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影の勇者の再冒険 ~~Re-Tale of the Brave~~  作者: ヒマジン
第50章 草原で生まれし者編

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第902話 新天地での戦い

 視察するキリエの護衛を務めつつ移動していたカイト達が出会った魔物の集団。それはここら獣人達が多く暮らす土地ならではの魔物だった。例えばゴブリン一つをとっても普通のゴブリン達よりも牙は鋭く爪も伸びており、どこか獣に似た様子があった。

 周辺に獣人が多く身体能力が高い者達が多いからか、ここらのゴブリン達もそれに合わせて身体能力を高くする様な進化を遂げていたのだ。そうして、そんな敵を注視しながらソラがカイトへと問いかけた。


「カイト、あの獣みたいなゴブリンで注意するべき所は?」

「『獣小鬼(ビースト・ゴブリン)』か。どこかで獣の因子を発露させたか、取り込んだか・・・ゴブリン共とは桁違いの速さだ。素早いぞ。ソラ、動きをしっかりと見てカウンターを叩き込め」

「おっけ・・・なら、一体一体確実に、だな。由利、援護頼んだ」

「うん」


 動きは素早いが、同時に身に纏う風格というか魔力についてはさほど強そうではない。ソラはそれを見て、これなら勝てる、と把握する。それに対して、それらを従える様にこちらに歩いてくるガッシリとした赤黒い巨大な鬼については、勝てるとは思えなかった。


「『キング・オーガ』・・・ここらにゃランクAの魔物も出るのか」

「基本的にここらの住人達は獣人だ。逃げるだけなら、問題はない。馬車でも十分に逃げ切れる相手だしな。それに、ここらには人里はない。今回は運が悪かった、と言うところだろうな・・・ホタル。この程度ならお前は必要ない。馬車の直援に回れ。戦闘の余波で魔物に近寄られる方が怖い」

「了解」


 ソラの言葉にカイトが答え、更にホタルへと指示を送る。この中の魔物の多くは、ソラ達が一度も見たことがない魔物が多い。実戦経験を積ませるには丁度よい機会だった。これから外に出ていこうというのだ。経験は積めるほど良いのだ。

 ちなみに、オーガ種の速さは戦闘になればそこそこ素早いものの、こちらから攻撃を仕掛けたのでもなければ逃げ切れる相手だ。そもそも獣人達の身体能力はゴブリン系の魔物とは比較にならない程に高い。狼の様な四足獣型の魔物でもなければ、よほどの事情がなければ逃げ切れるのである。

 それに基本的にこちらを見れば攻撃してくるのが魔物だが、何が何でも見付けた相手に攻撃を、というわけではない。相手が逃げたのなら追わない様な魔物は多い。そして、オーガ種も亜種のよほど特殊な例にならなければその例に漏れる事はなかった。


「馬車は・・・良し・・・来るぞ!」


 馬車が少しだけ遠ざかったのを見たカイトが声を上げる。これで、戦闘しても馬車に影響はない。そうしてカイトの号令を受けて、全員が武器を構えた。相対距離はおよそ20メートル。間には木々しかない。が、木々を傷付けるわけにはいかない。そこは一応注意しておくべきだろう。


「由利! なるべく木々に傷は付けるなよ!」

「できればね」


 由利は意識を集中しているからか、何時ものおっとりとした口調とは別に静かなものだ。まぁ、それで良い。できれば傷つけないで良い。優先すべきは、魔物の討伐だ。そうして、カイト達が構えたのを見たからか魔物たちが木々をなぎ倒し一気に速度を上げた。


「ふっ!」


 由利の矢が放たれて、それと同時にカナンと魅衣が駆け出す。由利が狙うのは鳥型の魔物。カナンと魅衣はゴブリン達狙いだ。これを抜いた奴を、ソラとティナが仕留める事になっていた。


