第884話 ネオ・クラーケン
どういう事情かはわからないが残されていた黒い宝玉によって生まれたイカの形をした魔物。それは30メートル以上の巨体を誇る魔物であった。海魔としては普通規模の大きさであったが、その形状の所々は見たこともない姿だった。
『カイトさん! 状況を報告してください!』
『魔物が出現・・・が、残念ながら、オレは見たことがないな。暦。無事か?』
『あ、はい! 先輩のお陰でなんとか!』
カイトの問いかけに、暦が念話で声を返す。どうやら、間一髪カイトが突き飛ばしたのが間に合って魔物の出現に巻き込まれて体内に取り込まれる、という最悪の事態は免れたらしい。怪我も無く今は魔物から距離を取って全員一緒に近くの岩陰に隠れていた。
『良し・・・魔物には気付かれていない。今は全員で近くの少し大きめの岩陰に隠れている。交戦は全員が揃ってからにする』
『急いで潜水艇を向かわせます!』
『やめろ、馬鹿!』
メーアの言葉に、カイトとは別の冒険者が慌てて制止を掛ける。とは言え、これにはカイトも同意する。
『ああ、そうしてくれ』
『え?』
『黒い宝玉が魔物に変わったのが確認されている・・・この宝玉そのものは先の宝玉とは別物だろうが、同系統の性質を持ち合わせている可能性はあるだろう。となれば、危惧すべきはここら一帯に魔物が集まってしまう事だ。そちらは外から魔物が侵入するのを防いでくれ。冒険者一同でこの魔物を討伐する』
『っ・・・ご武運を』
カイトの言葉を受けて、更には上官に指示を仰いだ結果、これに従う事になったようだ。一応潜水艇による包囲網については範囲を狭めるが、こちらに近付く事はしない事にしたらしい。
『さて・・・そうなると、援軍が揃い次第戦闘開始、かね・・・どれぐらいで来れそうだ?』
『後5分待ってくれ。こっちでそっちの異変に気付いた魔物が起きちまった。こっちを討伐してからそちらに向かう。カニ型の魔物だ。さして苦労はしねぇよ』
カイトの言葉を受けて、ランクSの男性冒険者が苦々しい様子で言葉を返してきた。どうやら、この異変の所為で何処かに潜んでいた魔物が起きてしまったらしい。それに、もう一組の冒険者集団を率いているランクSの女性冒険者が状況を告げる。
『こっちは・・・わかった。若い方のカイト。あんたらはそこで隠れておけ。こっちはカニを叩き潰してからそっちに援護に向かう』
『わかった。その間にこちらは目視で確認出来るだけの情報を確認しておく』
『そうしてくれ』
カイトの言葉に、女性冒険者が了承を示す。幸いイカ型の魔物は呼び起こされたは良いものの破壊すべき対象が何も見受けられなかった事で平静状態にあるらしく、動く事もなく普通のイカの様にのんびりと海底に沈んでいるだけだ。
敵が未知である事を見て即座に息を潜めたのが幸運だったらしい。暴れる事もなく、暫くの猶予はありそうだった。そうして敵影を確認する前に、カイトは藤堂達が率いる分隊側へと指示を送る事にした。
『藤堂先輩、綾崎先輩。そちらは他の冒険者と共に来てください。安易に姿を晒して見付かると厄介だ。各個撃破される恐れがある』
『ああ、すでにそうしている』
『そうですか・・・では、そちらはそれでお願いします』
返って来た綾崎の言葉に、カイトが安堵を浮かべる。どうやら、焦ってこちらに増援に来る事は避けたようだ。冷静さに長けた二人に別働隊を任せておいたのは正解だったようだ。
『さて・・・全員、水が染み込んでとかは大丈夫か?』
カイトが共に隠れる一同へと問いかける。急に岩陰に隠れた事で少し水が入り込んで濡れてしまった者も居るには居たが、ずぶ濡れになって身体を冷やした、という事はなさそうだった。と、そうして一同を見て、カイトは暦の胸に発信機を兼ねている通信機が無い事に気付いた。
