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影の勇者の再冒険 ~~Re-Tale of the Brave~~  作者: ヒマジン
第五章 冒険者活動編

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第78話 指揮官

 森の入り口から少し離れた所に設営されていたレーメス伯爵軍陣地へと入った一同。案内の軍人に案内され、指揮官がいるというテントへと招き入れられた。中には30代前半と思しき一人の男性がいた。どうやら今は鎧は脱いでいるらしく、服はラフな物であった。軍人として鍛えているのか、20代半ばといっても通用しそうな肉体である。

「私がこの部隊の指揮官、カラト・ヴェルメです。誤って貴殿らの領地に迷い込んだため、準備が何もなく、何らもてなせぬこと、ご容赦ください。して、此度はいかが御用でしょうか。」

 噂に聞くレーメス伯爵の軍人とは思えぬ礼儀正しさで来意を問うカラト。とは言え、これが演技である可能性もあるのでカイト達噂を知る物は油断しない。

「いえ。此方こそ、急な来訪、申し訳ありません。来意については彼からお願い致しましょう。」

 軍礼を以って敬礼し、アルはカイトを前面に出す。それを受けてカイトは皇国式の一礼をしてから述べた。

「お会いいただき、感謝いたします。私はカイト・アマネ。冒険者です。」

 そう言ってカイトは自分の登録証を提示する。さすがに偽造証であることまではばれなかったらしく、不信な顔はされなかった。

「後ろの彼らは私がリーダーを務めているパーティの冒険者です……おい。」

 誰も反応がないので横を向いたカイトが小声で声をかける。尚も反応が無いのでユリィが小声で意図を伝える。

「……皆、登録証。」

「……あ。」

 横で登録証を提示するティナをみて、漸く理解した魅衣の反応に釣られて全員が登録証を提示する。

「申し訳ありません。」

 苦笑したカイトが頭を下げる。カラトはそれを笑って許した。

「いえ、どうやら皆さんは登録してから日が浅い様子だ。まだ我々のような軍人と会う機会も少ないのでしょう。」

 登録証を見れば、何時冒険者として登録したのかなぞ簡単に分かる。それ故、彼はまだ日の浅い若い冒険者として、無作法を許したのだ。

「そう言って頂ければ。」

 それにカイトも安心した笑みを見せ、小さく頭を下げた。

「して、今回はどういったご用件で?」

「2日ほど前ですか。貴方方が森の中で魔物に襲われた商人を救援されたとのこと。」

 二人はにこやかな表情で本題に入る。ただ単に尋ねたいだけなので、社交辞令やブラフを噛ませる必要が無いので、カイトには楽で良かった。

「ええ。確かに助けました……ああ、なるほど。」

 冒険者、商人と来て事情を察したカラトが小さく頷く。その様子を見たカイトがカラトに問いかけた。

「どうされました?」

「皆さんがお探しの物とは小袋に入った香辛料ですね?」

 笑みを浮かべたカラトが、カイトに探し物の内容を尋ねる。

「はい。よくお分かりになりましたね。」

 そんなカラトの様子からカイトも事情を察し、話が早くて助かるとそれを認めた。

「あはは、実は小袋を落とされたのを発見しすぐに我が部隊の隊員が追ったのですが、どうやら商人の方は気付かれなかったご様子。そのまま走り去ってしまわれたのです。我々は公爵領へ不法侵入していた状態でしたので、あまり追うこともできず、現在まで預かっていたのですよ。公爵家からの使者の方にもご相談したところ、冒険者か商人の代理の方が来られる可能性もあるので、と此方で保管させて頂いておりました。」

 その言葉を聞いて、即座にカイトがクズハに確認を取ると、事実使者がそのような報告をあげていたらしい。どうやら、この部隊は噂に聞くレーメス伯爵の部隊の中でも良心的な部隊であったようだ。

