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影の勇者の再冒険 ~~Re-Tale of the Brave~~  作者: ヒマジン
第50章 草原で生まれし者編

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第912話 カナンの父親

 ラカムが里を発つより少しだけ、時は遡る。ラカムが呼び出される事になったまでは良いが、方法については誰もが疑問だった。とはいえ、これは実はカイトなら可能な方法があったのだ。


「えっと・・・あったあった」

「らー・・・らー・・・良し。喉の調子も良し」


 何かを探すカイトの横で、ユリィが発声練習をする。と、そんな二人を見て、魅衣が半笑いで問いかけた。


「何やってるの?」

「召喚の儀式の準備。邪神は呼べませんけどね」

「ふんぐるい」

「やめろ。ガチで来る可能性あんだろ」


 こんな状況でも巫山戯ようとしたティナに対して、カイトがハリセンでツッコミを入れる。どうやらここ当分巫山戯られなかった反動で巫山戯たくなったらしい。


「いたた・・・そう言えばあるんじゃったか・・・すまんすまん。せいぜい、いあいあ、と叫び上げるぐらいにしておくべきじゃったな」

「ったく・・・」

「あはは・・・で、それでどうするの?」

「うん? ああ、基本的に獣人は身体能力高いだろ?」


 カイトはカナンを見ながら魅衣へと問いかける。かつてのレインガルドでの調査任務でもそうだったが、彼女ら獣人――カナンはハーフだが――の身体能力は意識しなくても人間よりも遥かに高い。それは当たり前の話だ。


「うん、それがどうしたんですか?」

「なら、ある特定の音をメッセージとすれば、あいつが聞いてくれてこっちに来る、って寸法だ」

「まぁ、伝令にはシルフ様のお力をお借りするんだけどね。流石にこの距離で集中してないのに獣人達に届くはずないし」


 カイトの解説に続けて、ユリィが詳細を述べる。どれだけ音が小さかろうと、シルフィの力を加えれば遠くまで音を届ける事は出来る。勿論それにも限度はあるが、とりあえず彼の耳に届く範囲であれば、後は彼がこちらを見付けてくれるのであった。そしてこの距離は、十分に彼に届く距離らしい。


「さて、じゃあ、やりますか」

「うん・・・あ、あ・・・マイクテストよーし。そんなの無いけど」

「オカリナ・・・詰まってないな」


 カイトが手にしていたのは、オカリナだ。それも高価そうではない普通のオカリナだ。なんの力も持ち合わせていない普通のオカリナである。そうして、カイトとユリィはうなずきあった。


「あー」


 ユリィの口から、きれいな歌声が響き始める。それは獣の鳴き声にも似た、音だけの歌だった。と、その歌を聞いて、カナンが目を見開いた。


「あ・・・これ・・・子守唄・・・」


 どうやら、カナンは聞いたことがあったらしい。より正確に言えばこれにきちんとした歌詞を付けたものだそうだが、旋律そのものは同じだった。それに、ティナが笑う。


「まぁ、古い獣人達が唄うものじゃからのう。知っていても不思議はあるまい」


 カナンの父親は古い獣人である可能性が高いのだ。ならば、知っていても不思議はなかった。というわけで、カイト達はその話を横目に、演奏を続けていく。

 そして、数分後。カナンがぴくん、と周囲を見回した。彼女とてハーフだが獣人だ。超高位の獣人の近付く気配を感じ取ったのだろう。そうして、それを見ていたカイトが演奏を止めた。


「来たか」


 カイトが北にある山を見上げる。そして、その次の瞬間。その山頂の部分の木々を割って、一匹の巨大な獅子が現れた。体毛は黄金。威容はあまりに勇ましい。

 まさに、百獣の王。皇帝レオンハルトよりも遥かにその言葉が似合う獅子が現れたのだ。そうして、そんな獅子は空中で一人の大男へと姿を変えて、地面へと着地した。


「よぉ! ダチ公! ひっさしぶりじぇねぇかよぅ!」


 ラカムが大笑いしながら、カイトへと腕を突き出す。彼は人型となってもやはり巨大で、身長はおよそ2メートル、筋骨隆々のたくましい身体だった。髪色は金色。肌は日に焼けていて小麦色だった。豪快な笑みの似合う健康的な大男。一言で言えば、それだった。


