第913話 解決へ向けて
ひょんな事からカナンがカイトの友人であるラカムの子だと判明した後。カイトへと事情を説明する為に外に出たラカムだが、途中から合流したレイナードと共にカイトによって強制連行的にカナンの家へと差し戻される事になった。
「あ、おかえりなさい。結局、なんのお話だったんですか?・・・って、あれ?」
帰って来るなり一人増えていたことに、カナンが首を傾げる。とはいえ、魅衣の方は知っていた。
「あ、レイさん。お久しぶりでっす」
「久しぶりだ、小娘」
魅衣の気軽な挨拶にレイナードが頷く。彼は現在の『無冠の部隊』再結集に合わせて何度かマクスウェルを訪れており、そこで魅衣とも会っていたのだ。
で、魅衣はカイトの女なわけで、発言が許可制の彼もさすがに許可を与えたわけだった。名前を呼んでもらえないのはやはり、完全に認められたわけではない、ということなのだろう。
「知り合い?」
「レイナード・ツェペシュ。さっき写真に写ってただろう? カナンのお母さんのお兄さん・・・まぁ、伯父さんだ」
魅衣に変わって、カイトがレイナードを紹介する。写真はどうやらその後の混乱によってカナンの記憶から抜け落ちてしまったらしい。
「ほぅ・・・幼き頃のメリーの面影はあるな。良かろう。貴様の発言は許可しよう」
「え?」
「お母さんにそっくりだ、ってよ。多少家族に喩えて賞賛するのはこいつの悪いクセだと思ってやってくれ・・・あ、発言云々はスルーで良いぞ? こっち全員無視してるしな」
「当たり前だ。我が一族は全員美男美女しかおらん・・・後、貴様らには何をやっても無駄だからだ。許可した覚えはない」
「あっはははは。オレを誰だと思っていやがる。こちとら王冠ぶっ潰す『無冠の部隊』の団長様だぜ」
レイナードの言葉にカイトが笑った。だからこその、『無冠の部隊』だ。あそこでは権威は無意味なのである。王様だろうと王子様だろうとお姫様だろうと元奴隷だろうと、対等に扱われる。権力とてカイトのバックに居る大精霊の前には無意味だ。と、そんな馬鹿話を行う二人に対して、カナンがおずおずと言った具合で問いかけた。
「あの・・・それならどうしていらっしゃったんですか?」
「ああ、それか・・・おい」
レイナードはどうするべきか悩んで一向に動きを見せないラカムへと視線を送る。
「あー・・・」
が、ラカムはどう告げれば良いかわからないらしい。それに、レイナードがため息を吐いた。
「はぁ・・・このラカムが、貴様の父親だ」
「・・・え?」
レイナードの言葉にカナンがきょとん、と目を丸くして、ラカムは少し恥ずかしげに視線を逸らす。それに、カイトが頷いて続けた。
「ま、そういうことだ。この馬鹿、自分が娘にどう思われるか不安で自分の正体明かさなかったんだと」
「ラカム。これ以上は貴様が語れ」
「・・・ああ」
レイナードから促されて、ラカムがようやく決心したらしい。そうして、しばらくの間。ラカムによって、今までにあった事が語られる事になるのだった。
およそ、2時間程。夕暮が近くなった頃の話だ。その頃になってようやく、全てが語り終えられた。全てを語るには、それだけの時間が必要だったのだ。当然だろう。10年以上の月日が流れていたのだ。それぐらいは、当然だった。
「・・・すまん。この通り、親父ズラなんぞ出来る立場じゃねぇ・・・だが、お前の母さんを愛していたのは事実だし、そこだけは、理解してくれ」
「それについては、我も同意しよう。少なくとも、こいつはメリーの事を愛していた」
ラカムに続けて、レイナードもフォローを入れる。これだけは、周囲も認める事だ。だからこその大揉めなのだ。義務や義理だけであれば、おそらく子供が出来ても古い獣人達も何も言わなかっただろう。その子は所詮義務や義理だけで出来た子だ。権威も権限もそれ相応にしか有し得ない。
愛し合っていたが故に、問題だったのだ。今までの軋轢のある相手との間に出来た子が、自分達の子供と同等の権限を持つ。それは、認められる事ではなかった。そうして、今までただ話を聞いているだけだったカナンがようやく、口を開いた。