『良し・・・あれ? 暦、そう言えばネックレスは?』
『え?』
カイトの言葉を受けて、暦が自らの胸元を確認する。この時、二人共ネクレス型の魔道具が吹き飛んでいた事に気付いたらしい。と、何が起こったのかを見ていた生徒の一人が、何が起きていたのかを教えてくれた。
『さっき天音が突き飛ばした時に指に引っかかって飛んでってた』
『ちっ・・・あの時の妙な感覚はそれか・・・』
舌打ちしたカイトはネックレスが近くに無いか、と少し探して、しかし無い事を確認してため息を吐いた。これは量産品ではあるが個人用に逐一調整が成されている為、己の物を貸してやる事も出来ないのだ。
原理的に個人の魔力波形とリンクさせている――波形を共鳴させてる事で増幅して、遠くから拾える様にしている――ので、専用の調整道具が無いと調整出来ないのである。
『はぁ・・・気をつけろよ。あれ、発信機も兼ねてるから、今お前何処かに吹き飛ばされるとこのただっぴろい海の中で迷子確定だぞ』
『え゛・・・き、気をつけます・・・』
カイトからの言葉に、暦が頬を引き攣らせる。発信機を兼ねていた事を言われて思い出したらしい。とは言え、今は本当に気を付ける以外に出来る事はない。魔物の目の前で取りに行くわけにもいかないだろう。そうして、カイトはとりあえず未知の魔物の外形を確認する事にする。
『さて・・・』
カイトは軍用の観察道具を取り出すと、岩場の影からバレない様にその先端を出して魔物の姿を確認する。
『形状は・・・イカ型か。『海の怪物』と同種かな・・・嫌になるな、こいつと海中で鉢合わせとか・・・悪夢が蘇る・・・』
カイトは敵の姿をしっかりと観察して、心底嫌そうな顔をする。彼の乗る船の沈没した理由ナンバーワンは『海の怪物』の襲撃により船まるごと沈没だ。
胴体だけで30メートルもあるのだ。足の長さを含めると50メートル程度はある。足だけでもかなりのもので、木造の並の船であれば簡単に破壊出来てしまう。船乗り達が海で出会いたくない魔物の中でも有数の魔物だった。しかも、今回は更に変化している『海の怪物』の亜種とでも言うべき魔物だった。
『外側には鱗のような物を完備、と・・・防御力の低さを補わせたか・・・? 『海の怪物』のランクはB程度・・・何かの改良が施されているのなら、ランクAクラスと見繕って良いか・・・?』
カイトはイカ型の魔物を見ながら、とりあえず集められるだけの情報を集めていく。特徴的なのはやはりその巨体だが、それに加えて吸盤のある内側に対して8本ある足のそれぞれに堅い鱗の様な物があり、『海の怪物』の弱点である身体の柔らかさを補っている様子だった。
『ふむ・・・イカの様に体色の変化も可能・・・擬態されて奇襲されていたら厄介だったな・・・』
カイトはこちらが先手を打てていた現状にとりあえず感謝する。やはり有り難くないのは岩に擬態されて奇襲を食らう事だ。こちらが先んじて隠れておけたのは、幸運と言える。というわけで、そこらの情報をカイトは冒険者達と共有しながら、如何に戦うかを考えていく。
『鱗か・・・厄介っちゃあ、厄介か。とりあえず名前は『海の怪物・亜種』とでもしとくか。『海の怪物』だと紛らわしいからな』
『好きにしとけ・・・まぁ、それはさておいても『海の怪物』の素早さに巨体、そこに防御力が兼ね備えられているんなら、強敵だな。隙がない』
ランクSの二人がこの敵は厄介、と見て取る。どうやら向こうの戦いは終わったらしく、今は敵の索敵範囲外と思われる場所で待機しているらしい。一応の作戦プランとしては彼らが接近して敢えて気付かれて、カイト達が背後を攻める段取りになっていた。後は、どう攻めるかを決めて一気に畳み掛けるだけだ。