「カナンちゃん、魅衣! 一匹あの毛皮付きのゴブリンこっちにやってくれ! 試したい連携があるんだ!」


 ソラが声を上げる。どうやら、何かやってみたい事があるのだろう。


「それは良いけど、油断はしないようにね! 結構速いわよ、こいつら!」


 『獣小鬼(ビースト・ゴブリン)』の速度に合わせて戦う魅衣が声を上げる。力こそ弱いもののその速度は魅衣よりも少し遅い程度で、即座には討伐出来そうではなかった。とはいえ、カナンよりは圧倒的に遅い。が、カナンは今度は攻撃力が弱い為、彼女はそれ以外のゴブリンと戦っていた。


「良し、なんとかなりそうじゃのう」


 それらを、由利の横でティナはしっかりと見守っていた。彼女の役割は全体の補佐と馬車の直援だ。そうして彼女の見守る前で、魅衣が声を上げた。


「一匹、行った!」

「っ!」


 魅衣の声にソラが彼女が敢えて抜かせた一匹をしっかりと観察する。動きの素早さはカイトの言う通り、普通のゴブリン達とは段違いだった。その素早さは最早残像を生みかねない程で、油断していれば見失いそうだ。


「はやっ・・・いけど軽い!」


 なんとか見失わずに敵の姿を捉え続けたソラは、ほぼ魅衣の声掛けの次の瞬間に衝突した『獣小鬼(ビースト・ゴブリン)』の剣戟を盾で防いで、少し強いゴブリン達の亜種よりも軽い攻撃である事を理解する。いつもの要領で弾き飛ばそうとしたら、『獣小鬼(ビースト・ゴブリン)』が簡単に吹き飛んだのだ。


「これなら、鎧がありゃなんとかなりそうか」


 ソラはとりあえず、この相手ならあまり困る事はないな、と少しだけ安堵する。やはり見ず知らずの魔物は怖い。なのでいつもよりも遥かに気合を入れていたのだが、この様子なら少し気を抜いても大丈夫そうだった。動きを見失いかねない速度が怖いだけで、この程度なら運悪く鎧の隙間にでも入り込まない限りは危険は無い様な一撃だったのだ。ソラにとって『獣小鬼(ビースト・ゴブリン)』は相性の良い相手と言える。逆に素早い事から、魅衣達軽歩兵や由利達弓兵にとっては相性があまり良くないだろう。

 そうして吹き飛ばされて距離を取らされた『獣小鬼(ビースト・ゴブリン)』を見据えつつ、ソラは当初の目的通り行けると踏んだ。練習台には丁度よい相手だった。と、そんな彼に由利が声を掛けた。ソラが何かをしたい事は彼女も理解している。ならば援護も必要かもしれない、と思ったらしい。


「ソラ。援護は?」

「あ、いや! サンキュ! でも今は良い!」

「そ」


 由利はそう言うと、上空から襲いかかる鳥型の魔物へと矢を射る。どうやらこの鳥型の魔物もここら一帯特有の進化を遂げているらしく、それなりに素早い様子だった。それを横目に、ソラはふとここら一帯の魔物の特徴に気付いた。


「・・・動き、速いのが多いのか」


 ソラは全体を俯瞰しながら、呟いた。魅衣が戦っている『獣小鬼(ビースト・ゴブリン)』は一撃が軽いものの動きが素早い。そしてそれに合わせる様に進化しつつあるのか、他の亜種達にしてもマクダウェル領で見るよりも僅かに素早くなっていた。

 魔物達とて生き物だ。周囲の環境に合わせて『獣小鬼(ビースト・ゴブリン)』の様な魔物の進化とは別に生物の種として進化する事もある。それは生物の原理原則として、当然の事だった。


「まぁ、苦戦するわけないよな」


 ソラはふと気になって『キング・オーガ』と交戦するカイトを観察する。一応カナンに怪しまれない様に長引かせている様子だが、顔には完全に余裕が見え隠れしていた。

 とはいえ、こちらも見たところ動きは素早そうだ。勿論、『キング・オーガ』についてはマクダウェル領での活動時に見た事はない。なので推測だが、当たりではある様に思えた。


