょっとだけ待ってもらえるかしら・・・お父様の後宮にいらっしゃるお母様に連絡を取るわ・・・』


 シアが頭を抱えながら、通信機を皇城の専用回線に切り替えて更にその上で、自分の母親へと通してもらう。更におまけで皇国の大臣の中でも信頼のおける者を通して、皇帝レオンハルトも呼び出してもらった。


「お久しぶりです、陛下」

『公か。久しいな。それで、どうした? また何かやってくれたか?』


 皇帝レオンハルトは非常に楽しげだった。シアが頭を抱えてきた時点で、何かまたぶっ飛んだ事が起きたのだろう、と理解していたからだ。と、そんな彼もカイトの横に立っていたレイナードとラカムを見て、流石にその表情を引っ込める事になった。


『これは・・・レイナード殿にラカム殿。久しぶりです』

「ああ」

「おう」


 皇帝レオンハルトの挨拶に対して、レイナードもラカムも一応はきちんとした作法に則って挨拶を返す。が、言葉が伴っていないのは、どちらも私人としての関係性をみれば二人の方が立場が上だからだ。

 というのも、皇帝レオンハルトからしてみればレイナードはそもそも義父にあたる。レイナードはシアの祖父ということはつまり、皇帝レオンハルトはレイナードの義理の息子ということだ。なので内々にはこの対応でも問題はない。

 そして実は、皇帝レオンハルトの母はブランシェット家に連なる者だ。彼が時折獅子に喩えられるのも、彼が金獅子(きんじし)族という一族の末裔に位置しているからに他ならない。身体能力の高さもそこに起因している。彼は尾も耳も無いが、獣人の末裔なのだ。父――つまり先代の皇帝――がバランタインの血統で、母はブランシェットの血統。それが、彼の血統だ。

 そうなると本家筋になるブランシュ家の長ラカムは、獣人という種族として見れば皇帝レオンハルトより圧倒的な格上なのである。なので、こちらも私人としてはこの挨拶で良かった。

 それにどちらも更にはカイトと同じく大戦期に活躍した英雄というネームバリューもある。両種族を代表する大英雄だ。その点でも、この程度の慇懃無礼さは許されているのである。勿論、これらは内々のお話な場での話なので公の場では二人も皇帝レオンハルトも相応の立ち振舞になる事は明言しておく。


「まぁ、それは良いんです。とりあえず、このバカどもは置いておいてください」

『ははは・・・わかった。とりあえずは、両公については置いておこう。それで、どうした?』

「はぁ・・・はい、どーぞ」


 皇帝レオンハルトの求めに応じて、カイトはレイナードへと先を促す。ここら、彼の方がざっくばらんに話してくれる。


「ああ・・・レオンハルト殿。先に我が妹、メリージェーンが死去した事はご存知か?」

『ええ。丁度先代教皇の主導するルクセリオン教国との諍いの最終盤で葬儀への列席は叶いませんでしたが、彼女は妻の叔母上。覚えています』

「その娘が、つい先ごろ見付かってな」

『なんと!? 確か戦死した、と伺ったのですが・・・まことですか?』


 流石に皇帝レオンハルトとてこの情報は疑っていたらしい。彼の所にもレイナードを通して報告はあったらしいのだが、それが翻意される事になったとあっては、疑うのも当然だろう。というわけで、カイトが口を開いた。


「ここで、オレになるんですよ」

『ふむ? 公が?』

「ええ・・・実はその冒険者達が亡くなったのが、私の領土でして・・・瞬率いるキャラバン隊が北への道中に通りかかりまして。その生き残りとして彼女を保護していたのです。が、当人はそもそも父の事を知らず、その詳細を知る仲間が語れませんでしたので、私達としても普通の少女として扱っていたのです」

『・・・公よ。貴公は随分と面白い縁を持ち合わせていないか?』

「言わんでくださいよ・・・」


 カイトは疲れた様に笑う。もう何がなんだかさっぱりだった。勿論、この場合はどうしてこうなったのか、という意味で、だ。


「まぁ、とりあえず・・・親子関係の確認については、皇国の正式な手法を取って検査をしている所ですが、おそらく確定かと。当人しか知らないはずの出来事も多く、先の死者達については私のルートを使いユニオンへと問いかけて、彼女の護衛が任務であったが判明しております。誰かのなりすましは無いものと」

『ふぅむ・・・またややこしい事になったな・・・いっそ無かった事にしたい所だ』

「あははは・・・お気持ちは理解出来ますが、流石に陛下の立ち位置的にもそれは拙いでしょう」

『わかっている。冗談だ』


 カイトの苦言に皇帝レオンハルトが笑う。彼としては、できればカナンの事は無かった事として扱いたい。少し前にカイトが言った様に、彼女には利権が生まれるからだ。

 が、それを彼の立場でやることは不可能だ。流石に妻の従姉妹にして種として上の相手の娘を害しては彼の外聞が大きく損なわれてしまう。勿論、カイトとの遺恨も生まれる。やるべきではないだろう。


「それで、どうされますか?」

『公の預かりとしてくれ。当分はシアと共にな』

「一応は血縁故に、ということですか?」

『ああ・・・とはいえ、事はかつてのあの夜の事に匹敵する。当分は公表を見送ってもらいたい』

「当家としては、問題がありません。元々彼女を守る事は当家としての方針。今回もその件でこちらへ来たわけですからね。我々の庇護下におけるのでしたら、問題はありません」

