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影の勇者の再冒険 ~~Re-Tale of the Brave~~  作者: ヒマジン
第49章 海底王国編

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第887話 初めての人

 浮遊都市レインガルドのメンテナンス施設で暦の診察を終えたカイトは、足を挫いた上に身体の各所に傷を負った暦をおんぶして海上を目指して歩き続けていた。そんな最中。暦がふと、問いかけた。


「あの・・・先輩」

「うん?」

「私達・・・足手まといじゃないんですか?」


 暦が何処か不安げに問いかける。なにせ今回は誰もいなければ、カイトは何も気にせず全力で戦えた。普通にけが人も無く戦闘は終わったはずなのだ。

 答えなぞ考えるまでもない。誰がどう見てもカイトにとって他者とは、冒険部とは足手まといだ。そんなものは暦にも理解出来る事だった。そして、理解出来ている相手にカイトもはぐらかす事はなかった。


「ああ、足手まといだな」


 そう言いつつ、カイトの口調は笑っていた。そんなものは始めから理解していたのだ。だからこそ、それについて怒る必要なんてなかった。


「が、当たり前だろ。足手まといで無かった奴なんて何処にもいない。先に走っている奴が居る限り、誰もが最初は足手まといだ・・・が、だからどうした」

「え?」

「地球にな。ラバン・シュルズベリィ教授って人が居るんだ。まぁ、学問の徒ではあるが戦士としての趣が強い人なんだが・・・これはある少女の問いかけを受けた彼の言葉だ」


 カイトはそう言うと、一度目を閉じた。そうして次に目を開いた時には笑いながら、地球で懇意にしている物語に語られる偉人の一人の言葉の中でも特に印象的だった言葉をそらんじる。


「所詮、英雄の力は個人に依る物。確かに強大な魔を私は・・・いや、我らは犠牲もなく打ち倒してみせよう。素晴らしいだろう? だが、決してそれに人類が劣るわけではない。確かに、人類は単独で強大な魔に勝てる事はない。それは犠牲を払って得られる勝利だ。だがそれでも、人類が英知を凝らし、力を結集すれば我らの力はそれには到底及ばない・・・素晴らしいとは思わないかね。ならば、育てようではないか。君達足手まといの者達を。君達の英知と団結力に、我らの叡智と無双の力。それを結集すれば、いずれは星々を渡る強大な邪神にさえこの牙は届くのではないかね?」


 カイトはこれを素晴らしい言葉だと思う。ヒメア曰く世界の総戦力の半分を保有するに至るとされるカイトでさえこの言葉は正しいと思うし、正しくあって欲しいと思う。


「堂々と、彼はその少女に言い切っていたよ。オレはこういう人にこそ、人類の指導者になって欲しいと思う。そしてこの彼に憧れている奴の一人が、オレのちょっとした腐れ縁の奴でな。おそらくそいつは良い指導者になってくれるはずだ」


 カイトは地球での物語を思い出しながら、ある男を思い出す。それは次期アメリカ合衆国大統領になるはずの男で、地球でもあれから普通に時が流れているのならそろそろ大統領に就任しているはずの男だった。

 カイトが地球で一番信頼し信用している男でもあり、同時に武力ではなく政治家として、カイトがライバルと捉える男だった。


「ジャック・マクレーン。聞いた事ぐらいはあるだろう?」

「あ・・・英雄ジャック」

「ああ。そいつだ。次期アメリカ合衆国大統領に最も近い男。映画を現実にしてみせるだろう男・・・ま、腐れ縁だ」


 日本で新聞やテレビ、ネットのニュースを見ていれば一度は見たことのある名だった。どうやらカイトはそれと知り合いなのだろう。そして今の話を聞いていた暦には、たしかに良い指導者になるのだろうな、と思った。


「だからこそ、オレも足手まといを足手まといと割り切って切り捨てる事はしない。何時の日か人類が星の海に出てその先にある試練を見据えるのなら、神様や英雄達だけじゃ足りないんだ。人類の力を結集する必要があるだろうさ」


 暦はカイトの背で彼の言葉を聞きながら、すごいと思うだけだ。それ以外に思えた事はない。彼女にはあまり理解出来る話ではなかったのだ。何処か遠い所を見ているのだな、と理解するのが精一杯だった。とは言え、カイトは愚痴を言っていたが故にそれに気付かなかった。


