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影の勇者の再冒険 ~~Re-Tale of the Brave~~  作者: ヒマジン
第50章 草原で生まれし者編

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第905話 カナンの秘密

 馬車に先駆けてエラクゥ村へと入ったカイトだが、とりあえず普通の冒険者と同じ様に冒険者ユニオンの支部へと顔を出すと、次に村長宅へと向かう事にしていた。その間、カイトは村の中をしっかりと確認する事にする。


「ふむ・・・人口は多くて500人程度。規模はそこそこ。過疎化は・・・しているわけではないか・・・入り込まれていたら少し面倒か。木々が乱立しているわけではない・・・風下にならない様にはしておくか・・・どこかから監視するにしても、これでは目立つな・・・」


 エラクゥは山間の村であるが、周囲を見回してみた所監視に適したポイントはなさそうだ。山の中から監視する事も可能だが、そうなると流石に魔物に感づかれて戦闘になったり、逆に忍び寄られて殺される可能性もある。普通はやらない。


「ふむ・・・監視は・・・されていないだろうな」


 カイトは周囲を確認して、こちらに向けられる視線は無い事を確認する。やろうとすれば視線に勘付くぐらいは出来る。伊達に10年以上も英雄として崇められていない。と、そんな彼の所に一匹の小鳥が飛来した。


「うん・・・? クーか?」

『お久しぶりですな、カイト殿』

「どうした?」

『山間部の見回りを命ぜられましてな・・・報告はカイト殿にするように、と』

「そうか・・・どうだった?」

『ちらほらと村の住人らしき者達が居るぐらい、ですな』


 クーは自分達使い魔勢が見た事をカイトへと報告する。流石に彼らも明らかに違う存在を見つければそれで分かる。それに本来使い魔というのはこういう監視に使うのが普通だ。小間使いに使うティナ達魔女が普通ではないだけだ。


「ということは何も無し、か・・・その様子だと村の中も見て回ったか?」

『それ故、私がというわけですな・・・村の中については、何ら問題は見受けられませんな。カナン殿から伺った話に合致する生家も確認致しましたが、周囲に監視もありませんな』

「そうか・・・ありがとう」


 カイトはクーへと礼を述べる。それを受けて、クーはその場を後にした。その後カイトは少し冒険者に見える様に振る舞いながら、隠蔽工作を行っていく。


「これで、一通り冒険者らしい行動は出来たかな・・・」


 少なくとも疑われてはいないはずだ、とカイトは自分でそう評価を下す。何故こんな事をしていたのか。それは敵がもし馬車に先駆けて入ったとしても、カイトの事を普通の冒険者だと思わせる為だ。

 そして同時にカイト達とは別の高位の冒険者が、それも北の自治区に知り合いの居る冒険者が居る、と警戒させる為でもあった。一応クー達ティナの使い魔勢から監視は居ないと聞いているが、監視だけがカイト達の見張り方ではない。密告者をどこかに仕立て上げるという方法も可能だろうし、相手が高位の者であればそれが可能だ。警戒して損はない。


「さて・・・じゃあ、先に一度村長の家へと行って見るか」


カイトはそう決めると再び歩き始める。その後は、その後で考える。とりあえず村長宅の周辺を確認してからだろう。


「・・・ふむ・・・確かに誰かが見張っているという様子は無しか・・・」


 カイトは歩きながら、視線だけで周囲を見回す。標的が生家へ帰るというのだ。標的の動きを想定するのであれば、村長宅を見張らない道理もない。

 今までそのままにしておいてくれたのは村長の好意だ。ならば、確実にカナンが挨拶に来るはずだ。そこも見張るべきだろう。とはいえ、それが無いのなら別の可能性も考えられる。


「・・・ふむ・・・監視が無いのなら、それは即ちカナンの父親がかなりの名家で、なおかつこの襲撃とは別口ということか」


 誰も監視をしていない。それは即ち、別の所の、それも襲撃者達からしてみれば知られたくない所の手が回る可能性があるから。カイトはそう結論付ける。勿論、これも可能性の一つだ。が、無いのならその可能性がある、という事でもある。


「良し・・・これなら、なんとかカナンを連れてきても問題はないか・・・?」


 カイトはそう呟く。とりあえず、今のところ危険性は無い様に見える。それに先の門の前での男性の話もある。少なくとも、村で悪い様に思われているとも思えない。村長のわがまま等でカナンの生家が保存されているのではなく、村全体としての総意として保存されていたのだろう。ならばこの村に入れても問題はないだろう。


「とりあえず、村長宅へと行ってみるか」


 兎にも角にも村長の感触を探ってみる。カイトはそう決めると、少しだけ気合を入れ直す。これ以外で気になるとすると、この村で外来の者達を泊める村長宅だけだ。ここに客人が居る場合はそれを疑う必要もあった。そうして、カイトは村長宅の扉をノックする。返事はすぐに返って来た。