「はっ! てめぇこそこの数ヶ月何してやがった!」


 それに、カイトも腕を組み合わせる。その顔はやはり獣の様に獰猛で、しかし快活な笑みが浮かんでいた。


「いっや。悪い悪い。じつぁ、ちょいとわけがあってなぁ・・・」


 カイトと腕を組み合わせたまま、ラカムが少しの苦笑を滲ませる。この様子では彼としてもカイトの所に行きたかった事は行きたかったのだろう。だが、何かのっぴきならない事情があって来れなかった、というのが正解なのだろう。と、そんな時だ。声が上がった。


「あぁああああ! おじさん!?」


 声を上げたのは、カナンだ。彼女は目を見開いて、ラカムの姿を見ていた。それに、ラカムがそちらを見た。


「は? え?」


 ぽかん、とラカムが口を開く。それに、カイトため息を吐いた。だいたい、そうなのだろうなと思っていたのだ。


「・・・やっぱりな」

「い、いや、ちょっと待ってくれ! お前、カナンどこで見付けた!?」

「はぁ・・・」


 がばっ、とラカムがカイトの両肩を掴んで問いかける。その顔は驚きで見開かれていた。それに、カイトが呆れた顔になる。もうこの時点で答えを告げている様なものだった。

 そうして、とりあえず焦る彼に対して、答えを告げてやる。ラカムの方はカイトが呆れている事にさえ、気づいていない様子だった。


「ウチの領土で保護したんだよ」

「お前のとこかぁー・・・」


 はぁ、と非常に安堵した様子をラカムが見せる。どうやら、どこかで知り合いだったらしい。そうして、カイトはとりあえずラカムを落ち着かせる事にして、カナンの家で本題を問いかける事にした。


「・・・で?」

「ふぅ・・・いや、悪い悪い。お、カナンも茶、悪いな」

「ううん、いいの」


 カナンは笑いながら、ラカムの感謝に首を振る。そうして、それに頷いたラカムは何処から話したものか、とため息を吐いた。そうして、ラカムは少し苦々しい様子で、カイトへと提案した。


「すまん。少し外で頼めるか?」

「はぁ・・・もう大方読めてるけどな・・・ユリィ、行くぞ」


 話の内容を大方理解しているカイトはユリィを伴って、とりあえずラカムに従って立ち上がる。そうして、二人は一度カナンの家を出て、少し離れた所で話し合う事にした。


「・・・すまん。本当に心の底から感謝する」


 会話の開始早々、ラカムは深々と頭を下げる。それに、カイトはやっぱりな、と呆れた様にため息を吐くだけだ。


「やっぱりか。レイの妹って聞いて、ユリィに知らないか、って問いかけた時点のこいつの顔でわかったわ。髪の色が両親と繋がらない、ってのもわかった話だった」

「いや、まぁねぇ・・・噂にはなってたもん」

「ほんっとにすまん」


 ラカムは重ねて謝罪する。そして、カイトが結論を口にした。実のところ、ユリィは詳細を知らない。ここはブランシェット領。しかも事はその影響が及ばない者達の土地で起きた事だ。彼らが伝えてくれない事には、あまり話が伝わってこないからだ。


「カナンの親父ってのはやっぱお前か。カナンの髪の色からお前ら本家は絶対に無いな、と思ってたが一個だけあり得る話があった。フランの妹が母親ってところでそれも頭にはあったがな・・・カナンは『月の子(ムーン・チャイルド)』だったか。逆にそうなると本家筋ぐらいしかないからな」

「・・・ああ。『月の子(ムーン・チャイルド)』・・・俺のわかってる限りだと大体一千年ぶりぐらい、か。ブランシェット領に居させられなくなって、懇意にしてる冒険者に預けたんだが・・・つい数ヶ月前に死亡の報告が届いてよぅ。焦りに焦っていた所だった」


 はぁー、と深い溜息を吐きながら、ラカムが事情を説明し始める。


「お前が帰った後。俺とレイの奴とで両種族の和解に奔走したんだがよ・・・まぁ、それで200年程経過して、大凡の種族にゃ話は付けられた。そこまでは、順風満帆だったけどよぅ、その後が問題でな」

「その後?」

「30年程前か・・・メリージェーンって知ってるか?」

「カナンの母親か。レイの妹、と奴から聞いた・・・が、風土病か流行り病で死んだんじゃなかったのか?」

「私達も、そう聞いたよ。そっちで色々あって追放されて境目にある村の一つで亡くなった、って聞いてる」

「ああ、そうだ。まぁ、公爵家でもわかんのはその程度か」


 ラカムは少しだけ悼ましげに、カイトとユリィの言葉を認める。


「良い子だった。俺にゃもったいないぐらいのな。両種族の和解で動いてしばらく経った頃に生まれた娘だ。俺達とも積極的に関わってくれる奴でな。いつしか、俺に惚れ込んでたらしい」


