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影の勇者の再冒険 ~~Re-Tale of the Brave~~  作者: ヒマジン
第50章 草原で生まれし者編

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第897話 ブランシェットへ

 カナンの来歴を調べる為キリエとの相談を行ったカイトだが、それが終わると執務室に戻っていた。そうしてそんな彼の所へ一番始めに来たのはティナだった。流石に事の次第を聞いて来なければならないだろう、という考えが働いたらしい。研究を中断してでも来てくれたようだ。


「ふむ・・・なるほどのう。父親の関係者かと踏んだが・・・おじさんとやらは父親ではなかったか」

「ああ・・・どうにも、面倒な話になってきたな」

「仕方があるまい。とはいえ、片付けぬわけにもいかん。受け身で暗殺者を送り込まれてからでは面倒になってしまうからのう」


 カイトの言葉につづいて、ティナは最悪の場合を想定する。何が一番怖いか、というとカナンの生存を良からぬ者達に知られて暗殺者を送り込まれる事だ。まだそれが己の手の届く範囲であれば良いのだが、それが外になると少々ではないぐらいには困る。

 基本的にカナンの周辺には魅衣か由利、そうでなくても上層部の面々が一人は居るのだ。別にこれは護衛を兼ねているというわけではなく、彼女と一番仲が良いのが魅衣とティナで、その面子が一番繋がりがあるのが上層部だからだ。

 彼女の身体能力と冒険者としての経験は冒険部の上層部にとっても足りない物でもある。冒険者としての経験であれば、カイトにも匹敵している。彼女の経験を借りる目的で人員に入れる事は多かったのである。

 となると、彼女の周囲にはカイトの女が居るわけだ。流石に自分の女に手を出されて我慢出来る程、カイトは大人ではない。確実に皇国全土を巻き込んだ大騒動になることは請け合いだった。それを防ぐ為にも、こちらから打って出るつもりだったのである。


「さて・・・餌になるが・・・」

「仕方があるまい。とはいえ、目論見は外れておる。父方を警戒したい所ではあるが・・・」

「いや、必要無いだろ?」


 ティナの言葉にカイトが首を傾げる。


「む?」

「いや・・・おそらくカナンに警護を付けたのは父方じゃないのか?」

「うむ。それが一番あり得る・・・が、それだけではあるまい。母方が送ったとも考えられる」

「まぁ、それはあるな」


 今のところ、報告を受けた限りでは母方もかなりの名家である可能性が出て来た。それを考えれば、母方の者達が父方の対処を知って密かにカナンの保護を依頼していたとしても不思議はない。少なくともカナンの母も一般人ではないだろう事を考えれば、不思議はないだろう。


「であれば、父方が狙っておるとはまだ決められん。父方が狙うのがわかって、という可能性もあるからのう」

「レイに頼めば回収出来たんじゃないのか? あいつの事だ。なんだかんだ言いつつもハーフだからと差別はさせないだろう」

「夜王に申し出れる者がおれば、のう」


 カイトの言葉にティナが笑う。レイナードはカイトの親友でもある通り、差別とは無縁な男だ。傲慢ではあるが、喩えハーフだろうと自分の一族は平等に扱う。が、その性格故にあまり申し出られるとは思わなかったのだ。


「それはそうか・・・基本的にあいつ、高圧的だからなぁ・・・」

「まぁ、それが基本じゃからのう・・・っと、話がズレる所じゃったのう」


 ティナはそう言うと、首を振って脱線仕掛けていた話を軌道修正する事にした。


「支援していたのが母方。であれば、あのおじさんとやらは偶然に出会った者の可能性はありうる。獣人の中には面倒見の良い種族もおるからのう」


 ティナはあくまでも推測を述べる。そもそもカナンの言う『おじさん』が父方の関係者だ、というのはカイト達の勝手な推測だ。間違っていても不思議はない。


「なるほどね・・・まだ父方に注意しておく必要もあるのか・・・」

「うむ」


 カイトはしかめっ面で頭を掻く。どうやら事態は少し良い方向に向かった様に見えて、両親のどちらも警戒しなければならない、という悪い方向にも進んでいたらしい。そうしてとりあえずそこに決着をつけると、次にカナンから聞いていた母親の事を相談する事にした。


「母親の名前は確か・・・メアリーか」

「うむ。メアリー・オレンシアじゃな・・・まぁ、偽名じゃろうがのう」

「どこまで、偽名なのかはわからんそうだがな」

「語る事も無かったのじゃろう」


 メアリー。それがカナンの母親の名だったらしい。とはいえ、カイト達はこちらも信じていない。オレンシアという姓は古い英雄の名だが、それは今は家としては使われていない。が、誰もがなんとなく聞いたことがある名だった。偽名としては最適だったろう。


