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影の勇者の再冒険 ~~Re-Tale of the Brave~~  作者: ヒマジン
第49章 海底王国編

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第882話 海底調査

 ブリーフィングの翌日。カイトはこの日から外の捜索に加わる事になっていた。積荷に何があるかわからないし、そちらに警戒すべきだ、となったのだ。

 ならば船内の調査の人数を減らして、その代わり外での警戒を増やす事にしたのだ。というわけで、カイト以外にも一人外へ出て調査の協力にあたっていた。


『うぅ・・・寒いです・・・』

『上は荒れてないつっても曇りだからな・・・やっぱ明るくないと少し寒くなるか』


 カイトは暦の言葉に笑いながら同意する。彼としても少し肌寒かった。カイトは今、暦たちと一緒だった。流石にギルドでひとまとめになっていた方が良いだろう、という判断だった。


『ねぇ、そういえば・・・もしこの状況でおトイレとか行きたくなったらどうするの?』

『おまっ・・・この状況でそれ言うかよ・・・』


 ふとした女子生徒の問いかけに、男子生徒の一人が頬を引き攣らせる。海の中でのこの発言だ。誰もがあまりしたくない想像だった。


『・・・聞きたいか?』

『え?』

『聞・き・た・い・の・か?』


 カイトが改めて、質問した女子生徒へと問いかける。世の中知らない方が良い事は山ほどあるのだ。綺麗事でもないのに聞いてきた事に少し胡乱げだった。


『・・・やっぱ止めとく』

『そうしとけ。現実を思い知らされるぞ』


 カイトがため息と共に、質問の取り下げを受け入れる。その方が良い。そしてそこで終わらせようとしたカイトだが、そうは問屋が卸さないらしい。デリカシーがない男子生徒の一人が、問いかけた。


『・・・もしかして・・・したいのか?』

『聞いてやるなよ・・・』

『そ、そんなわけないでしょ!』


 質問した女子生徒が真っ赤になって――誰にも見れなかったが――怒声を上げる。こういう所が、彼らの評価を下げるのである。もし本当にしたくても、その場合はカイトへと密かに問いかけるだろう。

 わざわざ終わったはずの質問を女子生徒に聞くべき事ではない。と、そうなって一度気になるとどうしても止められなかったのか、別の生徒がカイトへと問いかけた。


『なぁ・・・マジでどうするんだ?』

『我慢しろ。もうそう思っとけ。知らない方が良いんだよ、こういうことは・・・』


 カイトは質問に対して答えをぶん投げる。カイト以下超級と言われる奴らでなくても、普通はこういった多少寒い所に来たりする場合は新陳代謝を魔術でコントロールして腹を壊さない様にしている。尿意を催す事は無いと考えて良い。

 それにそもそも、トイレについては海の中に入る前にさせている。まさかこの期に及んで言い出す奴は居ない、と考えたかった。


『はぁ・・・さて、で、何か変わった物は?』

『今のところ、見付かっていないよ』


 カイトの問いかけに対して、綾崎と共に別働隊を率いている藤堂が答える。冒険部が受け持つ調査範囲は広範囲で、調査日数は限られている。部隊を2つに分けたのだ。


『コンテナは?』

『一応、幾つか見付かっているよ。でも、全部中身は空っぽだった』


 藤堂は更に続けて、コンテナの中身について言及する。少し後にエンテシア皇国が引き上げて詳しく調べた結果だが、藤堂達が見付けていたコンテナの中身は全て食品の類だったらしい。それ故この頃には全て海の生き物達に食べ尽くされていた様子だ。当然だろう。


『ということは、当分は何も見つかりそうにない、か・・・』


 そもそも運び込まれた目印のあるコンテナは全部で3つだ。船の前半部分にあるかもしれないし、そう考えて一応は調査も進めている。が、油断をすべきではない。と、そんな事を考えながら更に一時間ほど周囲の探索を行っていた一同だが、そこで慌てた様な声が入ってきた。