ちなみに、ネーミングだが一応の仮称として『海の怪物・亜種』を使う事にしたらしい。安直だが今は戦闘中に呼べれば良いのだ。詳しい学名等はあとでユニオンかローレライ王国が決めるだろう。
『これが『海の怪物』系統でなければ、背後からドタマぶち抜きを頼みたいんだが・・・』
男性冒険者の一人が、苦々しくつぶやいた。『海の怪物』の基本的な生体構造はイカと一緒だ。脳みそは無い。神経節があるだけだ。しかもイカ以上に生命力が強い。それ故、眉間を貫いた所でそれで終わりとはならない。そこはこの亜種も同じと見て良いだろう。
『・・・とりあえずなんとかしてみるしかない、か』
『だな。これ以上は考えても一緒だ。じゃあ、手はず通り後ろから強襲を頼む』
『了解だ・・・全員、準備は良いな?』
カイトは最後の確認として、冒険部一同へと確認を取る。それに、一同は無言で頷いた。これで準備は整った。後は、実際の戦闘に入るだけだ。そうして、冒険者達の本隊が『海の怪物』の亜種へと近づいていく。
『良し、動いた』
『オーケー。構えろ! 来るぞ!』
カイトの言葉にランクSの男性冒険者が声を荒げて、己も武器を構える。そしてそれを受けて、カイトが『海の怪物・亜種』へと背後から突進を仕掛けた。
『貰った!』
水の祝福の力で完全に自由になったカイトは、<<縮地>>を使い猛スピードでランクS冒険者が率いるパーティへと突進する『海の怪物』の背後へと肉薄して、その眉間のあたりと思われる所に後ろから大剣を突き刺した。
が、後ろからだった上に『海の怪物』も猛スピードで動くのだ。星状神経節を狙ったのだが、如何にカイトでも直撃はさせられなかったらしい。
『ちぃ! しくじった!』
『良いから離れろ! そのままじゃ握りつぶされるぞ!』
『っ!』
『先輩!』
カイトへと迫る8本の大きな足の一本を見て、暦が水を蹴った。そして予め溜めておいた魔力を使って、最大の斬撃を放つ。
『助かった!』
『いえ!』
暦の斬撃は残念ながら鱗に阻まれて『海の怪物・亜種』の足を切断する事は出来なかったが、それでも一瞬の隙を生み出す事に成功していた。
というわけで、カイトはその隙に大剣から手を離してその場を離脱する。と、そうしてカイトが手放しても消えない大剣を見て、暦が疑問を呈した。
『あれ? 消さないんですか?』
『ああ、あのままにしておく・・・もし誰かがつかめれば、あそこから炎を流し込めるかもしれないからな』
カイトが笑みを浮かべる。確かに大剣を顕現させ続ける間は魔力を食うが、彼からしてみればどうという程度でもない。なので暦も素直にそれに納得する事にしたらしい。
万が一の場合には、ここを通じて消し炭にしてやるつもりだった。この間の剣道部のやり方を見て考えたのである。とは言え、その為にはもう一度柄を掴んで魔力を流し込んでやる必要がある。そこらは、応相談という所だろう。
『横から攻撃を仕掛けろ! 幾ら鱗が無いからって絶対に下には潜り込むなよ!』
『ぺちゃんこになりたいなら別だけどな!』
とりあえず、現状の指揮はランクSの二人に預けられている。カイトはそれに従って戦うだけだ。とは言え、だからといって指示を受けるだけか、というと別にそんなわけでもない。
そもそもカイトにとって状況は意味をなさない。彼は水中だろうと空中だろうと戦える。そもそもやろうとすれば彼一人で余裕で倒せる程度の雑魚だ。
『さて・・・』
カイトはこちらへと飛んでくる8本の鱗付きの足を掻い潜りながら、次の手を考える。攻撃はしない。これだけ数が居るのだ。変に高火力の攻撃を放って目立ちたくない。敵のランクは粗方推測出来ている。ランクSの冒険者が二人もいれば十分に勝てる相手だ。