「厄介だな・・・旧姓が分かれば、誰かわかるんだが・・・」

「そこは行って確認するしかあるまい。幸い、そのままにされておるのじゃろう?」

「ああ。領主である老夫婦の御好意で、当時のままにされているそうだ。掃除はされているそうだけどな」

「なら、分かる事もあろう」


 ティナはこれ以上の推測は無意味として切って捨てる。現状、出向かずに手に入れられる情報は手に入れた。これ以上は自分達の足で稼ぐ事になる。と、そんな話を終えた所で、カナンと魅衣が連れ立ってやって来た。二人は丁度稽古の真っ最中だったらしく、シャワーを浴びてさっぱりとしていた。


「来たわよー」

「来ました」

「ああ。悪いな、二人共」


 カイトはとりあえず片手を上げて二人を出迎える。別にかたっ苦しい挨拶は必要の無い間柄だ。そうして、カイトはとりあえず今までの調査結果を含めて、カナンへと報告する事にする。


「・・・え? お母さんまで・・・?」

「あくまでも推測だ。そう本気に取るな」


 カナンの非常に嫌そうな顔を見て、カイトが苦笑する。今更貴族のお姫様扱いされるのはやはり困るらしい。


「で、そこらを確認する為にも一度ブランシェット領へと行こうか、って思ってな」

「良いんですか?」

「ああ、問題ない・・・と言うか、こういうことは早い内にケリつけとかないと面倒事に発展するのが厄介だ。あまりクズハ様達の手を煩わせるわけにもいかないからな。一応、きちんと出来る所は先んじてやっておこうという判断だ」

「・・・お願いします」


 やはりカナンとて自分の来歴は知りたいのだろう。少し考えた後、カイトへと頭を下げた。こうして、カイト達のブランシェット領遠征が決定したのだった。




 カナンと魅衣、ティナが用意の為に執務室を去り、残ったのはカイト達だけとなる。そうしてそうなると、必然決めねばならないのは人員だ。


「さて・・・人員はどうするかね」


 カイトはとりあえず現在の上層部の活動内容を確認する。


「先輩と翔は飛空艇の調整で現在学園付近で仕事中・・・」


 持ち帰った飛空艇だが、ここ数日でマクダウェルで実施している検査――車検の様な物――が終了した為、これから本格的に使える様になった。だが、今はまだパイロットの方が足りていない。

 まぁ、そのかわりと言うか使う予定はあまりないが、とりあえずパイロットを欠いているのは事実だ。それを考えれば、瞬は外につれていけない。翔は現在それで他の希望する面子と共に飛空艇の運転に関する研修の真っ最中で、今はマクダウェル領のとある軍施設の中で缶詰だった。


「アルと凛が確か外に出ている、んだったか」


 カイトは更に続けて、アルの現状を思い出す。アルはこの間の調印式が終了して和平が成立した事により、アユル枢機卿を迎え入れる段取りを整えている。その関係でどうやら事務的な仕事が多く補佐が必要となり、カイトに頼んで凛を借りていた。


「お嬢様ズは・・・桜と楓は遠征だったか」


 次いで思い出したのは、桜と楓だ。二人はどうやらカイトが調印式で不在にしている間に中規模の魔物の集団の討伐任務を冒険部で請け負ったらしく、その指揮官として出ているらしい。

 桜が指揮官で楓が副官だ。とはいえ、数が多いだけでそこまで強敵ではないらしいので、カイトとしても不安はない。なお、実はそれ故に今はいつもより少し人気は無いが、それは横に置いておく。


「となると・・・あ、まずはティーネに頼むか・・・えっと、内線は・・・」


 カイトは自分の机に備え付けの内線を使って、ティーネへ援護を申し出る。彼女は現在鍛冶場で武器を修繕してもらっている為、この場には居なかった。と、言うわけでカイトは彼女へ向けて内線で通信を行う。


『あー・・・いえ、それなら私は行かない方が良いと思うのだけど』


 カイトの求めを受けたティーネだが、少し苦い口調でそう告げる。それにカイトは首を傾げた。山や森となると、彼女の得手とする土地だ。協力を仰がない道理はなかったからだ。


「なぜだ?」

『だって、あそこの森は獣王ラカムの治める草原との境目・・・多分、私が助力を頼んでも森が拒むわ』

「あー・・・そっか。それはあり得るな・・・わかった。すまん、それならこっちの補佐を頼む」

『ええ、そうさせて』


 苦い表情を浮かべるカイトの依頼を受けて、ティーネは武器が修復中だった事もありそれを受け入れる事にする。なぜ、エルフであるティーネを森が拒むのか。それは縄張りの問題だ。

 基本的に獣人とエルフは共同する事が多い。お互いに自然と共に生きる存在だからだ。故に種族的に排他的なエルフでも、獣人には結構親身に振る舞う。仲間意識が働くからだ。

 が、それと同時にやはり獣に近い獣人と精霊に近いエルフとでは考え方は異なる。そういう所は森にもあり、獣人達が長く暮らす土地だと見ず知らずのエルフを拒む事はあり得るのであった。