『『深海蟹(ディープ・クラブ)』だ! 誰か来てくれ!』

『魔物か・・・近いな。戦闘用意! こちらのギルドで援護に入る!』

『わかった。そちらは頼んだ。こちらは周囲の警戒に入る』


 カイトの言葉を受けて、他の冒険者の取りまとめになっていた男の一人が少し離れた所に居る冒険者達には周囲の警戒に入らせる事にする。

 そうして、カイトはその動きを見ながら通信を冒険部限定に変えた。変に情報が入ると面倒なので、外の情報については軍のオペレーターを介してもらう事にしたのだ。


『藤堂先輩、綾崎先輩。こちらは戦闘に入ります。注意を』

『わかった』

『すぐに向かう』


 カイトは返答を聞いて近くの暦らに一つ頷くと、魔力で足場を固めて少しだけ移動速度を上げる。そうして少し移動すると、そちらには男女二人の冒険者が5メートル程のカニの様な魔物と交戦中だった。海の中の魔物はサイズが大きい事が多い。一目で魔物とわかりやすいのは、有難かった。


『無事か?』

『助かった。海の中だとデカイ奴が多いからな』


 男性冒険者はカイトの問いかけにうなずきながら、繰り出される自らを軽く一掴みにできそうな程大きなハサミを回避する。幸いと言えば幸いな事に、海の中の魔物は基本的に動きは鈍重だ。

 そもそも海の中は常に水の抵抗を受けるのだ。魚型の魔物では無い限り、サイズに反比例する様に動きは遅いのだ。勿論、それはこちらにも言える事だ。水の抵抗を受けるので自分達の速度も何時もの半分以下に低下する。


『まずはあのハサミをどうにかしないとな・・・暦、行けるな?』

『はい。少し魔力溜めます』

『そうしろ・・・水泳部所属は周囲を泳いで牽制を。絶対にハサミには挟まれるなよ。剣道部の連中は万が一に備えて何時でも斬撃を放てる様に。水泳部の連中がハサミに掴まれそうになったら、即座に軌道をずらしてやれ。空手部の連中は周囲の警戒に加われ。こいつとは相性が悪い』

『『『了解』』』


 カイトの指示を受けて、水泳部の面々が周囲を泳いで剣道部の面々がカニ型の魔物が逃げないように警戒しつつ、更にはハサミに囚われない様に何時でも攻撃が放てる準備を行う。そうして10秒程魔力を溜め続けて、暦が一つ頷いた。


『いけます』

『良し・・・動きはこっちで止める。ハサミをちょん切ってやれ』

『はい!』


 暦の元気良い返事を背に、カイトは水の祝福の力を使って水の中をまるで地面の様に走る。そうして、魔物の前に躍り出た。


「来い!」


 カイトは一瞬シュノーケル型の魔道具を外して、声を上げる。動きを止める為には、こちらを狙ってもらわねばならないのだ。そうして、声に引き寄せられてカニ型の魔物がハサミをカイトへと突き出した。それに対するカイトは大剣を2つ創り出して、そのハサミが閉じられるのを強引に阻害した。


『悪いな』

『貰いました!』


 カイトが笑みを浮かべると同時。暦が横合いに近づいて居合い斬りを放つ。狙いは数日前にカイトが言った通り、柔らかい関節部分。水による威力の減衰を考えて、魔力はかなり溜めた。

 というわけで、それは安々と硬い甲羅の間を通ってハサミを切断する事に成功する。そうして無力化された右のハサミを放置して、カイトは大剣を手放して今度は魔糸で暦の身体を掴んだ。


『良し。引くぞ。シュノーケルを口から離すなよ』

『きゃあ!』


 暦の可愛らしい悲鳴を耳にしながら、カイトは<<背縮地(はいしゅくち)>>でその場を離脱する。暦を連れたのは彼女の力量では海中で<<背縮地(はいしゅくち)>>を使えないからだ。魔物にはまだ左手のハサミが残っている。このままでは狙われる可能性は無くはなかった。


『流石に二度目は通用しないな』


 カイトは右のハサミが切断された『深海蟹(ディープ・クラブ)』を見ながら、次の手を考える。この間には水泳部が時間稼ぎをしてくれていたが、やはり同じ手が二度も通用するとは思えないだろう。