「そうでしたか。ありがとうございます。」

「いえ。我々も軍人としても職務をこなしたまでのこと。おい、誰かあるか?」

 カラトはテントの中に張られていた消音の結界を一時的に弱め、外に問い掛ける。すると、すぐに一人の軍人が入ってきた。

「はっ。」

「数日前に商人が落とした小袋があっただろう?あれを引取に来られた。持って来てくれ。」

「分かりました。」

 カラトの命令を受け、即座に軍人は退出した。要件は終わり、後は荷物の受け渡しを待つだけになった一同、少しの間沈黙が降りたのだが、カラトが話し始める。

「それにしても、かの<<氷結>>のアルフォンスと会えるとは、光栄ですよ。」

「いえ、まだまだ若輩の身。この間も公爵家の方と戦い、敗北した所です。」

 アルが少し照れた表情で、カラトの言葉に謙遜を示した。尚、実際に戦ったのはカイト相手なのであるが、カイトも公爵家の人間であるので間違いではない。

「ほう。我々にも伝え聞こえる<<氷結>>のアルでも公爵家の方々には勝てませんか。」

 少しだけ興味を示すカラト。やはり軍人として、強いと噂される公爵家の者達の事には興味があったのだろう。

「ええ。特にコフル様やステラ様と言った方々には今だ集団でも手も足も出ないままです。」

「ははは、それはまた。それにしても、我々にも皆さんのように礼儀正しい若者がいれば……おっと、申し訳ない。我が軍の愚痴を他家に聞かせるべきではありませんな。」

 そう言って苦笑するカラト。それを聞いたアルは、礼儀として聞かなかった事と流す事にする。

「聞かなかったことにしておきます。」

「ありがとうございます。それにしても冒険者の皆さんは礼儀正しい。どこかで高度な教育でも受けられたのですか?」

 話を振られたカイトらは隠す事を隠しつつ、語れる事を語る事にした。

「ええ。少しばかりですが、学校にて教育を。」

「そうですか。まあ、何故そのような教育を受けた皆さんが何故冒険者をやっているのか興味はありますが、尋ねぬほうが良いでしょう。」

 カラトは冒険者をやっている理由を問うほど野暮ではないらしい。ふとカイトがユリィに目を遣るとユリィは首を横に振る。今までの会話は嘘や演技では無い、ということであった。

「ええ。そうして頂ければ。」

 カイトが小さく頭を下げ、カラトに礼を言う。今はまだ、天桜学園の存在は隠されたままなのだ。情報の流出をしなくて良いのなら、そちらの方が良かった。

「カラト殿、もってまいりました。」

 そう言って再び軍人がテントへ入ってきた。手にはメモに書かれた特徴に一致する小袋が。

「お渡ししろ。」

「此方を。」

 カラトの命を受けた軍人は、手で示されたカイトに件の小袋を手渡す。カイトはそれを受け取り一応は断りを入れる。

「確かに。中を検めさせて頂いても?」

「ええ。ご確認を。」

 そうして、カラトの了承を得て、その場で中を開いて確認するカイト。確かにメモ通りの内容で香辛料が入っていた。紛失などもないようである。

「確認しました。では、確かにお預かりします。」

 そう言ってカイトは再び小袋の口を縛り、落とさない様にロングコートの金属パーツの1つに括りつけた。

「宜しくお願い致します。」

「はい。では、あまりお時間を取らせるわけにも参りませんので、我々はこれにてお暇させていただきます。此度はご協力、ありがとうございました。」

 アルがカラトにそう言って、退出を願い出る。それを受けたカラトは即座に控えていた軍人達に命じる。

「いえ、此方こそ手間が省けました。……おい、お客人が帰られる。誰か案内を。」

「はっ。」

 先ほどと同じ案内の軍人が現れ、カイトらを案内する。一同は来た時と同じくアルを先頭に陣地を後にした。そうして、陣営を出た所で、カイトがティナとユリィに尋ねた。

「おい、二人共、どうだった?」

「嘘、演技等感知なし。」

「こっちも同じくじゃ。」

 二人はかぶりを振って、何も問題が無かった事を明言する。どうやら、来た時の憂慮は杞憂であったようだ。

「ふーん。なかなかどうして、あそこにもああいう軍人もいるもんだな。」

 二人の言葉を聞いたカイトは、今度こそカラトを信頼することにする。

「ん?どうしたのじゃ?お主先ほどまで知らんかったんじゃろ?」

「クズハが公爵邸においてきた分身体に資料を届けてくれた。酷いもんだ。」

「そうなのか?」

 ティナの問い掛けを聞いて、カイトはここらで一度情報の共有をしておくか、と報告書の内容を伝えることにした。

「ああ。部下の暴走は当たり前、部下が賄賂やらなんやらは普通です。他にも伯爵が領民から女を奪うのも当たり前。これで部下から女を奪わないのは部下の反乱を恐れているからだろうな。ちっ、うぜぇ。半端に知恵がまわる奴だ。これでなぜ格上の貴族に手を出せるのかがわからん。部下よりも遥かに厄介な筈だろうに。治安は最悪に近いな。当たり前か。それでもなんとか領地経営が保っているのは領地内の鉱山開発に成功したから、だろう。お陰で上層部周辺は潤っているな。多少は領民にも振舞っているお陰か、皇帝からはまだ見逃されているようだ。いや、泳がされている可能性も……」