 そしてこれから行く場所の森はその可能性が高かったらしい。森の助力を得られないとエルフが使える力は幾分落ちる。今回のカイトの求めを考えて、安易に手を出すべきではないと判断したのだろう。正しい判断だった。


「そうか、少し誤算だったな・・・ティーネが無理だとちょっと陣形を見直すとして・・・」


 カイトはティーネを除外すると、改めて人員を考え直す。本来は動きの速い魔物対策に木々の力を借りられるティーネを、と考えていたのだが、それが無理だったのだ。

 そしてこれならエルフは無理と見るべきだろう。ここら、クズハならわかっていた事だが今回の一件に彼女が関わっていない所為――教国とのやり取りが忙しい為――でカイトもすっかり失念していたようだ。


「・・・獣人との交戦があり得るとして・・・ふむ・・・どうするかね・・・」


 とりあえず気にするべきは、獣人の一族との戦いがあり得る事だろう。さらに言えば、山間部での魔物との戦いもあり得る。基本的には、あまり周辺に被害を与えない構成でパーティを構築するべきだろう。それを考えてのティーネだったのだが、無理なら次善の策を講じるだけだ。となると、欲しいのは敵の足止めを出来る壁役だろう。


「・・・ソラー。お前、直近で依頼に出る予定あるかー?」

「うん? いや、ねぇよ?」

「じゃあ、お前ちょっと付いて来てくれ。ブランシェットへの遠征・・・つっても、そんな戦闘メインってわけでもないけどな」

「おーう」


 ソラは書類から顔を上げると、カイトの言葉に応ずる。どうやら、今遠征に行く予定は無いらしい。


「良し・・・これで壁はオッケー・・・で、由利。分かったから・・・」

「うんー」


 カイトは由利の視線を受けて、苦笑気味に許可を下ろす。やはり恋人と一緒に出かけたいのだろう。なお、流石にナナミについては申し出る事はなかったし、そもそも申し出た所で許可は下ろさない。


「さて・・・瑞樹。お前はどうする? 最近レイアに乗ってて足が鈍ってないか?」

「そうですわね・・・そう言われると、少し気にはなりますわね」


 カイトからの申し出を受けて、瑞樹はそれも良いかも、と考える。しかし、彼女は少し考えて首を振った。


「・・・いえ、やはり止めておきますわ。私まで出ると人が出過ぎな様な気もしますものね」

「そうか・・・まぁ、確かにこちらに残る面子には機動力が些か足りていないか」


 カイトは瑞樹の言葉に少しの道理を見る。最悪は『無冠の部隊(ノー・オーダーズ)』の面々が出るだろうから問題はないかな、と思っていたが、それは最悪の場合だ。常用すべきではないことは明白だ。

 更に言えば常に機動力の高い軽歩兵部隊を率いれる翔と瞬は現在即座に動けるわけではない。確かに、それを考えれば瑞樹とレイアが率いる竜騎士部隊は残しておきたい所だろう。即座に動けるわけではないが、動いた後は機動力が高いし活動範囲も広い。悪くはない判断だ。


「わかった。じゃあ、頼んだ」

「ええ、そう致しますわ」

「さて・・・・となると、ティナ、魅衣、カナン、ソラ、由利が確定か・・・これだけか。流石に少ないな・・・」


 できれば三人娘を連れていきたい所なのだが、今回は逆にお留守番を確定させている。理由は瞬と一緒だ。現在天桜学園で飛空艇を動かせるのが彼女らと瞬しか居ない限り、飛空艇を何時使うかわからない以上は連れていけない。万が一の場合にはけが人の収容を行う可能性もあるからだ。


「ホタルも連れて行くか・・・他は・・・山間部だと剣道部になるんだが・・・駄目だろうなぁ・・・」


 カイトはため息を吐いた。思うのは、唯一人。暦だ。彼女は現在絶賛カイトと顔を合わせられない状態が続いており、当分はこれが続く事が予想されていた。勿論、お陰でカイトが今度は後輩を誑し込んだという噂が立てられているが、最早今更とカイトは思う事にしておいた。


「まぁ、調査だけだし・・・ブランシェット家も支援してくれるっつー話か。ユリィ連れてって最悪はあの馬鹿の助力借りりゃなんとかなるか」


 カイトはあまり連れていけそうにない現状を考えて、ため息混じりに最悪は獣皇と呼ばれる友人の力を借りる事にする。彼の影響力は計り知れないし、カイトが行けば説得出来る相手だ。現場ではその力を借りる事にする。そうして、カイトは人員の選定を終えると立ち上がって、自分の用意を行う事にするのだった。

 お読み頂きありがとうございました。

 次回予告:第898話『僅かな恐怖』

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