『足の動きは速い・・・が、鱗はオレで切り裂けない程ではない、と・・・暦、もう一度さっきのあれやれるか?』
『え、あ、はい。いけます。ちょっと範囲から出る事になりますけど・・・』
カイトの求めを受けて、暦は出来る事を明言する。あれは単に魔力を集めて斬撃を放っただけだ。やれと言われればもう一度やる事は容易いらしい。
『じゃあ、頼んだ』
『はい!』
カイトの求めを受けて、暦は『海の怪物・亜種』から少しだけ距離を取る。そうして30秒程魔力を溜め続けて、準備が出来たのかカイトへと声を返した。
『出来ました』
『良し・・・じゃあ、どれでも良い。足の一本を狙い撃ってくれ』
『わかりました・・・<<一房・砲>>!』
暦はカイトの求めを受けて、丁度こちらへ伸びてきた足に向けて斬撃を放つ。それは鱗に直撃して鱗に傷を付ける程度しかならなかったが、これで良かった。反動で足の動きが止まったのだ。
『はぁ!』
動きが止まってしまえば、後は内側に潜り込んで柔らかい吸盤側から切り裂いてしまえばそれで済む話だ。というわけで、カイトは安々と『海の怪物・亜種』の足を切り裂いてしまう。
と言ってもイカの足を切り裂いた所で足も動き続けるのだ。というわけで、カイトはさらに続けて大剣を顕現させて、足を海底へ串刺しにする。
完全に討伐が終わった後に足は消滅させれば良い。足にコアは無いので本体さえ撃破してしまえば最悪は放置でも良い。今は後回しで良いのだ。勿論、一定程度無力化した所で消滅させるのも有りだ。
『なるほど・・・別に掻い潜ってカウンターなんてちまちま面倒な事を考える必要は無かったわけか』
『おい! こっちもとりあえず足止めちまって吸盤側から足切り裂くぞ! イカと同じで足は切り裂いても動くから、気をつけろよ!』
カイトのやり方を見て、どう攻略するか決め兼ねていた冒険者達が一斉に足に対して攻撃を集中させる。そうして8本あった足は一本ずつ減っていき、遂には胴体だけになった。
『なんだ、終わってみるとさほど変わらなかったか』
『例の奴絡みの依頼だからどうなるか、って思ったけど・・・そんな悪辣ってわけでもなかったのか。防御力が増しただけだな。こりゃ、単なる亜種の討伐と変わらないか』
高位の冒険者達が足の残骸に対して高火力の攻撃を当てて完全に消滅させながら、次を考える。後残るのは胴体だけだ。
一通り安全が確保された時点で、足を先に完全に消滅させる事にしたのであった。足を先に消滅させなかったのは、消滅すると本体側で足が再生する可能性があったからだ。
が、もはや後は本体にトドメを刺すだけになったので先に足に何かをされる前に、というわけだ。流石に一瞬で再生する事は無いだろう、という道理を踏まえた上での予想だった。
『良し。これで大丈夫だ・・・うん?』
足を完全に消滅させて、高位の冒険者の一人が改めて『海の怪物・亜種』の胴体を観察しようとして、異変に気付いた。そうして蓄積される魔力を見て、即座に思い当たる節を口にする。
『まさか・・・全員注意しろ! 多分、<<水流波>>が来るぞ!』
『<<水流波>>!? 『海の怪物』はあれを使える魔物じゃあないだろう!? 奴らが使うのは目眩ましの<<黒墨>>だろ!?』
『そこら、改良されてたんだろ! 魔力が蓄積されてる! そこの女の子! 今すぐそこから離れろ! 他の奴も急いで離れろ!』
『え?』
『海の怪物・亜種』の目の前に居たのは暦だった。彼女は胴体の牽制の為に泳いでいたのだが、そのせいで偶然にも目の前に立ってしまっていたのだ。これは不運だった、という所だろう。そして更に不運だったのは、唐突な声掛けだった所為で思わず足を止めてそちらを見てしまった事だ。