「だから、足手まといを足手まといとは思わない。それに・・・そんな事言い始めるとオレは足手まといの筆頭格だったからな」


 カイトが少しの痛みをこらえた顔で笑う。大昔、彼が所属した部隊の名は第17特務小隊。特務。つまりは、特別な任務が与えられる特殊部隊だ。戦時だ。名誉職やお飾り等ではなく、ガチンコの特殊部隊だ。

 本来、彼の力量は特殊部隊に入れる程ではなかった。当たり前だ。素人に毛が生えた程度の実力だった。ヘルメス翁の我儘と言う名の特権人事により配属されただけだ。

 部隊の平均値に対して、幾つか下の力量しかなかった。そしてその御蔭で、彼とユリィは生き残れた。生き残らされた。足手まといだったからこそ、だ。


「ま、だから気にするな。足手まといは何時か足手まといじゃなくなる。そうなれば良いだけの事だ・・・そして、今度はそう言う奴がまた後輩達を育てていく。そうして、人類は少しずつ進歩していくんだろう」


 カイトが語り終える。おそらく、だからこそ彼は一人だけでやろうと考えず、多少の危険性を承知でも冒険部の者達をきちんと教え、導いているのだろう。それを、暦が理解した。


「・・・やっぱり先輩はすごいです」

「んぁ?」


 どういう意味だ。カイトが改めて問いかけようとした時、幸か不幸かヘッドセットを介して通信が入ってきた。


「っと、通信か・・・なんだ?」

『ローレライ王国からの連絡です』

「わかった。繋いでくれ」

『わかりました・・・どうぞ』


 カイトの求めに応じて、レガドがローレライ王国との連絡を繋げる。が、そうして繋がった相手は藤堂だった。


「あれ・・・先輩。何かありましたか?」

『ああ、いや・・・依頼はこれで終了になるんだろう?』

「・・・ええ、一応はそうなる予定ですね」


 カイトは藤堂の質問に、少しだけ現状を思い出す。現在、目標とするコンテナについては2つ見付かった。これ以上は流石に持ち込めないと考えて良いだろう。

 流石に貴金属類を積み込んだコンテナを3つになると幾ら金払いがよかろうと、よほど強欲でない限りはどんな船長だろうと拒絶する。しかもあの宝玉の様子を考えれば、おそらくコンテナ2つに目一杯に積み込んでようやく船を襲撃出来る程度になったはずだ。あれ以上積み込んでいるとは思えない。


『それで軍の方が天ヶ瀬について治療はどうするのだ、と聞いていてね』

「ああ、そこですか・・・」


 カイトはあまり暦に気を遣わせない様に注意しながら、少しだけ背中に意識を向ける。何を考えているのかはわからないが、暦は大人しくしている。

 が、時折揺れが襲うと少しだけ身を固めている事にカイトは気付いていた。その瞬間、暦がしがみつくのだ。わからないはずがない。レインガルドにも病院はあるが、どうにせよ何処に運び込んだ所で暦はこのまま検査入院になるだろう。


「・・・そうですね。このままマクスウェルへと搬送するのが妥当だと思います」

『そうか・・・わかった。そのように伝えておこう。じゃあ、帰国についてはこちらで取りまとめた方が良いかな?』

「ええ、頼みます。こちらはこのままマクスウェルへと戻りますよ」

『そうか。天ヶ瀬を頼む』

「ええ・・・そちらのけが人については任せます」


 カイトはそう言うと、通信を切断する。後は帰って来るだけだ。流石に沈没するとどうにも出来ないが、それ以外に困る事は無いだろう。と、そんな話をしながら歩いていたからか、いつの間にかメンテナンス施設の一番上の階層にまでたどり着いていたらしい。

 というわけで、カイトは今度はレガドへと連絡を取る。メンテナンス施設は時の流れによる海面の上昇により大半が水没している。そして聞けば出入口も水没していて、一手間加える必要があったらしい。


「これで、最上階か?」

『ええ、そこが外に繋がるエリアです。少々、お待ち下さい。海水の侵入を防ぐ為の処置を実施中です。後5分程お待ちを。なにせ数千年ぶりの使用ですので、色々と不具合が・・・』