「あの・・・じゃあ、おじさんは私を守る為に来てくれた、ということなんですか?」
「信じて貰えないだろうが・・・そうだ」
ラカムははっきりと頷いた。あの頃迎えに行ったとて、確実に暗殺者の手が及んでいただろう。今回のなぞり書きになるだけだ。
「じゃあ、その・・・私は・・・生まれてきてよかったんですか?」
「あ?」
ぽかん、とラカムが目を丸くする。そんな質問を受けるとは露程にも思っていなかった様子だ。
「そりゃ、おめぇ・・・何を当たり前な事言ってんだ。お前が出来たって聞いた日にゃ、恥ずかしいが小躍りしたぐらいだぞ」
「小躍りどころか我の居城にまでその日の内に来て大興奮で子を孕んだ事を言いに来たぐらいだがな」
ラカムがあまりに当然な問いかけに呆気にとられながら答え、レイナードが当時を思い出したらしく非常にうざったそうな顔で相槌を打つ。
「あー・・・修繕費用とか大丈夫だったのか?」
「ご祝儀にツケにしておいてやった」
小声でのカイトの問いかけに、レイナードが笑う。何があったのか、というと単に何時も通り喧嘩しただけだ。原因は単にラカムがうざかったから、という一言である。ここら、カイトには分かった話だった。
それで自分の家をボロボロにする当たり、レイナードもレイナードでやんちゃ者だった。この二人ほど、喧嘩するほど仲が良いという単語が似合う関係は無かった。
「そっか・・・」
カナンは少し嬉しそうにそう呟くと、ずずっ、と鼻水を啜りながら魅衣を手招きする。それに、魅衣はわずかに苦笑しながらも、優しい笑みでカナンを抱き寄せた。
「やれやれ・・・ほら」
「う・・・あ・・・」
カナンがゆっくりと、涙を流していく。今までずっと不安だったのだろう。特に自分が暗殺者から狙われてからは、特に不安だった。自分が疎まれているのではないか、と。自分は本来捨てられたのではないか、と。ラカムからそれを払われて、ようやく彼女は安堵したのであった。
「っ・・・すまねぇ・・・」
それに、ラカムは己の失策を改めて悟って顔をしかめる。本当は、何を押し通してでも引き取るべきだったのかもしれない。危険に晒すのは、彼とてわかっている。だが、どうしても守りきれないのではないか、という不安がそれを遠ざけるという結論へと導いた。
どちらが正しかったのか、というのは今でも判断出来ない事だろう。そして、誰にも出来はしない。神とて不可能だろう。どちらにしても、危険性は付き纏うのだ。とはいえ、カナンの心情一つだけを考えてみれば、引き取るのが正解だった様に思えた。
「やれやれ・・・とりあえずは、これでハッピーエンドじゃのう」
「だな・・・」
ティナとカイトは泣くカナンとそれをあやす様に慰める魅衣を見ながら、とりあえずは事件が決着した事に安堵を浮かべる。とりあえず、これでカナンの両親は判明した。後の対応はラカムと話し合えば良い。
まぁ、ラカムの状況を考えれば当分はカイトに預かってくれ、と頼むのだろう。そして、カイトとて友人の頼みを断るはずもない。そしてカイトの庇護下にあっては、流石にどの種族だろうと手出しは無用だ。祖である神獣を怒らせる結果になりかねない。
「ふん・・・始めから我に問えば良いものを」
「てめーが言わなかったんだろうが!」
レイナードの言葉にカイトが小声で怒鳴る。そもそも、彼が妹の事を語ってくれていればこんな騒動は起きなかったのだ。ラカムはレイナードを避けていたので仕方がないが、彼は平然とカイト達の集まりに顔を出していた。魅衣を見知っていた様に、何度かマクスウェルに顔を出している。語れる機会はいくらでもあったのだ。
「いや、お前に言っても無駄だってわかってんだけどね・・・一応、聞いておく。もう他に誰々の子と結婚した、とか無いよな?」
「ブランシェット家の又従姉妹が現皇帝の母という程度だ」
「知っとるわ」