『さて・・・』


 自分が片付けて良いのであれば、話は非常に簡単だ。とは言え、それではせっかくの好機が無駄になる。やるのなら、冒険部で片付けさせるべきだ。

 となると、やはり今の主軸となるのは暦だろう。彼女ぐらいしか、水中でもこの堅い甲羅を貫ける一撃を放てる者はいない。


『できれば、空手部の連中にもなんとかさせたい所だが・・・』


 そうも言っていられないのが、この相手だ。逆に素早さや手数がメインのタコやイカの様な魔物なら一撃が遅く重い剣道部に代わって彼らの出番と相成ったわけなのだが、流石に近づけば危険なこの魔物を相手に出来る事は少ない。せいぜい、今のように牽制をしてもらう程度だ。一撃の火力が無い現状では、大した役に立つ事はない。


『しょうが無い。暦を除いた剣道部は一斉に攻撃して残ったハサミを斬れ。水泳部はそれと共に離脱。暦はオレが砕いた甲羅からとどめを刺せ』

『『『了解』』』

『はい!』


 カイトの指示を受けて、剣道部が牽制する水泳部の援護から攻撃へと手を変える。


『合わせる! 今だ!』


 剣道部副部長の声を受けて、剣道部が一斉に斬撃を放つ。流石に狙いを付けたものではなかったので関節部分に直撃する事はなかったが、それでも数発直撃を貰えば固い甲羅はなんとか切り裂けた。


『良し・・・はぁあああ!』


 カイトは雄叫びと共に、今度は身の丈程もあるスレッジハンマーを創り出して大きく振りかぶる。堅い甲羅を砕くのなら、こういった打撃武器の方が良いのだ。そうして、カイトは『深海蟹(ディープ・クラブ)』の胴体のど真ん中へとスレッジハンマーを直撃させて、甲羅にひび割れを生じさせた。


『行け』

『はい!』


 カイトが飛び退くと同時。暦が先程までカイトの居た空間に割って入る。そうして、彼女は勢いそのままに一気に突きを繰り出して、割れた甲羅の間から刀を深々と『深海蟹(ディープ・クラブ)』へと突き立てた。


『<<炎戒刃(えんかいじん)>>!』


 暦は刃を突き立てたまま、刃に炎を宿す。如何に海中だろうと、敵の体内であれば炎は使える。そうしてそんな火炎を体内に食らって、たまらず『深海蟹(ディープ・クラブ)』が泡を吹いた。


『良し、今だ! 一気に突き立てろ!』


 そんな暦の行動を見て、剣道部の副部長が一斉に号令を下す。このままやっても暦の攻撃で絶命するだろうが、それでも手早ければ手早い程万が一は減らせる。そうして、即座に剣道部の面々が刃を『深海蟹(ディープ・クラブ)』の巨体へと突き立てていき、体内へと炎を送り込む。


『もう大丈夫だ。全員離れろ』


 そんな光景を見て、カイトがもう大丈夫だ、と断言する。流石に海中だし外殻が燃える事は無かったので外からはあまり変化は見受けられなかったが、すでに完全に動きを止めていた。内蔵は完全に焼ききれていた。もう動く事も無いだろう。と、それと同時に、藤堂達が他の剣道部や水泳部と共にやって来た。


『・・・終わってた様子か』

『ええ、ついさっき・・・少し遅かった様子ですね。もう少し近いと思ったんですが・・・』

『ああ、どうやら少し離れていた様子だ。もしかしたら潮の流れに乗ってしまっていたのかもしれないな』


 カイトの推測に藤堂も推測を重ねる。何が有ったのかは不明だが、とりあえず間に合わなかったのは間に合わなかった。それが答えだし、それで問題は起きていない。原因の追求は後で良いだろう。すべきは追求ではなく、対処の方だ。


『それなら、少し遠く離れすぎない様に注意を・・・オペレーター。討伐終了。もしかしたら潮の流れが少し速いエリアがあるかもしれない。測定を頼む』

『了解』


 カイトは軍へと魔物の討伐の終了を報告すると同時に、潮の流れの再調査を依頼する。潮の流れは常に変わるのだ。調査の間に変わった所で不思議はないし、それならそれで注意をして調査を進めるだけだ。


『良し・・・じゃあ、通信機を元に戻して・・・こちらの討伐は終わった。これより調査に戻る』

『わかった。じゃあ、こちらも周囲の警戒を終える』


 カイトは冒険者達に向けて情報を流すと、それを受けて冒険者達も警戒態勢を解いて再び調査へと戻る。そうして、カイト達は再び調査を続行する事にするのだった。

 お読み頂きありがとうございました。

 次回予告:第883話『調査続行』

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