 ラカムは少し楽しげに笑う。彼は生まれた頃から知っていたはずだったが、気づけば彼女も女になり、いつしか己も妻として迎え入れていたそうだ。

 ここらは彼らが公爵家関係なく動いていた事だ。なので、クズハ達もユリィもあまり知らないらしい。そもそも彼らの自治区はカイトのマクダウェル領にはない。貴族にも領土や領分がある以上、あまり大きく関わるわけにもいかなかったのだ。カナンの事をユリィがわからなかったのも、そこらが原因だった。見たこともないし、名前もほとんど聞いた事が無かったからだ。


「まぁ、そこらは良いか。で、今から30年程前か。じゃあ、そろそろ和解って事で両家から子女同士で結婚させるか、って段取りになってよぅ・・・向こうはメリーを出す事になってな。そうしたらメリーの奴、笑って俺を相手に指名してきやがった。これにゃ、レイも俺も思わず呆然となるしかなくてな。あいつとおんなじ顔をしたのは、後にも先にもあれっきりじゃねぇか?」


 楽しげに、ラカムは笑う。その時の事は楽しい思い出だ、と受け入れられていたのだろう。なお、この婚儀の際に、公爵家からも祝いの品と使者が出席していたらしい。

 流石に当時はもう学園長に就任していたユリィは丁度忙しかった事もあり出られなかったらしいのだが、フィーネを伴ったクズハがハイ・エルフからの使者も兼ねて出席したそうである。

 そしてその縁で、ここらの問題に関わっていたのはクズハらしい。今回、本格的に動いた時点で教国とのやり取りの関係でクズハが忙しくなってしまい、彼女を絡めなかったのが最大のミスだったのだろう。カイト自らで動いたのが失敗だったようだ。

 今回は不運にも人運が無かった、という所だろう。とはいえ、何時でも幸運に恵まれるというのも不思議な事だ。時にはこういう風にグダグダになっても不思議はない。それにここらは最後まで行き着いてわかってみれば、という話だ。わからなかった時点での判断は責められない。


「で、レイの奴はまぁ、ああ見えて自分の意思を認める奴だからよぅ。さっさと了承を下ろしたんだが・・・こっち、ってか俺が難色示してたんだよ。やっぱ苦労掛ける事はわかってたからな」

「わがままかよ」

「お前が言うな」

「いててててっ」


 ラカムはカイトの頭を小脇に抱え、ぐりぐりと拳を当てる。そうして、少しのじゃれ合いの後、再び本題に戻った。


「まぁ、分かるだろうが俺が折れた・・・けどまぁ、これが問題だったんだろうぜ」


 ラカムは自嘲気味に笑う。後悔はしていないのだろうが、それでも少しの自嘲があった。


「色々と問題はあった。やっぱ思考回路が古い奴らが多いからな、どっちにも・・・それでも、あいつは笑顔を絶やさなかった。で、周囲も段々と受け入れ始めてた頃か。あいつの妊娠が発覚してな。勿論、俺のガキだ」

「それが、カナンか・・・にしてもよく10年で妊娠したな、おい。一日3回ヤッて、とか言うレベルじゃねぇだろ。あれか? 発情してやり過ぎたか?」

「やることやってりゃそりゃデキんだろうよぅ。お前、実は種無しじゃねーの?」

「色々あって妊娠しないようにしてるつってんだろうが」

「いってぇ!」


 ラカムの茶化しにカイトが今度はげんこつを振り下ろす。が、ここらはどちらも茶化し合いやじゃれ合いとわかっているので、それ相応の痛みしかなかった。


「いてててて・・・はぁ。まぁ、それについちゃ、俺も奇跡だとは思ってるよ。そして、俺達の両種族の事を運命が祝福してくれてる、ともな」


 ラカムは頭を擦りながら、カイトへと告げる。本来、それぐらいに『獣人』という種と『吸血姫』という種の間に子供はできにくい。

 一応ゼロではないし種族によっては普通に出来るが、ラカムの『金獅子』と『吸血姫』の間に出来るのは特殊な事情が絡んで殆ど奇跡的な確率だ。これはかつてカイトが担任である雨宮に言った様に、相性の問題だ。どうしても異種族である以上、肉体的な相性だけは付き纏う。彼がこういうのも無理はなかった。