「良し・・・なら、一応今後はそれを頭に入れとくかな」


 大方カイトが夜にでも注意してくれるだろうけどな、と思いつつも、ソラは一応自分でも頭に入れておく。別に彼も何ら意味もなくこんな推測を立てていたわけではない。カイトもティナも優しくはあっても甘くはないのだ。

 こういった重要な点に自分で気付かなければ、ある程度までは放置されてしまう。怪我をしたくなければ、どこかでこちら側がきちんと気付いて周囲に伝える事を覚えねばならないのである。


「良し・・・じゃあ、次は目の前の敵だな」


 注意すべき事をしっかりと頭に入れたソラは、先程から目で追い続けていた『獣小鬼(ビースト・ゴブリン)』へとしっかりと本腰を入れて対処する事を決める。


「・・・速いな、やっぱ・・・」


 ソラはちょこまかと動き回ってこちらへと攻撃を仕掛ける様子のない『獣小鬼(ビースト・ゴブリン)』をしっかりと見ながら、何時攻撃に来るかを予測する。どうやら、進化しているからかゴブリンよりも少し知恵は回るらしい。フェイントを織り交ぜて安易に仕掛けてくる事は無い様子だった。


「・・・」


 ソラは木々の合間を縦横無尽に動き回る『獣小鬼(ビースト・ゴブリン)』を見失わない様に注意する。そして更に、少しだけ右半身を前へとずらした。今回、彼は盾ではなく剣で防御する予定だった。


「確か・・・オーアさんの剣は肉厚で取り回しが良い武器だ、って話だよな・・・」


 ソラは『獣小鬼(ビースト・ゴブリン)』から視線を逸らすことなく、己の剣についてを改めて確認する。ここで何か手違いがあっては困る。


「えっと・・・やり方は・・・うん、大丈夫」


 ソラは次に、自分のやろうとしている事を確認する。やりたい事はわかっている。やり方も練習はした。後は、実戦で試すだけだ。


「良し・・・何時でも来いよ・・・」


 ソラはそうつぶやくと、何時でも『獣小鬼(ビースト・ゴブリン)』が襲い掛かってきて良い様に心構えを定める。そうして、程なくして『獣小鬼(ビースト・ゴブリン)』が木の影に消え、再び現れると同時に一気に速度を上げて襲い掛かってきた。


「来た!」


 ぎゅん、という擬音が似合いそうな程に加速した『獣小鬼(ビースト・ゴブリン)』をしっかりと見定めつつ、ソラは『獣小鬼(ビースト・ゴブリン)』の錆びた剣の軌道の前に、己の剣を置く。そして、剣が触れ合う瞬間、力を受け流してやる。


「良し! 胴体がら空き!」


 ソラは敵の攻撃を防いだ際に出る衝撃を受け流して、そのまま即座に攻撃に移る。とはいえ、右手の主兵装である片手剣は塞がっている。流石にこの姿勢から剣戟を放つのは如何に魔術在りきと言えども不可能だ。なので彼は左腕に装着している盾に魔力を通して、仕込み刀を起動した。


「おらよ!」


 ソラは突き刺す様にして、『獣小鬼(ビースト・ゴブリン)』のがら空きの胴体へと刃を突き立てる。そして剣へと魔力を流し込んで、一気に『獣小鬼(ビースト・ゴブリン)』を消滅させた。


「おし・・・このカウンターは使えそうかな」


 ソラは『獣小鬼(ビースト・ゴブリン)』を完全に消滅させて、満足気に頷いた。基本的に彼の戦い方はカウンターだが、盾持ちのカウンターにも実は二種類あった。

 一つは、敵の攻撃を防いだ反動を利用して叩き込むカウンター。こちらは盾での弾き返し、いわゆる迎撃を利用した戦い方だ。基本的には、ソラはこちらを使う。盾もそのために必要な少し大きめで肉厚な物を使用している。これはソラ自身が元々壁役としての戦士だからだ。敵を仕留めるのではなく食い止めるのなら、こちらの方が良いだろう。