 半ば悪態をつきつつカイトは上げられた報告書の内容を伝えていく。クズハが手渡してくれた資料には、他にも彼がしでかしたであろう悪事が数ページに渡って列挙されていた。

「ふむ。ギリギリの所を見極めている、ともいえそうなのじゃが……敵に回している者の共通点はないのか?」

「……今のところは見当たらないな。あったらさっさと対策練って潰せるんだが。」

 ティナの質問を受け、カイト―の分身体―は改めて資料をざっと見渡し、共通点を調べるが、目立った共通点は無かった。

「カイト。顔、顔。」

「おっと。」

 ユリィの言葉に謀略を練るときの悪どい顔に変わっていた事を自覚して即座に元に戻す。誰かに見られては大変である。

「とりあえずは帰るとするか。依頼人も待っているだろうしな。」

「幸い早めに見つかったからねー。どっかでお昼食べてこー?」

 なるべく早目に陣地まで到着する方を選択したため、実は14時に近い今でも昼食を食べて居ないのであった。その為、実は三人揃って腹ペコなのである。

「それはいい考えじゃ!」

「提案してみるか。」

 そうしてカイト達は空いた時間で草原の見晴らしのいい場所を探し、そこでのんびり昼食を摂って街へと帰還した。



 カイト達の去った後の陣地では、カラトと副官が話し合っていた。

「マクダウェル公爵家には冒険者にもあそこまでの人物がいるのか……」

「若いのに礼儀もなっている様子。」

 二人して同時に溜め息が出る。

「それに対して我々伯爵家といえば……」

「言うな。」

 溜め息は吐いたものの、やはり公言は憚られたカラトが部下を諌める。

「ですが、カラト殿。此度の公爵領への追撃など、どう考えても我らを嵌める策としか……」

「だから言うな、と言っている。」

 カラトも同じことを考えてはいたのだ。今回の公爵領への侵入は彼の目から見てもおかしな点が多すぎたのだ。

 事の発端は別部隊が逃走した盗賊を追跡中だというので、援軍に向かった事だ。その後、盗賊たちはカラトや他の部隊に追い立てられ、一目散に公爵領へと逃げていく。それを追って伯爵領の端まで追った、までは良かった。だがその後、盗賊たちは何らためらうこと無く、公爵領へと逃げ込んだのである。普通に考えれば、盗賊に対して国内で最も容赦が無く、軍備等が国内最高水準であるマクダウェル公爵領に逃げ込むなど正気の沙汰ではない。それならカラト達と戦うか、投降した方がまだ命の保証があったのである。

 隠れられれば即座に捕まることはなくても、少しでも動けばすぐに国内最強と目される精鋭による討伐隊が組まれ、全滅するのは有名であった。おまけに、飛空艇を多数有し、何隻も巡回に使う公爵軍からは逃げ切れない。普通に考えれば、公爵領を目指して一目散に逃げていくのはいくら盗賊達が学が無いといっても、有り得ない事であったのだ。

 とは言え、他家に入られた以上は何も出来ない。カラトとしても若干心苦しくあるが、公爵家側に連絡を入れ、討伐を依頼すれば終了なのである。そう思っていた矢先、伯爵からカラトの部隊に対する追撃命令である。普通領土を越えた部隊派遣は余程のことが無い限り許可が降りないのだが、今回は降りた、と言う。しかし、実際には公爵家側からの許可は無かったとのことだ。もし、一歩まかり間違えば侵入してきた部隊は侵略部隊として、レーメス伯爵家が滅ぼされても不思議ではない。そうでなくてもカラトの部隊が壊滅させられても文句は言えないのである。

「一体伯爵様は何をお考えなのだ……。」

 そうして、誰にもわからない伯爵の心胆を考える忠臣の呟きは、風に乗って消えていった。




 丁度その頃、件の伯爵邸では二人の男が話し合っていた。

「で、公爵家からはなんと?」

 脂ぎった太った男が、従者の一人から報告を受けていた。

「は、ヴェルメ殿の部隊の侵入は遺憾なれど、此度は情報通達のミスである、今後は無きよう、注意されたし、とのこと。」

「存外使えんな。マクダウェル公爵家も。勝手に領地侵入した部隊なぞ殲滅してしまえば良いものを。」

「そうですな。」

 残念そうな表情を浮かべる太った男に、報告者も全く、といった感じで応じる。今回のカラトの部隊の侵入の一件は、彼らの策略だったのである。

「まあよい。とりあえずカラトには帰還命令を出せ。そのまま領地内の巡回を命じておけ。」

「御意に。」

 そうして従者が退出する。

「むぅ。カラトは五月蝿いから嫌いだ。あいつさえ居なければもう少しやりやすくなるものを。」

 そう言って男は腰掛けていたベッドの枕元に手を伸ばし、そこに置いていたベルを鳴らし、声を上げる。

「誰かおらんか!」

 そう言って使用人を呼び出す。やって来た使用人に対して男は只一言、こういった。

「女を用意しろ!」

 そう言って男はベッドへ寝そべったのである。

 お読み頂き有難う御座いました。

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