「こちらとしても問題はない。これの下であるのなら、それは即ち我の近くでもある。ならば、問題はない」

「俺は何かを言える立場じゃねぇな」


 皇帝レオンハルトの申し出に対して、カイト達三人は受け入れる。と、そんな所に、今まで緊張でガッチガチになっていたカナンがかなりおずおずとした様子で口を開いた。


「あの・・・陛下・・・その・・・良いですか?」

『ふむ。何かね?』

「私もう冒険者として・・・旅とかしたら駄目・・・ですか?」


 緊張しながらもカナンは大凡が理解出来ていたらしい。もう冒険者として活動は出来ないだろうな、と思ったのだろう。どこか寂しげだった。それに、皇帝レオンハルトは少しだけ悩みを見せた。


『ふむ・・・できれば、してもらいたくはないというのが正直な所ではある。幾ら『月の子(ムーン・チャイルド)』とは言え、まだ君は若い。危険は大きいだろう』


 皇帝レオンハルトとしてではなく、皇国として考えればカナンが冒険者として活動して良い事はあまりない。なので出来ればカイトの公爵邸で安静にしておいてもらいたいというのが、本音だ。とは言え、それはそれで困る出来事が存在しているのも事実だ。

 と、その一方『月の子(ムーン・チャイルド)』とはなんだろう、と首を傾げていたカナンはスルーして、皇帝レオンハルトは先を続けた。


『が・・・まぁ、しばらくは好きにしたまえ。勿論、君の存在が公表されてよりは今までの様に自由には出来んだろうが、それまでの間君は情報の露呈を防ぐ為にも冒険者として扱われる。ならば君が出る時は必然マクダウェル公かユスティーナ殿が関わる事なるだろう。彼らの腕前は我々が切り札と頼むほどだ。戦地であれ、君を無事に帰還させる事だろう。であれば彼ら二人と共にであるのなら、今までと同じく冒険者として活動して貰ってかまわない』

「良いんですか?」


 カナンが少しだけ嬉しそうに、目を見開く。ここら、皇帝レオンハルトは理解が良かった事は彼女にとっても幸いだっただろう。


『ああ。構わない・・・勿論、マクダウェル公らの保護下の下、という前提はあるが・・・それは大凡今までと変わらないだろう。君が知るか知らないかの差でしかない』


 皇帝レオンハルトは道理を説く。結局は、そこにたどり着くのだ。カイト達の保護下であるのなら、どこだろうと一緒だ。絶対に安全な場所なぞどこにもない上で、一番安全なのがそこだ、というだけだ。

 その点は町中だろうと皇城だろうと一緒だ。程度が変わるだけだ。極論、町中よりもカイトの側の方が安全だ。大精霊達さえ、保護に加わってくれる可能性があるのだ。その安全性は皇城をも遥かに上回る。

 なのでカイト達さえ側にいてくれれば良いのであって、極論は連絡さえ即座に取れるのなら何処で冒険してようが寝てようが彼ら皇国には問題はないのである。


『マクダウェル公は勇者カイト。である以上、君が何処にいようと彼の側である事が一番安全だ。彼に保護を任せたのも、そこにある。君の身を守る為には、それが一番なのだ。特に今は君の祖父を筆頭にして、この世界でも有数の猛者達が集っている。それが、最適なのだ』

「はぁ・・・」

『わからんかね。まぁ、仕方がないか。とりあえず、今まで通り、しかし今まで以上に死なない様に注意しながら彼の下で生活したまえ、というだけだ』


 皇帝レオンハルトはそう明言する。とどのつまり、現状維持さえしてもらえるのなら彼はとりあえずはどうでも良いわけだ。そもそも彼女は生きていない事になっている。それを生きている事にしたり祖父や父親の件に関連して彼女の対処を決めたりをするのにも、かなりの時間は必要になる。

 その間自由にする事を許可したのは、皇帝レオンハルトの温情と言うところだろう。その後は、ラカムとレイナードらとの話し合いもあるだろう。そうして、種々の取り決めが早急になされて通信が切断される。


「良し・・・とりあえずこれなら大丈夫か」

「すまねぇなぁ・・・」


 カイトに対して、ラカムが頭を下げる。結局、何をするにしても彼に出てもらわねばここまでさっさと解決する事はなかっただろう。


「団長ってか隊長ってか総大将の仕事みたいなもんだろ・・・何度もやらされた話だしな。で、次だ。大凡の見立てはついてんのか?」

「大凡は、って所だ。それについちゃ、着いてから話す。勿論、それ以外にもあるこたぁあるからな」


 ラカムは頭の中にカナンの事を疎んでいそうな家系を思い出す。ここらはラカムとメリージェーンの事を最も強固に反対していた家系だ。


「わかった・・・とりあえずはそれで」


 カイトがやるべきことはたったひとつ。乗り込んでって適当にお説教してカナンの身の安全を保証させる事。最初から最後まで、彼の今回の旅の目的はこれ以外は無い。というわけで、飛空艇は皇帝レオンハルト達とのやり取りを終えて、一路北へと進み始めたのだった。

 お読み頂きありがとうございました。

 次回予告:第916話『ふるさと』

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