そして、その次の瞬間。『海の怪物・亜種』の口の部分から超高速の水流が放出された。それは海中故に攻撃力としては激減していたが、暦を含めて周囲に居た冒険者達を大きく吹き飛ばすだけの勢いがあった。そしてその反動で、『海の怪物・亜種』がその場から離脱する。
「ごほっ!」
『ちぃ! 油断した! こいつは<<水流波>>が使えるのか! 近くの奴! 即座に吹き飛ばされた奴の救援に向かえ! オペレーター! ネックレスの反応を頼りに場所を指示してやれ! 残る奴は追撃するぞ!』
吹き飛ばされた衝撃で泡が解除されて、者によってはシュノーケル型の魔道具を口から離してしまう者まで居た。それにランクSの冒険者の一人が何人かの面子を率いて一気に胴体を追撃に向かいながら、他の面子には飛ばされた面子の回収を命ずる。
泡については幸い即座に復活したが、呼吸は拙い。混乱して窒息される前に即座にフォローに入ってやる必要があった。が、そんな中でも一番拙いのは暦だった。
『っ!』
カイトは暦が範囲に入っていたのを見た瞬間、行動に移っていた。彼女は特に直撃ルートだった。それ故、彼女はとんでもない勢いで飛ばされていたのだ。
水流の直撃を受けた事で口からシュノーケル型の魔道具が外れており、泡も完全に無効化されていた。しかもかなりの勢いで海底や岩壁に衝突してしまっていた。なんとか頭部は庇った様子だが、それでも衝撃で気絶したのか今は一切動かない。このままでは生命がない。即座に救援に入らねばならない状況だった。
『ディーネ!』
『わかっています! 常に補足しています! そのまま直進して!』
『サンクス!』
カイトはウンディーネに対して礼を言うと同時に、カイトが水中を駆け出す。そして、暦の惨状が見えた。どうやら、かなりの勢いで何度も海底に衝突した所為か身体の各所に痛々しい傷跡が見えた。
おまけに激突の衝撃でシュノーケル型の魔道具のベルトが引き千切られて、頭部を庇ったらしい腕に装着されていた泡を展開する魔道具にはひび割れが生じていた。一刻の猶予も残されていなかった。しかもまだ勢いは弱まっていない。魔力による水流だったので、勢いの減衰が普通よりも弱いのだ。
『っ! 拙い! 意識が無いか!』
このままでは呼吸や水圧云々よりも前に、岩壁か海底への激突で衝突死しかねない。カイトは更に加速して、暦の腕を引っ掴む。これで衝突からは守ってやれる。更には迷子も避けられる。
そうして、カイトは即座に暦を己の泡の中に取り込んだ。とりあえずこれで腕輪の効力が停止して水圧で死ぬ事は無くなったし、僅かな間であれば泡の中の空気でなんとか一時的に呼吸も確保出来る。後はその空気が無くなる前に目覚めなければ、次の行動を考えないといけないだろう。
『取った!』
『っ! 気をつけろ! 最後っ屁が来るぞ!』
『悪い、間に合わなかった!』
『今度はさっきよりも遥かにデカイぞ!』
『っ!』
冒険者達の連絡に、カイトが身構える。どうやら追撃が少し間に合わなかったらしい。両手は暦を抱きとめた事で完全に塞がっている。勢いが強すぎて何処かに身体を固定する事は出来ない。とは言え、飛ばされても発信機がある限り回収は出来る。なので、カイトは覚悟を決めた。
『ディーネ! 頼んだ! 泡を最大限強化してくれ! できれば流れの操作も頼む!』
『わかりました! ついでに水で満たして傷も癒やします!』
カイトの求めに応じて二人の身体を覆う泡が更に強固な物になり、暦の傷を癒やす力を持った水で泡の中が満たされる。そうして、その次の瞬間。カイトの身体を激流が襲い、二人を再び一気に押し流していくのだった。
お読み頂きありがとうございました。
次回予告:第885話『暗闇の中で』