「そのときゃ、ほんとに嬉しかった。まるでお前が祝福してくれてるみたいだった」

「あー・・・話には聞いてたねー。クズハがラカムが云々でレイと喧嘩したって・・・」

「オレを神かなんかと勘違いすんじゃねぇよ」

「ははは。そんなぐらいにゃ、奇跡と思えたんだ・・・だがまぁ、これが、いけなかった」


 幸せそうに笑ったラカムが非常に嫌そうに顔を顰める。そもそもこのまま良かったね、で終われば今が無い。カナンは今頃ラカムの下でお姫様扱いだ。そうでないからこそ、今があるのである。


「お前もさっき言ったが、デキるのはほぼほぼ奇跡だ。俺達の婚姻を認めた奴らの中にゃ、どうせ子供なんてデキる事は無い、と思ってた奴らがいてな」

「横槍・・・いや、暗殺を狙い始めた、ってわけか」

「そうだ・・・はぁ・・・やっぱ、俺たちゃお前が居ないと上手くいかねぇもんだ・・・頑張ったんだがよぅ・・・」

「言うなよ、ダチ公。お前は十分にやってくれたさ・・・それで十分だっての」


 辛そうに弱音を吐いたラカムへと、カイトは慰める様に笑いかける。彼は頑張った。それはカイトも認める事だ。だからこそ、結婚出来るところまで漕ぎ着けられた。ただ、やはりどれだけ頑張ってもうまくいかない事がある、というだけだ。


「で、そうなってくるとやっぱ拙いって事でメリーの奴を一時的に戻そう、って話になったんだが・・・これにはメリーの奴が反対してな。子供はブランシェットの地で育てたい、って頑として譲らなかったんだ」

「父親になるべく近い所に、ってわけか」

「それか、俺の尻を蹴飛ばす為かもな・・・今となっちゃぁ、わからねぇ」


 ラカムは自嘲気味に笑う。どちらかを聞いてみたい、というのは彼の素直な思いだ。が、無理なものは無理だ。カイトの力で呼び出そうとした所で、今のこの様子だとメリーその人が拒否するだろう。それか、尻を蹴っ飛ばされて答えは教えられず、だ。


「で、だ。そこで話し合って出た妥協点が、この村で暮らす事だった。一番近いからな。ここはブランシェットの者達の治める地だ。俺達に反対してる奴らも流石に迂闊には手出しは出来ねぇ。境界線での刃傷沙汰なんぞ、ブランシュとブランシェットの両方の顔に泥を塗る事になるからな」

「その後はお前がまた説得の旅、か」

「ああ・・・でもよぅ・・・今度はガキが出来ちまった事で余計に反対されちまった。元々賛成だって出来ないと思ってた楽観的な考えからだからな」

「往生際が悪いな。一度自分の楽観的な考えで賛成しておいて、それか」

「だろう? ったく・・・嫁の実家の5割が反対だ、と聞いたときゃガチでお前をなんとか呼び寄せようかと考えた。嫁の中の数人にゃ大いに詰め寄られた。流石におもっくそ怒鳴りつけたぞ。今じゃ別居状態のところもある」


 やれやれ、とカイトとラカムは肩を竦め合う。ここらは、どうしても高貴な身分になると付き纏う話だ。仕方がないとわかっていても、呆れるしかなかった。


「で、10年程奔走している間に、メリーの奴が『吸血姫』特有の病に罹った。これは本当に俺の失態だ・・・はぁ・・・報告してくれてた奴を抱き込んでたんだろうなぁ。発覚が遅れて、治療が遅れに遅れちまった。俺が知らされた時にゃ、すでに手遅れだった・・・」


 悲しげに、それこそ今でも涙を流しながらラカムが当時の事を語る。それ故、彼は立場を推してでも死に駆けつけられなかったのだろう。彼は彼で頑張っていたのだ。その上で、部下に裏切られた結果だった。

 誰も彼を責められまい。彼は変革者。齟齬を生むのは当然だ。その齟齬によって、メリージェーンは死去してしまったのであった。そうしてそこらを説明されて、カイトはようやくこれまでの数ヶ月の彼が来なかった事が理解出来た。


「で、呼び出しに応じなかったわけか」

「レイの奴に合わせる顔がねぇ・・・絶対に幸せにしてやる、って断言して、俺は守りきれなかった・・・」


 ラカムは両手で顔を覆って、嘆きを露わにする。とどのつまり、そういうことだった。親友の妹を娶っておきながら、自分達の軋轢に巻き込んで死なせてしまった事を後悔していたのだ。というわけで、カイトは後ろを向いた。