「そうか。任せた・・・暦、少しここで待機だ。海水が入らない様にするらしい」

「あ、わかりました」


 カイトはそう言うと、一度暦を床に下ろす。そうして下ろした所で、暦が再び礼を述べた。


「ありがとうございます、先輩。手当てにここまで運んで頂いて・・・」

「良いって、別に。かわいい後輩の為だ。この程度は苦にならんよ」

「・・・で、先輩。一つ良いですか?」

「ん? なんだ?」


 笑って告げたカイトと丁寧に頭を下げていた暦だが、何処か変な表情で暦がカイトを睨んでいる様子があった。


「あの・・・その顔の横にあるのってシュノーケル型の魔道具・・・ですよね?」

「ああ、そうだな。オレのは無事だったからな」


 暦の問いかけに対して、カイトはずっとそのままだったシュノーケル型の魔道具を外す。もう海の中に潜る予定はない。何時までも身に着けていなくて良いだろう。どうやら暦はおんぶされている間に、これがある事に気付いたのだろう。


「あの・・・最後ここに入る時・・・その・・・キス・・・しなくてよかったんじゃ・・・」

「? ああ、そういうことか。いや、あの状態じゃこれは使えなかったぞ」


 暦が言いたい事を理解して、カイトがあの状態では無理だった、と明言する。そう、あの時のカイトは両手が塞がっておらず、更にはシュノーケル型の魔道具は残っていた。こちらは汎用品だ。誰でも使える。であれば、これを回して呼吸すれば問題が無い様に思えたのだ。


「あの時、お前は泡から完全に遮断されてただろ?」

「・・・」


 暦がこくん、と頷く。思い出して恥ずかしくなっている様子だ。


「これは水の中から酸素を取り出して呼吸する為の物だ・・・あれだけは、泡の外に出さないといけなかった。お前、使えるか?」

「あ・・・」


 暦も言われて気づいた。あの時、暦はカイトの泡の中に居ただけだ。しかもカイトにきつく抱きとめられてギリギリ、なんとか泡に取り込まれている状態だ。

 泡はカイトを中心として展開されているし、泳ぎを阻害しない為に最低限の量しか展開されないのだ。元々個人用として開発されている為、二人入れる様には出来ていないのである。そしてシュノーケル型の魔道具もそれに合わせた物を使っている。

 その状態で暦がカイトのシュノーケル型の魔道具を使おうと思えば、少なくとも口をカイトの高さにまで持っていかないといけないのだ。が、それは残念ながら少しむずかしいだろう。

 あの状態で外に出ない様にしながら姿勢を変えなければならないのだ。しかも暦は怪我をしている。結論は考えるまでもなかった。


「・・・あの・・・初めて・・・だったんです・・・」

「・・・そうか、ん・・・そうだな。オレじゃ不満だったか?」

「あ、いえ! そういうわけじゃ・・・」


 カイトの問いかけに、暦が慌てて首を振る。好きか嫌いかで言えば、暦はカイトの事が好きだろう。が、これが男女仲としての好意なのか、先輩後輩としての好意なのかは暦にはまだわからない。

 結論を出す云々よりも前にキスしてしまったのだ。人工呼吸的なものだ、と言えど行為としてはくちづけはくちづけだ。それが性的なものか救命措置的なものかの差になるだけだ。事実そのものに差はない。そして、その返答を聞いて、カイトも答えを決めた。


「そうか・・・なら、こう言うべきだな。ありがとう、暦」

「あぅ・・・」


 カイトから微笑みかけられ、暦が耳まで顔を真っ赤に染める。どういう経緯があれ、少なくともカイトが暦のファースト・キスを奪ったのは事実だ。その事実はすでに過去になった以上、消せない。

 これで暦が拒絶を示せば、カイトは謝罪しただろう。それは悪い事になる。だが、暦はそれを受け入れた。なのでカイトは謝罪ではなく、ファースト・キスという記念すべき物を貰えた事について感謝を述べる事にしたのだ。悪い事をしていないのなら、堂々とすれば良い。それが、カイトの持論だった。

 そしてここで謝罪すれば暦からファースト・キスを奪った事が自分にとっても良い事ではない、と言っている事になってしまう。それはカイトも望まない。どういう経緯はあれ、記念となる一番初めを貰えたのだ。ならばこその、感謝だった。