「はいはい・・・あら、どちら様?」

「失礼します。冒険者のカイトという者なのですが、シャリマという職員からこちらの事を伺ったのですが・・・」

「あら・・・珍しいわ。ああ、立ち話もなんね。お入り」


 出てきたのは、60代も後半だろう老婆だ。獣人ではあったが、どうやら見た目として老化が遅い種族の地が出ているわけではないらしい。見た目相応という感があった。彼女はカイトが提示した冒険者の登録証を見て、カイトを中へと招き入れる。


「失礼します」

「少し、待っていて貰えるかしら。夫を呼びに行ってくるわ」

「あ、はい。わかりました」


 カイトが案内されたのは、村で会議を行う時等に使われる大きな部屋だ。村長夫人は柔和な笑顔と口調ではあったが、そこにはやはりエネフィア特有の油断のなさがあった。部屋には村の自警団の若者が数人控えており、待機室としても使われているのだろう。ここらは、ミナド村と変わらない様子だった。そうして、数分後。村長がやって来た。


「・・・ふむ・・・なんの御用ですかな?」


 村長は少し警戒しながら問いかける。これは冒険者相手なのだから当然の話だろう。とはいえ、だからといってカイトが警戒したり喧嘩腰になる事はなく、彼は柔和な顔で問いかけた。


「はじめまして・・・カナン・オレンシアという少女はご存知ですか?」

「どこでその名を?」


 村長は出された名を聞いて、訝しげに問いかける。その彼の表情を窺いながら少し見てみれば、周囲の村の若者達も驚いている様子があった。


「・・・申し遅れました。私はカイト・アマネ・・・とある縁にて加わったカナンの所属するギルドのマスターを務めている者です」

「なんと! では、あの子は生きているのですか?」


 村長は目を見開いて更に驚きを露わにする。実のところ村長はカナンが生きている事は聞いていたのだが、それを信じていたわけではないらしい。そしてカイトは少しだけ、彼の驚きが演技かそうではないかを見て、安心出来ると踏んで更に踏み込む事にした。


「ええ・・・と言っても、私達が保護したのはここ数ヶ月の話です」

「そうですか・・・まさか、大怪我を負っていたりは?」

「いえ、無事ですよ。彼女は仲間が守ってくれたお陰で、軽傷でした」


 身を乗り出して問いかけた村長に、カイトは笑いながら無事である事を明言する。どうやら、彼は本当に良い人らしい。相当心配している様子だった。これなら安心出来る。カイトはそう思い、とりあえずの事情を説明する事にする。


「そんな事が・・・」


 カナンが仲間になった経緯を聞いて、村長が悼ましげに深く息を吐いた。カナンの心情を慮っているのだろう。そうして、彼は深く頭を下げた。


「ありがとうございます。我々としても実はカナンについては常々心配しておりまして・・・貴方方に保護して頂けた事には感謝の言葉しか出せません」

「いえ・・・私達としても、彼女の仲間はどうしようもなかった。そんな中、彼女だけでも救えた事は幸いでした」

「ええ・・・」


 村長はカイトの言葉に頷いて、少しだけそのカナンを守った仲間達に黙祷を捧げる。そうして、目を開いた彼は少しだけ恥ずかしげに、苦笑混じりに語り始めた。


「村の恥を晒す様で申し訳ないのですが、実のところ彼女が村を出たのは我々にも問題があったのです」

「それは、どういう・・・」

「あの子はご存知の通り、獣人のハーフ・・・嘆かわしい話なのですが、同じ年頃の子供達から半端者として除け者にされておりましてな・・・私としても母子には気を遣っておったのですが、村長という立場上、贔屓するわけもいかず・・・その内に母が亡くなり、誰にも告げずに出ていってしまったのです。我々では彼女を救ってやる事は出来ませんでした・・・」


 村長は悲しげで申し訳なさそうに、カナンが村を出た原因の一端を語る。カナンは母の思い出から逃げる為、と言っていたが嘘――勿論それもあるだろうが――だったのだろう。


「そうですか・・・それで、その・・・一つお伺いしたいのですが、カナンの母親について何かご存知ではありませんか? 何故、女手一つで彼女を育てていたのか等できれば・・・」

「ふむ・・・良いでしょう。あなたにはお話しておきましょう」


 どうやらカナンを保護しているギルドのマスターだ、という事で語ってくれる事にしたようだ。そしてこの様子だと、やはりカナンの両親は何らかの訳ありだったのだろう。


「詳しい事は、私も彼女からは聞いておりません。ですが、実はこの村で引き取る事になったのには、わけがあったのです・・・この北に居る古い一族はご存知ですか?」


 村長は改めて、カイトへと問いかける。それはカイトがマクダウェルから来た日本人だから、という事で問いかけたのだろう。ちなみに、そういうわけなのでカイトは姿を偽っている事を村長には事情を含めて明かしておいた。勿論、キリエが来る事も彼は知っている。そこらを証明した上での話だ。