「はぁ・・・100点満点の回答だな、おい。仲良すぎだろ、お前ら」

「そんな事だろう、と言っただろうに」

「レイ!?」


 ラカムが目を見開いた。彼の後ろに居たのは、<<夜王>>レイナードその人だ。彼は何時も通り傲然と立っていた。何故、居るのか。それは至極当然の話だった。


「レイの姪だって分かった時点で奴に伝言送ってたんだよ。連絡は付かなかったが、伝言は残せる。で、つい昼からずっと居たわけだ」

「やれやれ・・・貴様はそのでかい図体に見合わず所々うじうじ悩む性格だとはわかっていたが・・・ここまでとはな」


 カイトの横に、レイナードが腰を下ろす。彼は伝言を受けてカイト達がカナンの生家に来ている事を知って、わざわざラカムが父親である事を教えに来てくれたらしい。とはいえ、そんなレイナードにラカムはただただ深々と頭を下げるだけだ。


「・・・すまねぇ」

「構わんと何度も言った・・・あの子はそれを理解した上で、嫁いだ。そして、お前が幸せにしてくれていたことは事実だ。手紙に貴様とののろけ話があった時は何度かミイラにしてやろうと思った程だ」


 やれやれ、と呆れながらレイナードが深くため息を吐いた。彼の方は許しているのだ。なのに、ラカムの側が気にしていたのであった。


「それに、後の10年にしてもお前を信じていた。後悔はしていないし、恨んでも居ないだろう・・・それに、実はな。連絡役がおそらく裏切っているだろうことは薄々勘付いていた様子だ」

「何!? じゃあ、なんで言わなかったんだよ!」


 驚いたラカムがレイナードに問いかける。今までラカムがレイナードを避けていた関係で、顔を突き合わせて話をするのは実に7年ぶり――カナンの母が死んだ時以来初めて――らしい。


「その様子だと、やはり我からの手紙は読んでいないか・・・迷惑を掛けまい、としていた様子だ。こちらも、死後に後追いで気付いた事だがな」

「っ・・・馬鹿野郎・・・う・・・ぐっ・・・」


 ラカムが涙を流す。頼ってくれて良かったのに、と思っていた。が、それをしなかったのが彼女なのだろう。そうして彼が泣き止んだ所で、カイトが問いかけた。


「はぁ・・・で、後追いで気付いたお前はカナンを探してアクラムへ行って、3年過ごしたわけか」

「バレない様に時々、って所だがな」


 ラカムが認める。とはいえ、ここで疑問になるのが何故父親だと明かさなかったのか、だ。が、これは彼の性格と彼の状況を考えれば、理解出来る話だった。


「大方、父親と名乗り出て恨み言を言われるのが怖かったんだろう」

「だろうな。おまけに今の状況を見ても、根本的な解決はしてねぇわけだ」

「・・・ああ。で、度々不在にするのを不審に思われちまって、遂にカナンの事がバレてよぅ。また、大揉めだ・・・流石に今度こそは、って信頼できる冒険者にカナンを一時的に預ける事にした。ブランシェット領に居れば何時狙われるかわからないからな。ここらは、レイも知ってる話だったろう?」

「我も一枚噛んだからな」


 ラカムの言葉にレイナードも応ずる。実のところ、カシム達を紹介したのはレイナードらしい。そこから彼らなら信頼出来るし、居所を隠し通せるだろうとカナンを頼む事にしたらしい。勿論、カシムら一部の面子――昔から居る者達――はカナンの正体を知った上での話だったらしい。


「なるほどな・・・やれやれ・・・相変わらずでかい図体に見合わずウジウジと悩みやがる」

「ああ、全くだ」

「うるせぃ」


 友二人からの言葉に、ラカムが照れくさそうにそっぽを向く。レイナードと話し合えたのは良かったようだ。僅かに落ち込んでいた様子が晴れていた。そうして、この様子なら良いだろう、とカイトとレイナード、ユリィがうなずきあった。


「カイト、扉は開けるね」

「おーし、じゃあ行くか」

「よかろう。貴様は右を持て」

「あいよー」

「あ?」


 カイトとレイナードに両腕を掴まれたラカムは強制的に立たされて、強制的に移動を開始させられる。


「んな事情だったらカナンだって恨まねぇって・・・」

「我らも取り成してやろう・・・では、行くぞ」

「あ、ちょっとまってくれ! もう少し時間を!」


 ラカムが悲鳴を上げる。が、カイトもレイナードも無視した。そうして、大凡の事情を聞き終えたカイト達は、彼を連れてカナンの家へと戻る事にするのだった。

 お読み頂きありがとうございました。

 次回予告:第913話『解決へ向けて』

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