カイトは呆れながら、これ以上の揉め事が無いだろう事で安堵した。そうして、しばらくはカナンとラカムが平静を取り戻すのを待つ事になるのだった。
さて、ラカムとカナンが平静を取り戻したまでは良かったのだが、そこでカイト達はうっかり一つの事を忘れる所だった事に気付いた。
「っと・・・そういや、聞いておくんだが・・・まぁ、当然の話でお前が暗殺者放ったわけねーよな?」
「なんだよ、そりゃ」
ラカムが目を丸くする。当たり前ではあるが、ラカムにカナンに対して暗殺者を送る理由は何処にもありはしない。王だからあるだろう、と言われても彼にそういった話は無縁だ。
ウジウジと悩みやすいものの、常日頃は豪胆落語な性格だ。暗殺者を送るぐらいなら己が乗り込んでって拳でブチのめして終わらせる、というのが彼のやり方だ。
「だろうな・・・で、カナンの生存を知らない所を見ると・・・」
「はぁ・・・すまねぇ・・・カナンもすまねぇな・・・」
どうやら、彼のあずかり知らない所で起きた事態だったのだろう。すでに述べられていたが、彼の所にはカナンは戦死した、という報告が上げられている。そして如何に彼とて、そこ以外に冒険者の情報を入手出来るルートは無い。
これは仕方がない所で実は何処かの横槍でもなく冒険者ユニオンとしてそう告げるしかなかった――他の依頼との兼ね合いや他支部からの情報の為――のだが、それ故、彼はカナンの生存を知らなかった。
他はカイトという伝手があるが、そこをラカム当人が避けている上にカナンがラカムの娘と知らなかった以上、伝える事もない。であれば、実際に彼の耳に入るまでに殺してしまえば、なんの問題も無くなる。それを狙っての襲撃だったのだろう。
「となると・・・まだ完璧な解決にゃ、程遠いな」
「すまねぇ」
カイトの言葉にラカムが謝罪する。ここらは、彼らのお家騒動に巻き込まれたようなものだろう。そして、今回のカイトの目的はカナンの安全の確保だ。
敵はすでにカナンの生存を把握している。ラカムが知った事も遠からず知るだろうが、それで諦めてくれる奴らでない可能性がある。己が出るべきだ、と考えたのであった。
「ま、気にすんなよ。ウチにゃウチの守るべきモンがある・・・それに手を出した事はきっちりけじめ付けて貰おうじゃねぇか。レイ、お前はどうする?」
「愚問だろう」
「当然か・・・じゃあ、ちょっと通すべき筋を通してくる」
レイナードの返答にカイトが笑って、立ち上がる。キリエに一応の経過報告を行い、明日からの護送はホタルにまかせて自分達は一路ラカムの居城へと向かう事にするつもりだった。
「と、いうわけだ」
「なるほど・・・そういう事だったのか。ということは、私にとってもあの子は遠縁だったわけか」
大凡の事情を説明されて、キリエが頷く。勿論、彼女の立場の問題もあるので詳細はまた別日を選んでブランシェット家へ話すつもりだ。なので今語れたのは、語れる範疇での話だった。
「わかった。どちらにせよ密かに軍も待機してくれているし、君の所のホタル・・・だったか? あの子の実力は私もよく理解しているさ」
キリエはカイトからの申し出を受け入れる。ホタルを確保する際に、カイトとキリエは出会っているのだ。なのでホタルの実力の程については、ブランシェット家の中では彼女が一番理解していた。
「そうか。詳細はわかったらまたアベルにでも報告しよう」
「そうしてくれ・・・では、次に会えるのは当分先になりそうか」
「夏休み明けぐらいだろうからな・・・」
「あ、だからといってハメ外しすぎないようにね? 一応、これは学園長からのお言葉だよ」
「はい、学園長先生・・・では、ありがとうございました」
最後にユリィからの言葉を受けて、キリエが頭を下げる。最後の最後できちんと教師として締めるあたり、彼女もきちんと教師としての心構えが身についていたのだろう。そうして、カイト達は翌日の朝にエラクゥ村を後にしたキリエ達を見送って、自分達は更に北へと向かう事になるのだった。
お読み頂きありがとうございました。
次回予告:第914話『親友たち』