「ええ、一応は」

「そこの使者と共に、赤子のカナンを抱いた彼女が来たのです。どの一族の者かは教えてはくださいませんでした。教えれば確実に騒動に巻き込まれる、父親の事は問わないで欲しい、との事でした。ただカナンの母親とこの子はさるお方にとってとても大事な者なので、この村にしばらくの間置いて欲しい、何時か必ず父親が迎えに来る、と」


 村長はカナンの母親がこの村で暮らす様になった日の事をカイトへと語る。更に聞けば、どうやら家を用立てたりするのも、彼らの依頼だったらしい。その時の金等は全て置いていったそうだ。そうして、村長が更に続けた。


「北に住まう古い一族の方々の中には、他種族との混血を嫌う者も多いと聞いています。おそらくは・・・」

「なるほど・・・」


 おそらくその揉め事に巻き込まれて、彼女を一時的に避難させる為だったのだろう。村長の言外の言葉をカイトが読み取って頷いた。そうして、カイトは更に突っ込んだ事を問いかける。


「その後にその使者が来られた事は?」

「いえ・・・その代わり、と言ってはなんですが、別の方が時折来られて居る様子でした。カナンの母親に一度聞いた事があるのですが自分の兄の使者だ、と」

「兄の使者?」

「ええ・・・これ以外に詳しい事は何も・・・その使者も彼女が死去し、カナンが出ていった事を聞いた後は一度も姿を見せておりません。とはいえお金を貰っている以上、そのままにしておくのが筋と家についてはそのまま所有権をカナンへと移し、保存している状況です。我々にわかるのは、この程度です」


 カイトの問いかけに村長は頷いて、更にため息混じりに首を振る。どうやら、これ以上は本当に知らないらしい。そうして、彼は己が一番危惧していた事をカイトへと問いかけた。


「・・・父親が捨てた、とお考えですか?」

「・・・疑っていないとは言いません」


 どこか真剣な村長の問いかけに、カイトははっきりとは明言しないものの問いかけを認める。その可能性が無いとは言い切れない。金を置いていったのは手切れ金の可能性もあり得た。

 『夜の一族』にしても他種族の、それも獣人の古い一族の子を産んだ女を受け入れない家は無いではない。カナンの母親の兄とやらがオレンシア家を支援していても、実家そのものが支援出来るとは限らないのだ。ここらばかりは流石に全てを無くす事は不可能だ。そうして、カイトが語り始める。


「実は・・・ここに来る前に、カナンが襲われています。襲撃者はかなり高位の獣人でした。彼は、カナンが狙いである事を明言しております」

「!? 彼女がここへ来るのですか!?」

「ええ・・・数ヶ月前の大陸間会議。あの時、勇者の秘技を使い、彼女の仲間から彼女が話を聞いたそうです。父親を探せ。代行のお二方なら、父の所にたどり着ける。そう、仰っておいでだったそうです。故に私がアウラ様へと依頼し、ブランシェット家を動かしたという次第なのです」


 更に驚きを露わにする村長に対して、カイトは今回の来訪の事情を告げる。彼らとしては本来はもう少し秘密にしておくつもりだったのかもしれないが、残念ながらカシム達はすでに死去してしまっている。あのタイミングでしか伝えるタイミングが無かったのだ。


「それで今回。父親についてを探そう、となりまして・・・カナンと共に、こちらへ。実は私が一人先に来たのも襲撃を受けてこの村が襲撃者とグルになっているのでは、と疑ったからなのです・・・疑って申し訳ありません」


 カイトはそう言うと、素直に頭を下げる。少なくともこの村長は善意の者と言って良いだろう。


「・・・いえ、仕方がない事でしょう。それで、彼女は今どこに?」

「ブランシェット家のご令嬢がここに来る事はご存知ですか?」

「ええ。キリエ様の学校が夏休みに入られてご帰省された、との事で視察に来られる、と」

「その旅路に我々も同行させて頂きました。なので今は、ブランシェット家の馬車の中に」

「そうですか・・・それで、今彼女は・・・いえ、聞く必要も無い事でしたな。落ち込んでいるでしょう」


 村長は問いかけて、しかし自分で結論を出した。そこにはかなりの嘆きが浮かんでいた。


「それで、数日の間この村に滞在させて頂きたいのですが・・・」

「わかりました。そういう事情でしたら、喜んで受け入れましょう。それに何より、カナンはこの村の子です。彼女を拒絶する事はありません」

「ありがとうございます・・・ああ、それとできれば、私については基本的にどこかへ出かけている、という事にしておいてください。ランクAの冒険者が複数滞在しているという事にしておけば、流石に相手も村の中で襲撃を仕掛けてくるとは思えません。私はまた別の姿でこの村に入る事にします」

「わかりました」


 カイトの申し出を受けて、村長が頷く。これで、村にはもうひとり蒼い髪の冒険者が滞在している事に出来た。少なくとも、安心は安心だろう。そうして、カイトはティナ達と合流する為に密かに村長宅を後にするのだった。

 お読み頂きありがとうございました。

 次回予告:第906話『カナンの生家』

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― 新着の感想 ―
[一言] やっぱりレイ?の流行病で死んじゃった妹がカナンのお母さんだと思うな
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