「あの・・・」


 そうして顔を真っ赤に染めていた暦だが、何か意を決した様に顔を上げる。


「先輩・・・厚かましいお願いだと思うんですけど・・・あの・・・もう一度だけ・・・今度はきちんとしたキスをしてもらって良いですか?」

「はい?」

「こんな形のファースト・キスなんて嫌です・・・だから、その・・・せめて良かった、と思える形で終わらせたいんです」


 真摯で何処か懇願する様に、暦がカイトへと再度のキスを願い出る。あれは事故だ。そして意図しない形とは言え、あまりにロマンチックではない形で奪われてしまった己のファースト・キス。それもロマンチックな軽いキスではなく、ともすればエロティックにも見えるフレンチ・キスすれすれのキスだ。

 知らない間であれば、無視する事も出来る。人工呼吸と割り切る事も出来た。だが、意識が覚醒していたからこそ、カイトの唇の感覚と彼の口内に残っていた果物の甘い味は暦の口の中に今も残っていた。

 それはおそらくもう忘れる事なんて出来ない、と暦は思った。だから、せめてこれが事故ではなくきちんとしたキスとして、良い思い出になれるようにしたかったらしい。


「・・・良いのか、オレで」

「・・・はい。先輩が好きかどうか、というのはまだ私にはわかりません・・・でも・・・少なくとも、嫌じゃないです・・・」


 小声ながらもはっきりと、暦は好きかどうかわからない、と明言する。一時の気の迷いの可能性もある。キスされたから意識しているだけ、と可能性があるのもわかっている。

 だがそれでも、今はカイトしかいないのだ。なら、せめてカイトも奪った責任としてせめてロマンチックな形で記憶に残してやる事を己の責任と思った。


「・・・わかった・・・」

「あ・・・」


 カイトは横に腰掛ける暦を優しく抱きしめる。どうすれば今の状況でロマンチックに感じられるのか、というのはわかっている。ならば、それを演出するだけだ。

 幸い周囲は薄暗い。魔力の流れが幻想的な明かりを生み出してもくれている。最近使われていない為か機械油の匂いもしない。ムードとしては悪くはないのは、暦にとって幸いな事だっただろう。


「固くなりすぎだ。力を抜け。全部、オレに任せておけ」

「あ・・・」


 囁く様に、愛を唄う様に。カイトは暦の耳元で優しく囁く。この一時だけは暦を己の女として、扱う事にした。そうして、カイトは暦の頭の後ろに手を回して、顔を己の方へと向けさせる。


「ん・・・」


 優しく、少し触れるだけの感じで。カイトが暦の唇へとキスする。それはまるで外人がする挨拶のような感じの軽いキスだ。そうして、そこで唇を僅かに離す。が、これでは終わらない。これは固さを取る為だけの物。準備だ。そのまま優しく啄む様にカイトが暦の唇を甘噛する。


「あ・・・んむ・・・ふぁ・・・」


 どうやら暦は軽い興奮状態にあるらしい。小さくだが嬌声を上げる。少し感じやすいらしい。そうして少しの間恋人達がする様に優しくキスを交わして、カイトが唇を離した。しかし余韻を楽しむ様に、顔は近付けたままにする。何時もならこのまま首にキスしたり耳裏にキスしたりするが、今回はキスだけだ。


「キスしてください、って頼みましたけど・・・えっちぃのは駄目です・・・」

「恋人なら、この程度普通にやるさ・・・これで良いか?」

「・・・ありがとうございます・・・」

「どういたしまして」


 顔を固定されている所為で視線を外すしか出来ない暦に対して、カイトが笑う。が、これ以上はしない。これ以上進むのなら、それは別の経験になってしまう。

 これ以上を望む時は、今度は暦がしっかりと意思を固めた時だけだろう。幾ら己が興奮しようとも、カイトはそこの一線だけは決して侵さない。相手が望まない限り、カイトは決して最後の一線は越えないのだ。


「ん、どうやら水の排出は終わったらしいな・・・じゃあ、帰るか」

「・・・はい」


 真っ赤になりながらも暦が頷いて、屈んだカイトの背に再度おんぶされる。そうして二人はレインガルドのメンテナンス施設を後にして、しかし外で怪我の薬を持ってきてくれた武蔵に暦が真っ赤になっている事を見られて大いに茶化される事になるのだった。

 お読み頂きありがとうございました。

 次回予告:題888話『強くなった者達』

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