 もう一つは、今回の様に衝撃を受け流してこちらの隙を無くす事で即座にカウンターを叩き込む方法だ。所謂、ゲーム等で有名な『パリィ』だ。衝撃等を受け流している事から使用者の身体はほとんど硬直せず、状況次第では即座にカウンターを叩き込める。

 こちらは盾の種類で言えば所謂バックラー等の小さな盾を使う者がやるやり方だ。どちらかと言うと攻撃に主眼を置いた戦い方と言える。防御はあくまでも補助と見做して良い。

 今回、ソラはその盾としての役割を片手剣に担わせて擬似的なバックラーとする事で、即座にカウンターを叩き込める様に練習していたのである。今回の様な軽く素早い相手は食い止めにくい。一撃で完璧に倒した方が逆に敵勢を食い止める事に繋がる事もある。それに気付いた彼は攻撃的な防御のやり方を練習していたのであった。


「良し! 魅衣! どんどんこっち送ってくれ!」

「おっけ!」


 一度出来る事がわかれば、後は数を熟すだけだ。ということでソラは魅衣が食い止めてくれている『獣小鬼(ビースト・ゴブリン)』達を少しずつこちらへと通す様に頼み、魅衣もそれに従って足止めを止めて一体ずつソラへと通す事にする。


「おっしゃ! 来い!」


 どうやら魅衣もわかってくれたらしい、と判断したソラは同じ要領で戦う事にする。そして一度出来ている以上、彼にも緊張はなくなった。そうして、ソラはそのまま接敵する度に『獣小鬼(ビースト・ゴブリン)』を屠っていく。


「良し・・・この程度の軽い相手なら、これが有用だな」


 危なげなく最後の一体を屠ったソラは最後に仕込み刀を振るって血糊を吹き飛ばす。後できちんと油を拭って研ぐが、とりあえず血糊だけでも払っておかないと掃除が面倒だった。

 それと同時。今まで一人『キング・オーガ』を食い止めていたカイトがこちらの戦闘終了を見て取って、軽く片付ける事にしたらしい。


「『双破連斬(そうはれんざん)』」


 カイトは武器を刀から双剣に持ち替えると、連続して斬撃を放つ。それはシッチャカメッチャカ斬っている様に見えて、一筋の流れのある斬撃だった。

 敢えて言う必要もないが、カイトは今までは手を抜いていただけだ。なのでその連撃を受けて、『キング・オーガ』が細切れになって地面へと落ちた。と、カイトはそんな落下していく肉片の雨の中に手を突っ込んで、一つの宝玉の様な物を回収した。


「ラッキー」


 彼が手に取ったのは、『キング・オーガ』のコアの一つだ。カイトも狙ったわけではないらしいのだが、偶然にも無事だったらしい。


「ティナー。これの処置お願い・・・売っぱらってメシ代にでもしよう」

「お、良いのう。ランクAの魔物のコアは結構な値段になるからのう」


 カイトから投げ渡されたコアを、ティナは即座に処置を施す。後はアクラムにでも戻った時に道具屋で売っぱらって金に変えれば良い。


「良し・・・これで・・・」

「危ない!」


 これで大丈夫か。カイトがそう言おうとしたと同時。ティナがカナンへ向けて火球を放つ。いや、これは正確ではない。向けたのは、カナン狙いで一直線に肉薄する5メートル程度の獣に向けて、だ。


「っ!」


 ティナの行動を見るや、カイトも即座に行動に移る。それはカナンを援護する為の動きだ。彼は『縮地(しゅくち)』で地面を蹴ると即座に獣とカナンの間に割って入った。


「何者だ!」


 獣へ向けて、カイトが誰何する。これは明らかに獣ではない。カイト達には脇目も振らず、明らかにカナンのみを狙っていた。獣人が獣化した姿だった。が、そんな彼の誰何に対して、獣は何も答えぬまま、再度こちらへと肉薄してくるのだった。

 お読み頂きありがとうございました。

 次回予告:第903話『謎の襲撃者』

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